• 更新日 : 2025年8月27日

自己都合退職の手続きの流れと注意点は?人事担当者と従業員が知っておきたい対応ガイド

自己都合退職は、労働者の意思で職場を離れる制度でありながら、手続きや取り扱いによってはトラブルに発展するケースもあります。退職理由の確認、就業規則との整合、失業給付の扱い、社会保険・税務対応まで、企業側には幅広い対応が求められます。また、従業員にとっても退職の進め方によって待遇や再就職に影響を及ぼすことがあります。

本記事では、自己都合退職の基本から流れ、人事担当者の注意点までを解説します。

自己都合退職の基本:会社都合退職との違い

自己都合退職と会社都合退職は、いずれも従業員が職場を離れる形ではありますが、その性質や取り扱いには明確な違いがあります。人事労務担当者が両者の違いを正しく理解しておくことは、離職手続きや離職票の記載、トラブル防止の観点からも不可欠です。

自己都合退職と会社都合退職の定義

自己都合退職とは、従業員自身の事情により職場を辞める退職のことを指します。転職、家庭の事情、健康問題など理由はさまざまですが、あくまで本人の意思に基づいている点が特徴です。これに対して会社都合退職は、企業側の事情により雇用が終了するもので、例えば人員整理や解雇のほか、職場でのハラスメントなども含まれます。

このように、表面的には本人の申し出であっても、内容次第では会社都合退職と判断されることがあり、実務では退職理由の確認を慎重に行う必要があります。

自己都合退職と退職の自由との関係

法律上、労働者には職業選択の自由が認められており、退職もその一環とされています。正社員などの期間の定めがない雇用契約では、民法627条により、原則として退職の意思表示から2週間が経過すれば、会社の承認がなくても雇用契約を終了できます。これは、企業が退職を一方的に拒むことはできないという法的根拠にもなります。

ただし、企業としては業務の引き継ぎや人員配置の調整が必要となるため、就業規則に「退職は1ヶ月前までに申し出ること」などの社内ルールを設けていることが一般的です。この場合でも、法的には2週間経過後の退職が有効となるため、担当者は法律と社内ルールのバランスを理解し、柔軟な対応を心がけることが望まれます。

会社都合退職との待遇の違い

自己都合退職には、従業員にとってのメリットとデメリットが存在します。最大の利点は、本人の意思でいつでも辞められるという点です。しかし、その反面、退職金の支給額や失業保険の給付面で不利になるケースが多く見られます。

多くの企業では退職金規程において、自己都合退職の場合に支給額を減額する取扱いを採用しています。たとえば、「自己都合の場合は支給額の7割」などの規定です。ただし、こうした減額措置は退職金規程に明記されていることが前提となり、記載がないまま一方的に減額することは無効とされる恐れがあります。また、合理性を欠く大幅な減額は、民法90条の「公序良俗」に反し無効と判断されることもあります。人事担当者は、社内規程の内容を正確に把握しておく必要があります。

会社都合退職との失業給付の違いと法改正

失業給付の制度においても、自己都合退職と会社都合退職では扱いが異なります。会社都合退職や、一定のやむを得ない理由による特定理由離職者であれば、待機期間7日間の終了後、速やかに給付が開始されます。一方、自己都合退職(正当な理由なし)の場合、待期期間の終了後に加えて、2ヶ月間の給付制限が設けられています。

しかし、2025年4月より法改正が行われ、給付制限期間が2ヶ月から1ヶ月へと短縮されています。また、職業訓練を受けた場合など、一定の条件を満たすことで給付制限そのものが解除される新制度も導入されています。

この改正により、労働者にとっては再就職活動がしやすくなる一方で、企業としては自己都合退職が増える可能性もあり、人材流出への対策が求められるようになります。人事担当者は最新の雇用保険制度の内容を正しく理解し、退職者への案内や離職票の記載など、適切な実務対応を行う必要があります。

自己都合退職の手続きの流れ【従業員側の手順】

自己都合退職を決意した場合、何から始め、どのような順序で手続きを進めるべきかは意外と分かりづらいものです。ここでは、従業員本人の立場に立って、退職の意思表示から最終勤務日までの流れを解説します。

(1)退職の意思を固める

まず初めに行うのは、自身の状況や将来の見通しをふまえ、「本当に今退職する必要があるのか」をよく考え、退職の意思を明確にすることです。転職活動が済んでいるか、生活面での準備は整っているかなどを確認し、精神的にも実務的にも準備ができたと判断した段階で、実際の手続きに進むようにしましょう。

(2)上司に口頭で退職の意思を伝える

退職の意思が固まったら、まずは直属の上司に口頭で意思を伝えます。この際には、できるだけ早めのタイミングで報告することが重要です。就業規則に「退職は1ヶ月前までに申し出ること」といった記載がある場合、それをふまえた上で上司と相談します。円満退社を目指すのであれば、感情的にならず、退職理由を簡潔に伝えるよう心がけます。

(3)退職願または退職届を提出する

口頭での意思表示を行った後、会社の指示や慣行に従い、退職願または退職届を提出します。「退職願」は辞意を申し出るもので、基本的に撤回が可能です。一方「退職届」は退職の最終的な意思表示であり、会社が受理した時点で撤回は非常に困難になります。どちらを提出するべきかは社内ルールや上司の指示に従いましょう。提出時には日付、提出先、退職希望日を明確に記載し、コピーを手元に残しておくと安心です。

(4)退職日と最終出社日を調整する

退職届の提出後は、退職日と最終出社日について会社と具体的に調整します。有給休暇が残っている場合は、それを消化したうえで退職日を設定することが一般的です。たとえば有給が10日残っていれば、10営業日前に最終出社日を設定し、その後有給消化に入ります。給与計算や社会保険料の処理に関係するため、退職日が月末か月中かで違いが出る点も留意しましょう。

(5)業務の引き継ぎを行う

円滑な退職のためには、業務の引き継ぎが非常に重要です。後任への引き継ぎ資料を作成したり、関係先への挨拶メールを送るなど、自分が抜けた後の業務が滞らないように配慮します。顧客対応、資料の保管場所、日常業務の流れなどをリスト化し、上司や後任者と共有することで、職場の信頼を保ったまま退職することができます。

(6)私物の整理と社内物品の返却準備を進める

最終出社日が近づいたら、机やロッカーの私物整理を始め、会社から貸与された物品(社員証、パソコン、スマートフォン、制服など)の返却準備を行います。退職日当日は慌ただしくなるため、前日までに一通りまとめておくことをおすすめします。また、会社のネットワークやシステムに関するパスワード情報なども必要に応じて引き継いでおきましょう。

(7)退職日を迎え、あいさつを済ませる

最終出社日には、関係部署の同僚やお世話になった上司に挨拶を済ませ、感謝の意を伝えることが大切です。ビジネスマナーとしても重要なこのステップは、最後の印象を左右する場面です。もし最終出社日と退職日が異なる場合(有給消化など)、直接会えない人にはメールなどで挨拶をするのも良い方法です。

(8)離職票や源泉徴収票などの書類を受け取る

退職後には、会社から「離職票」や「源泉徴収票」などの重要書類が交付されます。離職票は失業給付の申請に必要であり、希望すればハローワークが発行し、原則として会社を経由して交付されます。源泉徴収票は転職先での年末調整や、自分で確定申告する際に必要になります。書類は退職後に郵送される場合もあるため、退職時に送付先住所を会社に伝えておくと確実です。

(9)社会保険や税金の手続き

会社を退職すると、健康保険や年金の加入手続きを自分で行う必要があります。転職先が決まっていれば、その会社で加入手続きが行われますが、未定の場合は「任意継続」や「国民健康保険」への切り替えが必要です。また、年金も厚生年金から国民年金へ変更になります。市区町村役所や年金事務所での手続きが必要になるため、早めに確認しておくことが望まれます。

自己都合退職の手続きにおける人事担当者の注意点

自己都合退職が発生した場合、人事労務担当者は、法令に基づいた丁寧な対応を求められます。発生する業務と留意点について解説します。

雇用保険の離職手続き

自己都合退職者が出た場合には、「雇用保険被保険者資格喪失届」を、退職日の翌々日から10日以内にハローワークへ提出する必要があります。同時に、失業給付を希望する退職者がいれば、「離職証明書」も作成し、離職理由を明記します。

記載にあたっては、「一身上の都合」など形式的な表現にとどまらず、パワハラや労働条件の悪化が背景にある場合には「特定理由離職者」としての扱いも検討しなければなりません。ハローワークから内容確認の問い合わせが来る場合もあるため、退職届やヒアリング記録をもとに、実態に即した記載を心がけます。

社会保険と年金の資格喪失処理

健康保険・厚生年金の資格喪失については、退職日の翌日から5日以内に届け出る必要があります。退職者から保険証を回収し、万一紛失していた場合には「回収不能届」を提出します。

また、任意継続制度や国民健康保険への切り替えなど、退職後の保険加入方法を説明することも大切です。厚生年金に関しても、必要に応じて資格喪失証明書の発行を行い、市区町村での国民年金加入手続きに支障がないよう支援します。

税務関連の処理

退職にあたっては、給与所得の源泉徴収票を1ヶ月以内に発行し、退職者に送付する必要があります。特に中途退職の場合、転職先での年末調整や確定申告に影響するため、実務的にはできる限り速やかな発行が望まれます。

住民税については、退職時期によって処理方法が異なります。1〜5月の退職であれば一括徴収、6〜12月であれば普通徴収へ切り替え、市区町村に届け出ます。給与・税務担当者との連携も重要になります。

社内貸与物とアカウント情報の管理

退職者が会社から受け取っていた備品類(PC、社員証、社用携帯など)の回収は、最終出社日までに完了させる必要があります。同時に、社内システムや各種アカウントの停止・削除を実施し、情報漏洩リスクを未然に防ぎます。

また、出張旅費や立替経費の未精算分があれば、退職日までに処理を終えるよう促します。社内貸付金や財形貯蓄の残高がある場合は、社内規程に基づき一括返済や今後の取り扱いを丁寧に説明します。

証明書の発行

退職者から請求があれば、「退職証明書」を発行する義務があります。在職期間、職務内容、退職理由など、請求の範囲内でのみ記載します。特に外国人労働者については、「外国人雇用状況届出書」の提出が必要であり、文化・言語の違いをふまえた説明も求められます。

退職後にトラブルが発生しないよう、書類の交付状況や説明内容を記録し、問い合わせがあった際にも迅速に対応できる体制を整えておきましょう。

ハラスメントに起因する退職の場合

パワハラ・セクハラなどを原因とした退職の場合は、形式的に「自己都合退職」であっても、実質的に会社側の責任が問われることがあります。パワハラ防止法では、企業に対し相談対応・再発防止措置が義務付けられており、事案発生時には速やかに調査・対応を行わなければなりません。

また、退職勧奨を行う場合も、過度な説得や圧力がかかれば「退職強要」として違法とされる可能性があります。人事担当者は退職の申し出が本人の自由意思に基づくものかを丁寧に確認し、常に冷静かつ公正な対応を徹底することが重要です。

トラブルを防ぐ退職手続きを理解しよう

自己都合退職を適切に進めるには、会社都合との違いを理解し、就業規則や法律に即した手続きを行うことが大切です。失業給付や退職金の条件が変わるため、従業員は退職理由や日程を明確にし、段階を踏んで準備しましょう。企業側も、離職票の記載や社会保険・税務処理を正確に行い、ハラスメントなどの背景にも注意を払いながら、誠実に対応する姿勢が求められます。円滑な退職には、双方の理解と準備が欠かせません。



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