- 更新日 : 2025年7月25日
労働基準法に夜勤回数の上限はない?月8回が目安の根拠と違法になるケースを解説
私たちの生活を24時間支えるために不可欠な夜勤。しかし、その過酷さから、ご自身の働き方に疑問や不安を抱えている方は少なくありません。特に、夜勤の回数については、法的な上限がどうなっているのか、多くの方が知りたい点ではないでしょうか。
労働基準法には「夜勤は月に〇回まで」といった回数上限を直接定める規定はありません。しかし、だからといって無制限に夜勤をさせて良いわけではありません。労働者の健康と安全を守るため、法律や行政からの指導、各業界のガイドラインによって、実質的な目安や守らなければならない厳格なルールが存在します。この記事では、その複雑なルールを一つひとつ紐解き、あなたの疑問を解消します。
目次
労働基準法における夜勤のルール
夜勤回数の問題を理解するためには、まず労働基準法が定める労働時間の基本的な考え方を知る必要があります。法律は回数ではなく、時間で労働者を保護しているのがポイントです。
そもそも「夜勤」や「深夜労働」とは
一般的に使われる「夜勤」という言葉は、法律上の明確な定義があるわけではありません。法律で定められているのは「深夜労働」です。これは、原則として午後10時から午前5時までの時間帯に行われる労働を指します。この時間帯に労働させた場合、使用者は通常の賃金の25%以上を上乗せした「深夜割増賃金」を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。夜勤手当は会社が任意で定めるものですが、それとは別に、深夜労働に対する割増賃金は必ず支払われる必要があります。
労働時間の大原則「1日8時間・週40時間」
労働基準法では、労働時間の上限を原則「1日8時間・1週40時間」と定めています(労働基準法第32条)。これを「法定労働時間」と呼びます。また、休日については「毎週少なくとも1回」または「4週間を通じて4日以上」与えなければならないと定められています(労働基準法第35条)。夜勤であっても、この大原則は守られなければなりません。この時間を超えて労働させる場合には、特別な手続きが必要となります。
時間外労働と「36協定」
法定労働時間を超えて労働(時間外労働)をさせたり、法定休日に労働(休日労働)させたりする場合には、使用者と労働者の代表(労働組合など)が書面で協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。これが、労働基準法第36条に基づく労使協定、通称「36協定」です。36協定の届出がなければ、そもそも法定外の残業や休日労働をさせること自体が違法となります。夜勤シフトが法定労働時間を超える場合は、この36協定の締結が必須です。
夜勤回数は月8回が目安とされる理由
法律に直接的な回数上限がないにもかかわらず、なぜ「夜勤は月8回程度が目安」とよく言われるのでしょうか。これには、法律の条文以外にも、労働者の健康を守るための複数の根拠が存在します。
1. 看護協会ガイドラインによる夜勤回数の目安
日本看護協会による「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」では勤務編成の考え方について、「夜勤回数は、3交代制勤務は月8回以内を基本」とすることを示しています。月8回という目安は、このガイドラインが根拠となっています。
看護職の夜勤勤務が特に多いことが厚生労働省でも課題として挙げられており、行政を巻き込んだ改善に取り組んでいく方針が「夜勤・交代制勤務を中心とした労務管理の留意点について」によって示されています。
参考:夜勤・交代制勤務を 中心とした労務管理の 留意点について|厚生労働省
2. 使用者の安全配慮義務
企業(使用者)は、労働契約法第5条に基づき、労働者の生命や身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。過度な夜勤によって労働者が心身の健康を損なった場合、企業はこの安全配慮義務違反を問われ、損害賠償責任を負う可能性があります。過去の判例でも、平成2年の梱包作業をしていた労働者において、月に約56〜57時間の時間外労働と過重な夜勤が原因で労働者が死亡し、企業の責任が認められた事例があります。 このため、企業は訴訟リスクを避ける意味でも、常識の範囲を超えた夜勤シフトを組むことはできません。
2交代制・3交代制の注意点
夜勤の負担は、勤務形態によっても大きく異なります。ここでは代表的な2つの勤務形態における注意点を解説します。
2交代制の場合
2交代制は、1日の勤務を日勤と夜勤の2つに分ける勤務形態です。1回の夜勤の拘束時間が16時間など長時間に及びやすいのが特徴です。そのため、1回あたりの負担は大きくなりますが、その分、夜勤明けの日とその翌日が休みになる「明け休み+公休」が設定されやすく、休日数は確保しやすい傾向にあります。注意すべきは、勤務と勤務の間の休息時間が十分に取れているかという点です。
3交代制の場合
3交代制は、1日を日勤・準夜勤・深夜勤の3つに分ける勤務形態です。1回あたりの拘束時間は8時間程度と短いですが、勤務時間帯が細かく変動するため、生活リズムが不規則になりやすいというデメリットがあります。短いサイクルで昼夜が逆転するため、睡眠障害や自律神経の乱れなど、健康への影響が出やすいとされています。シフトの組み合わせによっては、十分な休息が取れずに次の勤務に入ることになるため注意が必要です。
夜勤が違法かどうかチェックすべきポイント
ご自身の夜勤が適切かどうかを判断するために、以下の5つのポイントを確認してみましょう。一つでも当てはまれば、違法な状態である可能性があります。
1. 36協定は締結・周知されているか
法定労働時間を超えるシフトが夜勤として組まれている場合、36協定が正しく締結され、労働基準監督署に届け出られている必要があります。また、その内容は職場に掲示するなどして、労働者に周知されなければなりません。そもそも36協定が存在しない、あるいは内容を知らされていない状態で時間外労働として夜勤をさせられている場合、それは違法です。
2. 法定の休憩はきちんと取れているか
労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならないと定められています(第34条)。夜勤の場合でも、6時間または8時間を超える労働をする場合には途中で法定以上の休憩が保証されている必要があります。「忙しくて休憩が取れなかった」という状況が常態化している場合は、法律違反にあたります。
3. 法定休日は確保されているか
夜勤明けの日は「休み」とカウントされがちですが、法律上の「休日」とは異なります。休日は、原則として暦日(午前0時から午後12時までの24時間)で与えられなければなりません。夜勤明けは勤務の延長線上にある休息であり、休日ではありません。労働基準法が定める「週1回または4週4日」の法定休日が、明け休みとは別に確保されているか確認しましょう。
4. 深夜割増賃金は正しく支払われているか
午後10時から午前5時までの深夜労働に対しては、通常の賃金の25%以上の割増賃金が支払われなければなりません。また、その労働が法定時間外労働にもあたる場合は、時間外割増率(25%以上)と深夜割増率(25%)を合わせて、合計50%以上の割増賃金が必要になります。給与明細を見て、深夜手当や時間外手当が正しく計算されているか確認しましょう。
5. 勤務間インターバルは十分に確保されているか
勤務間インターバル制度とは、勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の休息時間を設ける仕組みです。労働者の健康確保のため、国は11時間以上のインターバルを設けることを努力義務として推奨しています。夜勤明けで数時間後にまた日勤、といった無理なシフトは、この努力義務に反している可能性があります。
看護職の夜勤特有のポイント
看護現場では、「みんなやっているから」「人手が足りないから仕方ない」といった理由で、法律的にグレーな働き方が常態化しているケースがあります。日本医労連の調査によると、介護や医療現場で働く人の約3割から4割が、月9回以上の夜勤を行っているなど、ガイドラインの基準を超えた働き方をしていることが明らかになっています。
休憩扱いされる仮眠時間
多くの施設で夜勤中に仮眠時間が設けられていますが、実際にはナースコールが鳴れば即座に対応が求められ、巡回や記録で気が休まらない状況も少なくありません。判例(最高裁平成14年2月28日・大星ビル管理事件)では、こうした状況において使用者の指揮命令下にある場合、「仮眠時間は労働時間(手待ち時間)」であると明確に示しています。つまり、施設側には、その時間分の賃金および深夜割増賃金を支払う義務があります。ただし契約の内容によっては定額手当など別の形で支給される場合もあります。
参考:裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
心身を削るワンオペ夜勤
一人で多くの患者様を担当するワンオペ夜勤。これ自体が直ちに違法と断定はできませんが、緊急時の人員配置不足により適切な対応が困難な場合、施設が安全配慮義務を果たしていないと認定される可能性があります。実際に、過去の判例でも、緊急時の適正な人員配置ができていないことが原因で安全配慮義務違反が認定された事例があります。
給料が出ない夜勤明けの研修・会議
「夜勤明けの日は休み」とされていますが、その日に研修や会議への参加を強制されていませんか?夜勤明けは休日ではなく、あくまで勤務の延長にある休息です。
会社からの指示で研修や会議に参加する場合、それは明確な労働時間であり、時間外手当などの支払い対象となります。「自己研鑽のため」といった名目でごまかされていないか、注意が必要です。
夜勤の回数を減らしたい時に取るべき行動
過度な夜勤がつらいと感じた時、我慢し続ける必要はありません。状況を改善するために、以下の行動を検討してみてください。
まずは就業規則や労働契約書を確認する
ご自身の労働条件の根拠となる書類を確認しましょう。夜勤に関する規定がどのように定められているか把握することが、交渉の第一歩になります。客観的な事実をもとに、現状がルールから逸脱していないかを確認します。
上司や人事部に相談する
次に、直属の上司や人事部の担当者に相談しましょう。その際は感情的に不満をぶつけるのではなく、「体調面に不安があるため、夜勤回数を〇回程度に調整してほしい」など、具体的かつ冷静に希望を伝えることが重要です。診断書など、客観的な証拠があればより説得力が増します。
労働基準監督署などの外部機関に相談する
社内での解決が難しい場合や、明らかに法律違反が疑われる場合は、外部の専門機関に相談しましょう。全国の労働局や労働基準監督署に設置されている「総合労働相談コーナー」では、無料で専門の相談員が対応してくれます。匿名での相談も可能ですので、まずは電話で状況を伝えてみましょう。
働き方を見直し、転職を検討する
企業の体質や人員不足が原因で、どうしても状況が改善されないケースもあります。ご自身の健康と将来を守るためには、夜勤の少ない職場や、日勤のみの仕事へ転職することも有効な選択肢です。無理をして心身を壊してしまう前に、新しい環境を検討する勇気も大切です。
夜勤の回数に関してよくある質問
ここでは、夜勤回数に関して多くの方が抱く具体的な疑問にお答えします。
夜勤回数に不公平感があります。どうすればいいですか?
同僚との間で夜勤回数に大きな差があり、不公平だと感じるケースは少なくありません。まずは、なぜそのようなシフトになっているのか、上司に理由を確認してみましょう。特定のスキルが必要、本人の希望、体調への配慮など、合理的な理由があるかもしれません。理由に納得できない場合は、シフト作成のルールを明確にしてもらうよう、人事部や労働組合に相談するのも一つの方法です。
会社から一方的に夜勤回数を減らされました。問題ないですか?
夜勤手当を前提に生計を立てている場合、一方的に夜勤回数を減らされると収入が減少し、大きな問題となります。労働契約書や就業規則で夜勤の回数や業務内容が定められているにもかかわらず、合理的な理由なく一方的に回数を減らすことは、労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。まずは会社に理由を確認し、納得できない場合は専門家への相談も検討しましょう。
連続での夜勤は何日まで可能ですか?
法律上、連続夜勤の日数を直接制限する明確な規定はありません。ただし、日本看護協会などの業界団体や厚労省のガイドラインでは、連続夜勤は原則2回までとするなどの基本的な目安を設けています。 労働者の健康を守る観点から、こうした基準に沿った勤務形態が推奨されています。
自分の権利を知り、健康的な働き方を実現しよう
今回は、労働基準法と夜勤回数をテーマに、法律上のルールから具体的な対処法までを解説しました。
夜勤は社会を支える重要な仕事ですが、それによってあなたの健康が損なわれては元も子もありません。本記事で得た知識を元に、ご自身の働き方を見つめ直し、必要であれば適切な行動を起こして、健康で安全なワークライフを実現してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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