- 更新日 : 2025年8月27日
同一労働同一賃金で各種手当はどうすべき?対応方法を解説
正社員と同じ仕事をしているパートやアルバイトに手当を支給しないのは問題ないのでしょうか。通勤手当や住宅手当などの法定外手当は、同一労働同一賃金の観点から不合理な待遇差があると是正が求められます。本記事では、手当の種類別に対応方法を整理し、制度見直しのポイントを解説します。
目次
同一労働同一賃金における手当とは?
「同一労働同一賃金」の考え方は、正社員と非正規社員(契約社員・パート・派遣社員など)の間に、業務内容や責任の程度、配置転換の範囲が同等である場合には、不合理な待遇差を設けてはならないとするものです。
これは2018年に成立した「働き方改革関連法」に基づき、労働者派遣法・パートタイム・有期雇用労働法の2つに明記されており、特に中小企業も対象となった2021年4月以降、手当制度の見直しが重要なテーマとなっています。
その中でも「手当」は、金銭的報酬のひとつとして重要視されており、制度の内容や支給条件に不整合があるとトラブルの要因にもなります。
厚生労働省のガイドラインや過去の判例でも、手当の支給に合理的な理由があるかどうかが問われています。たとえば、同じように危険作業をしていても一方に「特殊作業手当」が出て、もう一方に出ていなければ、不公平と見なされる可能性があります。
手当は「法定」と「法定外」に分かれる
企業が支給する手当には、法律上の義務がある「法定手当」と、企業ごとの裁量で支給される「法定外手当」があります。
- 法定手当:労働基準法により支給が義務付けられている手当
例:時間外労働手当、深夜手当、休日手当など(いわゆる割増賃金) - 法定外手当:会社の制度や就業規則によって任意に支給される手当
例:通勤手当、住宅手当、役職手当、精勤手当、家族手当、地域手当、在宅勤務手当など
同一労働同一賃金において問題となるのは、主にこの「法定外手当」の支給有無や金額に不合理な差がある場合です。
たとえば、同じ職務内容で働く契約社員に住宅手当が支給されないケースでは、その差の理由が合理的でない限り、違法と判断される可能性があります。
手当の支給は業務や雇用条件との整合性が必要
実際には、すべての手当を均一に支給する必要はありません。手当が支給される背景や目的が、雇用形態の違いや就業条件に基づくものであれば、その差は合理的とされることもあります。
たとえば「住宅手当」は転勤を前提とする正社員に限定されている場合、転勤のない契約社員には不支給でも違法とはされません。
一方で、業務が完全に同一であるにもかかわらず「精勤手当」や「通勤手当」などを正社員のみに支給していた例では、裁判で違法とされたケースもあります。
(例:ハマキョウレックス事件、井関松山製造所事件など)
同一労働同一賃金の対象となる手当の種類と概要
同一労働同一賃金では、企業が独自に支給する法定外手当の扱いも判断ポイントです。業務内容や就労条件が正社員と非正規社員で同等であるにもかかわらず、手当の支給に差がある場合、不合理な待遇差とされる可能性もあります。
通勤・出張など移動に関する手当
職務の遂行に必要な移動を補助する手当は、労働時間外の金銭補償とは異なり、就労形態や役割に関係なく平等な支給が原則とされやすい傾向にあります。
通勤手当
通勤手当は、勤務地までの交通費を補うものであり、通勤方法や地域差を考慮しつつ、実費または定額で支給されるのが一般的です。同一の出勤形態であれば、正社員・非正規社員を問わず同額支給が基本とされます。
出張手当
出張時の交通費や宿泊費、日当などを補償するための手当です。業務指示により同様の出張を行うのであれば、雇用形態にかかわらず等しい条件で支給されるべきです。
勤務実績や役割に連動する手当
勤務態度や責任の範囲を金銭的に評価する手当は、企業独自の制度が多く、正社員を前提に設計されていることもありますが、非正規社員であっても同等の業務を担う場合には、差の正当性が求められます。
精勤手当・皆勤手当
出勤日数や欠勤の有無を基準に支給される手当です。非正規社員にも同じ勤怠評価制度を適用している場合、支給しないことに合理性は認められにくくなります。
役職手当
店長やリーダーなどの役職者に対して支給される手当です。仮に勤務時間が短くても、正社員と同様の職責を担っていれば、一定割合での支給が必要とされるケースがあります。
無事故手当
運輸・配送業などで一定期間事故なく勤務したことを評価する手当です。就業形態にかかわらず、運転業務に従事している限りは、同様の条件で支給する必要があります。
生活支援や福利厚生に関わる手当
生活基盤の安定や家庭環境を支援する目的で支給される手当は、正社員優遇が慣習化しやすい領域ですが、勤務実態が同じであれば、雇用形態だけを理由に差を設けることは困難です。
住宅手当
転勤や異動を前提とした手当として設計されている場合、非正規との待遇差が容認されることもありますが、勤務地や業務内容が共通であれば、同額支給が原則とされます。
家族手当・扶養手当
扶養家族を持つ従業員に支給される手当です。一定の勤務継続が見込まれる非正規社員には、実質的な差がない場合には支給対象とする必要があります。
地域手当
地域の物価や生活費を補填する手当です。同一地域で勤務し、業務内容も一致する場合、正社員のみに支給することは不合理と判断される可能性があります。
食事手当
勤務時間帯や休憩時間の長さに応じて支給される手当であり、食事を取る状況が異なる場合は差を設ける余地もあります。ただし、就労条件が同じであれば差は認められません。
単身赴任手当
勤務地変更に伴って生活基盤を移す必要がある従業員に支給されます。派遣・契約社員でも同様の転勤や長期出張がある場合、同様の支給が必要です。
在宅勤務手当
リモートワーク時に発生する光熱費・通信費などを補助する手当です。在宅勤務の有無や頻度が正社員と共通であれば、支給条件に差をつけることはできません。
資格・勤務形態・環境に基づく手当
労働条件の特異性や業務の専門性を反映する手当についても、支給要件と実態の整合性が求められます。特に業務上必要な資格の有無や作業環境の危険度などに応じて差が認められるかが判断基準になります。
資格手当
業務に直結する資格を保有している場合に支給されます。資格の級や業務との関連性が企業で定められていれば、それに準じて公平に運用される必要があります。
特殊作業手当
危険や不快を伴う作業に対して支給される手当であり、正社員と非正規社員の作業内容が同じであれば、支給に差を設けることはできません。
特殊勤務手当
夜勤や交替勤務などに対して支給される手当です。勤務時間帯に応じた時給調整が既に反映されている場合は別途支給が不要なケースもあります。
慶弔休暇・病気休暇・特別休暇
休暇制度も待遇の一部とされ、特に法定外休暇については正社員と同じ基準での付与が求められます。対象範囲や取得要件の説明が不十分な場合、差別的取り扱いと見なされる可能性があります。
業績・勤続年数による成果反映型の手当
企業業績や個人の貢献度、長期勤続などを評価する手当は、正社員を基準に設計されがちですが、同様の成果を上げている非正規社員に対して支給しない場合、正当性を示す明確な理由が求められます。
賞与(ボーナス)
業績貢献に応じたインセンティブです。業務内容や評価制度が共通であれば、一定の支給が必要とされる傾向があります。ただし、勤務時間や雇用期間の違いによって調整が認められることもあります。
退職金
長期勤務者への報奨として支給される退職金制度も、支給条件に合理性があれば差を設けることができます。たとえば「3年以上の勤務で支給」などのルールが明確に定められていれば、非正規社員にもその基準に基づく扱いが必要です。
同一労働同一賃金においてどこまで手当に対応すべきか
同一労働同一賃金の考え方を現場で実践するにあたって、多くの企業が直面するのが「どこまで手当を正社員と同様に支給すべきか」という判断です。特に法定外手当は支給の有無が企業裁量に委ねられる部分も多く、その判断に明確な基準が求められます。
対応範囲の判断には「合理性の説明」が不可欠
企業が特定の手当を正社員のみに支給している場合、その差が不合理とされないためには、明確な理由や事情の違いを説明できることが前提になります。
たとえば、転勤や異動のある正社員に対して住宅手当を支給し、転勤のないパート社員には支給しないといったケースは、「配置転換の有無」という要素が判断基準として機能します。これは、厚生労働省のガイドラインでも示されている正当な区別のひとつです。
判断のポイントは「職務内容・責任・配置の違い」
手当支給に差をつける場合、「仕事内容」「責任の程度」「人事異動の範囲(配置の変更の有無)」という3つの軸をもとに、待遇の差が合理的であるかどうかを判断するのが基本です。
- 職務内容:正社員と非正規社員で業務範囲や専門性が異なるか
- 責任の程度:成果責任、指導監督責任などに明確な差があるか
- 配置の変更の有無:転勤・異動の可能性や勤務場所の柔軟性が異なるか
この3点で差がないにもかかわらず、特定の手当が支給されない場合には、「待遇差の合理的理由がない」と判断されるリスクが高まります。
過去の裁判例から学ぶ
実際に争われた事例を見ると、手当の支給可否に関する「線引き」の根拠が曖昧なまま運用されていたケースで、不合理な差として是正命令が下されているものも少なくありません。
たとえば、日本郵便事件では、契約社員に扶養手当が支給されていなかったことに対して、「雇用期間の継続性が見込まれる」という実態を重視し、扶養手当の不支給は不合理と判断されました。一方、長澤運輸事件では、再雇用後の有期契約社員に対する住宅手当の不支給が「年金の支給があり、生活保障の必要がないこと」などの事情から容認されています。
このように、雇用実態と制度の整合性がとれているかが判断の軸になります。
待遇差を設ける場合は「就業規則」と「説明体制」の整備を
仮に待遇差を設ける場合でも、根拠となる条件を就業規則や社内制度上に明記し、社員に周知しておくことが不可欠です。非正規社員から説明を求められた際に即答できない場合や、社内で運用がばらついている場合には、トラブルに発展するリスクが高くなります。
特に重要なのは、「同じ仕事をしていても、待遇が異なる理由を第三者にも納得してもらえるか」という視点です。制度上の整合性だけでなく、社内の納得感も維持できる制度設計が求められます。
同一労働同一賃金に基づく手当制度の見直しに向けた企業の取り組み
同一労働同一賃金の原則に沿った手当制度を構築するためには、現行制度の見直しとあわせて、合理性の検証と社員への説明体制の整備が不可欠です。ただ制度を形だけ揃えるのではなく、「不合理な差をどう防ぐか」「納得できるルールをどう設計するか」が問われています。
まずは自社の現状を把握し、差が生じている箇所を洗い出す
最初に行うべきは、正社員と非正規社員に対して支給している各種手当について、支給条件や金額、対象範囲を横断的に整理する作業です。
手当が支給されていない、または条件に差がある場合は、その差の理由を明確に説明できるかを確認しましょう。よくある盲点として、「過去からの慣習で正社員だけに支給している」「支給基準が口頭でしか存在しない」といった状態は、説明責任を果たすうえで大きな障壁になります。
この段階で把握した待遇差が、「職務内容」「責任の程度」「配置転換の範囲」といった基準に照らして合理的といえるかを精査することが重要です。
待遇差に合理性がない場合は制度の統一か説明の明文化を検討する
もし待遇差に合理性が見いだせない、もしくは第三者に説明しにくい場合には、制度の統一(手当の支給対象の拡大)や、支給要件の再設定によるルールの明文化を検討します。
たとえば、非正規社員に住宅手当を支給していない場合でも、転勤・異動のない正社員にも同様に不支給としているのであれば、「異動の有無」が待遇差の合理的理由として制度に反映されているかを確認します。
差を維持する場合でも、「その差が妥当であることを、誰が見ても分かるように説明できるか」という視点が重要です。口頭での運用に頼るのではなく、社内規程や就業規則に明文化しておくことで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。
社内説明・相談体制を整備し、従業員との信頼を築く
制度を整えても、その背景や意図が社員に伝わっていなければ、納得感を得ることは難しく、不信感を招く恐れがあります。そのため、制度導入時や改定時には、説明会・社内文書などでの丁寧な情報共有を行うとともに、疑問や懸念に対応できる相談窓口の整備も検討しましょう。
非正規社員の声が届きづらい職場環境では、制度上の合理性があっても「差別的に扱われている」と感じさせてしまう可能性があります。形式的な平等だけでなく、実感としての公平さを担保するための運用設計が求められます。
見直しは一度で終わらせず、継続的に
制度の見直しは一度きりではなく、業務内容の変化や判例・法改正に応じた継続的な更新が必要です。特に同一労働同一賃金の運用については、今後も裁判例の蓄積により判断基準が具体化していくことが予想されます。
そのため、年1回程度の制度レビューや、非正規社員を含む労使間のヒアリング機会を定期的に設けるなど、実態と制度の乖離を埋める体制づくりが望まれます。
同一労働同一賃金における手当は妥当性を検証する
同一労働同一賃金においては、通勤手当や住宅手当、役職手当などの法定外手当について、支給の有無や金額差に合理的な理由があるかどうかが重視されます。業務内容・責任の程度・異動の有無などを基準に、手当の扱いが不合理とならないよう制度の再点検が求められます。
支給対象の整理や社内ルールの明文化に取り組むことで、法的リスクを回避しつつ、従業員の納得感ある制度運用につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
外国人雇用で利用できる助成金とは?2025年最新情報を徹底解説
近年では事業における人材不足が進んでおり、グローバル化に伴い外国人雇用をご検討の方もいらっしゃるでしょう。事業者向けの各種助成金制度を活用すれば、採用負担を軽減できるチャンスも広がります。 本記事では、2025年最新の制度情報や対象条件、申…
詳しくみる役員社宅とは?利用するメリット・デメリット〜節税のポイントを解説
企業が提供する役員社宅は、主に経営層や幹部社員が住むための住宅で、業務の円滑な遂行や生活支援を目的として提供されるものです。 本記事では、役員社宅のメリットや導入の際のデメリット、税務上の取り扱いなどについて詳しく解説します。 役員社宅とは…
詳しくみるオンラインで入社手続きはどこまでできる?電子化できる書類や進め方、注意点を解説
近年、入社手続きをオンラインで完結させる企業が増えてきました。これまで紙でやり取りしていた契約書や社会保険の申請も、デジタル化の流れによって、インターネットを通じて対応するケースが一般的になりつつあります。 本記事では、オンラインで入社手続…
詳しくみる就業規則における変形休日制の記載例|1ヶ月単位・1年単位のポイントなどを解説
企業の成長と従業員の働きがい、その両立を目指す上で休日のあり方は非常に重要です。特に、業務の繁閑に合わせて柔軟な働き方を可能にする変形休日制は、多くの企業にとって有効な制度といえるでしょう。しかし、その導入や運用には労働基準法の規定が関わる…
詳しくみるゆとり世代とは?いつから?年齢や年代の特徴、仕事での接し方を解説
「ゆとり世代」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。この言葉には、特定の年代を示すだけでなく、その世代が持つ独特な特徴や背景が含まれています。 日本社会が直面した経済的、教育的な変革の中で育った彼らは、前の世代とは異なる視点や価値…
詳しくみる社外取締役とは?役割や社内取締役との違いを解説
取締役は、会社の業務執行における意思決定のために設置される機関です。会社が事業を継続し、成長するためには優秀な取締役が必要となるでしょう。 通常取締役と言えば、社内取締役を指します。しかし、それとは別に社外取締役と呼ばれる役員が選任される場…
詳しくみる