- 更新日 : 2025年10月6日
てんかんのある従業員に退職勧奨はできる?認められるケースも紹介
てんかんのある従業員がいる職場では、業務や安全面への影響について考える必要があります。そのため、てんかんによる発作を懸念する経営者の中には、当事者への退職勧奨の実施を検討している人もいるでしょう。
本記事では、てんかんを理由に退職勧奨を実施することはできるか紹介します。また、退職勧奨を実施できるケースや具体的な流れについても解説します。
目次
てんかんのある従業員に退職勧奨は可能?
てんかんのある従業員への退職勧奨が認められるケースもあります。
ただし、退職勧奨が認められるには、合理的配慮や配置転換などを尽くしても雇用の継続が困難であると判断される場合に限ります。
適切な配慮や工夫がされていない状態での退職勧奨は、認められないだけでなく、後々の裁判やトラブルに発展する恐れもあるでしょう。
退職勧奨を実施する際は、事前の対応が重要であることを認識しておきましょう。
退職勧奨の手続きや違法となるケースについて、より詳細に知りたい方は以下の記事もご覧ください。
関連記事:退職勧奨とは?円滑な進め方や言い方、通知書のひな形や文例を紹介
てんかんのある従業員を退職勧奨できるケース
てんかんのみを理由に退職勧奨を実施することはできませんが、特定のケースにおいては認められることもあります。
てんかんのある従業員に対する退職勧奨が認められるケースについて、以下より解説します。
自動車の運転が必要な業務に従事している
てんかんのある従業員が自動車の運転が必須の業務に従事している場合、てんかんを理由にした退職勧奨が認められることがあります。
てんかんの発作によって運転に支障が生じるため、道路交通法上も免許制限の対象です。
ただし、5年以上発作がコントロールされており、「今後、発作が起こる恐れがない」と医師から診断された場合に限り、運転適性があると判断されます。
また、運転を伴わない業務への異動が可能であれば、退職勧奨は不当とされる可能性が高いでしょう。
てんかんのある従業員が自動車の運転が必要な業務に従事している場合、まずは配置転換を提案してみましょう。
参考:
てんかんと自動車運転 | 公益社団法人 日本てんかん協会
運転免許はとれますか? | てんかん情報センター
運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について|警察庁Webサイト
発作が原因で業務に支障をきたす
発作により業務に支障が生じる場合、「継続雇用が困難」と判断され、退職勧奨が認められる可能性があります。
具体的には、次のような事例があげられます。
- 機械の操作や高所での作業により、発作の発生が本人や第三者の重大事故につながるおそれがある
- 発作の頻発や各種症状により欠勤・早退・離席を繰り返す
- 記憶力・集中力などの機能が低下しており、基本的な手順を遂行できない など
リスクの大きさや合理的配慮の実施、就業上の工夫の有無などを考慮して、業務に支障が出ているかどうかが判別されます。
退職勧奨を行う前に実施したい対応
退職勧奨を実施する前には、合理的配慮や就業上の工夫が求められます。事前にどのような取り組みをしておくべきなのか押さえておきましょう。
障害者雇用への切り替えを検討する
一般枠で雇用された従業員も、就労中にてんかんの症状が顕在化した場合、障害者枠へ切り替えられることがあります。
障害者雇用へ切り替えることで、「合理的配慮」の法的義務が生じ、就業時間の調整や、業務内容のマニュアル化、通院や服薬への配慮などの対応を進めやすくなるでしょう。
しかし、障害者雇用に切り替える際には、当該従業員に障害者手帳を取得してもらう必要があります。
本人にショックを与える可能性があるため、あくまで選択肢のひとつとして冷静に伝えることが大切です。
参考:雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮|厚生労働省
異動・配置転換を検討する
退職勧奨を実施する前には、退職勧奨を回避する努力として異動や配置転換を行うことが大切です。
| 対応が難しい業務例 |
|
|---|---|
| 対応できる業務例 |
|
てんかんのある従業員が対応できない業務に従事している場合、まずは本人の適性に合った部署や職種への配置転換を検討してください。
ただし、適切な異動であるのにもかかわらず、従業員側が拒否し続けているのであれば、退職勧奨の実施も選択肢に入れるとよいでしょう。
てんかんのある従業員に退職勧奨を行う流れ
てんかんのある従業員に対して退職勧奨を実施する際の流れを紹介します。退職勧奨の実施を検討している人は、参考にしてください。
現状の確認を行う
退職勧奨などを検討する前に、まずは発作の種類や症状、頻度、服薬状況などを確認しましょう。
客観的に評価する際には、本人の同意を得た上で、主治医や産業医の診断を受けてもらい、医師の意見を収集するのもおすすめです。
光や音、睡眠不足、ストレスなど発作の誘因は何か、発作に伴う安全リスク、薬の副作用といった点を明確にします。
その上で、就業上の工夫でリスクを抑えられるのであれば、合理的配慮として随時対応していきましょう。
異動や障害者雇用などを提案する
てんかんのある従業員が現在の業務に従事するのが難しいと判断された場合、異動や障害者雇用などを提案してみましょう。
雇用契約において職種や勤務地の限定がなされていない場合、企業の裁量が広く認められているため、異動を命じること自体が違法になるわけではありません。
ただし、遠方転勤や不人気業務の押し付けといった、退職させることを目的にした異動指示は違法になる恐れがあるため避けましょう。
提案する際には対話の機会を設け、丁寧な説明と誠実な対応を心がけるのが大切です。
従業員と退職勧奨に関する面談を実施する
合理的配慮や就業上の工夫を実施しても、就労が困難であると判断した場合、退職勧奨を実施しましょう。
退職勧奨を実施する際は、プライバシーに配慮して個室での面談で伝えます。
面談では、以下のような事項について共有します。
- 会社が退職を望んでいる旨
- 従業員側は拒否権を有している旨
- 検討期間の提示
- 退職条件の提示(退職時期や特別退職金、有休消化など)
従業員の名誉を毀損する発言や退職以外に選択肢がないと誤解させるような表現は、違法な退職強要と判断される恐れがあるため避けましょう。
退職勧奨同意書を提出してもらう
退職勧奨について、従業員からの同意を得られたら、退職勧奨同意書を提出してもらいます。
退職勧奨同意書の提出は、法的に義務付けられているわけではありません。しかし、退職勧奨同意書を作成してもらうことで、従業員側が退職勧奨に同意したことを明らかにできます。
退職勧奨同意書では次のような項目について記載してもらいます。
- 作成日
- 当事者(会社名・代表者名宛て)
- 退職意思の表明
- 会社資産の返還
- 守秘義務・情報管理 など
退職勧奨同意書について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:退職勧奨同意書とは?作成するケースや書き方、注意点を解説
てんかんのある従業員と働く際に必要な配慮
退職勧奨には強制力がないため、実施したとしても本人から拒否されることもあるでしょう。
引き続きてんかんのある従業員が就労を継続する場合、今後どのような配慮をしていけばよいのかを押さえておきましょう。
業務負担を抑えられるようにする
てんかんのある従業員と働く際には、極力業務上の負担を抑えられるような体制を構築しましょう。
発作が起こる要因として、睡眠不足や精神的・身体的な疲労、ストレスなどがあげられます。残業や業務量が多くなると、疲れから発作が起きる恐れがあるため、これらの要因を管理するとよいでしょう。
具体的には、次のような項目について調整してあげるのがおすすめです。
- 就業中における休憩時間の確保
- 夜勤・長時間労働の回避
- 在宅勤務・フレックスタイム制の導入
事前の面談で、本人がどのような支援を望むのかを聞き取りしておくのが重要です。
服薬や通院ができるようにする
てんかんのある従業員が、服薬や通院の時間を確保できるようにしましょう。
てんかんは服薬と定期検査によって症状をコントロールできます。就労している間にも、服薬や通院ができるよう調整することで、業務中の発作を予防できるでしょう。
具体的には、業務量を調整して服薬できる休憩時間を確保したり、通院できるように平日に休みを確保したりするなどの調整が有効です。
服薬時には薬の副作用があらわれることもあるため、他にどのような配慮が必要なのか確認しておくのも重要です。
同僚や上司にてんかんへの理解を促す
同僚や上司にてんかんへの理解を促すのも大切です。
てんかんのある従業員とともに働く場合、発作の予防や業務の遂行のために調整や配慮が必要となります。適切な対応を実施する上で、周囲の理解が不可欠です。
共有しておくべき情報としては、次のような事項があげられます。
- 発作の種類・頻度・予兆
- 服薬・通院状況
- 必要な配慮
- 発作時の具体的対応
- 緊急連絡先
また、てんかんに理解のある環境を整えることで、当該従業員も不安や要望を伝えやすくなるため、職場定着にもつながるでしょう。
発作が起きた際の緊急連絡先を周知しておく
てんかんのある従業員に、緊急連絡先カードを携帯させるのもおすすめです。これにより、発作が発生した際にも、周囲の人が対処できるようになります。
緊急連絡先カードには、次のような情報を記載しておきましょう。
- 本人の基本情報(氏名・生年月日)
- 緊急連絡先(優先順位・連絡先との関係・電話番号)
- 主治医の連絡先
- 発作に関する情報(発作の種類、持続時間・頻度)
- 緊急時に投与する薬
- 緊急時にしてほしい対応 など
また、てんかんのある従業員だけでなく、全社員に緊急連絡先カードを携帯させると、緊急時の対応を社内で標準化することも可能です。
てんかんのある従業員の雇用に関するよくある質問
てんかんのある従業員に関するよくある質問を紹介します。要点を押さえて、トラブルや誤解を避けましょう。
事前にてんかんを報告しなかった場合の対応は?
てんかんがあったとしても、業務に支障を及ぼさない場合、後からてんかんを理由に解雇や退職勧奨することは認められません。
てんかんの有無はプライバシーに関わるため、面談や履歴書などで企業に伝えなくてもよいとされています。
採用時にてんかんがあることを報告しなかったというだけで解雇や退職勧奨を行うのは、解雇権の濫用や退職強要と判断される可能性が高いでしょう。
入社後にてんかんが判明した際には、当事者と面談を行い、現在の症状や発作の有無・頻度、服薬と通院状況などを把握しましょう。
てんかんのある人は働いても大丈夫?
てんかんがあることを理由に、就職や面接の機会が制限されることがあります。しかし、てんかんがあっても、他の人と同様に問題なく働けるという人も少なくありません。
日本てんかん協会によると、てんかんのある人のうち70~80%は、薬や外科治療などにより発作をコントロールできます。
てんかんがあるかどうかではなく、本人の症状や発作の有無、業務内容などを含めて、個別に判断していくのが大切です。
企業側は、てんかんのある人でも、適切な理解と就労支援・配慮があれば十分に働くことが可能である旨を理解しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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