• 更新日 : 2025年8月20日

労働者名簿とは?必須項目の書き方や記入例、テンプレート、保存期間などを解説

労働者名簿は、労働基準法によって事業者への作成と保管が義務付けられている重要な書類です。しかし、人事や総務の担当者の方の中には、そもそも何を書けばいいのか、履歴はどこまで記載するのか、保存期間は3年と5年のどちらで対応すべきか、といった具体的な疑問をお持ちの方も少なくありません。

この記事では、労働者名簿の法的な位置づけから、法律で定められた必須項目、具体的な記入例、さらには効率的な管理方法までわかりやすく整理します。

労働者名簿とは

労働者名簿は、企業が従業員の情報を正確に管理する書類です。労働者名簿の作成と保管は、事業者の義務として法律で定められています。

労働基準法で定められた法定三帳簿の一つ

労働者名簿は、賃金台帳、出勤簿と並び、労働基準法で作成と整備が義務付けられている法定三帳簿の一つです。

これらの帳簿は、労働者の労働条件や就労実態を客観的に証明するための重要な記録となります。労働基準監督署による調査の際には、法定三帳簿の提出を求められることがあり、企業の労務管理体制が適正かどうかを判断する重要な材料にもなります。

労働者名簿の対象となる労働者の範囲

労働者名簿の作成対象は、原則として、日々雇い入れられる者を除くすべての労働者です。正社員はもちろん、パートタイマー、アルバイト、契約社員なども含まれます。雇用形態に関わらず、企業に常時使用される労働者については、一人ひとり名簿を作成しなくてはなりません。

ただし、法人の代表者や役員は労働基準法上の労働者には該当しないため、作成の対象外となります。また、派遣労働者については、雇用契約を結んでいる派遣元の事業者に作成義務があるため、派遣先の企業で作成する必要はありません。

社員名簿や従業員名簿との違い

労働者名簿と似た書類に、社員名簿や従業員名簿があります。これらは、企業が任意で作成するもので、法的な作成義務はありません。

大きな違いは、記載項目にあります。労働者名簿は、労働基準法で定められた項目を必ず記載しなければなりません。一方で、社員名簿や従業員名簿には決まったフォーマットがなく、企業が独自に緊急連絡先や家族情報など、業務上必要と判断した項目を記載することが一般的です。

法律で定められた書類であるかどうかが、最も大きな違いと言えるでしょう。

労働者名簿の書き方

労働者名簿には、法律で定められた事項を漏れなく記載する必要があります。ここでは、具体的に何をどのように書けばよいのか、労働者名簿の書き方について、必須項目と記入例を交えながら詳しく見ていきます。

法律で定められた9つの必須記載事項

労働者名簿に記載すべき事項は、労働基準法施行規則第53条で定められています。以下の9項目が労働者名簿の必須項目となり、一つでも欠けていると不備と見なされる可能性があるため注意が必要です。

  1. 氏名
    戸籍上の氏名を正確に記載します。
  2. 生年月日
    和暦・西暦どちらでも構いませんが、統一して記載します。
  3. 履歴
    社内での異動、昇進、転勤など、人事に関する重要な変更履歴を記録します。法令では明確な記載範囲の規定がないため、一般的には社内履歴を記録し、学歴や入社前の職歴は必要に応じて任意で記載しています。
  4. 性別
    男性または女性を記載します。
  5. 住所
    実際に住んでいる住所を記載します。転居した場合は速やかな更新が必要です。
  6. 従事する業務の種類
    労災発生時の業務内容の確認などにも使われるため、総務事務、営業職のように、労働者が担当する具体的な仕事内容を記載します。従業員数が30人未満の事業場では記載を省略できますが、管理上は記載することが望ましいです。
  7. 雇入の年月日
    実際に雇用契約が開始された日を記載します。
  8. 退職の年月日及びその事由
    自己都合による退職、契約期間満了のためなど、客観的な事実を簡潔に記します。解雇の場合は、その理由も具体的に記載する必要があります。
  9. 死亡の年月日及びその原因
    労働者が在職中に死亡した場合に記載します。

参考:労働基準法施行規則|e-Gov 法令検索

労働者名簿の具体的な記入例

必須項目の中でも特に迷いやすい、履歴、従事する業務の種類、退職事由の記入例は以下の通りです。常に最新の情報を反映させることが重要です。

項目記入例
履歴2025年4月1日 営業部から人事部へ異動
2026年7月1日 主任に昇進
従事する業務の種類経理事務(伝票処理、月次決算補助)
Webサイトの企画・デザイン・コーディング
退職の事由自己都合による退職
定年退職
契約期間満了のため
普通解雇(勤務態度不良のため)

労働者名簿のテンプレートと作成方法

労働者名簿の作成方法に決まりはありませんが、主にExcelで作成する方法と、労務管理ソフトを活用する方法があります。

Excel(エクセル)での作成方法

多くの企業で、管理のしやすさからExcel形式が採用されています。厚生労働省のWebサイトでは、主要様式ダウンロードコーナーに労働者名簿のテンプレートが用意されており、誰でも無料で入手できます。これを活用したり、自社で使いやすいようにカスタマイズしたりするのが一般的です。

参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省

労務管理ソフトの活用方法

従業員数が多くなると、Excelでの管理が煩雑になることがあります。労務管理ソフトを導入すれば、従業員情報の入力や更新が容易になり、法改正があった場合にも自動で対応してくれるため、管理コストを大幅に削減できるメリットがあります。

労働者名簿の作成・管理におけるポイント

労働者名簿を作成した後は、適切に管理していくことが求められます。特に重要な3つのポイントを解説します。

労働者名簿の更新義務

労働者名簿は、記載事項(住所、氏名、業務内容の変更など)に変更があった場合、遅滞なく更新する必要があります。遅滞なくとは、事情の許す限り早く、という意味です。情報の鮮度を保ち、常に実態と相違ない状態にしておくことが大切です。

労働者名簿の保存期間

労働者名簿の保存期間は、労働基準法で5年間と定められています。

起算日は、労働者の退職、解雇、または死亡の日です。 したがって、在職中の従業員の労働者名簿を誤って破棄しないよう注意が必要です。

2020年4月の労働基準法改正により、賃金請求権の時効が5年に延長されたことに伴い、関連書類である労働者名簿の保存期間も5年となりました。

ただし、経過措置として当面の間は3年間の保存でも罰則の対象とはなりません。しかし、未払い賃金の請求といった労使間トラブルを防止する観点から、法律の原則通り5年間保存するのがおすすめです。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

労働者名簿の保管方法

保管方法は紙媒体でも電子データでも問題ありません。

紙の場合は、鍵のかかるキャビネットなどで、紛失や盗難のリスクがないように保管します。電子データで保存する場合は、いつでも画面に表示して印刷できる状態にしておくこと、改ざん防止のための措置を講じること、必要な情報をすぐに検索できること、といった要件を満たす必要があります。

労働者名簿を作成しない場合の罰則

労働者名簿を故意に作成しなかったり、法律で定められた内容を記載しなかったり、適切に保管していなかったりした場合には、労働基準法第120条の規定により、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

労働基準監督署の調査で不備を指摘され、是正勧告に従わないなど、悪質なケースと判断された場合に罰則が適用されることがあります。法令遵守の観点から、すべての事業者にとって労働者名簿の確実な整備は必須の責務と言えます。

労働者名簿に関するQ&A

労働者名簿を実際に運用する上では、さまざまな疑問が生じます。

労働者名簿は誰が書くべき?

法律で特定の担当者が定められているわけではありませんが、作成責任は事業者(会社)にあります。一般的には、人事部や総務部といった労務管理を担当する部署の担当者が作成・更新作業を行います。重要なのは、社内の責任者を明確にし、記載内容に変更があった際に遅滞なく更新される体制を築くことです。

労働者名簿の履歴にはどこまで記載すべき?

労働者名簿の履歴とは、社内における異動、転勤、昇進といった人事上の重要な変更履歴を指します。入社前の学歴や職歴を記載する必要はありません。これにより、その労働者の社内での経歴が一目でわかり、適正な人員配置やキャリア管理に役立てることができます。

労働者名簿の保存期間を過ぎたらすぐに破棄すべき?

保存期間を経過した個人情報は、個人情報保護法の「保有の必要がなくなった個人情報を保持しない」という原則に基づき、社内規定やガイドラインなどに従い適切な時期に破棄することが望まれます。シュレッダー処理や専門業者による溶解処理など、復元できない方法で確実に破棄してください。

参考:個人情報の保護に関する法律|e-Gov 法令検索

労働者名簿を作成し、従業員の情報を管理しましょう

労働者名簿は、単に法律で定められた義務を果たすためだけの書類ではありません。従業員一人ひとりの情報を正確に記録し、管理することは、適正な人事評価や人員配置、さらには労働災害発生時の迅速な対応など、企業活動のあらゆる場面で価値を発揮します。

罰則があるから作成するのではなく、健全な企業運営と従業員との良好な関係を築くための基盤として、その重要性を認識することが求められます。テンプレートや労務管理ソフトなどを上手に活用し、常に情報が最新の状態に保たれるよう、自社の管理体制を定期的に見直しましょう。


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