• 更新日 : 2025年3月5日

遅早時間(遅刻早退控除)とは?計算方法や運用時の注意点、トラブルの防止法を解説

従業員の給与を正しく計算するためには、適切な勤怠管理が欠かせません。従業員全員が常に定められた時間通りに勤務できれば計算は簡単ですが、実際にはさまざまな理由で本来の勤務時間と実際の勤務時間が異なることが多いものです。

そうした要因のひとつが遅早時間です。給与計算を行う際は、この遅早時間を適切に考慮する必要があります。本記事では、遅早時間の定義や計算方法、運用時の注意点について詳しく解説します。適切な勤怠管理の実現を目指す方は、ぜひ参考にしてください。

遅早時間とは何か

遅早時間は従業員の給与額にかかわるため、勤怠管理では慎重に取り扱う必要があります。遅早時間の定義や法的根拠、減給処分との違いについて説明します。

遅早時間=遅刻時間と早退時間の合計

遅早時間とは、従業員が本来勤務すべき時間にもかかわらず、勤務しなかった時間のことです。具体的には、遅刻時間と早退時間を合計したものを指します。

遅刻や早退の時間は、実際に勤務していない時間であり、労働時間とはみなされません。そのため、企業は「本来支払うべき賃金」から「遅刻・早退した時間分の賃金」を控除できます。これは「遅刻早退控除」と呼ばれるものです。

遅刻早退控除は、原則基本給から行います。もし通勤手当や扶養手当といった手当から控除する場合は、その旨を就業規則に明記しておかなければなりません。

遅早時間が認められる法的根拠

遅早時間は「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき認められています。ノーワーク・ノーペイの原則は、以下の3つの法律を基礎とした考え方です。

法令根拠となる条文
労働基準法第24条

  • 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
労働契約法第6条

  • 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
民法第624条

  • 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

引用:e-Gov法令検索「労働基準法 第24条」e-Gov法令検索「労働契約法 第6条」e-Gov法令検索「民法 第624条」

よって、労働者が労務を提供していない時間については、使用者はその時間分の賃金を支払わなくてもよいとされているのです。

遅早時間と減給処分の違い

遅早時間(遅刻早退控除)と減給処分の違いは、ペナルティの意味合いがあるかどうかです。遅早時間は、遅刻や早退の時間分を給与から差し引くものです。この処理はペナルティではなく、法的根拠に基づいたものとなっています。

一方、減給処分は、社内の規律や規則違反が確認された場合に、従業員に対して下される処分です。こちらはペナルティの意味合いが強く、制裁処分として扱われます。減給できる金額は労働基準法に定められており、以下の金額を超える減給は認められません。

  • 1回の減給額:1日分の平均賃金の半額
  • 減給合計額:賃金の総額の10分の1

労働基準法では、減給の制裁を就業規則に定めてよいとされています。ただし、規則に定めがないにもかかわらず減給制裁をすると、法令違反となるため注意しましょう。

遅早時間(遅刻早退控除)の計算方法

遅早時間の計算方法は、給与体系によって異なります。以下の4パターンに分けて紹介します。

  • 月給制
  • 年俸制
  • 時給制
  • フレックスタイム制

あわせて、賃金計算時のルールについても見ていきましょう。

月給制での計算の仕方

月給制での賃金控除額の計算式は、以下のとおりです。

控除額 = (月給 ÷ 月間所定労働時間) × 遅早時間

1日あたりの賃金を算出したうえで、遅早時間を掛け合わせて算出します。たとえば、月給25万円、月の所定労働時間が160時間、遅早時間の合計が3時間の場合、控除される金額は以下のとおりです。

(25万÷160時間)×3時間=4,687円

上記の計算は1日単位で月あたりの賃金を計算する「日給月給制」の場合の計算です。月ごとの給料が固定されている「完全月給制」では、定められた給料を毎月支払う必要があるため、賃金控除はできません。

年俸制での計算の仕方

年俸制では、就業規則に賃金控除の方法を明記していれば、控除手続きが可能です。控除額は1時間あたりで算出し、以下の計算式を用います。

1時間分の控除額 = 年俸 ÷ (1日の所定労働時間 × (365日-年間休日日数))

たとえば、年俸500万円、1日の所定労働時間が8時間、年間休日日数が120日の場合、1時間あたりの控除額は以下のとおりです。

500万円 ÷ (8時間 × (365日-120日))≒2,551円

1時間あたり2,551円を控除して、最終的な賃金額を計算します。

時給制での計算の仕方

時給制の場合、実際に働いた時間分のみ賃金が支給されるため、遅刻や早退による特別な賃金控除は行いません。

パートタイマーやアルバイトなど、時給で働く従業員が遅刻・早退した場合は、実際に働いた時間に時給を掛けて、その日の賃金を計算します。

フレックスタイム制での計算の仕方

フレックスタイム制では、遅刻や早退があったとしても、就業規則に定められた総労働時間分働いていれば控除は適用されません。もし総労働時間を満たしていないのであれば、不足時間分の給料が控除されます。

コアタイムを設定している場合でも、賃金控除の扱いは同様です。フレックスタイム制では従業員が自由に働く時間を決められるため、賃金控除よりも勤怠管理に気を配るとよいでしょう。

遅早時間の計算ルール

賃金控除の計算では、端数処理の仕方など計算ルールをおさえておくのが重要です。処理を誤ると、本来支払うべき金額が支払われなかったり、賃金を多く支払ってしまったりする可能性があります。

賃金控除の主な計算ルールは、以下のとおりです。

  • 端数は原則切り捨てて計算する。
  • 5分の遅刻を「30分の遅刻」とみなして賃金をカットするような処理は認められない。ただし、就業規則にて定めている「減給制裁」として行うのであれば問題ない。
  • 実際の遅刻時間よりも大きな数字を用いて計算してはいけない。

たとえば、計算結果が1,528.65円の場合、端数は切り捨てて控除額は1,528円となります。ただし、控除後に算出した1ヵ月の賃金支払額で100円未満の端数が発生した場合は、四捨五入で端数を調整します。

また、5分や14分の遅刻を15分として計算することはできません。賃金は労働した時間分だけ支払う必要があるためです。不当に労働時間を短く扱って賃金をカットするのはノーワーク・ノーペイの原則に反します。15分単位や30分単位で賃金控除額を計算する際は、単位未満の時間の遅刻や早退の取り扱いもあわせて定義しておきましょう。

遅早時間の運用における注意点

遅早時間の運用では、以下の4点に注意しましょう。

  • 就業規則に遅早時間の処理について明記する
  • 就業規則を従業員へ適切に周知する
  • 遅刻・早退を欠勤扱いや有休消化で処理してはならない
  • 深夜割増や時間外手当の取り扱いにも注意する

遅早時間の取り扱いは、就業規則の適切な運用やルールを把握することが重要です。取り扱い方を誤ると法令違反となる場合もあるため、注意点をおさえて従業員の賃金を適切に計算しましょう。

就業規則に遅早時間の処理について明記する

遅早時間の取り扱いや計算ルールは、すべて就業規則に明記しましょう。規則に賃金控除が明記されていないにもかかわらず勝手に控除したり、賃金控除額が実際に遅刻や早退した時間よりも大きくなると、従業員との間でトラブルになる可能性があります。

就業規則には以下の内容を明記しておくとよいです。

  • 遅早時間の賃金控除を認めるかどうか
  • 手当は賃金控除の対象とするか
  • 賃金控除とは別に減給処分を設けるか
  • 控除額の計算方法はどのようにするのか
  • 時短勤務は控除対象とするのか
  • 固定残業代はどう扱うか(基本的に含めないが、含めても構わない)

手当からの賃金控除や時短勤務での控除は、就業規則に明記していれば有効です。また、遅刻を重ねる従業員がいる場合は、減給処分に関してもあわせて記載すれば、従業員の意識改革にもつながります。

このほか、固定残業代からの賃金控除についても記載しておくとよいです。賃金控除は、基本的に固定残業代を含めない場合が多いですが、含めても構わないことになっています。

トラブルや訴訟のリスクを減らすためにも、必ず遅早時間の取り扱いを就業規則に記載しておきましょう。

就業規則を従業員へ適切に周知する

就業規則は労働基準監督署への届出が必要ですが、あわせて従業員へ周知する必要があります。就業規則を従業員へ周知しないと規則の効力が発揮されず、従業員とトラブルになった際に不利になります。

そのため、規則を適切に従業員へ周知し、遅刻や早退の取り扱いを十分理解してもらったうえで、遅刻や早退時間を賃金から控除するようにしましょう。

遅刻・早退を欠勤扱いや有休消化で処理してはならない

遅刻や早退を欠勤扱いとしたり「従業員が有給休暇を取得した」として処理してはいけません。

遅刻については、始業時間に遅れてしまっても出勤時点から労働していることは確かなため、実際に働いた時間分の賃金は支払う必要があります。

早退時も同様で、早退前まで労働していることが明らかなため、出勤から早退前までの労働時間分の賃金は必ず支払わなければなりません。

深夜割増や時間外手当の取り扱いにも注意する

遅刻や早退した時間の賃金計算では、深夜割増や時間外手当の取り扱いにも気を配る必要があります。たとえば、以下のケースでは、計算方法が異なります。

  • 30分遅刻した日に30分の残業をして埋め合わせた場合
  • 2時間早退した翌日に2時間残業した場合

もし30分遅刻した日に埋め合わせとして30分残業した際、1日の労働時間が8時間を超えない場合や、変形労働時間制を採用しており所定の労働時間内での調整が可能な場合は、遅刻時間と残業時間との相殺が可能です。このケースでは時間外手当は発生しませんが、残業時間が22時を超えている場合、22時からの時間については深夜割増が発生する点に注意しましょう。

一方、2時間早退した翌日に2時間残業した場合は、早退した2時間分の賃金がカットされます。また、残業した2時間については時間外手当が発生します。こちらは相殺できないため、それぞれの時間ごとに賃金計算が必要です。

遅早時間でのトラブルを防ぐために

遅早時間の取り扱いにおいてトラブルになりがちな例には「交通機関の遅延」や「在宅勤務時の労働時間の取り扱い」などが挙げられます。また、日頃の勤怠管理自体が煩雑になっているケースも考えられるでしょう。

それぞれどのように対処していけばよいのか、処理方法や防止策を解説します。

交通機関の遅延は遅刻扱いにしなくてもよい

交通機関の遅延による遅刻は「正当な理由が認められる遅刻」として取り扱い、賃金控除の対象としないのが一般的です。その際には交通機関で発行する遅延証明書を提出してもらうケースが多いでしょう。

なお、交通機関の遅延での遅刻を賃金控除の対象とするのは認められています。控除する際は、通常の遅刻と同様に、業務従事できなかった時間分の賃金を差し引きます。控除するかどうかにかかわらず、従業員の責任によらない遅刻の場合の賃金控除の取り扱いを記載しておくとよいでしょう。記載があれば、実際に交通機関の遅延で遅刻した従業員がいる際に、適切な処置をしやすくなります。

在宅勤務時は始業、終業の連絡を徹底する

在宅勤務時は、始業時と終業時の連絡を徹底し、遅刻や早退時間の把握に努めましょう。在宅勤務では従業員の自宅が勤務場所となるため、遅刻や早退の扱いが難しくなりがちです。始業時・終業時の連絡方法や勤務時間の確かめ方をあらかじめ部署内で決めておけば、在宅勤務をする従業員の勤怠管理がしやすくなるでしょう。

在宅勤務時の主な連絡手段には、以下のようなものがあります。

連絡手段勤務時間の確かめ方
  • 電話
  • メール
  • チャットツール
  • グループチャットでの連絡
  • 共有カレンダー

より細かく勤怠管理をするのであれば、就業規則で在宅勤務時の勤怠管理について定めておくとよいでしょう。

勤怠管理システムを使って正しく勤務時間を把握する

勤怠管理システムを導入すれば、1分単位で勤務時間を把握でき、賃金の遅刻早退控除がよりスムーズになります。たとえば、タイムカードの打刻がシステム上でできれば「誰が何分遅刻したのか」「誰がいつ早退したのか」が一目でわかります。早退申請もシステムからできれば、記録を残せるため、より正確な勤務時間の把握ができるでしょう。

正確な勤務時間が把握できれば、計算ミスや誤った処理が減り、従業員に適切な賃金を支給できます。さらに、会計システムやチャットツールなど、ほかのシステムとも連携できるものを導入することで、職員の業務効率化も期待できます。

遅早時間の処理は適切に

遅早時間の集計による賃金控除は、適切に処理されないと従業員とトラブルになる可能性があります。とくに就業規則への明記や周知は、万が一訴訟となった際の有力な証拠となります。遅刻や早退の取り扱いを就業規則に明記し、従業員へしっかりと知らせましょう。

遅早時間をどう取り扱うかは各会社で決めることです。法令に違反しない範囲で、適切なルールを定めて運用しましょう。賃金控除の事務効率化や正確な給与計算を目指すのであれば、勤怠管理システムの導入も検討するとよいでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事