• 更新日 : 2025年11月21日

エンゲージメント経営とは?始め方について測定から改善までの4ステップをご紹介

エンゲージメント経営という言葉を耳にする機会が増えたものの、「具体的に何を指すのか」「どう始めれば良いのか」がわからない経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。エンゲージメント経営とは、従業員の企業に対する貢献意欲を高め、組織全体の成長につなげる経営手法です。本記事では、エンゲージメント経営の基本から、測定・改善までを4つの具体的なステップに分けて、初心者にもわかりやすく解説します。この記事を読めば、自社でエンゲージメント経営を実践するための道筋が見えるはずです。

エンゲージメント経営とは

まず、エンゲージメント経営の根幹である「従業員エンゲージメント」について正しく理解しましょう。ここでは、その定義や、よく混同されがちな「従業員満足度」との違い、そしてなぜ今、これほどまでに注目されているのか、その背景を解説します。

従業員エンゲージメントの定義

従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対して抱く「貢献意欲」や「愛着心」を指します。具体的には、企業の掲げるビジョンや目標に共感し、その達成のために自らの力を発揮したいと、ポジティブかつ自発的に考えている心理状態のことです。学術的には「理解度」「共感度」「行動意欲」の3つの要素で構成されると定義されており、単に仕事が好きというだけでなく、仕事を通じて企業に貢献することに誇りややりがいを感じている状態を意味します。

従業員満足度との違い

従業員エンゲージメントと従業員満足度は、似ているようで本質的に異なります。従業員満足度は、給与や福利厚生、労働環境といった「企業から与えられるもの」に対する満足度を測る指標です。これは従業員の受動的な感情であり、満足度が高くても、必ずしも業績への貢献意欲が高いとは限りません。一方、エンゲージメントは、自ら企業に貢献しようとする能動的な意欲です。満足度は「働きやすさ」の指標、エンゲージメントは「働きがい」の指標と捉えると分かりやすいでしょう。

エンゲージメント経営が注目される背景

エンゲージメント経営が注目される背景には、いくつかの社会的な変化があります。まず、2023年から始まった上場企業に対する「人的資本の情報開示義務化」です。これにより、人材をコストではなく資本と捉え、その価値を最大化する経営が求められるようになりました。また、少子高齢化による労働人口の減少で人材獲得競争が激化し、従業員に選ばれ、定着してもらうことの重要性が増しています。働き方の多様化や終身雇用制度の形骸化も、企業と従業員の新しい関係構築を後押ししています。

エンゲージメント経営の始め方【4ステップ】

エンゲージメント経営は、思いつきの施策を打つだけでは成功しません。現状を正しく把握し、計画的に改善を進めるためのサイクルを回すことが重要です。ここでは、誰でも実践できる基本的な4つのステップをご紹介します。

ステップ1:現状を測定する

最初のステップは、自社のエンゲージメントの現状を客観的なデータで把握することです。従業員が何にやりがいを感じ、何に課題を抱いているのかを「見える化」しなければ、的確な対策は打てません。そのために有効なのが、「エンゲージメントサーベイ」や、より高頻度で行う「パルスサーベイ」といったアンケート調査です。匿名性を確保し、従業員が本音で回答できる環境を整えることが、正確なデータを得るための鍵となります。

ステップ2:課題を特定する

サーベイで得られたデータを分析し、自社の課題を特定します。全体のスコアを見るだけでなく、部署別、役職別、勤続年数別などで結果を比較することが重要です。これにより、「若手社員の成長実感が低い」「特定の部署で人間関係に問題がある」といった具体的な課題が浮かび上がってきます。データに基づいて課題の優先順位をつけ、どこから手をつけるべきかを明確にしましょう。経営層の思い込みではなく、事実に基づいた課題特定が成功への第一歩です。

ステップ3:改善施策を実行する

特定した課題を解決するための具体的な施策を計画し、実行に移します。例えば、「コミュニケーション不足」が課題であれば、1on1ミーティングの導入や社内イベントの企画が考えられます。「正当な評価がされていない」という声が多ければ、評価制度の見直しやフィードバック研修の実施が有効でしょう。大切なのは、課題と施策が論理的に結びついていることです。全社一丸となって取り組むために、施策の目的や背景を従業員に丁寧に説明することも忘れてはいけません。

ステップ4:効果を測定し見直す

施策を実行したら、その効果を必ず検証します。一定期間が経過した後に再度サーベイを実施し、スコアがどのように変化したかを確認しましょう。改善が見られた項目も、そうでなかった項目も、その要因を分析し、次の施策に活かしていきます。エンゲージメントの向上は、この「測定→課題特定→実行→効果測定」という改善のためのサイクルを継続的に回していくことで実現します。一度で完璧な結果を求めず、粘り強く改善を続ける姿勢が求められます。

エンゲージメント経営がもたらすメリット

エンゲージメント経営に時間とコストをかけることで、企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。ここでは、従業員のエンゲージメントが高まることによって得られる具体的な経営上のメリットを4つご紹介します。

生産性の向上

エンゲージメントの高い従業員は、自身の仕事に誇りと責任感を持ち、自発的に業務改善や新たな挑戦に取り組みます。その結果、一人ひとりの業務効率や仕事の質が向上し、組織全体の生産性が高まります。やらされ仕事ではなく、「自分の仕事」として主体的に取り組む従業員が増えることが、企業の競争力を直接的に押し上げる力となるのです。

離職率の低下と人材定着

エンゲージメントが高い従業員は、企業への愛着が強く、組織の一員であり続けたいと考える傾向があります。これにより、特に優秀な人材の流出を防ぎ、離職率を低下させることができます。採用コストや新人教育にかかるコストが削減できるだけでなく、知識やノウハウが社内に蓄積され、組織としての安定性と継続的な成長につながります。

顧客満足度の向上

従業員の仕事に対する熱意は、顧客に伝わります。エンゲージメントの高い従業員が提供する質の高い商品やサービスは、顧客満足度(CS)の向上に直結します。従業員が自社のファンであれば、その情熱はお客様にも伝わり、結果として企業のファンを増やすことにつながるのです。この「従業員エンゲージメントが顧客満足度を高め、企業の利益につながる」という考え方は、「サービス・プロフィット・チェーン」として知られています。

イノベーションの創出

エンゲージメントの高い組織では、従業員が「会社をより良くしたい」という当事者意識を持つため、現場からの改善提案や新しいアイデアが生まれやすくなります。役職や部署の垣根を越えた建設的な意見交換が活発になり、組織の風通しが良くなる効果も期待できます。こうした変化を恐れない企業文化が、新たな事業やサービスを生み出すイノベーションの土壌となるのです。

エンゲージメントを高める施策の具体例

エンゲージメントを高めるためには、どのような施策が有効なのでしょうか。企業の状況や課題によって最適な方法は異なりますが、ここでは中小企業でも導入しやすい普遍的な5つの具体例をご紹介します。

理念・ビジョンの浸透

従業員が「何のためにこの仕事をしているのか」という目的意識を共有することは、エンゲージメントの基盤です。経営者が自らの言葉で企業の理念や将来のビジョンを繰り返し語り、従業員の仕事と会社の目標がどう結びついているのかを示すことが重要です。全社集会や社内報などを活用し、理念が絵に描いた餅にならないよう、日々の業務に落とし込む工夫が求められます。

コミュニケーションの活性化

組織内のコミュニケーション不足は、エンゲージメント低下の大きな原因となります。上司と部下が定期的に1対1で対話する「1on1ミーティング」は、信頼関係の構築や部下の成長支援に非常に有効です。また、部署を超えた交流を促す社内イベントや、従業員同士が感謝を伝え合う「サンクスカード」などの仕組みも、組織の一体感を醸成し、コミュニケーションの活性化につながります。

適切な評価とフィードバック

従業員は、自分の仕事が正当に評価され、成長につながっていると実感できたときにエンゲージメントが高まります。年に一度の評価だけでなく、日々の業務の中でタイムリーなフィードバックを行うことが大切です。成果だけでなく、目標達成に向けたプロセスや努力も評価の対象とすることで、従業員の挑戦意欲を引き出し、納得感を高めることができます。

成長機会の提供

自身の成長を実感できる環境は、働く意欲を大きく左右します。企業は、従業員一人ひとりのキャリアプランに寄り添い、その実現を支援する姿勢を示すことが重要です。業務に必要なスキルを学ぶ研修制度の充実や、資格取得支援制度の導入、新たな仕事に挑戦できるジョブローテーションなど、従業員が成長できる機会を積極的に提供しましょう。

働きやすい環境の整備

従業員が心身ともに健康で、安心して働ける環境を整えることは、エンゲージメント経営の土台です。長時間労働の是正や、ハラスメントのない職場づくりはもちろんのこと、従業員が本音で意見を言える「心理的安全性」の確保が不可欠です。また、テレワークやフレックスタイム制度など、個々の事情に合わせた柔軟な働き方を認めることも、従業員のエンゲージメント向上に寄与します。

中小企業におけるエンゲージメント経営の注意点

エンゲージメント経営は多くのメリットをもたらしますが、進め方を誤ると期待した効果が得られません。特にリソースが限られる中小企業では、いくつかの点に注意が必要です。第一に、「サーベイを実施して満足してしまう」ことです。測定はあくまでスタートであり、その後の改善アクションがなければ意味がありません。第二に、「経営層と現場の温度差」です。経営層だけが盛り上がり、現場の従業員が置いてきぼりにならないよう、取り組みの目的を丁寧に共有し、現場を巻き込む工夫が不可欠です。最後に、「短期的な成果を求めすぎない」こと。組織文化の変革には時間がかかります。焦らず、継続的に取り組む姿勢が成功の鍵です。

エンゲージメント経営で持続的な企業成長を実現する

エンゲージメント経営は、一度きりの施策で終わるものではありません。ご紹介した4つのステップを継続的に回し、従業員と企業が共に成長する文化を育むことが不可欠です。経営者が強いリーダーシップを発揮し、従業員一人ひとりの声に耳を傾ける姿勢こそが、エンゲージメント経営成功の鍵となります。まずは自社の現状を正しく把握する「測定」から、未来への第一歩を踏み出しましょう。


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