- 更新日 : 2025年11月5日
36協定の届出方法は?提出先や期限、必要書類の書き方、電子申請の方法まで徹底解説
従業員に時間外労働を指示する企業にとって、36協定の届出は法律で定められた重要な手続きです。しかし、「どこに、何を、どのように提出すれば良いのか」と悩む担当者の方も多いのではないでしょうか。36協定の届出を怠ると法律違反になる可能性もあるため、正確な知識が求められます。
この記事を読めば、36協定の基本的な役割から、具体的な届出方法、必要書類の作成、そして便利な電子申請の手順まで、すべての疑問が解決します。初めて手続きを行う方でも、迷わずスムーズに進められるよう、ポイントを分かりやすく整理しました。
目次
そもそも36協定とは?
36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)とは、企業が従業員に対し、法律で定められた労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて時間外労働や休日労働を指示するために、労働者と結ぶ協定のことです。労働基準法第36条が根拠となっているため、「36協定」と呼ばれています。
法律上の時間外労働の上限の範囲内で36協定を労働者と締結し、かつ管轄の労働基準監督署に届け出ることで、1日8時間・週40時間となる法定労働時間を超える時間外・休日労働が可能になります。
36協定の届出が必要なケースは?
法定労働時間を少しでも超えて労働させる可能性、または法定休日に労働させる可能性がある場合は、36協定の届出が必要です。労働基準法は労働時間を厳格に定めており、その例外を認める手段の1つが、36協定の締結と届出になります。
具体的には、次のような場合に届出が求められます。
- 時間外労働(残業)
1日8時間、または週40時間を超えて労働させる場合 - 休日労働
労働基準法で定められた週1日または4週を通じて4日の法定休日に労働させる場合
たとえ短時間の残業や臨時的な業務であっても、法定労働時間を超えるなら、事前に36協定の締結と届出を済ませておかなければなりません。「残業が少ないから大丈夫だろう」といった自己判断は危険です。
36協定の届出はいつまでにどこへ提出すべき?
36協定は、協定の有効期間の開始日より前に、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出する必要があります。
36協定の提出先
36協定の提出先は、本社ではなく、それぞれの事業場(支店、営業所、工場など)の所在地を管轄する労働基準監督署です。たとえば、本社が東京にあり、支店が大阪にある場合、東京の本社分は東京の管轄労働基準監督署へ、大阪の支店分は大阪の管轄労働基準監督署へ、それぞれ届け出る必要があります。
自社の管轄の労働基準監督署がどこか分からない場合は、各都道府県労働局や厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省
36協定の提出期限
36協定には「協定の有効期間」を記載する欄があり、届出は、その有効期間開始日の前日までに行わなければなりません。たとえば、4月1日から有効な協定を締結する場合、3月31日までに労働基準監督署に受理されている必要があります。
郵送の場合は、書類が労働基準監督署に到着するまでの時間も考慮し、余裕を持って手続きを進めましょう。毎年更新が必要なため、多くの企業では更新手続きの失念を防ぐために、起算日を4月1日に統一し、3月中に提出するケースが一般的です。
36協定の届出に必要な書類や準備は?
36協定の届出に必要な書類は、主に「時間外労働・休日労働に関する協定届」です。届出の前に、社内で労働者代表を選出し、協定内容について合意形成しておく必要があります。
また、書類を作成する前に、社内で適切な準備を整えなければなりません。
1. 労働者代表の選出
36協定は、会社側の一方的な都合で作成できるものではありません。必ず、労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合)の合意が必要です。
労働者代表は、以下の要件を満たす必要があります。
- 管理監督者でないこと
- 36協定の締結当事者を選出することを明らかにした上で、投票や挙手などの民主的な方法で選出されていること
会社側が一方的に指名することは認められないため、注意が必要です。
2. 協定届の入手
労働者代表と協定内容が固まったら、届出のための書類を作成します。使用する様式は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。一般の労働者の場合は「様式第9号」、特別条項を設ける場合は「様式第9号の2」を使用します。そのほか、建設業、自動車運転者や医師がいる事業所などでは書式が異なるため注意しましょう。
参考:主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省
3. 協定届の作成
ダウンロードした様式に、協定で合意した内容を記入していきます。詳しい書き方は次の項目で解説します。
36協定届の具体的な書き方は?
36協定届には、対象となる労働者の範囲、有効期間、時間外労働の具体的な理由、上限時間などを正確に記入します。2021年4月から、押印・署名が不要になるなどの変更点がありました。また、2023年4月から様式が新しくなっていることにも注意が必要です。
ここでは、最も一般的な様式第9号(特別条項なし)を例に、主な項目の書き方を解説します。
| 記入項目 | 書き方のポイントと注意点 |
|---|---|
| 事業の種類・名称・所在地 | 会社の事業所ごとに実態に基づき、正確に記入します。 |
| 協定の有効期間と起算日 | 法律上の上限はありませんが、監督署の指導では1年以内とすることが望ましいとされています。 |
| 時間外労働をさせる必要のある具体的事由 | 「業務上やむを得ない場合」のような曖昧な表現は避け、「受注の集中」「決算業務」など具体的に記入します。 |
| 業務の種類と労働者数 | 対象となる業務の種類(例:営業、経理)と、18歳以上の労働者数を記入します。 |
| 延長できる時間数 | 協定書で定めた内容をもとに、1日、1ヶ月、1年それぞれの時間外労働の上限時間を転記します。原則として月45時間・年360時間が上限ですが、特別条項付き協定を用いる場合には、一定の条件下で例外的に上限を延長することが可能です。また、1ヶ月100時間未満、かつ2ヶ月〜6ヶ月まで平均して80時間を超過しない旨のチェックボックスにチェックするのを忘れないようにしましょう。 |
| 労働させることができる法定休日の日数 | 法定休日に労働させる可能性がある場合、その日数と始業・終業時刻を記入します。 |
| 労働者代表の職名・氏名 | 選出した労働者代表の情報を記入します。選出方法が適正であったかを確認するチェックボックスにチェックを入れるのを忘れないようにしましょう。なお、36協定書を別途作成せずに協定届と兼ねる場合には、労働者代表と使用者の欄は署名または記名・捺印が必要です。 |
| 協定の成立年月日 | 会社と労働者代表が36協定を締結した日付を記入します。 |
もし、臨時的に上限時間を超えなければならない事態が想定される場合は、特別条項付き協定(様式第9号の2)の締結が必要です。その際は、上限を超える具体的な理由に加え、労働者の健康を守るための措置(例:医師による面接指導、連続休暇の付与など)も明記しなければなりません。
参考:時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|厚生労働省
36協定の届出方法は?
36協定の届出方法には、労働基準監督署の窓口への持参、郵送、電子申請(e-Gov)の3つの方法があります。それぞれの提出方法にメリット・デメリットがありますので、自社に合った方法を選択しましょう。
1. 労働基準監督署の窓口で直接提出する
管轄の労働基準監督署の窓口に、作成した協定届を持参する方法です。会社の控えとして合計2部を持参しましょう。
- メリット
その場で内容を確認してもらえるため、不備があればすぐに修正できます。受理印が押された控えを即日受け取れる安心感があります。 - デメリット
労働基準監督署の開庁時間内(通常は平日の8:30〜17:15)に行く必要があり、移動時間や待ち時間がかかります。
2. 郵送で提出する
作成した協定届を管轄の労働基準監督署宛てに郵送する方法です。
- メリット
労働基準監督署へ出向く手間が省けます。 - デメリット
書類が届くまでに日数がかかります。受理印が押された控えの返送を希望する場合は、切手を貼った返信用封筒と、控え用の協定届(コピー可)を1部、つまり合計2部を同封する必要があります。
3. 電子申請(e-Gov)で手続きする
政府が運営する電子申請システム「e-Gov」を利用して、オンラインで届出を完結させる方法です。
- メリット
24時間365日、いつでも申請が可能です。会社にいながら手続きが完了し、交通費や郵送費がかかりません。一定の条件を満たせば、本社一括届出制度を利用することも可能です。 - デメリット
初めて利用する際はe-Govのアカウント作成が必要です。操作に慣れるまで少し時間がかかることもあります。
- 事前準備
e-Govアカウントを作成します。 - ログイン
e-Govにログインし、「手続検索」から「時間外労働・休日労働に関する協定届」を選択します。 - 情報入力
画面の案内に従って、事業場の情報や協定内容を直接入力、または作成済みの届出様式(PDFなど)を添付します。 - 電子署名・申請
内容を確認し、電子署名(GビズIDプライムアカウントなどがあれば不要な場合も)を付与して申請データを送信します。 - 受理確認
申請後、e-Gov上で手続きの進捗状況や受理されたことを確認できます。公文書(控え)も電子データでダウンロードできます。
参考:e-Gov
36協定の届出を忘れるとどうなる?
36協定の届出をせずに従業員に時間外労働や休日労働をさせた場合、労働基準法違反となり、罰則(6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。
労働者と協定を締結していても、届出を怠った時点で法律違反とみなされます。届出を忘れていたことに気づいた場合は、直ちに時間外労働をすべて止め、速やかに36協定を締結・届け出てください。その際、協定の効力は過去に遡って設定することはできず、届出日以降の日付で開始する必要があります。
36協定の届出は忘れずに正しく行いましょう
36協定の届出は、健全な企業運営に不可欠な手続きです。届出方法には窓口、郵送、電子申請の3種類があり、近年は時間や場所を選ばない電子申請が広く使われるようになっています。
この記事を参考に、自社に合った方法で、提出期限に余裕を持って手続きを進めてください。法律を守り、従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業の信頼にもつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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