- 更新日 : 2025年12月15日
共働き世帯の子どもはどちらの扶養に入れるのがお得?妻と夫の選択を徹底解説
共働きで子どもを育てている家庭は珍しくありません。その場合、「子どもの扶養は、夫と妻どちらに入れるのが正解か?」と迷うことも多いでしょう。
共働き世帯の扶養には「社会保険上」と「税法上」の2つの考え方があります。社会保険は、原則として年収(額面)が高い側=主として生計を維持する側が対象となり、基本的に任意には選べません。一方、税法上は、課税所得(年収から各種控除を差し引いた後に税率をかけるベースとなる金額)が高い側に入れると、世帯の手取りが多くなる場合があります。
ただし16歳未満の子どもについては、住民税の取り扱いの観点から、あえて収入が低い側に入れたほうが有利になる場合もあります。どちらが得かは世帯の収入構成や控除の状況で変わるため、判断基準を知っておく必要があります。
本記事では、共働き世帯における2つの扶養の仕組みと、収入パターン別の最適な選び方をわかりやすく解説します。
目次
共働きで知っておきたい扶養の2つの種類とは?
扶養(ふよう)とは、自身で生計を立てられない親族などを、経済的に支えることを指します。収入がない、または少ない人を、自分の収入で養うことを意味し、支える側を「扶養者」、支えられる側を「扶養親族」または「被扶養者」と呼びます。
制度としての扶養には、「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があります。
それぞれについて見ていきましょう。
税法上の扶養(扶養控除)
税法上の扶養とは、所得税や住民税の計算において、納税者に扶養すべき家族がいる場合に、所得から一定額を差し引ける制度(扶養控除)を指します。この扶養控除は、生活費負担を考慮して納税者の税負担を軽減する仕組みです。
税法上の扶養親族とは、その年の12月31日時点で16歳以上であり、かつ次のすべての要件を満たす人を指します。
※必ずしも同居している必要はなく、仕送りなどで生活を支えている場合も含みます。
配偶者については、税法上「配偶者控除」「配偶者特別控除」という別制度が用意されているため、扶養控除の対象となる扶養親族とは区別されます。
社会保険上の扶養(被扶養者)
社会保険上の扶養とは、会社員などが加入する健康保険で、主に家計を支えている人の保険に家族を入れる仕組みを指します。家族が被扶養者と認められると、その家族や子どもは自分で国民健康保険料を払わなくても、扶養者(親または配偶者)の健康保険で医療を受けられるようになります。
被扶養者となるには、原則として日本国内に住所があること、主として被保険者(扶養者)に生計を維持されていることが必要です。
対象となり得る家族は、次のいずれかに該当する人です。
- 被保険者の直系尊属や親族(例:父母・祖父母・配偶者(事実婚を含む)・子・孫・兄弟姉妹 など)
- 被保険者の3親等以内の親族で、被保険者と同一世帯の人(※1の該当者を除く)
- 被保険者の事実婚配偶者の父母および子で、被保険者と同一世帯の人
- 上記3の配偶者が死亡した後も、被保険者と同一世帯にあるその父母および子
これら1〜4のいずれの場合も、「主として被保険者に生計を維持されていること」が前提です。
同一世帯の場合は、次の両方を満たす必要があります。
- 年間収入が130万円未満(※60歳以上または一定の障害者は180万円未満、配偶者を除く19歳以上23歳未満は150万円未満)
- 年間収入が被保険者(扶養者)の年間収入の2分の1未満
同一世帯でない場合は、次の両方を満たす必要があります。
- 年間収入が130万円未満(※60歳以上または一定の障害者は180万円未満、配偶者を除く19歳~23歳未満は150万円未満)
- 年間収入が被保険者からの援助額より少ないこと(=被保険者の援助で主に生活していること)
社会保険上の扶養は、共働き夫婦のどちらに入れるか選べない
社会保険上の扶養の場合には、共働き夫婦のどちらの扶養に子どもを入れるか自由に決めることができません。詳しく見ていきましょう。
基本は年収が多い方が扶養する
共働き夫婦で、夫婦それぞれが勤務先の社会保険に加入しているとき、子どもは原則として、年間収入(交通費等を含む額面の見込み)の多い側が扶養します。
このルールは、2021年8月から全国で明確化されました。
それ以前は、夫婦間で収入の差がほとんどない場合や、年度ごとに収入が入れ替わる場合、扶養が頻繁に変更されるため、手続きの過程で子どもが無保険となる恐れがあったためです。
参照:夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について|厚生労働省
収入差が1割以内なら主として生計を維持している方が扶養する
新基準では、夫婦の収入差が「多い方の1割」を超えるなら、原則どおり収入が多い側が扶養者になります。
一方で、収入差が「多い方の1割以内」なら、家計の実態に照らして「主として生計を維持する方」を扶養者にできます。
- 差が1割以内:主として生計を維持しているほうの親が扶養者
- 差が1割超:年間における収入が多い親が扶養者
たとえば、夫の年収が500万円で、妻の年収が440万円であれば、差額は夫の年収の1割である50万を超える60万円のため、年収の多い夫が扶養者となります。一方、夫の年収が450万円で妻の年収は440万円だった場合、年収の差は1割以内です。この場合、年収が多いのは夫ですが、妻が主として生計を維持する親であれば、届出により妻が扶養者となります。
片方が自営業(国保)の場合も年収が多い方が扶養する
夫婦の一方が会社員(社会保険)、もう一方が自営業やフリーランス(国民健康保険)というケースもあるでしょう。
その場合はまず、子どもが会社員側の健康保険の被扶養者になれるかを勤務先(健康保険組合)が審査します。世帯が要件(収入見込み等)を満たせば、子どもは会社員側の扶養に入り、子どもの分の国民健康保険料の負担は発生しません。
健康保険では、「主たる生計維持者」を判断するために、会社員側は年間収入(額面見込み)、自営業側は年間所得(売上−経費の見込み)を比較します。
もし、自営業側の所得が、会社員側の収入を上回る場合、「主たる生計維持者」は自営業側となり、子どもは会社員側の健康保険の被扶養者としては認定されません。この場合、子どもは自営業側の世帯の国民健康保険に加入することになります。
なお、国民健康保険には「扶養」という仕組みがなく、国保は世帯単位で加入し、加入人数に応じて保険料が計算されるため、「自営業の親が世帯主の国保に、子どもも加入者として加わる」という扱いになります。
税法上の扶養は、共働き夫婦のどちらに入れるか選べる
社会保険上の扶養と異なり、税法上の扶養は、共働き夫婦のいずれの扶養に子どもを入れるかを自由に選択できます。この点は大きな違いであるため、社会保険上の扶養と混同せず、しっかりと区別することが必要です。
社会保険上の扶養とは違う扶養者も選択できる
税法上の扶養は、社会保険上の扶養者と別の親を選ぶこともできます。たとえば、社会保険は収入が多い夫の扶養に入れつつ、年末調整で申告する税法上の扶養は妻の扶養に入れるといった選び方ができます。
また、複数の子どもがいる場合には、子どもごとに異なった扶養者とすることも問題ありません。そのため、長男は夫、長女は妻の扶養に入れるということも税法上の扶養であれば可能です。
所得が高い方の扶養に入れるのがお得(16歳以上)
16歳以上の子どもについては、一般に、課税所得が高い親の扶養に入れるほうが、世帯全体で見たときの節税効果は大きくなります。課税所得とは、額面年収から給与所得控除や社会保険料控除などを差し引いた後に税率をかける金額を指します。
日本の所得税は「累進課税制度※1」のため、同じ控除額でも、税率が高い(=所得が高い)親が控除を使うほど、減る税額は大きくなります。
たとえば、夫の税率が20%で妻が10%なら、同じ38万円の扶養控除でも夫は7万6,000円の減税、妻は3万8,000円の減税となり、夫側に付けるほうが有利です。
控除額が同じ(例:16歳の扶養親族なら38万円)であっても、税率が高い(所得が高い)方の親が控除を使ったほうが、減額される税金の額が大きくなる、というわけです。
※1累進課税制度は、課税所得金額が高いほど、適用される税率も高くなる(5%, 10%, 20%…)仕組み。
子どもが複数人(2人、3人)いる場合の分け方
子どもが複数人(2人や3人)いる場合は、長男は夫、長女は妻といった形で子どもごとに分けて申告できます。ただし、節税だけを優先するなら、最も所得が高い親に集中させたほうが、世帯全体の節税額は大きくなるのが一般的です。
夫婦の所得が同程度(妻が正社員など)の場合
共働きで夫婦ともに正社員であり、所得(課税所得)が同程度の場合、どちらの扶養に入れても節税効果はほとんど変わらないかもしれません。 その場合は、年末調整の手続きのしやすさや、会社の扶養手当の取り扱いなど、税額以外の要素を加味して判断すると実務上スムーズではないでしょうか。
共働き世帯の子どもが16歳未満の場合、扶養はどう扱う?
共働き世帯では、16歳未満は所得税の扶養控除はありませんが、住民税では扶養人数にカウントされ非課税判定に影響します。収入が非課税ライン付近の親に付けると住民税が軽減となる場合もあります。なお、社会保険の被扶養者認定は別の制度(生計維持・収入見込み)のため、税法上の付け方と一致させる必要はありません。
所得税の扶養控除は対象外(0円)
所得税の取り扱いでは、16歳未満の子どもは扶養控除(38万円の控除)の対象になりません。背景として、2012年の制度改正により児童手当(旧・子ども手当)が導入・拡充されたため、重複した優遇を避ける目的です。したがって、所得税の計算上は控除額が0円であり、扶養控除としての節税効果は発生しません。
住民税の計算にはカウントされる(非課税限度額)
住民税の取り扱いでは、16歳未満の子どもは所得控除としての金額は0円である一方、非課税判定に用いる人数としてカウントされます。ここで言う人数とは、本人・同一生計配偶者・扶養親族の合計です。
つまり、16歳未満の子どもをきちんと記載しておけば非課税ライン(非課税限度額)が上がり、その親の住民税がかからなくなる、または軽くなることがあります。
実務では、年末調整の「扶養控除等(異動)申告書」にある住民税に関する欄へ、16歳未満の扶養親族を必ず記載します。
【給与収入200万円子ども2人】住民税シミュレーション
住民税は、扶養親族の数に応じて、非課税限度額(住民税がかからない上限)が決まります。代表的な基準式の一例は、以下のとおりです。(※計算式は自治体により異なります)
非課税限度額の目安
ここでいう扶養親族の人数には、16歳未満の子どもも含まれます。したがって、16歳未満の子が多いほど、非課税ラインは高くなります。
今回は、同一生計配偶者はいない前提で、給与収入200万円・子ども2人を扶養に付ける場合を想定して、考えてみましょう。
このときの人数は「本人1+扶養親族2=3」なので、
非課税限度額
一方で、給与収入200万円の所得金額は132万円と見積もられます。
所得金額(概算)
この132万円は非課税限度額136万円を下回るため、住民税は非課税となります。
同じ世帯でも、給与収入が300万円や400万円まで上がると、見積もられる所得金額が非課税限度額を超えてしまうため、住民税が課税されます。
このように共働き世帯で16歳未満の子どもを扶養に入れる際には、収入の低い側の扶養に入れることで、住民税が非課税となる場合もあるということも考慮しておきましょう。逆に、高収入側に付けると非課税の恩恵を受けられないこともあります。
なお、これは住民税の最適化に関する話で、社会保険の被扶養者認定とは別です。社会保険は「主として生計を維持する側」や収入見込みで判断されるため、税法上の扶養の付け方と一致させる必要はありません。
共働きの夫婦が扶養制度を考える際のポイント
扶養制度を利用する際には、夫婦どちらの扶養に入れるかで、どれだけ納めるべき税金に差が出るか比較しましょう。税金額が下がるほうの扶養に入れることで節税につながります。
扶養制度を利用する際におさえるべきポイントを解説します。
配偶者控除を受ける場合は扶養者の収入制限に気をつける
子どもの扶養とは別の話になりますが、配偶者控除や配偶者特別控除も扶養制度の一部です。これらの控除は、夫婦のいずれか一方のみが受けられる制度です。配偶者控除は配偶者の年間所得58万円以下、配偶者特別控除は58万円超133万円以下が目安です。
共働きで双方に安定した収入がある場合と、対象外になりやすい点に注意してください。
配偶者控除を検討する際は、(1)配偶者側の合計所得が基準内か、(2)控除による減税額が会社の扶養手当との合計で最適か、(3)翌年の収入見込みを含めて外れないか、まで見通しておくと、途中で基準から外れて控除が使えなくなるリスクを抑えられます。
扶養手当(家族手当)と税金の控除額を比較する
勤め先企業が独自に支給している扶養手当(家族手当)の受給条件も制度利用の際に確認しましょう。妻が子どもを扶養親族にした場合には、夫に扶養手当を支給しないとする企業もあります。勤務先によく確認しておきましょう。
共働き世帯で子どもの扶養を入れる・変更する手続き
実際に子どもの扶養について手続きを行う際の一般的な流れを解説します。
- 社会保険(健康保険):
原則、収入が多い方の親の勤務先に「被扶養者(異動)届」を提出します。通常、出生後すみやかに行います。 - 税法上(所得税):
扶養に入れる方の親の勤務先に、その年の年末調整時(または入社時)に「扶養控除等(異動)申告書」を提出します。(16歳未満でも住民税のために記載が必要です)
- 社会保険:
収入が逆転した状態が恒常的になると見込まれる場合、すみやかに手続きが必要です。元の扶養者の勤務先で「削除」の手続き、新しい扶養者の勤務先で「追加」の手続きを行います。(※収入が確認できる書類(源泉徴収票など)の提出を求められることがあります) - 税法上:
その年の年末調整のタイミングで、「扶養控除等(異動)申告書」の記載を変更するのがスムーズです。
共働き世帯の扶養は、ルールと手取りのバランスで判断を
共働き世帯における子どもの扶養について解説しました。 まず、社会保険(健康保険)の扶養は選べるものではなく、「原則、収入(額面収入)が多い方に入れる」というルールがあることを理解しましょう。
一方で、税法上(所得税・住民税)の扶養はどちらに付けるか選択ができます。基本は「所得(課税所得)が高い方」に入れるのが節税になりますが、子どもが16歳未満の場合は、あえて「収入が低い方」の扶養に入れることで、住民税が非課税または軽減となるケースがあります。
さらに、会社独自の「扶養手当」の扱いも、世帯の手取りにかかわります。ご自身の世帯にとって最もメリットのある方法を選択することが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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