- 更新日 : 2025年9月2日
キャリア開発支援とは?メリットや進め方、事例を紹介
この記事では、キャリア開発支援の基本から具体的な方法まで、わかりやすくご紹介します。会社の成長には、社員の力が欠かせません。社員一人ひとりが「将来こうなりたい」と目標を持ち、成長を楽しめる環境があれば、会社はもっと強くなれるでしょう。そのための大切な取り組みがキャリア開発支援です。社員の成長を会社の力に変えるヒントを見つけてください。
目次
キャリア開発支援とは、人と組織をつなぐ架け橋
キャリア開発支援とは、従業員一人ひとりの「こうなりたい」というキャリアプランの実現を、企業が後押しする一連の取り組みです。面談や研修機会の提供などを通じて、従業員個人の成長と会社の成長が同じ方向を向くように橋渡しをします。
つまり、個人の自律的な成長をサポートすることが、結果的に会社の発展につながるという考え方が基本です。
キャリア形成、人材開発との違い
キャリア開発支援をより深く理解するために、似ている言葉である「キャリア形成」と「人材開発」との違いを見てみましょう。この2つは「誰が主役か」で区別するとわかりやすくなります。
- キャリア形成
- 主役: 従業員(個人)
- 内容: 従業員が仕事を通じて経験を積み、自らの手で将来のキャリアを築いていく「プロセスそのもの」を指します。
- 人材開発
- 主役: 企業
- 内容: 企業の事業目標を達成するために、会社が必要とするスキルを従業員に身につけてもらうための教育・研修を指します。
このように、個人の物語であるキャリア形成と、会社の戦略である人材開発。その両者をつなぎ、相乗効果を生み出すためのサポート全般がキャリア開発支援なのです。
なぜ今、キャリア開発支援が重要なのか?
キャリア開発支援は一部の企業だけのものではなく、多くの業種・規模の企業で主要経営課題とみなされています。その背景には、社会や働き方の大きな変化があります。
働き方の多様化と人材の流動化
働き方の価値観が多様化する中で、従来の終身雇用を前提としたキャリア形成だけでなく、転職を通じてキャリアアップを図ることも一般的な選択肢の一つとして認識されるようになりました。
このような時代において、企業は「選ばれる側」であるという意識を持ち、従業員が「ここで働き続けたい」と思える魅力的な環境を提供する必要性が高まっています。
変化の激しい時代への対応
AIの進化や市場のグローバル化など、ビジネスを取り巻く環境は、将来の予測が困難な状況です。このような変化の激しい時代を乗り越えるには、企業が指示を出すだけでなく、従業員一人ひとりが自ら考え、学び、変化に対応していく力が不可欠です。キャリア開発支援は、そうした自律的な人材を育む土壌となります。
従業員のキャリア観の変化
かつてのように、会社にキャリアのすべてを委ねるのではなく「専門性を高めて、自分の市場価値を上げたい」と考える従業員も増えています。個人のキャリアプランを尊重し、その実現を後押しする姿勢を示すことは、従業員の働く意欲を引き出し、会社全体の活力を生み出す上で非常に重要です。
企業がキャリア開発支援を行う3つのメリット
キャリア開発支援は、従業員の満足度を高めるだけでなく、企業側にも組織の成長に直結する大きな見返りをもたらします。ここでは、代表的な3つのメリットを解説します。
メリット1. エンゲージメント向上と人材の定着
「この会社は自分の成長を応援してくれる」従業員がそう感じられると、会社への信頼や貢献意欲、いわゆるエンゲージメントが自然と高まります。
キャリアについて相談できる場がある、学びの機会が提供されるといった支援は、従業員の安心感につながり「この会社で長く働きたい」という気持ちを育むでしょう。こうした取り組みは、人材の離職を防ぎ、定着率の向上が期待できます。
メリット2. 変化に強い組織文化の醸成
市場やテクノロジーの変化が速い現代では、昨日までの正解が今日には通用しないことも珍しくありません。このような時代を乗り越えるには、従業員一人ひとりが自ら学び、新しいスキルを身につけていく自律的な姿勢が不可欠です。
キャリア開発支援は、従業員の学習意欲を向上させ、組織全体で学ぶ文化を醸成する上で重要な役割を果たします。その結果、事業環境の変化に迅速かつ柔軟に対応可能な組織基盤の強化に貢献すると考えられます。
メリット3. 採用競争力の強化
求職者、特に成長意欲の高い人材は、給与や待遇だけでなく「その会社で何を得られるか」「どのように成長できるか」を重視しています。
キャリア開発支援に力を入れていることは、採用活動において「人を大切にし、成長を後押しする会社」というアピールポイントになります。会社の魅力を高め、採用市場での競争力を強化する効果が期待できます。
従業員にとってのキャリア開発支援のメリット
キャリア開発支援は、会社のためだけにあるのではありません。従業員一人ひとりにとっても、自身のキャリアを豊かにするための大きなチャンスとなります。
メリット1. 市場価値の高いスキルが身につく
日々の業務だけでは得られない専門知識や新しいスキルを、会社のサポートを受けながら習得できます。たとえば、研修費用の補助制度を使えば、金銭的な負担を軽減して学びたいことに挑戦できます。会社から新しい役割や挑戦的な業務を与えられることも、自身の能力を伸ばす絶好の機会です。
こうした経験を通じて自身の「市場価値」を高めることは、将来のキャリアの選択肢を広げることにもつながります。
メリット2. 将来への漠然とした不安が解消される
「このままでいいのだろうか」「自分は何がしたいんだろう」そんな漠然とした将来への不安は、仕事のモチベーションを下げてしまう原因にもなります。上司との定期的なキャリア面談などを通じて、自身の強みや課題を客観的に把握し、キャリアの方向性をじっくり考える時間は、こうした不安を解消するのに役立ちます。
目標が明確になることで、日々の仕事にも主体的に、そして前向きに取り組めるようになります。
すぐに実践できるキャリア開発支援の具体例
キャリア開発支援と聞くと、特別な制度や多額の予算が必要だと感じるかもしれませんが、そんなことはありません。すぐに始められる、効果的な取り組みの具体例をご紹介します。
1on1ミーティング(定期的な面談)
上司と部下が1対1で、週に1回や月に1回など定期的に話す時間を設けます。ポイントは、業務の進捗確認だけでなく「将来どうなりたいか」「今、仕事で面白いと感じることは何か、逆に悩んでいることは何か」といった、個人のキャリアに関する対話を行うことです。
信頼関係が深まり、会社は従業員の価値観を理解し、的確なサポートをしやすくなります。
キャリアプランの作成と目標設定支援
従業員自身に、自身のキャリアについて考える機会を提供します。たとえば「キャリアプランシート」のような簡単な様式を用意し、1年後、3年後のありたい自分の姿や、そのために必要なスキル、挑戦したい業務などを書き出してもらいます。
これは、個人のキャリア開発目標を明確にするのに役立ち、会社側もその目標達成に向けた仕事の割り振りなどを検討できます。
研修・セミナー参加の奨励と費用補助
従業員が希望する外部の研修やセミナーへの参加を会社として奨励し、費用の一部または全額を補助する制度です。近年、オンライン研修は価格帯もさまざまで、その選択肢は非常に豊富です。
従業員の「学びたい」という意欲を直接サポートすることで、専門性の向上とモチベーションアップの両方が期待できます。
資格取得支援制度
業務に関連する資格や、従業員のキャリアアップにつながる資格の取得を支援する制度です。受験費用の補助はもちろん、資格取得一時金や資格手当といった報奨金を用意すると、従業員の挑戦意欲をさらに引き出せるでしょう。会社の専門性を高めることにも直結する、費用対効果の高い施策です。
柔軟性を活かしたキャリア開発支援のポイント
キャリア開発支援は、予算や規模の大きさだけで決まるものではありません。組織が持つ風通しの良さや機動力を活かせば、独自の強みとなる手厚い支援が可能です。
経営者や役員との距離の近さを活かす
組織の強みの一つは、経営層と従業員の距離が近いことです。経営者が自ら従業員と対話し、会社のビジョンや想いを直接伝えることで、従業員は自分の仕事が会社の未来にどうつながるのかを強く実感できます。社長や役員が直接キャリアの相談に乗ることで、従業員のモチベーションは大きく向上し、会社への信頼も深まります。
さまざまな業務の経験で仕事の幅を広げる
計画的にさまざまな部署や業務を経験させる「ジョブローテーション」は、有効な支援策となり得ます。従業員は幅広いスキルと視野を身につけ、自身の新たな可能性に気づけます。また、会社にとっても業務の属人化を防ぎ、柔軟で強い組織を作ることにもつながるでしょう。
社内勉強会やナレッジ共有の活性化
従業員の学びの機会は、外部研修だけでなく、社内のリソースを活用することでも創出できます。たとえば、特定のスキルを持つ従業員が講師役となる社内勉強会や、成功事例やノウハウを共有するミーティングを定例化するのです。
これは教える側の従業員にとっても、知識を整理し、伝える能力を磨く絶好の機会となります。コストをかけずに学び合う文化を育む、賢い支援策です。
キャリア開発支援に取り組む際の注意点
キャリア開発支援の効果を最大限に引き出すためには、いくつかの注意点があります。せっかくの取り組みが形骸化してしまわないよう、以下のポイントを押さえておきましょう。
制度を作って終わりにしない
キャリア面談や研修補助といった制度は、導入することがゴールではありません。従業員に利用してもらえなければ意味がなく、定期的に「制度は活用されているか」「本来の目的に沿っているか」を振り返り、必要に応じて内容を見直すなど、継続的な運用を心がけることが重要です。
支援の目的を全社で共有する
なぜ会社としてキャリア開発支援に取り組むのか、その目的や意図を事前に全従業員へ丁寧に説明しましょう。この共有が不足していると、従業員側はやらされ感を抱いてしまい、前向きな参加が得られないこともあります。「個人の成長が会社の成長につながる」という共通認識を持つことが、成功の鍵となります。
公平な機会を提供する
支援制度が、一部の優秀な従業員や、特定の部署だけが利用できるものになっていないか注意が必要です。全従業員に対して公平な機会が提供されている状態が理想です。誰にでもチャンスがあるという環境が、組織全体のモチベーション向上につながります。
個人の希望と会社の方針をすり合わせる
従業員が描くキャリアプランと、会社が目指す方向性や事業戦略が、必ずしも一致するとは限りません。定期的な対話を通じて、個人の希望を尊重しつつ、会社の目標とのすり合わせを行うことが大切です。この対話を通じて、お互いが納得できる着地点を見つけ出すことが、ミスマッチによる早期離職などのリスクを防ぎます。
企業依存にならないための個人のキャリア開発
キャリア開発は、会社がすべてをお膳立てしてくれるのを待つだけでは、本当の意味で成功しません。変化の激しい時代においては、会社にキャリアを委ねる企業依存の状態は、個人にとっても企業にとってもリスクとなり得ます。ここでは、従業員一人ひとりが主体的にキャリアを築くための考え方をご紹介します。
自己分析でありたい姿を明確にする
キャリア開発の出発点は、自分自身を深く知ることにあります。まずは「自分は何に興味があるのか」「どんな時にやりがいを感じるのか」「得意なことは何か、苦手なことは何か」といった自己分析から始めましょう。
これまでの仕事や経験を振り返ることで、自分が大切にしたい価値観や、将来「こうありたい」という姿が見えてきます。このありたい姿が、キャリアにおける具体的な目標になります。
目標達成のための情報収集と学習
目標が定まったら、次はそれを達成するための具体的な計画を立てる段階です。現状の自分とありたい姿との間にあるギャップを埋めるためには、どのような知識やスキルが必要かを考え、積極的に情報を集めましょう。
会社のキャリア開発支援制度を最大限に活用するのはもちろん、関連書籍を読んだり、社外のセミナーに参加したりと、主体的に学び続ける姿勢が、自身のキャリアを切り拓く力になります。
キャリア開発支援の企業事例
実際にキャリア開発支援に積極的に取り組んでいる企業の事例をいくつかご紹介します。自社で取り組む際のヒントにしてください。
株式会社マネーフォワード
「Talent Forward」というスローガンのもと、社員の成長と活躍を支援しています。個人のポテンシャルを最大限に引き出すため、独自の人事制度「MFグロースシステム」を導入し、パフォーマンスに応じた報酬制度を設けています。
また、社員が自律的にキャリアを築けるよう、社内公募制度「MFチャレンジシステム」を設け、挑戦したい部署やポジションへ自ら手を挙げる機会を提供しています。
このほか、目標管理制度「Goal for Growth」や、成果を上げたメンバーを表彰する制度などを通じて、個人の成長を組織の成長へとつなげる好循環を目指しています。
出典:Talent Forward|株式会社マネーフォワード
伊藤忠商事株式会社
グローバルに活躍できる経営人材の育成を掲げ、OJT(On-the-Job Training)を育成の主軸に置いています。特に新卒入社後の8年間を教育期間と定め、海外勤務を含めた複数の職務を経験させるジョブローテーションを推奨しています。
こうした経験を個人のキャリア形成につなげるため、社員が目指す将来像や能力開発計画を描き、上司と共有する「キャリアビジョンシート」制度を導入しています。
さらに、部門長らが自らの経験を語る「キャリアミーティング」を開催するなど、社員の主体的なキャリア形成を支援しています。
出典:実践事例 変化する時代の キャリア開発の取組み|厚生労働省
日本たばこ産業(JT)株式会社
「自分のキャリアは自分でつくる」という考えを社員に求め、主体的なキャリア形成を後押ししています。その手段として、年に1度の上長との「キャリア面談」で中長期的なプランを相談する機会や、希望部署に応募できる「キャリアチャレンジ制度」、社内公募の「ジョブマッチング」などを整備しています。
また、経営候補人材を早期から選抜・育成する「Next Leaders Program(NLP)」は、多くの社員が応募する同社の象徴的な取り組みとなっています。
出典:実践事例 変化する時代の キャリア開発の取組み|厚生労働省
オタフクソース株式会社
「ものづくりを支えるのは社員一人ひとり」という考えのもと、社員の「学び続ける習慣」を重視しています。新卒採用では職種を限定せず、営業や生産といった現場を経験してからキャリアを積むのが特徴で、職種を超えた異動を通じて多角的な視野を養います。
その育成を支えるのが10段階の「役割グレード制度」で、仕事の成果だけでなく、会社が指定した学びの条件を満たしているかという「学びの姿勢」も昇格の重要な判断要素となっています。
出典:実践事例 変化する時代の キャリア開発の取組み|厚生労働省
キャリア開発で活用できる助成金制度
企業のキャリア開発支援には、国が設けている助成金制度を活用できる場合があります。コストを抑えながら人材育成に取り組むために、代表的な制度を知っておきましょう。
なお、これらの助成金には、それぞれ詳細な支給要件や申請手続きが定められています。また、制度内容は改正されることもあります。利用を検討する際は、必ず厚生労働省のウェブサイトや管轄の労働局、ハローワークなどで最新の情報をご確認ください。
1. 人材開発支援助成金
企業が従業員に対して、職務に関連した専門知識や技能を習得させるためのOff-JTやOJTなどを実施した場合や、従業員が社内の制度に基づき社外の研修等を受講した際の費用を会社が負担した場合などに、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などが助成される制度です。DX人材育成、新規事業展開のための研修実施や、教育訓練のための休暇を設けた場合の助成なども含め、合計6つのコースがあります。
2. キャリアアップ助成金
主に、パートタイマーや契約社員といった非正規雇用の従業員のキャリアアップを促進するための制度です。非正規雇用の従業員を正社員に転換したり、処遇改善に取り組んだりする事業主に対して助成金が支給されます。
継続的な取り組みが未来を創るキャリア開発支援
本記事では、キャリア開発支援の基本的な考え方から、組織の柔軟性を活かした実践的な方法までを解説しました。身近なところから始める一つひとつの取り組みが、従業員と会社の信頼関係を育み、共に成長する好循環を生み出します。継続的に対話し、サポートを続けることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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