- 更新日 : 2025年9月26日
給与計算での社会保険とは?シミュレーションで解説
毎月の給与計算、とくに社会保険料の計算は複雑で、保険料率の改定や専門用語の多さに、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、給与計算における社会保険料の基本から、計算の基礎となる標準報酬月額の仕組み、2025年度の最新料率を使った具体的な計算方法、そして実務上の注意点まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。正確な給与計算と業務効率化のために、ぜひお役立てください。
目次
給与計算に含まれる社会保険とは
給与から天引きされる社会保険は、病気やけが、失業、労働災害といったリスクに備えるための公的な保険制度です。狭義の社会保険は健康保険・厚生年金保険・介護保険の3種類を指し、これに雇用保険・労災保険を加えて広義の社会保険と呼ぶ場合もあります。
給与から実際に天引きされるのは健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険であり、労災保険料は給与から引かれず、全額を会社が負担します。
給与から天引きされる社会保険の種類
従業員の給与から控除される社会保険は、以下のとおりです。これらの保険料は、原則として会社が給与から天引きし、従業員に代わって国や自治体に納付します。
- 健康保険:業務外の病気やけが、出産、死亡に備える医療保険。
- 厚生年金保険:老齢、障害、死亡に備える公的年金制度。
- 介護保険:介護が必要になった際にサービスを受けるための保険。40歳以上の従業員が対象。
- 雇用保険:失業した際の生活保障や再就職支援のための保険。
- 労災保険(労働者災害補償保険):業務中や通勤中の災害による傷病に備える保険。
従業員負担と会社負担の内訳
社会保険料は、従業員と会社(事業主)の双方が負担します。ただし、その負担割合は保険の種類によって異なります。労災保険料はすべて会社が負担し、従業員の給与から差し引かれることはありません。
保険の種類 | 従業員負担 | 会社負担 |
---|---|---|
健康保険 | 50% | 50% |
厚生年金保険 | 50% | 50% |
介護保険 | 50% | 50% |
雇用保険 | 事業の種類による | 事業の種類による |
労災保険 | なし | 100% |
雇用保険の保険料率は、事業の種類によって異なります。これは、失業リスクなどが事業ごとに違うためで、一般的に「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つに区分され、それぞれ異なる料率が設定されています。たとえば、令和7年度の保険料率は、一般の事業が1.45%(うち会社負担は0.9%)であるのに対し、建設の事業では1.75%(うち会社負担は1.1%)となっています。
出典:令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内|厚生労働省
社会保険料の計算の基礎となる標準報酬月額
健康保険料や厚生年金保険料は、従業員一人ひとりの給与額そのものではなく、「標準報酬月額」という基準額にあてはめて計算します。これにより、給与額に多少の変動があっても毎月の保険料が安定し、計算事務の簡素化が図られています。
標準報酬月額とは
標準報酬月額は、毎月の給与などを一定の幅で区切った「等級」に当てはめて、社会保険料を計算するための基準額です。この仕組みには、大きく2つのポイントがあります。
1. 健康保険と厚生年金で「等級」の仕組みが異なる
まず、等級の数や上限額が、健康保険と厚生年金保険で異なります。
- 健康保険(協会けんぽの場合):
第1級(5万8千円)から第50級(139万円)までの50等級 - 厚生年金保険:
第1級(8万8千円)から第32級(65万円)までの32等級
このため、とくに給与が高い従業員の場合、健康保険料と厚生年金保険料を計算する際の標準報酬月額が異なることがあります。
2. 健康保険の「保険料率」は地域や組合で異なる
次に、等級に適用する健康保険料率は、加入している健康保険の種類によって変わります。
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合:
保険料率は事業所がある都道府県ごとに設定されています。たとえば、同じ給与でも東京と大阪では健康保険料が変わります。 - 組合管掌健康保険(組合健保)の場合:
大企業などが設立する健康保険組合では、組合が独自に保険料率を定めています。
一方で、厚生年金保険の保険料率は全国一律です。標準報酬月額の最終的な決定は、事業主からの届出にもとづき、日本年金機構または各健康保険組合が行います。
出典:
令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
厚生年金保険料額表(令和7年度版)|日本年金機構
関連:標準報酬月額とは?決め方や計算方法、間違えた場合をわかりやすく解説!
標準報酬月額の対象となる報酬
標準報酬月額の算定基礎となる報酬には、基本給や役職手当のほか、残業手当、通勤手当、住宅手当など、労働の対償として事業所から現金または現物で支給されるものが含まれます。一方で、出張旅費や慶弔見舞金のように、実費弁償の性質を有するものや恩恵的に支給されるものは報酬に含みません。
- 報酬に含まれるもの:基本給、役職手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当など
- 報酬に含まれないもの:出張旅費、慶弔見舞金、傷病手当金、大入袋、解雇予告手当など
標準報酬月額の決定・改定タイミング
標準報酬月額は、一度決まると原則として1年間同じ等級が使われますが、以下の3つのタイミングで見直しが行われます。
- 資格取得時決定(入社時)
入社時の給与などにもとづいて標準報酬月額を決定します。 - 定時決定(算定基礎届)
毎年1回、4月、5月、6月に支払われた報酬の平均額を算出し、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額を決定します。 - 随時改定(月額変更届)
昇給や降給などで固定的賃金に大きな変動があり、一定の条件を満たした場合に、標準報酬月額を改定します。
【2025年度】給与計算での社会保険料の計算方法
各社会保険料は、定められた計算式にもとづいて算出します。健康保険、厚生年金保険、介護保険は「標準報酬月額」を、雇用保険と労災保険は毎月の「賃金総額」を基に計算する点が大きな違いです。
健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料の計算
健康保険・厚生年金保険・介護保険の保険料は、標準報酬月額にそれぞれの保険料率を掛けて算出します。算出された保険料を、従業員と会社で半分ずつ負担(労使折半)します。
たとえば、東京都の事業所に勤務する45歳の方で、標準報酬月額が30万円の場合、健康保険料と介護保険料、厚生年金保険料のそれぞれの負担額は以下のようになります(概算)。
- 健康保険料・介護保険料:300,000円 × 11.5% ÷ 2 = 17,250円
- 厚生年金保険料:300,000円 × 18.3% ÷ 2 = 27,450円
なお、厚生年金基金に入っている人の保険料率は、所属する基金によって違います。
参照:令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)|協会けんぽ
雇用保険料の計算
雇用保険料は、残業代などを含んだ毎月の賃金総額(税引前の金額)に雇用保険料率を掛けて計算します。負担割合は事業の種類によって異なります。
たとえば、一般の事業で賃金総額が30万円の場合では以下のようになります。
- 従業員負担:300,000円 × 0.55% = 1,650円
- 会社負担:300,000円 × 0.9% = 2,700円
出典:令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内|厚生労働省
労災保険料の計算
労災保険料も、賃金総額に労災保険料率を掛けて計算しますが、保険料は全額、会社(事業主)が負担します。労災保険料率は、事業の種類ごとに災害発生のリスクに応じて細かく定められています。
たとえば、建設事業のうち「建築事業」で賃金総額が30万円の場合、令和7年度の料率(9.5/1000)では以下のようになります。
- 会社負担額:300,000円 × 0.95% = 2,850円
賞与(ボーナス)から引かれる社会保険料の計算
賞与からも、毎月の給与と同様に社会保険料が控除されます。賞与の保険料は、税引前の賞与額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」を基に計算します。
2025年度の最新社会保険料率の目安
社会保険料率は、制度改正や財政状況に応じて見直されます。とくに健康保険料率は都道府県ごとに異なり、介護保険料率や雇用保険料率も定期的に改定されるため、給与計算の際は必ず最新の料率を確認しましょう。
保険の種類 | 保険料率 | 備考 |
---|---|---|
健康保険料率 (東京都) | 9.91%※40歳未満の場合 | 都道府県ごとに異なる |
介護保険料率 | 1.59% | 全国一律 |
厚生年金保険料率 | 18.3% | 固定 |
雇用保険料率 (一般の事業) | 1.45% (従業員負担0.55%, 事業主負担0.9%) | 事業の種類により異なる |
労災保険料率 | 0.25%~8.8% | 事業の種類により異なる |
出典:
令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)|全国健康保険協会(協会けんぽ)
厚生年金保険料額表(令和7年度版)|日本年金機構
令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内|厚生労働省
令和7年度の労災保険率について|厚生労働省
給与計算での社会保険料シミュレーション
それでは給与額をもとに、従業員の本人負担額と、会社が負担する社会保険料がそれぞれいくらになるのかを見ていきましょう。会社の負担額には、労災保険料など従業員の給与からは引かれない保険料も含まれます。
ここでは、東京都の協会けんぽに加入し、40歳以上65歳未満(介護保険料あり)、一般の事業に従事している従業員の例でシミュレーションします。
月給 (報酬月額) | 本人負担合計 | 会社負担合計 (労災保険含む) |
---|---|---|
200,000円 | 健康保険: 9,910円 介護保険: 1,590円 厚生年金: 18,300円 雇用保険: 1,100円 合計: 30,900円 | 32,200円 |
300,000円 | 健康保険: 14,865円 介護保険: 2,385円 厚生年金: 27,450円 雇用保険: 1,650円 合計: 46,350円 | 48,300円 |
400,000円 | 健康保険: 20,315円 介護保険: 3,259円 厚生年金: 37,515円 雇用保険: 2,200円 合計: 63,289円 | 65,889円 |
500,000円 | 健康保険: 24,775円 介護保険: 3,975円 厚生年金: 45,750円 雇用保険: 2,750円 合計: 77,250円 | 80,500円 |
600,000円 | 健康保険: 29,235円 介護保険: 4,690円 厚生年金: 53,985円 雇用保険: 3,300円 合計: 91,210円 | 95,110円 |
700,000円 | 健康保険: 35,180円 介護保険: 5,644円 厚生年金: 59,475円 雇用保険: 3,850円 合計: 104,149円 | 108,699円 |
※上記は概算値です。実際の計算では、報酬月額の範囲や最新の料率表を必ずご確認ください。
※厚生年金保険料は、標準報酬月額の上限である65万円で計算しています。
※会社負担合計には、労災保険料(0.3%と仮定)が含まれています。なお、これとは別に、会社は「子ども・子育て拠出金」(標準報酬月額の0.36%)を全額負担しますが、これは税金として扱われるため社会保険料の合計には含めていません。
また、厚生労働省が公開する「社会保険料かんたんシミュレーター」では、会社が負担する社会保険料の概算を確認いただけます。
関連:子ども・子育て拠出金とは?会社負担はいくら?計算方法や端数処理を解説
給与計算で社会保険料を扱う際の注意点
社会保険料の計算と控除には、日割り計算の有無や保険料が免除されるケースなど、実務上で注意すべき点がいくつかあります。間違いやすいポイントをしっかりおさえておきましょう。
入退社月の保険料の扱い
社会保険料は月単位で計算され、日割り計算は行いません。資格を取得した月から発生し、資格を喪失した月(退職日の翌日が属する月)の前月分までを納付します。たとえば、8月20日に入社した場合、8月分の保険料から発生します。8月20日に退職した場合、資格喪失月は8月となり、7月分の保険料まで納付が必要です。
産休・育休中の社会保険料免除
産前産後休業や育児休業の期間中は、従業員が申請することで、本人負担分と会社負担分、両方の社会保険料が免除されます。この免除制度は、従業員の経済的負担を軽減し、安心して休業を取得できるようにするためのものです。
40歳・65歳到達時の介護保険料の扱い
介護保険料の徴収は、従業員が40歳に達したとき(40歳の誕生日の前日が属する月)から始まります。逆に、65歳に達したとき(65歳の誕生日の前日が属する月)からは、給与からの天引きはなくなります。対象となる従業員がいる場合は、徴収の開始・終了漏れがないよう注意が必要です。
給与計算と社会保険手続きを効率化する方法
毎月の給与計算や社会保険手続きは、正確性が求められる一方で、非常に手間のかかる業務です。ITツールや専門家の力を借りることで、担当者の負担を軽減し、業務を大幅に効率化できます。
クラウド給与計算ソフトの活用
クラウド型の給与計算ソフトを導入すると、社会保険料や税金の計算を自動化できます。料率の改定など法改正にも自動でアップデート対応してくれるため、常に最新の状態で正確な計算が可能です。Web給与明細の発行や年末調整の機能も備わっているものが多く、ペーパーレス化にもつながります。
社会保険労務士(社労士)への外部委託
給与計算や社会保険手続きを、専門家である社会保険労務士(社労士)に委託(アウトソーシング)する方法もあります。専門家に任せることで、法改正への対応や手続きの漏れを防ぎ、担当者はコア業務に集中できるでしょう。とくに、従業員数の多い企業や、人事労務の専門部署がない場合に有効な選択肢です。
社内業務フローの見直し
ツールの導入や外部委託だけでなく、社内の業務フローを見直すことも効率化につながります。たとえば、勤怠データの集計方法を統一したり、担当者間でのチェック体制を確立したりすることで、手作業によるミスを減らし、作業時間を短縮できるでしょう。
給与計算と社会保険を正しく理解し企業の信頼を守る
給与計算における社会保険料の正しい理解は、法令遵守だけでなく従業員の生活を守るうえで不可欠です。社会保険料は標準報酬月額や賃金総額を基準に算出され、健康保険・厚生年金・介護保険・雇用保険が給与から控除されます。
労災保険は給与から引かれず、全額を会社が負担します。計算では等級制度や最新料率を確認することが大切です。
クラウド型給与ソフトや社会保険労務士への委託を活用すれば、改正対応や処理精度も高められます。正確な給与計算体制は従業員からの信頼と企業の健全な経営基盤につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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