- 更新日 : 2025年9月2日
健康保険料の計算方法をわかりやすく解説!【シミュレーション付】
毎月の給与計算で、健康保険料の計算方法に迷うことはありませんか。標準報酬月額や毎年の料率改定など考慮すべき点が多く、計算ミスは従業員の信頼低下に直結する重要な業務です。
この記事では、健康保険料の基本から計算方法、標準報酬月額の決定タイミングまでを網羅的に解説。モデルケースを用いた具体的な計算シミュレーションも掲載し、実務担当者の正確な業務をサポートします。
目次
健康保険料の計算式と3つの構成要素
給与計算実務における健康保険料は、以下の計算式によって算出されます。
基本計算式:
(参考)
介護保険料(総額)=標準報酬月額×介護保険料率※40歳~64歳の被保険者のみ
被保険者(従業員)負担額の計算: 原則 =(健康保険料総額 + 介護保険料総額)× 1/2
※健康保険料と介護保険料は、それぞれ独立した別の保険料です。ただし、40歳から64歳の被保険者(第2号被保険者)の場合、介護保険料は健康保険料と一緒に徴収されます。
計算のポイント
- 組合健保の特例:
健康保険組合によっては、規約により事業主の負担割合が従業員より大きい(1/2を超える)場合があります。 - 端数処理のルール:
上記計算で従業員負担額に1円未満の端数が出た場合、原則として「50銭以下は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げ」で処理します。
この計算の根幹をなすのは、以下の3つの要素です。
- 標準報酬月額:従業員の給与を一定の幅で区切った等級(報酬区分)のこと。保険料計算の基礎となる金額です。
- 健康保険料率:加入している健康保険(協会けんぽ、組合健保)ごとに定められた保険料の割合です。協会けんぽでは、都道府県単位で料率が異なります。
- 介護保険料率:40歳から64歳までの被保険者にのみ適用される保険料の割合です。全国一律の料率が定められています。
これら3つの要素を正確に把握することが、適正な保険料計算の第一歩となります。
そもそも健康保険料とは?
相互扶助を目的とした公的な医療保険制度
健康保険とは、加入者(被保険者)とその家族が病気やケガ、出産、あるいは死亡といった事態に直面した際に、必要な医療給付や手当金を支給する公的な医療保険制度です。
加入者が日頃から保険料を出し合い、いざという時の医療費負担を社会全体で支え合う相互扶助の精神で成り立っています。この制度があるからこそ、加入者は医療機関にかかった際の自己負担が原則3割(年齢や所得に応じて変動)で済むのです。
保険料の使途と労使折半の原則
健康保険料は、主に医療機関に支払われる医療費(療養の給付)や、病気・出産で仕事を休んだ際の傷病手当金・出産手当金などの保険給付の財源となります。
そして、実務における最も重要な原則が労使折半です。健康保険料は、事業主と被保険者(従業員)が半分ずつ負担することが法律で定められています。給与計算で従業員の給与から控除するのは、あくまで保険料総額の半額である従業員負担分となります。
健康保険料の計算における報酬と標準報酬月額の関係
報酬とは、従業員に支払う給与、給料、手当、賞与など、労働の対償として受けるすべてのものを指します。 これは、標準報酬月額を決定するための元データとなるものです。
一方、標準報酬月額とは、その報酬月額を基に決定される、保険料計算専用の等級です。残業代などで毎月変動する実際の報酬額をそのまま計算に用いると事務処理が煩雑になるため、一定期間の報酬を基に決定した標準報酬月額を、原則として1年間固定で使用し、計算の安定化を図ります。※昇降給・産休育休明け等で年度内に改定するケースもあり
つまり、毎月の報酬額を基に、年に一度(または随時)標準報酬月額を決定し、その決定された標準報酬月額を使って毎月の保険料を計算するというのが実務上の大きな流れとなります。
出典:標準報酬月額の決め方 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
標準報酬月額は主に3つのタイミングで決まる
1. 定時決定(算定基礎届)
毎年1回、全被保険者を対象に行うのが定時決定です。4月、5月、6月に支払われた報酬の平均額を算出し標準報酬月額を決定します。この決定内容は、原則としてその年の9月から翌年8月までの各月に適用されます。毎年7月10日までに算定基礎届を提出するのが一連の業務フローです。
定時決定の対象とならない主なケース
毎年7月1日時点の全被保険者が対象となりますが、以下のいずれかに該当する従業員は、その年の定時決定による改定の対象とはなりません。
- 6月1日以降に被保険者資格を取得した従業員
- 7月、8月、9月のいずれかの月に随時改定(月額変更)が行われる従業員(随時改定が優先)
- 6月30日以前に退職した従業員
これらのケースを正確に把握し、算定基礎届の提出対象者から除外することが重要です。
2. 随時改定(月額変更届)
昇給や降給などにより、固定的賃金に変動があり、その後の3ヶ月間の報酬平均額から算出した標準報酬月額が、これまでの等級と2等級以上の差が生じた場合に行うのが随時改定です。
該当した場合、月額変更届を速やかに提出します。変動後の報酬が支払われた4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用されます。また、育児休業や産前産後休業が終了した場合には、随時改定の要件に該当しなくても、標準報酬月額の改定が行われることがあります。
3. 資格取得時決定
従業員を採用し、新たに被保険者資格を取得した際に行うのが資格取得時決定です。入社時の雇用契約などに基づき、今後受けるであろう報酬額を算定し、標準報酬月額を決定します。
この決定内容は、原則として最初の定時決定(8月まで)まで適用されます。資格取得日から5日以内に資格取得届を提出します。
保険料率でおさえておきたいポイント
標準報酬月額が確定したら、次はそれに乗じる保険料率の確認です。料率の適用時期や計算時の細かなルールは、ミスが許されない重要なポイントなのでおさえておきましょう。
保険料率の確認方法
「協会けんぽ」の保険料率は都道府県単位で異なり、毎年3月頃に改定されるのが通例です。公式サイトに掲載される「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」で、自社の事業所が所在する都道府県の最新料率を必ず確認してください。
「組合健保」の場合は、各健康保険組合から通知される料率に基づきます。独自の料率を設定しているため、注意が必要です。
保険料率の適用タイミング
改定された新保険料率が適用されるのは、協会けんぽは例年3月分(4月納付分)からと定められています。3月分の保険料から新しい料率が適用されるため、通常は4月の給与から3月に改定された保険料を控除することになります。
この適用タイミングは、給与計算ソフトの設定更新などでも注意すべき点です。
保険料の端数処理ルール
被保険者負担額を算出する際、労使折半した額に1円未満の端数が生じることがあります。この端数処理は、被保険者負担分について「50銭未満(0.49円以下)切り捨て、50銭以上(0.5円以上)切り上げ」として処理するのが原則です。このルールに基づき、正確な控除額を算出します。
モデルケースで見る健康保険料の計算シミュレーション
ここまで解説した標準報酬月額と保険料率を使って、実際に保険料がいくらになるのか、具体的なモデルケースで計算してみましょう。
以下の計算は、現在(2025年7月時点)適用されている令和7年度の保険料率(東京支部)を例として使用します。
- 健康保険料率:9.91%
- 介護保険料率:1.59%
ケース1:40歳未満の社員の場合
40歳未満の方は、介護保険料の徴収はありません。健康保険料のみを計算します。
- モデル:32歳、東京都在住、月の総支給額(※)355,000円
- ※基本給、役職手当、通勤手当などを含んだ税引前の額面金額
1. 標準報酬月額の決定
報酬月額が「350,000円〜370,000円」の範囲にあるため、標準報酬月額は25等級の「360,000円」となります。
2. 健康保険料(総額)の計算
標準報酬月額に健康保険料率を乗じます。
3. 被保険者(従業員)負担額の計算
上記で算出した保険料総額を、事業主と従業員で半分ずつ負担(労使折半)します。
この社員の給与から天引きされる健康保険料は17,838円 です。
ケース2:40歳以上の社員の場合
40歳になると、健康保険料に加えて介護保険料も徴収対象となります。
- モデル:45歳、東京都在住、月の総支給額(※)480,000円
- ※基本給、役職手当、通勤手当などを含んだ税引前の額面金額
1. 標準報酬月額の決定
報酬月額が「455,000円〜485,000円」の範囲にあるため、標準報酬月額は29等級の「470,000円」となります。
2. 健康保険料・介護保険料(総額)の計算
標準報酬月額に、健康保険料率(9.91%)と介護保険料率(1.59%)を合わせた料率(11.50%)を乗じます。
3. 被保険者(従業員)負担額の計算
上記で算出した保険料総額を、事業主と従業員で半分ずつ負担(労使折半)します。
この社員の給与から天引きされる保険料(健康保険・介護保険)の合計額は 27,025円 です。
【ケース別】健康保険料に関する実務Q&A
定例的な計算以外にも、実務ではイレギュラーな対応が求められます。ここでは、担当者が迷いやすいケースについて解説します。
Q1. 賞与支払時の保険料はどのように計算しますか?
A. 従業員に賞与を支払った際も、健康保険料の徴収が必要です。税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に、月々の保険料と同じ保険料率を乗じて算出します。なお、健康保険における標準賞与額には年度の累計で573万円という上限が設けられている点に留意が必要です。
Q2. 月の途中の入社・退社では、保険料はどうなりますか?
A. 健康保険料は月単位での計算となり、日割り計算はありません。資格の取得・喪失のルールに基づき、以下のようになります。
【入社した場合】 月の途中(例:4月15日)に入社した場合でも、入社した月(4月分)の保険料が1ヶ月分かかります。
【退職した場合】 退職の場合は「いつ退職したか」で、最後の保険料がかかる月が変わるため注意が必要です。
- ケース1:月の「途中」で退職(例:4月25日退職)この場合、退職日の翌日である4月26日に資格を喪失します。資格を喪失した月(4月)の保険料はかかりません。 したがって、3月分の保険料までが徴収対象となります。
- ケース2:月の「末日」で退職(例:4月30日退職)この場合、退職日の翌日である5月1日に資格を喪失します。資格を喪失した月は5月となるため、その前月である4月分の保険料までが徴収対象となります。
Q3. 産休・育休中の保険料免除手続きはどのように行いますか?
A. 産前産後休業および育児休業の期間中、被保険者および事業主の保険料は、所定の申し出を行うことで免除されます。
産前産後休業取得者申出書や育児休業等取得者申出書を、年金事務所または健康保険組合へ提出することで適用されます。この手続き漏れは、後々のトラブルに繋がりかねないため、確実な実施が求められます。
Q4. 年齢によって保険料の取り扱いはどう変わりますか?
A. 被保険者の年齢に応じて、保険料の取り扱いは変わります。
- 40歳到達時:介護保険第2号被保険者となり、到達月分から介護保険料の徴収が始まります。
- 65歳到達時:介護保険第2号被保険者から第1号被保険者となり、介護保険料は給与天引きではなく、市区町村から直接徴収される形に変わります。
- 75歳到達時:健康保険の被保険者資格を喪失し、後期高齢者医療制度へ移行します。
正確な健康保険料の計算が企業と従業員の信頼を築く
本記事では、実務担当者の視点から、健康保険料の計算方法とそれに付随する業務手続きを網羅的に解説しました。
健康保険料の計算は、企業の根幹業務である給与計算の中でも特に重要性が高く、その正確性は従業員との信頼関係に直結します。法改正や料率改定も頻繁に行われるため、常に最新の公式情報を参照し、正確な実務を心掛けてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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