• 更新日 : 2025年3月19日

労災隠しとは?会社に罰則があるか事例なども紹介

労災隠しは違法であり、企業には罰則が科せられる可能性があります。

事故が発生した際に適切に報告しなければ法的リスクや経済的損失を招き、労災隠しによる罰則や企業の信頼喪失、従業員の安全確保の不備など、重大なトラブルにつながるため注意が必要です。

本記事では、労災隠しの違法性や事例、労働者にとってのデメリットを解説し、正しい処理方法についても紹介します。

労災隠しとは|労災事故を隠して適切に書類を提出しないこと

労災隠しとは、事業者が労働災害の発生を故意に隠し、労働者死傷病報告を提出しない、または虚偽の内容を記載する行為です。

労働安全衛生規則第97条により、事業者は労働者が労災で休業・死亡した場合、労働基準監督署に報告する義務があります。休業4日以上の場合は様式第23号、3日以内の場合は様式第24号を使用して報告しなければいけません。

労災隠しが行われると、被災者が適切な治療や補償を受けられない可能性があります。また、事故が隠ぺいされると再発防止策を取れず、同様の災害が繰り返されるリスクが高まるため注意が必要です。

さらに、労働基準監督署が事実を把握できないことにより、行政による労働災害防止の取り組みに支障をきたす恐れもあります。そのため、労災隠しは労働者の安全と公正な労働環境に影響を与える重大な問題です。

適正な労災対応のためには、労災保険の仕組みを正しく理解し、必要な手続きを適切に行うことが重要です。労災保険の詳細については、以下の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。

労災隠しに関するトラブル事例

労災隠しは、事業主が労働災害の発生を報告せず、労災保険の適用を避けようとする行為です。労災隠しにより、被災労働者は適切な補償を受けられず、企業側も発覚時に罰則を受けるリスクがあります。

実際に、労災隠しが原因でトラブルに発展した事例は少なくありません。以下では、具体的なトラブル事例を紹介します。

事例1 労働者死傷病報告を提出しなかった

土木工事業者が下水道管の取り換え工事を行っていた際、外国人技能実習生が作業中に崩落した土砂に接触し、4日以上の休業を要する労働災害が発生しました。

しかし、事業主は労働者死傷病報告を労働基準監督署に遅滞なく提出せず、労災隠しが疑われたのです。

結果、労働安全衛生法第100条および労働安全衛生規則第97条第1項の違反により書類送検されました。労災の報告義務を怠ると、被災労働者の補償が遅れるだけでなく、事業者も法的責任を問われるため、必ず労働者死傷病報告を提出しましょう。

事例2 虚偽の内容を報告した

ある日、橋梁更新工事の現場で、建築工事業者が作業を進めていました。そこで、労働者が鉄骨組立作業中に鋼材と敷鉄板の間に右足の甲を挟まれ、4日以上の休業を要する労働災害が発生しました。

しかし、事業主は労働者死傷病報告書を提出せず、さらに管轄の労働基準監督署長に対し、虚偽の内容が記載された報告書を提出したのです。結果、労働安全衛生法第100条および労働安全衛生規則第97条第1項の違反により書類送検されました。

虚偽報告は労災隠しとなり、事業主には厳しい処分が科されるため、必ず正確に報告しましょう。

企業の労災隠しが起こる原因

企業で労災隠しが行われる背景には、経済的負担の回避や企業の評判維持など、さまざまな要因があります。しかし、労災を隠すと被災労働者の補償が遅れ、企業自体も法的責任を問われるリスクが高まるため注意が必要です。

以下では、企業で労災隠しが起こる主な原因について解説します。

労災保険を利用すると保険料が上がるから

企業が労災隠しを行うのは、労災保険料の上昇を避けたいという考えが原因の一つです。

労災保険にはメリット制が導入されており、一定の規模条件を満たす事業では、労働災害の発生状況に応じて労災保険料率が+ 40%から – 40%の範囲で変動します。労災事故が少なければ保険料負担が軽くなりますが、発生すると保険料が上昇し、企業の負担が増す可能性があります。

そのため、一部の企業は労災の報告を避けようとするのです。しかし、労災隠しは法的に重い責任を伴い、発覚すればさらに大きなリスクを招くため、適切な対応が求められます。

労災事故の報告により元請会社との関係悪化を防ぎたいから

建設業の労災保険では、工事現場ごとに元請会社と下請会社が一体とみなされ、すべての企業が一つの事業体として扱われます。そのため、下請会社の労働者が労災事故に遭った場合でも、元請会社が加入する労災保険の補償対象です。

労災事故が発生すれば、元請会社の労災保険料が上昇し、場合によっては指名停止などの処分を受けることもあります。元請会社との関係悪化を避けるため、下請会社が元請会社との関係悪化を恐れて労災隠しを行うケースがあります。

しかし、労災隠しが発覚すれば企業全体に重大なリスクをもたらすため、適切な報告が必要です。

労働安全衛生法違反による刑罰を避けたいから

建設業の工事現場では、効率を最優先にしてしまい、安全措置が不十分なまま作業が進められることがあります。

労災事故が発生した場合、労働基準監督署への報告が義務付けられており、工事現場に災害調査が入ります。災害調査が行われると、労働安全衛生法違反が発覚する可能性が高まるため注意が必要です。

もし違反が確認されると、労働安全衛生法に基づき刑事罰が科せられることがあります。そのため、企業が責任追及を避ける目的で労災を隠ぺいするケースも珍しくありません。

しかし、労災隠しはさらなる法的リスクを招き、労働者の安全を脅かす要因となるため、必ず報告するようにしましょう。

手続きが面倒だから

労災事故が発生し、労働者が休業や死亡した場合、原因を明確にするために現場検証が行われます。

現場検証には多くの時間と労力が必要となり、企業が負担に感じることがあります。さらに、現場検証後には再発防止マニュアルの作成が求められ、追加の業務が必要です。

また、労働者死傷病報告の提出や労災保険給付の申請手続きも必要となり、手続きの煩雑さが企業の負担をさらに大きくします。上記のような理由から、一部の企業が労災を隠ぺいしようとするケースが発生するのです。

企業の労災隠しは違法であり刑罰の対象になる

企業の労災隠しは違法行為であり、刑罰の対象です。

労働安全衛生法では、労災の報告を怠ったり虚偽の内容を提出したりした場合、第120条および第122条に基づき50万円以下の罰金が科されます。労災隠しは法律違反であり、犯罪行為です。

厚生労働省も司法処分を含めて厳しく対処する方針を示しており、実際に安全衛生法違反容疑で書類送検され、罰金刑を受けた企業も存在します。そのため、労災が発生した場合は、期限内に労働基準監督署に正しく報告しましょう。

企業が労災隠しした際に労働者が被るデメリット

企業が労災を隠ぺいすると、企業だけでなく労働者もさまざまな不利益を被ります。労災隠しによるデメリットを理解していないと、労働者は本来受けられる補償を逃すことになります。また、労災隠しが続くと、労働環境の改善が遅れ、さらなるリスクにつながるかもしれません。

以下では、労災隠しした場合のデメリットについて解説します。

医療費を自己負担しないといけない

通常、労災事故で負傷した場合、労災保険の申請を行えば療養補償給付を受けられるため、被災者は治療費を自己負担する必要がありません。

しかし、企業が労災を隠ぺいすると、労災保険が適用されず、被災者は健康保険を使用しなければいけません。労災隠しの結果、医療費の1〜3割を自己負担する必要があり、経済的な負担がかかります。

さらに、労災と認められなければ休業補償給付も受けられず、収入が途絶える可能性があります。したがって、労災隠しは労働者に大きな不利益になるといえるでしょう。

休職中の生活費の補償が受けられない

労災事故で仕事ができなくなった場合、労災保険を申請すれば休業補償給付や傷病補償年金、障害補償給付を受けられます。労災保険を利用すると、収入が途絶えた場合でも生活費の補償を受けられるため、安心して治療に専念できます。

しかし、企業が労災を隠ぺいすると、労災保険が適用されず、補償を受けられません。補償を受けられなければ収入が減少し、生活費の負担が大きくなる可能性があります。

労災隠しは被災者の生活基盤に支障をきたす重大な問題となるため、必ず労災保険の申請を適切に行いましょう。

労災隠しの時効は刑事事件と民事の損害賠償請求で異なる

労災隠しの時効は、刑事事件としての処罰と民事の損害賠償請求で異なります。刑事事件では、労働安全衛生法第100条の違反が適用され、一定期間を過ぎると起訴されません。

一方、民事の損害賠償請求は、被災者が損害および加害者を認識した時点から時効が進行し、期間内であれば企業に責任を問うことが可能です。

上記のように、労災隠しが発覚した場合、刑事と民事で異なる対応が求められます。以下では、労災隠しの時効について解説します。

刑事事件の労災隠しの時効は3年

刑事事件としての労災隠しの時効は、刑事訴訟法第250条第2項により3年と定められています。

労働安全衛生法第100条違反の罰則は50万円以下の罰金であり、公訴時効は3年です。そのため、企業が労災隠しを行い、後に発覚しても、3年が経過すれば刑事責任を問われることはありません。

しかし、時効が成立しても適切な対応を取ることが重要です。たとえ刑事責任を問われなくても、労災隠しが明るみに出れば、企業の信頼は大きく損なわれることとなります。

そのため、取引先や顧客、従業員からの信用を失うリスクは避けるべきです。

民事上の損害賠償請求の時効は原則5年

民事上の損害賠償請求における時効は、民法第166条第1項第1号により、「権利を行使できると知ったときから5年」または「権利を行使できるときから10年以内(人身傷害の場合は20年)」のいずれか早い時期と定められています。

そのため、労災事故が発生し、企業が隠ぺいしていた場合でも、労働者は期間内なら損害賠償の請求が可能です。

企業が労災隠しを行うことは、労働安全衛生法第100条違反となり刑事罰の対象となるだけでなく、民事上の賠償請求リスクや行政指導、企業のイメージ低下につながります。

労災隠しによるリスクを避けるためにも、労災が発生した際は早期に報告・対応することが重要です。

労災が発生した際の正しい処理方法

労災が発生した際は、適切な手続きを迅速に行うことが重要です。労災が発生した際、適切な処理方法を理解することは、労働者の安全確保と企業の法的リスク回避につながります。そのため、迅速かつ適正に対応するために、正しい手順を把握しましょう。

以下では、労災発生時の正しい処理方法について解説します。

労働者死傷病報告書を提出する

労災が発生した場合、事業者は労働者死傷病報告を提出する義務があります。

報告が必要なケースは、従業員が死亡または4日以上の休業の場合で、労働基準監督署長に提出します。令和7年1月1日から、報告事項が改正され、電子申請が義務化されました。

災害発生状況をより的確に把握することが目的ですが、経過措置として当面は書面による報告も可能です。また、事故現場が事務所所在地と異なる場合は、現場を管轄する労働基準監督署に提出します。

休業が4日未満の場合、以下の期間ごとに報告します。

  • 1~3月分:4月末日までに報告
  • 4~6月分:7月末日までに報告
  • 7~9月分:10月末日までに報告
  • 10~12月分:1月末日までに報告

参考:労働者死傷病報告の提出の仕方を教えて下さい。|厚生労働省

労災が発生した場合は、報告期限を守り、労働者死傷病報告書を提出しましょう。

労災の書類の書き方については、以下の記事で解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

労災保険給付の請求に必要な事業主の証明を行う

労災保険の請求手続きには、事業主の証明が必要です。

事業主証明は、災害が「業務災害」または「通勤災害」として承認されたことを示すものではなく、負傷・発症の日時や災害発生状況などの事実を証明するものです。

証明に基づき、労働基準監督署に請求書を提出し、調査を経て保険給付が決定されます。具体的な給付には、療養補償給付や休業補償給付などです。療養補償給付を申請するにあたり、療養を受けた医療機関が労災保険指定医療機関であるか否かにより、労働者の一時的な負担の有無が異なります。

指定医療機関の場合は、医療機関に請求書を提出し、そうでない場合は療養費を一時的に立て替えた後に労働基準監督署に請求します。

休業補償給付は、休業4日目以降に支給されます。申請の際は「休業補償給付支給請求書」を労働基準監督署に提出することで受けられます。

また、障害補償給付や遺族補償給付など、状況に応じた給付制度があり、それぞれ請求手続きが必要です。

労災隠しをすることなく正しく対処しましょう

労災隠しは犯罪行為であるため避ける必要があります。労災隠しを避けるためには、労災事故が発生した際に適切に報告し、必要な手続きを迅速に行うことが重要です。

正しい処理をすることで、法的リスクを回避し、企業の信頼を守れます。安全管理を徹底し、労働者の保護を最優先にしましょう。


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