- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法施行規則第42条とは?退職金規程における死亡退職金の受取人も解説
労働基準法施行規則第42条とは、「遺族補償年金」を誰が受け取れるかを定めた規定です。
本記事では、労働基準法施行規則第42条の概要や、2024年の法改正や最新判例(令和6年最高裁判決)による解釈の変化、退職金規程における死亡退職金の受取人規定との関係などを解説します。また、退職金の支給におけるトラブルを防ぐために、人事・法務担当者が押さえておくべき実務上の注意点も整理しています。
目次
労働基準法施行規則第42条とは
労働基準法施行規則第42条は、労働者が業務上の災害で死亡した場合に支給される「遺族補償年金」の受給対象者と、その順位を定めた規定です。最初に受給できるのは、労働者の配偶者(婚姻届をしていなくても事実上婚姻関係と同様の者を含む)です。
配偶者がいないときは、次の順位に従って「子→父母→孫→祖父母」が対象となり、生計を維持されていたか、生計を一にしていたかが受給の条件です。
子が複数いる場合は全員が同順位で受け取ることになります。父母については養父母が優先され、実父母はその次となります。
第42条の対象者がいない場合、次に第43条が適用され、より広い範囲の親族に補償が認められます。
順位は「子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹」で、兄弟姉妹については、亡くなった労働者と生計を共にしていた人が優先されます。
また、特例として第43条第2項では、労働者が遺言または事前の届け出で特定の者を指定した場合には、上記の順位にかかわらずその指定された者を受給者とすると定めています。例えば、法律上の配偶者以外に事実婚の相手に補償を確実に渡したい場合などに活用されます。
第44条では、同順位の受給権者が複数いるときは遺族補償が等分されるとされています。第45条では本来受け取るはずであった遺族が受け取る前に死亡した場合にはその者の受給権は消滅し、次の順位の者が受給対象となります。
遺族補償の目的と実務への影響
労働基準法施行規則第42条の目的は、業務上の災害で労働者が死亡した場合に支払われる「遺族補償」の受給者を明確にすることです。労働基準法第79条では、労働者が業務上死亡した場合に使用者(会社)は平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければならないと定めています。
誰にその補償を支払うかについて細かい基準は法律本文中には書かれていないため、「厚生労働省令で定めるところにより」遺族の範囲や順序を決めることになっており、その具体的内容が施行規則第42条~第45条なのです。
この規定の適用範囲は本来、労働基準法上の遺族補償(業務上死亡時の補償)に限定されています。つまり、労働者が仕事中の事故や災害で亡くなった場合に、法律の定めに従って支払われるべき補償金の受取人を決めるルールです。
現在では、業務上の死亡補償は労災保険によって給付されるのが一般的ですが、労働基準法上も最低限の補償義務としてこの規定が置かれています。
実務上はこの規定が会社の「退職金規程」における死亡退職金の受取人規定として準用されるケースが多いです。業務上の死亡に限らず、従業員が在職中に死亡した場合に支給される社内の死亡退職金について、受取人を誰にするかを決める際に、会社が独自に定めるのではなく「労働基準法施行規則第42条から第45条で定めるところによる」と規定している企業が多数あります。
これにより、就業規則でも死亡退職金の受取人の範囲と順位が明確化され、支給先をめぐるトラブルを未然に防ぐ効果が期待されています。
労働基準法施行規則第42条と労働基準法の違い
労働基準法(法律)と労働基準法施行規則(省令)は、制定主体と内容の役割が異なります。労働基準法は国会で制定された法律で、労働条件や労働者保護に関する基本的なルールを定めています。一方、施行規則は厚生労働大臣が定める命令(省令)で、法律の内容を具体的に運用するための手続きや詳細を定めるものです。
労働基準法施行規則第42条〜第45条の場合も、労働基準法第79条(遺族補償)を施行するための具体的なルールとして位置づけられています。労働基準法第79条そのものは「業務上死亡した場合は平均賃金1000日分の遺族補償を支払うこと」と金額を定めているだけですが、誰に支払うかについては明示していません。
この詳細を定めたのが施行規則第42条〜第45条であり、法律(労働基準法)の骨組みに対して施行規則が肉付けをする関係にあります。つまり、第42条〜第45条は法律の委任に基づき、遺族補償を受け取る遺族の範囲・順位・取り扱いを具体的に規定したものなのです。
法的効力の面では、労働基準法が上位、施行規則はその下位に位置づけられます。施行規則はあくまで法律の範囲内で定められるべきものであり、万が一施行規則が法律の趣旨を逸脱するような内容で定められていた場合、法律の方を優先します。
ただし通常は法律が具体的内容を委ねている事項について施行規則が定める形になっており、第42条のような規定も法律の委任に沿って定められているものです。
労働基準法施行規則第42条に関する最近の法改正
労働基準法施行規則は定期的に改正が行われています。直近では、2024年4月から施行された改正によって、就業場所や業務の変更範囲の明示義務の追加等、労働条件通知書に明示すべき項目の追加などが行われました。
しかし、これらの改正は主に労働条件の明示義務(施行規則第5条など)に関するものであり、施行規則第42条そのものに直接変更はありません。第42条〜第45条に定める遺族補償受給者の範囲や順位については、少なくとも近年大きな条文改正は行われていない状況です。
もっとも、法律の改正ではありませんが近時の重要な判例の動きとして、第42条に関連する「配偶者」の解釈に影響を与える出来事がありました。それが2024年3月の最高裁判決です。この判決は直接には労働基準法ではなく犯罪被害者給付金に関する法律の規定解釈でしたが、「婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」の中に同性のパートナーも含まれると判断されたものです。労働基準法施行規則第42条も同様の文言(事実上婚姻と同様の関係にある者を含む)を用いて配偶者を定義しています。
そのため、この最高裁の判断は施行規則第42条における「配偶者」概念の解釈にも影響を与える可能性が高く、実務上注目されています。つまり、法律上婚姻関係にない事実婚のパートナーだけでなく、同性パートナーであっても事実上婚姻関係と同様と認められれば、第42条の「配偶者」に該当しうるという理解が広がりつつあります。
退職金規定は労働基準法施行規則第42条では不十分なことも
退職金規程における死亡退職金の受取人を誰にするかは、制度設計上の重要な検討事項です。多多くの企業では、労働基準法施行規則第42条から第45条までの規定を準用する形で受取人を定めています。この方法を取ることで、支給手続きを簡潔にし、実務上の負担を軽減することが可能です。
例えば、従業員に配偶者がいる場合、規程で「受取人は施行規則第42条に定める者とする」と明記しておけば、配偶者への支給だけで完了します。会社側は相続人全員を特定したり、遺産分割協議の成立を待つ必要がなくなるため、スムーズな処理が期待できます。
規定がなければ相続財産として扱われる
一方で、もし死亡退職金の受取人を就業規則等で定めていない場合、死亡退職金は亡くなった従業員の相続財産とみなされ、民法上の法定相続人に対して支払うことになります。
相続財産となると誰が相続人かを確定し、遺産分割協議が整うのを待たねばならず、支給までに時間がかかるだけでなく会社の手続き負担も増します。また、相続人同士で死亡退職金の分配割合について争いが生じる可能性もあり、企業にとってもリスクとなります。
したがって、退職金規程においては少なくとも受取人に関する規定を明確にしておくことが重要です。
退職金の受取人は第42条だけで十分とは限らない
規程に施行規則を準用していても、現代の家族構成や事情に十分対応できているとは限りません。例えば、同性パートナーや、事実上の別居状態にある配偶者など、一律の規定では対応が難しいケースもあります。
そのため、従業員に受取人希望を確認する仕組みを導入する企業もあります。身上書や緊急連絡先などに、家族以外の信頼できる人物を記入できるようにすることで、柔軟な運用が可能になります。規程の見直し時には、こうした対応も視野に入れることが求められます。
労働基準法施行規則第42条に関連する判例
死亡退職金の受取人や法的性質に関して示された裁判例として、いくつか重要な最高裁判決があります。それらは主に「死亡退職金が相続財産に当たるか、それとも受取人の固有の権利となるか」という点について判断しています。
最高裁昭和58年10月14日判決
最高裁昭和58年10月14日判決は、公的な条例で死亡退職金の第1順位が配偶者と定められていた場合に、配偶者がいるときは配偶者が死亡退職金の全額を取得するとの判断を示しました。
この判例では、妻と子ども二人が相続人となるケースでも、死亡退職金3000万円について妻が1500万円、子らが各750万円を取るのではなく、妻が3000万円全額を取得できるとされています。つまり受取人指定の規定がある死亡退職金は相続財産ではなく、規定に従った者の固有財産になるとの考え方を明示した判例です。
最高裁昭和60年1月31日判決
最高裁昭和60年1月31日判決は、民間企業の従業員について就業規則で死亡退職金の支給規定がある場合には、死亡退職金は相続財産ではなく規定に従った受取人が全額を取得できるとの判断を下しました。
これは先ほどの昭和58年判決の考え方を民間企業にも当てはめたもので、以後、「会社の退職金規程で受取人が定められている場合、死亡退職金は受取人固有の財産となる」というのが通説・判例となりました。
最高裁令和3年3月25日判決
最高裁令和3年3月25日判決など近年の判例でも、死亡退職金の法的性質について昭和60年判決を踏襲する判断が示されています。一方で、最高裁昭和62年3月3日判決では、死亡退職金に関する明確な規定がない場合であっても特定の相続人に全額支給されたと解する見解を示したものもあり、学説上は「規定がなくても相続財産にはならないのではないか」という議論も見られます。
ただし現在の実務では、やはり就業規則等で明確に受取人を定めているか否かが重要な分かれ目であり、規定があれば受取人固有の権利、なければ相続財産と扱うのが一般的です。
労働基準法施行規則第42条で企業が対応すべきポイント
これら裁判例を踏まえ、企業として取るべき対応策も明確になってきます。
退職金規程で死亡退職金の受取人を定めておく
就業規則(退職金規程)で死亡退職金の受取人を定めておきましょう。最高裁の判例が示す通り、規定があることで死亡退職金を誰に支給するかが明確になり、相続トラブルを避けられます。逆に規定がなければ相続財産となり複雑化するため、未整備の企業は早急に退職金規程を整えるべきです。
退職金規程の内容を定期的にチェックする
退職金規程の内容が最新の状況に合致しているかを定期的にチェックすることが重要です。例えば、従来は事実婚(内縁)の異性パートナーを配偶者に含める運用が一般的でしたが、昨今は同性パートナーについても受取人に該当し得ることを意識する必要があります。
自社の規定文言を確認し、「婚姻の届出の有無を問わず」といった表現がある場合には、それが同性カップルにも及ぶ可能性を認識しておきましょう。仮に会社として同性パートナーを除外したいと考える場合でも、前述の通り規定の改定は労働者への不利益変更となるリスクが高く慎重な判断が必要です。
従業員への周知や意思確認を行う
従業員への周知と意思確認も企業の対応策として有効です。就業規則に基づいて会社が死亡退職金の支給先を決定するとはいえ、従業員自身が特定の人物に渡したい希望を持っている場合もあります。法律上、第43条2項が認めるように遺言や届出で受取人を指定することも可能なので、従業員に対してその制度を案内しておくと良いでしょう。例えば、単身赴任中の従業員が遠方の親ではなく現在同居するパートナーに受け取ってほしいと願うケースなどでは、生前に意思表示することでトラブルを防止できます。
万が一のトラブルに対処できるようにする
万が一受取人を巡って紛争が起きた場合の対処も備えておきます。会社として規定に則って支給先を決定しても、他の遺族が異議を唱える可能性はゼロではありません。そのような場合には、家庭裁判所での調停や遺産分割協議書での明確化など法的手続きを活用することになります。もっとも、これらは事後対応策であるため、やはり企業としては事前に退職金規程を整備し周知することで紛争発生を未然に防ぐことが最善策と言えるでしょう。
労働基準法施行規則第42条の内容をしっかり押さえましょう
労働基準法施行規則第42条は、退職金規程の死亡退職金の受取人を決める際にも参考にされる重要な規定です。近年の法改正や判例の影響を踏まえ、就業規則や退職金規程の内容を見直すことが大切です。特に、同性パートナーなど受取人の範囲に関する解釈の変化にも注意が必要です。死亡退職金の支給がスムーズに行えるよう、明確な退職金規程を作成し、従業員に周知することで、トラブルを防ぐことにつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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