- 更新日 : 2025年11月21日
ウェルビーイング経営とは?取り組むべき理由とメリット、導入の流れを解説
「最近よく聞く『ウェルビーイング経営』って、一体何だろう?」「うちのような中小企業にも関係あるのかな?」 このような疑問をお持ちの経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。 ウェルビーイング経営とは、従業員の身体的・精神的・社会的な幸福を重視し、企業の持続的な成長を目指す新しい経営のあり方です。人材不足や働き方の多様化が進む現代において、従業員の幸福(ウェルビーイング)は、生産性の向上や人材定着に直結する重要な経営課題となりました。 この記事では、「ウェルビーイング経営とは何か」という基本から、企業が「取り組むべき理由とメリット」、そして「具体的な導入の流れ」までを網羅的に解説します。
目次
ウェルビーイング経営とは
まず、ウェルビーイング経営の基本的な考え方や、似た言葉である「健康経営」との違い、そしてなぜ今これほどまでに注目されているのかを解説します。
ウェルビーイング経営の定義
ウェルビーイング経営とは、従業員の「ウェルビーイング(Well-being)」を企業の成長における重要な要素と位置づけ、戦略的に取り組む経営手法を指します。「ウェルビーイング」とは、身体的、精神的、そして社会的にすべてが満たされた、持続的な幸福の状態を意味します。単に病気ではないという健康な状態だけでなく、従業員一人ひとりが仕事にやりがいを感じ、良好な人間関係を築き、私生活も充実している状態を目指すのが特徴です。
健康経営との違い
ウェルビーイング経営とよく比較されるのが「健康経営」です。健康経営は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、企業の生産性向上などを目指す取り組みで、主に身体的・精神的な健康維持に焦点を当てています。一方、ウェルビーイング経営は、その健康の概念をさらに広げ、仕事のやりがい、人間関係、経済的な安定といった、より包括的な幸福を追求します。健康経営が「守り」の側面が強いのに対し、ウェルビーイング経営は従業員のエンゲージメントを高める「攻め」の経営と言えるでしょう。
注目される背景
ウェルビーイング経営が注目される背景には、社会の大きな変化があります。終身雇用が当たり前ではなくなり、働きがいや自己実現を重視する人が増えました。特に中小企業では深刻な人手不足が続いており、従業員に長く活躍してもらうための魅力的な労働環境づくりが不可欠です。また、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)の広まりと共に、企業が従業員をどれだけ大切にしているかという「人的資本」への関心が高まっていることも、この流れを加速させています。
ウェルビーイング経営に取り組むべき理由とメリット
ウェルビーイング経営は、単なる社会貢献活動ではありません。企業にとって明確なメリットをもたらす、戦略的な「投資」です。ここでは、企業が取り組むべき具体的な理由とメリットを3つの視点から解説します。
生産性の向上
従業員のウェルビーイングが高い状態にあると、仕事への意欲や集中力、いわゆる「従業員エンゲージメント」が向上します。心身ともに満たされた従業員は、自律的に業務改善に取り組んだり、新しいアイデアを生み出したりと、創造性を発揮しやすくなります。結果として、組織全体の生産性が向上し、企業の業績アップに直結します。また、心身の不調による欠勤や、出社していても生産性が上がらない「プレゼンティーズム」の防止にもつながります。
人材の定着と採用力の強化
魅力的な労働環境は、従業員の離職率を低下させます。特に若手世代は、給与などの条件だけでなく、「この会社で働き続けたいか」「自分らしくいられるか」といった点を重視する傾向にあります。「従業員を大切にする会社」という評判は、既存の従業員の定着はもちろん、採用活動においても大きな強みとなります。ウェルビーイング経営への取り組みを社外へ発信することで、企業の採用ブランドを高め、優秀な人材の確保につながるでしょう。
企業イメージの向上
ウェルビーイング経営に積極的に取り組む姿勢は、顧客や取引先、金融機関といったステークホルダーからの信頼を高めます。従業員を大切にする企業文化は、製品やサービスの質の向上にもつながり、結果として顧客満足度を高める効果も期待できます。いわゆる「ホワイト企業」としての認知が広がることで、社会的な評価が高まり、企業のブランドイメージ向上に大きく貢献します。
ウェルビーイング経営の導入の流れ
「ウェルビーイング経営の重要性はわかったけれど、何から手をつければいいのかわからない」という方も多いでしょう。ここでは、中小企業でも実践できる、具体的な導入の流れを4つのステップでご紹介します。
ステップ1:現状の把握
まずは、自社の従業員がどのような状態にあるのかを客観的に把握することから始めます。従業員満足度調査やストレスチェックなどのアンケートを実施したり、上司と部下による1on1ミーティングの機会を設けたりして、現場の生の声を集めましょう。これにより、人間関係、労働時間、評価制度など、自社が抱えるウェルビーイングに関する課題が明確になります。データに基づいて課題を可視化することが、効果的な施策を打つための第一歩です。
ステップ2:方針の決定と体制構築
次に、収集したデータをもとに、自社が目指すウェルビーイングのあり方や具体的な目標を設定します。このとき重要なのが、経営トップが「ウェルビーイング経営を推進する」という強い意志を社内外に明確に発信すること(トップコミットメント)です。その上で、人事部などを中心とした推進チームを立ち上げ、全社的に取り組むための体制を整えましょう。経営層の本気度が、従業員の意識を変える原動力となります。
ステップ3:施策の実行
設定した方針と目標に基づき、具体的な施策を計画し、実行に移します。例えば、長時間労働が課題であれば、フレックスタイム制やテレワークを導入する。コミュニケーション不足が課題であれば、社内SNSや定期的な交流イベントを企画する、といった具合です。最初から完璧を目指す必要はありません。従業員の意見も取り入れながら、自社でできることからスモールスタートで始めていくことが成功の鍵です。
ステップ4:効果測定と改善
施策を実行したら、必ずその効果を測定し、振り返りを行いましょう。定期的に従業員サーベイを実施して施策実施前後の数値を比較したり、離職率や有給休暇取得率の変化を確認したりします。思うような効果が出ていない場合は、その原因を探り、施策の内容を見直しましょう。この「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」のPDCAサイクルを回し続けることで、取り組みが形骸化するのを防ぎ、自社に合ったウェルビーイング経営を実現できます。
ウェルビーイング経営を構成する5つの要素
ウェルビーイングは多角的な概念です。米国の調査会社ギャラップ社は、ウェルビーイングを5つの要素で定義しており、これらをバランスよく満たすことが重要だと提唱しています。自社の取り組みを考える上での参考にしてください。
キャリアの幸福
日々の仕事に対して、やりがいや誇り、楽しみを感じている状態です。単に業務をこなすだけでなく、自分の仕事が誰かの役に立っている実感や、自身の成長を感じられることが重要になります。公平な評価制度や、スキルアップを支援する研修制度、挑戦できる機会の提供などが、キャリアの幸福につながります。
社会的な幸福
職場において、信頼できる上司や同僚がいて、良好な人間関係を築けている状態を指します。お互いに尊重し、困ったときには助け合える関係性は、働く上での安心感につながります。感謝を伝え合う文化の醸成や、チームビルディングを目的としたイベントの実施などが有効です。
経済的な幸福
自分の収入や資産に満足し、将来に対する経済的な不安が少ない状態です。生活を安定させ、安心して働き続けるための基盤となります。単に給与水準が高いことだけでなく、納得感のある評価・報酬制度や、金融リテラシー向上のための教育機会の提供などが考えられます。
身体的な幸福
心身ともに健康で、日々の業務をエネルギッシュに行える状態です。健康診断の徹底や長時間労働の是正はもちろんのこと、食生活や運動習慣の改善をサポートする取り組み、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ相談窓口の設置などが含まれます。
地域社会の幸福
自分が所属するコミュニティ(地域社会)とのつながりに満足している状態です。会社周辺の清掃活動や地域イベントへの参加、ボランティア活動を支援する制度などを通じて、従業員が地域社会へ貢献する機会を作ることも、ウェルビーイングの向上につながります。
ウェルビーイング経営とSDGsの関連性
ウェルビーイング経営への取り組みは、企業の成長だけでなく、社会全体の持続可能性にも貢献します。特に、国連が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」とは深い関わりがあります。例えば、従業員の心身の健康を増進する取り組みはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に、働きがいのある人間らしい雇用を促進することは目標8「働きがいも経済成長も」に直結します。ウェルビーイング経営を推進することは、企業の社会的責任(CSR)を果たし、社会から信頼され、選ばれ続ける企業になるための重要なステップなのです。
ウェルビーイング経営で持続可能な企業成長を実現する
ウェルビーイング経営は、単なる福利厚生ではなく、企業の未来を創るための重要な経営戦略です。従業員一人ひとりの幸福を追求することが、組織全体の生産性や創造性を高め、結果として企業の持続的な成長につながります。本記事で紹介した導入の流れや他社の事例を参考に、まずは自社の現状把握から始めてみてください。従業員と企業が共に成長できる労働環境を整えることが、これからの時代に選ばれる企業になるための第一歩です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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