- 作成日 : 2025年2月20日
労災の書類は誰が書く?必要書類や事業主が記入を拒んだ場合の対応
労災の書類作成は、会社や事業主が被災した労働者に代わって書類を作成し、提出するケースが一般的です。被災した労働者が一人親方や個人事業主の場合は自身で申請します。この記事では、会社・事業主が記入するケースと労働者本人が記入するケースの違いや必要な書類、事業主が記入を拒んだ場合の対応策も紹介します。労災保険給付の種類ごとの必要書類も詳述しているため、自身の状況に応じた適切な対応方法が分かります。
労災の書類は誰が書く?
労災の書類作成において、多くの場合は会社や事業主が被災した労働者に代わって書類を作成し、提出します。被災した労働者が一人親方や個人事業主の場合は自身で申請します。
会社・事業主が代わりに書いて提出する
労災保険は事業主が加入する保険であるため、労災の申請においても事業主が主な責任を負います。多くの場合、労災の書類は会社や事業主が被災した労働者に代わって作成し、提出します。これには以下のような理由があります。
- 会社側が労働災害の状況をより詳細に把握していることが多い
- 労働者本人が負傷や疾病により書類作成が困難な場合がある
- 会社が労災保険に加入している場合、手続きに関する知識がある
例えば、建設現場で作業中に事故が発生した場合、現場責任者や安全管理者が状況を把握しており、より正確な情報を記載できます。また、会社側が労災保険の手続きに慣れているため、スムーズに処理できる利点があります。
被災した労働者本人が書いて提出する
一方で、労働者本人や遺族が労災の書類を作成し提出するケースもあります。
例えば、一人親方として働く大工が作業中にケガをした場合、自身で労災の申請を行う必要があります。また、会社側が労災を認めたがらないケースでは、労働者自身が労働基準監督署に直接相談し、申請することもあります。
労災申請を円滑に進めるためには、労働者と事業主の協力が不可欠です。労働者は必要な情報を事業主に提供し、事業主は迅速かつ正確に書類を作成・提出することが求められます。
そもそも労災(労働災害)とは?
労災(労働災害)とは、労働者が業務上の事由または通勤によって負傷したり、疾病にかかったり、障害が残ったり、死亡したりすることを指します。労働者の安全と健康を守るため、労働基準法や労働者災害補償保険法などの法律によって保護されています。
労災は大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分類されます。
業務災害
業務災害は、労働者が業務遂行中に被った災害のことを指します。具体的には以下のような場合が該当します。
- 工場で機械操作中に指を挟まれて負傷
- 建設現場で足場から転落して骨折
- 営業職が車で移動中に交通事故に遭遇
- 長時間労働によるストレスが原因で精神疾患を発症
- アスベストを扱う仕事による中皮腫の発症
業務災害と認定されるためには、業務との間に一定の因果関係が必要です。ただし、労働者の故意や重大な過失による場合は、労災保険の給付が制限されることがあります。
通勤災害
通勤途中で発生した事故や災害も、労災として認められます。通勤災害の対象となる範囲は以下の通りです。
- 自宅から職場までの往復経路
- 複数の事業場を行き来する際の移動
- 単身赴任者の赴任先住居と帰省先の移動
ただし、通勤経路を著しく逸脱した場合や、通勤とは関係のない私的行為中の事故は、通勤災害として認められない可能性があります。
労災保険制度
労災保険制度は、労働者が業務上または通勤による傷病等で療養が必要になった場合に、様々な保険給付を行う制度です。主な給付内容には以下のようなものがあります。
- 療養補償給付(医療費の支給)
- 休業補償給付(休業中の賃金補償)
- 障害補償給付(後遺障害に対する補償)
- 遺族補償給付(死亡した場合の遺族への補償)
- 介護補償給付(介護が必要な場合の補償)
労災保険は原則として全ての事業所に適用され、保険料は事業主が全額負担します。労働者は無料で保険給付を受けることができます。
労災が発生した時の流れ
労働災害が発生した際には、迅速かつ適切な対応が求められます。以下に、労災発生から給付申請までの一般的な流れを説明します。
1. 応急処置と医療機関への搬送
労働災害が発生したら、まず被災者の安全を確保し、必要に応じて応急処置を行います。緊急性が高い場合は、直ちに救急車を呼び、医療機関へ搬送します。軽度の場合でも、速やかに医療機関での診察を受けることが重要です。
2. 会社への報告
被災者本人または同僚が、直属の上司や人事部門に事故の発生を報告します。報告内容には、事故の日時、場所、状況、怪我の程度などを含みます。会社は労働基準監督署への届出義務があるため、正確な情報を迅速に伝えることが大切です。
3. 労働基準監督署への届出
事業主は、労働者死傷病報告書を作成し、労働基準監督署に提出します。休業4日以上の場合は遅滞なく、4日未満の場合は四半期ごとにまとめて報告する必要があります。この報告は労災保険給付の申請とは別のものですが、労働安全衛生法で義務付けられています。
4. 治療と経過観察
被災者は医師の指示に従い、適切な治療を受けます。治療中は、症状の経過や治療内容を記録しておくことが、後の労災申請の際に役立ちます。また、会社側も被災者の回復状況を定期的に確認し、職場復帰に向けた準備を進めます。
5. 労災保険給付の申請準備
被災者の状態が安定したら、労災保険給付の申請に向けて準備を始めます。必要書類の収集や、事故の詳細な記録の整理を行います。医療機関や会社からの各種証明書類も、この段階で取り寄せておくと良いでしょう。
6. 労災保険給付の申請
準備が整ったら、労働基準監督署に労災保険給付の申請を行います。申請書類は被災者本人が作成しますが、事業主による証明が必要な部分もあります。申請書類の提出は、原則として被災者本人または遺族が行いますが、会社が代行することも可能です。
7. 労働基準監督署による調査
申請を受けた労働基準監督署は、必要に応じて事故の詳細や労働環境について調査を行います。この調査では、事業主や同僚への聞き取り、現場検証などが行われる場合があります。調査結果は給付の可否判断に影響するため、誠実に対応することが重要です。
8. 給付決定と支給
労働基準監督署の審査を経て給付が決定されると、被災者または遺族に通知が送られます。給付金は指定された口座に振り込まれますが、療養(補償)給付の場合は医療機関に直接支払われることもあります。
9. 職場復帰または継続的な給付
治療が完了し、医師が就労可能と判断した場合は職場復帰を検討します。職場復帰に際しては、必要に応じて業務内容の調整や環境整備を行います。後遺障害が残る場合や、長期の療養が必要な場合は、継続的な給付を受けることになります。
以上が労災発生時の一般的な流れですが、実際の対応は個々の状況に応じて異なる場合があります。迅速かつ適切な対応のためにも、日頃から労災保険制度について理解を深めておくことが重要です。
労災の給付の種類ごとの必要書類
労災申請に必要な書類は、給付の種類ごとに異なります。以下に、各給付に必要な書類を詳しく説明します。
療養(補償)給付
療養(補償)給付は、労災による怪我や病気の療養にかかった費用を補償します。気をつけなければならないのが、労災に健康保険証を使用することはできないので注意しましょう。
【労災指定病院を受診した場合】
労災保険指定医療機関で受診する場合、以下の書類を病院に提出します。
- 業務災害の場合:療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)
- 通勤災害の場合:療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)
【労災指定病院以外の医療機関を受診した場合】
労災指定病院以外の病院を受診する場合は、労働者自身が病院に治療費を支払います。その後、立替えた費用の請求を行うために、労働基準監督署に以下の書類を提出します。
- 業務災害の場合:療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)
- 通勤災害の場合:療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)
- 治療費等の領収書
【医療機関を変更する場合】
- 療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)
休業(補償)給付
休業(補償)給付は、労働災害により休業を余儀なくされた場合に支給される補償です。休業4日目から支給対象となり、休業1日につき給付基礎日額の60%が支給されます。3日以内の休業については、労働基準法に基づき事業主が休業補償を行います。
- 業務災害の場合:休業補償給付支給請求書(様式第8号)
- 通勤災害の場合:休業給付支給請求書(様式第16号6)
- 給与明細書(賃金台帳)のコピー
- 出勤簿のコピー
- 障害年金を受給している場合は支給額の証明書
障害(補償)給付
障害(補償)給付は、労働災害により障害が残った場合に支給される補償です。
障害等級に応じて一時金または年金が支給されます。障害等級は1級から14級まであり、1級から7級までは年金、8級から14級までは一時金となります。
請求に必要な書類は以下の通りです。
- 業務災害の場合:障害補償給付支給請求書(様式第10号)
- 通勤災害の場合:障害給付支給請求書(様式第16号の7)
- 医師の診断書(障害の部位と程度を証明)
- X線・レントゲン写真等の資料(必要な場合)
遺族(補償)給付
遺族(補償)給付は、労働者が業務上の事由または通勤により死亡した場合に、その遺族に支給される給付です。遺族の範囲や順位に応じて、遺族補償年金または遺族補償一時金が支給されます。遺族補償年金の受給権者がいない場合は、遺族補償一時金が支給されます。
申請に必要な書類は以下のとおりです。
- 業務災害の場合:遺族補償年金支給請求書(様式第12号)
- 通勤災害の場合:遺族年金支給請求書(様式第16号の8)
- 死亡診断書または死体検案書
- 戸籍謄本
- 労働者と生計を同じくしていたことを証明する書類
介護(補償)給付
介護(補償)給付は、重度の障害により常時または随時介護を必要とする状態にある方に支給される給付です。常時介護を要する場合と随時介護を要する場合で支給額が異なります。家族等による介護の場合と、職業的介護人による介護の場合でも支給額に違いがあります。
申請に必要な書類は以下の通りです。
- 介護補償給付支給請求書(様式第16号の2の2)
- 介護に要した費用の領収書
- 医師の診断書
傷病(補償)年金
傷病(補償)年金は、療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、障害等級第1級から第3級に相当する障害が残っている場合に支給される年金です。請求に必要な書類は以下のとおりです。
傷病等級に応じて年金額が決定され、療養(補償)給付と併せて支給されます。傷病が治癒した場合や障害の程度が変化した場合は、障害(補償)給付に切り替わることがあります。
- 傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)
- 傷病の状態等に関する医師等の診断書
労災の給付請求書の入手方法
労災保険の給付請求書は、以下の方法で入手することができます。
- 労働基準監督署の窓口で直接受け取る
- 厚生労働省のウェブサイトからダウンロードする
- 電話やFAXで労働基準監督署に請求する
各給付の請求書には、被災労働者本人の情報や事故の状況、医療機関の証明などが必要です。記入方法が分からない場合は、労働基準監督署の窓口で相談することができます。また、社会保険労務士に依頼して手続きを代行してもらうこともできます。
参照:主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省
会社・事業主が事業主証明欄の記入を拒む場合
労災の書類提出において、会社や事業主が事業主証明欄の記入を拒否するケースがあります。このような状況は被災労働者にとって非常に困難な事態ですが、対応策があります。
事業主証明欄の記入拒否の理由
事業主が証明欄の記入を拒む主な理由には以下のようなものがあります。
- 労災の発生を認めたくない
- 会社の評判への影響を恐れている
- 労災の発生状況に不明点がある
労働基準監督署に相談する
事業主が証明欄の記入を拒否した場合でも、管轄の労働基準監督署に相談することで、事業主証明欄が空欄でも受理されることがあります。
その際、労働者は以下の点に注意する必要があります。
- 事業主に証明を依頼したが拒否されたことを記載する
- 事業主に依頼した日時や状況を具体的に記録する
- 可能であれば、証明拒否の理由も記載する
代替となる証明書類を提出する
事業主証明欄が空欄の場合、労働者は自身の主張を裏付ける証拠を可能な限り収集し、提出することが重要です。以下のような書類が有効です。
- 勤務実態を示す出勤簿や賃金台帳のコピー
- 同僚の証言書
- 労災発生時の状況を示す写真や動画
- 医療機関の診断書や治療記録
労働組合へ相談する
労働組合に加入している場合、組合に相談することも効果的な対応策の一つです。労働組合は労働者の権利を守るために事業主と交渉したり、適切なアドバイスを提供したりすることができます。
弁護士に相談する
事態が複雑化したり、事業主との対立が深刻化したりした場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は法的な観点から状況を分析し、最適な対応策を提案してくれます。
労災認定の可能性
事業主証明欄が空欄であっても、労働基準監督署が独自に調査を行い、労災と認定される可能性があります。労働者は自身の主張を裏付ける証拠を可能な限り提出し、誠実に対応することが重要です。
労災申請の手続きは複雑で、多くの書類が必要となるため、労働者と事業主が密に連携を取りながら進めることが重要です。また、不明な点がある場合は、労働基準監督署に相談することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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