- 更新日 : 2025年3月18日
外国人雇用の際に必要な福利厚生とは?種類・メリットを解説
外国人労働者が安心して長く働ける環境を整えるためには、日本人とは異なるニーズに配慮した福利厚生の導入が欠かせません。
法定福利厚生に加え、住居支援や日本語教育、文化・宗教への配慮をすることで、定着率と生産性の向上が期待できます。
本記事では、外国人雇用に適した福利厚生の種類や、メリット・デメリットを解説します。
目次
福利厚生とは
外国人労働者を雇用する際、日本の企業は適切な福利厚生の提供を求められます。とくに、外国人労働者の生活環境や文化的な背景を考慮した福利厚生の整備が重要です。
「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」では、下記のような対応が推奨されています。
事業主は、外国人労働者について適切な宿泊の施設を確保するように努めるとともに、給食、医療、教養、文化、体育、レクリエーション等の施設の利用について、外国人労働者にも十分な機会が保障されるように努めること。
法律で定められた福利厚生だけでなく、住環境の整備や文化的な支援など、法定外福利厚生も外国人労働者の働きやすさに影響を与えます。
企業が適切な福利厚生を提供すれば、外国人労働者の定着率向上や職場の生産性アップが期待できるため、制度の整備は欠かせないでしょう。
以下の記事では、福利厚生について詳しく解説していますので、理解を深めたい方はご覧ください。
福利厚生の種類
福利厚生には、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」があります。
法定福利厚生とは、企業が法律にもとづいて、必ず提供しなければならない福利厚生のことです。すべての従業員(外国人労働者を含む)が受ける権利があります。
おもな法定福利厚生は、下記のとおりです。
日本で働くすべての労働者に適用されるため、外国人労働者も例外ではありません。
一方、法定外福利厚生は、企業が独自に設定する福利厚生のことです。外国人労働者が快適に働けるようサポートする重要な役割をもっています。
具体的な法定外福利厚生の例は、下記のとおりです。
- 通勤・住宅支援:社宅・寮の提供・通勤手当の支給
- 健康・医療サポート:定期健康診断・メンタルヘルスケア
- レクリエーション支援:社員旅行・スポーツクラブ補助
- 慶弔・見舞い金:結婚・出産祝い金・弔慰金・災害見舞金
企業の裁量で自由に設定できるため、外国人労働者のニーズに応じた制度を導入することが重要です。
以下の記事では、法定福利厚生について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
外国人雇用で福利厚生を導入する3つのメリット
外国人労働者を雇用する企業にとって、福利厚生の充実は労働者の定着率向上や採用競争力の強化などにつながります。
ここでは、外国人雇用における福利厚生の主な3つのメリットを解説します。
1. 外国人労働者の定着率向上に役立つ
外国人労働者が長く働き続けられる職場を作ることは、企業の安定運営にとって重要です。福利厚生を充実させることで、労働者の不安を解消し、企業への信頼感を高められます。
とくに住居支援や医療サポート、日本語教育を提供するのが効果的です。外国人労働者は生活の負担を軽減し、仕事に集中できる環境が整います。
結果として、労働者の満足度が向上し、離職率の低下につながります。定着率の向上は、企業の採用コスト削減や業務の安定化にも影響するため、長期的な視点での福利厚生の整備が求められるでしょう。
2. 外国人採用で競争力を高める
近年、日本の人材不足の影響で、多くの企業が優秀な外国人労働者を採用したいと考えています。そのため、福利厚生の充実は、求職者に企業の魅力をアピールできるチャンスとなります。
引っ越し費用の補助や一時帰国サポートを提供すれば、外国人労働者が日本での生活をはじめやすくなるため、魅力的な企業として認識されるでしょう。
また、多文化共生のためのイベントやメンター制度を設けることで、職場に馴染みやすい環境を整えるのも重要です。
このように、福利厚生が充実している企業は、働きやすい企業と認識され、優秀な人材を確保しやすくなります。とくに、グローバルな人材が求める「職場環境のサポート」の提供は、今後の競争力向上につながるでしょう。
3. 職場環境の改善につながる
福利厚生は、外国人労働者だけでなく、企業全体の職場環境の改善にもつながります。文化的な違いへの配慮を行うことで、多様な価値観を尊重する企業だと好印象を与えられるでしょう。
また、メンタルヘルスケアやスポーツクラブの利用補助など、健康サポートの導入を実施するのも効果的です。外国人労働者だけでなく、日本人従業員の健康維持の促進にもなります。
職場の全体的な働きやすさが向上し、企業の生産性アップにつながります。
外国人雇用で福利厚生を導入する3つのデメリット・注意点
福利厚生には多くのメリットがありますが、一方で、コストや文化の違いなど、課題もいくつか存在します。
ここでは、福利厚生を導入する際に注意すべき3つのポイントを解説します。
以下の記事では、外国人雇用の注意点について詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
1. コストの負担が増える
福利厚生を充実させることで、企業の財政負担が増加する可能性があります。
厚生労働省の調査によると、法定外福利厚生の平均費用は、従業員ひとりにつき1ヶ月あたり24,125円となっています。
語学研修や資格取得支援を提供する場合は、教育コストが継続的に発生するため、企業の予算管理が必要です。
また、法定福利厚生費も含めると、企業への負担はより大きくなります。同じ調査によると、法定福利厚生の平均費用は、従業員ひとりにつき1ヶ月あたり84,392円です。
福利厚生を導入する際は、費用対効果を慎重に検討し、企業の財政状況に応じた制度設計が重要です。
2. 文化・宗教の違いに配慮する必要がある
外国人労働者を受け入れる際には、文化や宗教的背景の違いに対応する福利厚生が必要となる場合があります。具体例は、下記のとおりです。
配慮すべき項目 | 具体例 |
---|---|
食事面の対応 | ハラル食・ベジタリアン対応 |
宗教的な習慣 | 礼拝スペースの設置・祈祷時間の確保 |
休日の違い | 旧正月やラマダン明けの特別休暇 |
文化や宗教の違いに対する理解が不足していると、外国人労働者が働きにくさを感じ、結果的に離職につながる可能性があります。事前に制度を整え、従業員全体の理解を深めることが重要です。
3. 日本人社員との公平性を考慮する
外国人労働者向けに特別な福利厚生を提供すると、日本人社員との間で「待遇の格差」を生む可能性があります。
【具体例】
|
このような不公平感が生じると、日本人従業員のモチベーション低下や職場の不満につながります。そのため、下記のような対策が必要です。
- 日本人社員向けの別の福利厚生を設ける
- カフェテリアプランの導入
カフェテリアプランとは、従業員が自由に選べる福利厚生制度のことを指します。このように、日本人社員と外国人労働者が納得できる制度設計を行うことが、職場の円滑な運営において重要なポイントです。
外国人雇用をする企業に必要な福利厚生9選
近年、日本企業における外国人労働者の雇用が増加しており、定着率向上や職場環境の改善のために適切な福利厚生の提供が求められています。
ここでは、外国人労働者の働きやすさを向上させるために必要な福利厚生を紹介します。
1. 在留資格取得・更新手続きのサポート
外国人労働者が日本で合法的に働くためには、適切なビザ(在留資格)の取得・更新が必要です。しかし、ビザの申請手続きは複雑であり、日本語の書類や必要な手続きを理解するのが難しい場合があります。
企業が提供できるサポートは、下記のとおりです。
- 就労ビザの取得・更新のサポート
- ビザ申請代行の手配
- 家族のビザ取得支援
また、企業は外国人労働者の雇用状況をハローワークに届け出る義務があります。スムーズな手続きを進めるためにも、企業がビザ取得をサポートすることが重要です。
在留資格取得・更新手続きに関する支援を行うことで、外国人労働者の不安を軽減し、企業への定着率を向上させられます。
参考:厚生労働省 神奈川労働局|外国人雇用状況の届出は全ての事業主の義務です!
2. 住宅支援・食事補助
日本での住居確保は、外国人労働者にとって大きな課題のひとつです。賃貸契約では、言語の壁や保証人の必要性が障害となる場合があります。
そのため、企業が住居サポートを提供することによって、外国人労働者はスムーズに生活をはじめられるでしょう。
【住居支援の例】
- 社宅の提供:企業が所有する寮やアパートを貸与
- 住宅手当の支給:賃貸物件の家賃補助
- 賃貸契約のサポート:保証人の紹介・契約手続きの支援
また、外国人労働者が食生活の違いにストレスを感じないよう、食事補助の提供も重要です。
【食事補助の例】
- 社員食堂の割引:安価で食事を提供
- 食事券の支給:コンビニや飲食店で利用可能
- 宗教・文化に配慮した食事対応:ハラル・ベジタリアン対応のメニュー
※現金支給の「食事手当」の場合は、給与に該当するため課税対象となるため、注意が必要
住環境と食生活の支援を行うことで、労働者が仕事に集中できる環境を整えられます。
なお、企業が社宅を提供する場合は、賃貸料の50%以上を従業員から徴収しないと福利厚生として認められません。50%未満の場合は給与とみなされるため、適切な管理が必要です。
参考:国税庁|No.2597使用人に社宅や寮などを貸したとき
以下の記事では、住宅手当について詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
3. 通勤支援
外国人労働者の住居が職場から離れていると、通勤にかかる時間や費用が大きな負担となります。そのため、通勤支援を提供すれば移動のストレスを軽減できます。
【通勤支援の例】
- 交通費の全額または一部補助
- 通勤用の自転車・バイクの貸与(地方勤務の場合に有効)
- 企業専用の送迎バスの運行
- リモートワークの推奨
電車やバスが少ない地域での勤務では、交通手段の確保が定着率向上につながるでしょう。
ただし、通勤費は企業が負担する場合でも、一定の条件を満たさないと福利厚生として認められません。電車やバスなどの公共交通機関を利用する際は、1ヶ月あたり15万円以下であれば非課税となります。
通勤支援を提供する場合は、税法上の上限を考慮し、最適な通勤支援を設計することが重要です。
参考:国税庁|給与所得の範囲
4. 外国人労働者向けの手当・報奨金制度
外国人労働者のモチベーションを高め、長期的な就業を促進するために、特別な手当や報奨金制度を導入するのもおすすめです。
【外国人労働者向けの手当・報奨金制度の例】
- 入社時の支援金:初期費用の補助
- 成果に応じたボーナス:業績評価にもとづく報奨金
- 長期勤務者向けの特別手当:一定期間勤務した際の特別報酬
このような金銭的な支援の提供は、企業への帰属意識を高め、離職率の低下にもつながります。
5. 外国人雇用で役立つ日本語教育支援
日本語能力が不十分な外国人労働者には、言語の壁は大きな課題です。業務での円滑なコミュニケーションを支援するために、日本語学習のサポートを提供すると、職場への適応がスムーズになるでしょう。
【日本語教育支援の例】
- 日本語教室の開設:社内での研修・語学学校との提携
- オンライン日本語学習プログラムの提供:アプリやEラーニングの活用
- 日本語能力試験(JLPT)の受験支援:受験料補助・学習教材の提供
日本語スキルの向上は、業務効率の改善だけでなく、労働者の精神的な負担を軽減します。長期的な定着につながるため、企業にも大きなメリットがあります。
6. 資格取得支援
専門的なスキルをもつ外国人労働者に対し、資格取得の支援を行うことで、企業と労働者の双方にメリットがあります。
【資格取得支援の例】
- 業務に必要な資格取得費用の補助
- 試験対策講座の提供
- 社内研修・技能講習の実施
資格取得のサポートは、外国人労働者のスキルアップを促進し、企業の生産性向上につながります。資格取得は労働者のキャリア形成にも影響するため、企業に対する信頼感の向上も期待できるでしょう。
7. 社内コミュニケーション支援
外国人労働者が職場にスムーズに馴染めるように、社内のコミュニケーション機会を増やす施策が有効です。
- 異文化交流イベントの開催:社内パーティー、スポーツイベントなど
- メンター制度の導入:日本人社員が外国人労働者をサポート
- ビジネスマナー研修:日本企業の文化・慣習を学ぶ機会を提供
これらの取り組みにより、外国人労働者が安心して働ける職場環境を整えられます。
8. 一時帰国の航空券補助や休暇取得支援
外国人労働者は、母国の家族と離れて生活するため、一時帰国を希望するケースが多くあります。そのため、下記のような支援が有効です。
- 一定期間勤務後の航空券補助:帰国時の渡航費を負担
- 長期休暇の取得支援:年次有給休暇と組み合わせた特別休暇
これらの支援を行うことで、労働者のストレスを軽減し、職場への定着を促進できます。
9. 外国人労働者の家族のサポート
家族と一緒に日本で生活する外国人労働者に対し、家族向けの福利厚生を提供することで、安心して働ける環境を整えられます。
【家族向けの福利厚生の例】
- 家族のビザ取得支援:申請手続き・必要書類の準備
- 子どもの教育サポート:インターナショナルスクールの紹介・学費補助
- 家族向けの医療支援:健康保険の加入・医療機関の紹介・通訳サービス
家族の安心感を高めることで、外国人労働者が長く企業に貢献できる環境を作れます。
適切な福利厚生を導入し、外国人労働者の定着率を高めよう
外国人労働者の受け入れを成功させるためには、在留資格のサポートや住居・通勤支援など、幅広い福利厚生を整えることが重要です。
また、日本人社員との公平性も考慮し、全従業員が働きやすい制度を設計すれば、企業の長期的な成長にもよい影響を与えます。本記事を参考に、外国人労働者が安心して働ける職場づくりを目指し、最適な福利厚生の導入を進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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