- 更新日 : 2025年11月5日
時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則は?36協定の原則と特別条項、回避策を解説
2019年4月から順次施行された働き方改革関連法に基づく労働基準法改正により、「時間外労働の上限規制」が導入されました。この上限規制を知らないうちに超えてしまうと、企業には懲役や罰金が科される可能性があります。
この記事では、企業の労務管理担当者が必ず押さえておくべき時間外労働の上限について、基本的なルールから例外となる特別条項、違反した場合の罰則、そして具体的な対策までをわかりやすく解説します。自社の勤怠管理が法律に適合しているかを確認し、リスクを未然に防ぎましょう。
目次
そもそも時間外労働の上限規制とは?
時間外労働の上限規制とは、労働基準法で定められた、原則として「月45時間・年360時間」を超える時間外労働を禁止するルールのことです。
原則は月45時間・年360時間
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。これは、労働者に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させることのできる限度となる時間です。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせるためには、企業と労働者の代表との間で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。その上でこの時間外労働の上限を遵守する必要があります。
また、後述の特別条項付き36協定でない場合であっても、時間外労働の休日労働を合計した場合は、月100時間未満、2~6ヶ月平均で月80時間以内にしなければならないことにも注意が必要です。
特別条項付き36協定とは
通常の業務量を大幅に超える突発的なトラブルや、繁忙期への対応など、臨時的な特別な事情がある場合に限り、特別条項付きの36協定を結ぶことで、例外的に上限を超える時間外労働が認められる場合があります。
ただし、特別条項を適用しても、以下の4つの上限をすべて満たさなければなりません。一つでも超えると法律違反となります。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均がすべて1ヶ月あたり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
この規制は、長時間労働による労働者の健康被害を防ぐための絶対的な上限として定められています。
時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則は?
時間外労働の上限規制に違反した企業(使用者)には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があります。
この罰則は、労働基準法第119条に定められています。これは労働基準法の中でも重い罰則の一つであり、上限規制が単なる努力目標ではなく、遵守すべき法的な義務であることを示しています。
罰則の対象となるのは誰?
罰則の対象は法人としての会社のほか、代表取締役や使用者代理人など「使用者」とみなされる者に及ぶ場合があります。ただし、一般的な管理職が直ちに処罰対象となるわけではありません。
罰則以外のデメリットは?
法定外労働時間の上限規制違反がもたらすリスクは、刑事罰だけではありません。以下のような深刻なデメリットにつながる可能性があります。
- 企業名の公表
労働基準監督署からの是正勧告に従わないなど、悪質と判断された場合、厚生労働省は企業名を公表する制度を運用しています。 - 社会的信用の失墜
いわゆるブラック企業という評判が広まり、顧客や取引先からの信用を失うことで、事業活動に直接的な悪影響を及ぼす恐れがあります。 - 人材採用の困難化と人材流出
企業の悪い評判は、優秀な人材の採用を困難にするだけでなく、現在の従業員のモチベーション低下や離職を招く原因になります。 - 安全配慮義務違反による損害賠償
過労死や精神疾患が労災認定された場合、企業は従業員に対する安全配慮義務を怠ったとして、高額な損害賠償を命じられる事例もあります。
時間外労働の上限規制違反を避けるための対策は?
上限規制違反のリスクを回避し、従業員が健康に働ける環境を整えるためには、以下の対策が重要です。
1. 従業員の労働時間を正確に把握する
まず、誰が・いつ・何時間働いているのかを正確に把握することがスタートです。
- 客観的な記録
タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間など、客観的にわかる方法で始終業時刻を記録し、その内容を会社(管理職など)が自ら確認することにより管理します。自己申告制は、実態と乖離する可能性があるため注意が必要です。 - 勤怠管理システムの導入
複数月平均の残業時間などを自動で集計・アラートしてくれる勤怠管理システムの導入は、管理コストを削減し、見落としを防ぐ上で効果的です。
2. 36協定の内容を見直し、適切に届け出る
自社の36協定が、現在の法律に適合しているか、改めて確認しましょう。
- 記載事項の確認
特に特別条項を設ける場合、臨時的な特別な事情を具体的に定め、「年6回まで」といった上限回数も明記する必要があります。 - 届出の徹底
協定を締結しただけでは効力は発生しません。必ず所轄の労働基準監督署長に届け出てください。
3. 業務の効率化と生産性向上に取り組む
根本的な対策として、長時間労働に頼らない働き方へのシフトが求められます。
- 業務プロセスの見直し
不要な会議の削減、承認プロセスの簡素化、業務の棚卸しなどを行います。 - ITツール・DXの推進
定型業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)や、情報共有を円滑にするチャットツールなどを活用し、生産性を向上させます。 - 人員配置の最適化
特定の従業員に業務が偏らないよう、人員配置や業務分担を見直します。
4. 従業員の健康確保措置を講じる
特に、月45時間を超える時間外労働が発生した従業員に対しては、健康への配慮が重要です。
- 産業医による面接指導
長時間労働者に対する医師による面接指導を確実に実施します。
特に月80時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、その労働者の申し出に基づき医師による面接指導を行うことが労働安全衛生法などにより義務付けられているため、注意が必要です。 - 相談窓口の設置
健康に関する相談ができる窓口を設置し、従業員が不調を訴えやすい環境を整えます。
時間外労働の上限規制を正しく理解し、健全な職場環境の実現を
時間外労働の上限規制は、企業が必ず遵守すべき法的な義務です。原則は月45時間・年360時間であり、特別条項を適用する場合でも年720時間などの絶対的な上限があります。このルールに違反すれば、罰金や懲役などの罰則が適用される可能性があるだけでなく、企業名が公表されることがあり、結果として社会的信用の低下や人材確保への影響が生じる可能性があります。
この規制を単なる制約と捉えるのではなく、従業員の健康を守り、生産性の高い魅力的な職場を作るための良い機会と捉えましょう。まずは自社の労働時間管理の現状を正しく把握することから始めてみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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