- 更新日 : 2025年10月6日
モンスター社員へ退職勧奨を行う際に取るべき対応とは?注意点や流れを解説
モンスター社員は、職場の雰囲気に悪影響を与え、生産性の低下などを引き起こしてしまう存在です。モンスター社員への対処法のひとつに退職勧奨がありますが、適切に対処しなければ企業側が不利な状況に陥る可能性があります。
本記事では、モンスター社員を放置するリスクに加えて、退職勧奨を行う際に取るべき対応や注意点、流れを解説します。
モンスター社員の主な特徴
モンスター社員の特徴をあらかじめ把握しておけば対応を早められるだけでなく、リスク回避にもつながります。
ここでは、モンスター社員の主な特徴をいくつか紹介します。
1. 自己中心的である
自己中心的な人は、周囲の状況や同僚の負担を考慮せず、自分の都合だけを優先する言動が目立ちます。チームでの連携を軽視し、共同作業でも役割を放棄する傾向があるため、同僚や上司の目にはモンスター社員と映りやすいでしょう。
また、自己中心的な人は自己評価が高い傾向にあることから、上司の注意や評価に対して過剰に反発することも珍しくありません。人事異動や評価制度に納得せず、自らにとって有利な配置を求める場合も考えられます。
このように、協調性が欠如したモンスター社員は、職場全体の雰囲気や生産性を悪化させる要因となりうるのです。
2. 遅刻・無断欠勤を繰り返す
モンスター社員は勤務時間に対する意識が著しく低い傾向にあり、遅刻や無断欠勤を頻発させやすいです。業務スケジュールを守れず、業務の進行や納期に悪影響を及ぼす可能性もあります。
遅刻や無断欠勤が繰り返されると、社内だけでなく取引先の信頼を損なうリスクも生じます。さらにモンスター社員は上司の注意を無視し、改善の意思を見せないことも珍しくありません。
モンスター社員は自己管理ができないことが多いため、職場の規律やチームの士気を乱す原因にもなります。
3. 逆パワハラにあたる行為をする
モンスター社員は、逆パワハラにあたる行為をすることがあります。たとえば、上司に対して暴言を吐いたり、業務命令を無視するなどの行為があげられます。指示や注意を受けただけなのに「パワハラだ」と主張し、上司を心理的に追い込むケースも考えられるでしょう。
締切を守らず、自分の責任を果たさないなどの業務命令を無視するような行動は、仕事の進行を妨げ、チーム全体の連携や効率に悪影響を与えます。自分への指摘を他人にミスを押し付けるなど、責任転嫁する傾向もあります、
こうした逆パワハラにあたる行為は、職場の人間関係を悪化させるだけではありません。集団で上司を無視するなど、周りを巻き込んで陰湿な手段に出る場合もあるため、注意が必要です。
4. 能力不足なのに改善意欲が見られない
モンスター社員は基本的な業務スキルや知識が不足しやすい傾向で、仕事を正確にこなせないケースがあります。
能力不足が起因して指示通りに作業を進められないと、ミスや納期遅れが頻発し、周囲がモンスター社員をカバーする状況の常態化につながってしまいます。
一方で、上司の指導や研修の機会にも消極的であり、成長への姿勢が見られないことが多いでしょう。資格取得や学習への努力を拒み、自己研鑽を怠ることも考えられます。
モンスター社員は能力だけでなく、意欲にも欠ける傾向にあるため、組織全体の生産性と士気を下げる要因となりかねません。
モンスター社員を放置するリスク
モンスター社員を対策せずに放置しておくと、職場全体にさまざまな悪影響を及ぼします。雰囲気の悪化や生産性の低下にとどまらず、優秀な人材の流出や法的トラブルにつながる可能性も否定できません。
ここでは、モンスター社員を放置することによる主なリスクを紹介します。
1. 職場の雰囲気が悪化して生産性が低下する
モンスター社員のミスや怠慢を、ほかの社員が補うことで業務の負担に不公平さが生じます。まじめに働く社員のモチベーションが低下し、「自分だけ損をしている」と感じやすくなってしまうのです。
また、チームワークの乱れにもつながる行動は、情報共有や連携がスムーズに進まなくなる可能性もあります。さらに、社員同士の信頼関係が崩れ、不満や緊張感が高まるリスクもあるでしょう。
こうした問題行動は、結果として職場の雰囲気を悪化させ、組織全体の生産性を大きく下げるだけでなく、離職率をあげる原因にもなりかねません。
2. 優秀な人材が離職する
モンスター社員の存在によって職場環境が悪化すると、優秀な社員が早期に見切りをつけて退職してしまう可能性があります。スキルの高い人材であるほど転職先を見つけやすく、問題のある環境から離れやすいためです。
また、モンスター社員の問題行動や言動によって心身が疲弊し、離職を決意するケースも少なくないでしょう。結果的に問題社員や仕事に消極的な人材ばかりが組織に残ってしまい、生産性の低下にもつながります。
優秀な人材の流出が続くと、企業の競争力や将来性にも深刻な悪影響を及ぼすため、モンスター社員を放置することは避ける必要があるのです。
3. 訴訟や損害賠償などのリスクが発生する
モンスター社員は、パワハラや不当解雇を理由に訴訟を起こす可能性があります。一般的には指導や注意にあたる行為でも、「精神的苦痛」などを主張し、損害賠償を求めてくる可能性があるのです。
さらに、ほかの社員への迷惑行為によって、被害社員から会社が訴えられるケースも考えられます。訴訟対応には弁護士費用や人的リソースが必要となるため、経営負担が増加しかねません。
また、訴訟の事実が外部に漏れてしまうと、企業イメージの悪化や信用失墜につながる恐れもあります。そのため、モンスター社員は放置せず、適切に対処する必要があるのです。
モンスター社員に退職勧奨を行う際の注意点
モンスター社員への対応策として、退職勧奨はひとつの手段です。ただし、進め方を誤ると大きなトラブルを招くリスクがあります。場合によっては、労働審判や訴訟に至ることもあり、違法と判断されれば金銭的な負担を強いられる可能性があるのです。
ここからは、退職勧奨を適切に行うための注意点について解説します。
1. 労働審判や訴訟に発展する可能性がある
モンスター社員に退職勧奨や解雇を行う際、不当解雇として訴えられるリスクがあります。退職勧奨の理由に納得しない場合、労働審判や民事訴訟に発展するかもしれません。
裁判には長期間の対応が必要となるだけでなく、弁護士費用や人件費などのコストも発生します。裁判で敗訴すれば、復職命令や未払賃金の支払いを命じられることもあります。
裁判の事実が社会的に報道されれば企業の信用失墜にもつながるため、慎重な対応が必要です。
2. 違法と判断されると慰謝料や未払給与が発生する
モンスター社員への退職勧奨が不当な解雇であり、無効と判断されると社員が出社していなくても未払給与の支払い義務が生じます。未払給与は「バックペイ」と呼ばれ、解雇から復職命令までの期間分の給与を支払う必要があるのです。
裁判が長引けば長引くほど支払額が増えるため、企業の経済的負担は大きくなります。あくまで退職勧奨として行ったものの、結果的に解雇と判断された際の解雇理由や手続きが不適切な場合、慰謝料の支払いを命じられるケースもあります。
これら対策として、報告書やメール、勤怠記録や録音・録画データなど複数を組み合わせて証拠として残すのが効果的です。将来的なリスクを減らすためにも、記録内容は第三者が見ても納得できる客観性を持たせましょう。
法律に則った手続きと証拠の整備が、損害リスクの回避には不可欠です。
モンスター社員へ退職勧奨を行う際に取るべき対応
モンスター社員に対していきなり退職を迫るのは、企業にとって大きなリスクとなりかねません。問題行動を記録し、注意や指導といった改善の機会を与えたうえで、段階的に対応を進めることが重要です。
ここでは、モンスター社員に退職勧奨を行う際の具体的な対応について解説します。
1. 問題行動を記録する
モンスター社員の問題行動が確認された場合、日頃の問題行動の内容・日時・場所を記録し、メールや報告書など文章として証拠を残しておくことも大切です。
あわせて勤怠記録や録音・録画データなども組み合わせると、証拠としての効力をさらに発揮しやすくなります。
また、社員本人へのヒアリングだけでなく、第三者からの客観的な情報も収集しておくのも有効です。
2. 注意指導を徹底する
モンスター社員の問題行動を放置せず、事実確認や指導を行うことも重要です。注意する際は、感情的な言葉や態度を避け、具体的な問題点と改善策を冷静に伝えましょう。
また、研修の機会や業務サポートを通じて、本人が改善できる環境を並行して整えるのも効果的です。後々のトラブルを避けるためにも、指導した内容や反応を文書・メールで記録し、証拠を残しておくことが不可欠です。
3. 始末書や誓約書を提出させ改善を促す
モンスター社員の問題行動が繰り返される場合は、始末書や誓約書の提出を求める方法が有効です。文書で示すことで、本人自らの問題行動を客観的に振り返る機会を与えられます。
始末書には、事実経緯や反省の意思を明記させ、再発防止の意識を高めさせましょう。一方で、誓約書には今後の行動や遵守事項を明文化し、本人の責任を自覚させます。
書面での対応は指導履歴として残せるため、再発時や法的トラブルへの備えとしても効力を発揮します。
4. 配置転換や懲戒処分で状況改善を試みる
モンスター社員による問題行動が続く場合は、適性や人間関係を踏まえたうえで配置転換を行うのが有効です。異動先では信頼できる上司や管理職のもとで、適切な指導ができる環境を整えましょう。
また、就業規則にもとづきモンスター社員の減給や出勤停止などの懲戒処分を、段階的に実施することも状況を改善させるのに効果的です。懲戒処分を行う際は、手続きの正当性と処分の妥当性を十分に確保しましょう。
モンスター社員に、配置転換や処分が「退職させるための手段」と受け取られないように、業務上の必要性を明確にしたうえで実施することが重要です。
5. 退職勧奨の方針を決めて面談を行う
指導や配置転換などを行っても改善が見られないモンスター社員は、退職勧奨が効果的な方法になります。その際、あらかじめ社内で退職勧奨の方針を明確にし、対応する人物や進め方を統一しておくことも重要です。
モンスター社員へ退職勧奨に関する面談をする場合は、退職を一方的に迫るのではなく、冷静かつ丁寧な対話を心がけましょう。
「退職しなければ解雇」と伝えてその場での承諾を求めたり、1〜2日中などの極めて短期間に回答を迫ること、あるいは長時間・大人数での説得は退職強要と判断される可能性があります。会社側が不利に働く場合もあるので、注意しましょう。
退職を納得させるためには、理由や条件を明確に説明し、必要に応じて退職金を上乗せするなど、柔軟な対応が求められます。
関連記事:退職勧奨とは?円滑な進め方や言い方、通知書のひな形や文例を紹介
6. 退職条件を提示して解雇につなげる
退職勧奨に応じないモンスター社員に対しては、退職条件を提示し、合意を目指すことが現実的です。条件提示は口頭だけでなく書面でも行い、提示内容が客観的に証明できるようにしましょう。
また、退職日や金銭的条件などを明記した「退職合意書」を交わすことで、トラブルの回避にもつながります。条件の後出しは信頼関係を損ねやすいため、初期段階で明確な内容を提示しておくことが重要です。
合意に至らない場合であっても、記録を残しておくことで最終的な解雇判断における法的リスクを抑えられます。
関連記事:解雇とは?解雇の種類と条件・流れを解説
モンスター社員に退職勧奨を行う流れ
モンスター社員に退職勧奨を行う際は、感情的にならず、法的リスクやトラブルを避けながら進めることが大切です。以下の手順に沿って、段階的に対応を進めましょう。
- 社内で退職勧奨の方針を決定し、対象社員の問題行動や指導履歴を整理する
- 面談では対象者を個室に呼び、退職を希望する理由や背景を冷静かつ丁寧に伝える
- 対象者が退職勧奨に応じた場合は、退職時期や金銭条件(退職金の上乗せや有休消化など)をすりあわせる
- 退職勧奨の合意が成立したら、退職条件を明記した「退職合意書」を作成し、署名押印を得る
- 退職届の提出を求めるとともに、トラブル防止のため面談内容を録音・記録しておく
モンスター社員との面談時に結論を求めず、一定の検討期間を設けて回答期限を設定することが重要です。合意形成の際は一方的な圧力を避け、あくまでも本人の自由意志にもとづく退職であることを重視しましょう。
退職勧奨を実施する際は、リスクや注意点を踏まえて、組織と本人の双方にとって納得感のある形で手続きを進めることが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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