• 更新日 : 2025年7月11日

36協定を結ばない・廃止して残業がない会社は違法?影響やルールを解説

「36協定を廃止して、残業も一切ない会社」と聞くと、理想的な職場環境に思えるかもしれません。しかし、法的な観点から見ると、本当に問題ないのでしょうか。また、そのような状態は企業や従業員にどのような影響を与えるのでしょう。この記事では、36協定を締結しない(廃止した)状況の適法性、企業が遵守すべきルール、そして考えられる影響について、具体的に解説します。

36協定の基本的な役割とは?

36協定(サブロク協定)は、労働基準法第36条に基づく労使協定の通称で、正式には「時間外労働・休日労働に関する協定書」といいます。この協定の最も重要な役割は、企業が従業員に法定労働時間を超えて時間外労働(残業)や法定休日に労働をさせることを法的に可能にすることです。

なぜ「36(サブロク)」と呼ばれるのか

労働基準法の第36条に定められていることから、通称「36協定」と呼ばれています。この条文が、時間外労働や休日労働を例外的に認めるための根拠となっています。

法定労働時間と時間外労働の定義を理解する

労働基準法では、労働時間の上限を原則として「1日8時間、1週40時間」と定めています。これを法定労働時間といいます。この法定労働時間を超えて従業員に労働させる場合が「時間外労働」、いわゆる残業にあたります。

また、週に1日または4週を通じて4日与えなければならない休日を「法定休日」といい、この日に労働させる場合が「休日労働」です。これらを行わせるためには、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必須となります。

「36協定を廃止して残業がない」は本当に実現可能か?

「36協定を廃止し、結果として残業が一切ない会社」という状態を法的にどう評価すべきか見ていきましょう。

36協定がない=即違法ではないが注意が必要

企業が36協定を締結しないこと自体は、法律違反ではありません。36協定は時間外労働や休日労働をさせるための手続きなので、これらを一切行わないのであれば、協定は不要です。つまり、「36協定を締結せず、かつ法定労働時間内で業務が完了し、時間外労働も休日労働も一切発生していない」のであれば、法的には問題ありません。

「残業がない」状態の実態が問われる

問題となるのは、「残業がない」という状態が真実かどうかです。もし、実際には法定労働時間を超えて働いているにもかかわらず、36協定がないために残業として扱われていない(いわゆるサービス残業や隠れ残業)のであれば、それは明確な労働基準法違反となります。

企業は、労働時間を適正に把握し、法定労働時間を超えた分については割増賃金を支払う義務があります。

36協定を結ばない(廃止した)場合の影響

企業が36協定を締結しない、あるいは従来の協定を更新せずに事実上廃止した場合、どのような法的ルールが適用されるのでしょうか。

原則、時間外・休日労働は一切不可になる

36協定がないということは、会社は社員に対して、法律で決められた労働時間(原則として1日に8時間、1週間に40時間)を超えて働かせることや、法律で定められた休日に出勤させることが、たとえ1分であってもできなくなる、ということです。

もし会社がこのルールを破って残業や休日出勤をさせてしまうと、それは法律違反にあたり、罰金(30万円以下)が科されたり、場合によっては経営者が懲役刑(6ヶ月以下)を受けたりすることもあります。

ここで大切なのは、たとえ社員が「自分が進んで残業します」と申し出たとしても、会社がその状況を把握しながら黙認したり、実質的に指示したと見なされたりした場合には、同様に法律違反と判断される可能性があるという点です。

緊急時や繁忙期の対応ができない

例えば、突然のシステムトラブルが発生したり、予期せぬ大きな仕事の依頼が入ったり、または災害時のように緊急の対応が求められたりするなど、どうしても普段よりも多くの労働時間が必要になる事態は起こり得ます。

しかし、36協定がない状態では、このような「いざという時」であっても、原則として法律で決まった時間を超えて社員に働いてもらうことはできません。そのため、会社としては、普段から特定の社員や特定の時期に仕事が集中しすぎないように業務を平準化したり、他の部署から応援を出せるような体制を整えたり、一部の業務を外部の専門業者に委託したりするなど、法律で定められた時間内で業務が完了できるように、あらかじめ対策を講じておく必要があります。

従業員の意識や会社の雰囲気への影響

36協定を結ばずに「残業は一切しない」という方針を会社が徹底すれば、社員にとっては仕事と私生活のバランスが取りやすくなるという良い面があります。また、限られた時間の中で成果を出すために、どうすれば効率よく仕事を進められるかといった生産性向上への意識が高まることも期待できるでしょう。その一方で、心配な面も考慮しておく必要があります。

例えば、「どうしても今日中にこの仕事を終わらせたい」といった場合に柔軟な対応がしにくくなったり、決められた時間内に仕事が終わらないことで、かえって精神的なプレッシャーを感じてしまう社員が出てきたりする可能性も考えられます。

「残業がない会社」を目指す上での注意点

多くの企業や従業員にとって「残業がない会社」は理想の一つですが、それを実現するためにはいくつかの重要な注意点と、企業が果たすべき責任があります。

労働時間を正確に把握する

まず最も重要なのは、労働時間を客観的かつ正確に把握することです。タイムカード、ICカード、PCの使用時間記録など、適切な方法で始業・終業時刻を記録し、実労働時間を管理しなければなりません。曖昧な自己申告だけに頼るのではなく、企業が責任を持って実態を把握する姿勢が求められます。

「残業がない」ように見せかけるための不適切な労働時間管理は、結局、未払い残業代請求などの大きなリスクにつながります。

業務の効率化と生産性の向上を徹底する

法定労働時間内で業務を完遂するためには、無駄な作業の削減、業務プロセスの見直し、ITツールの活用など、徹底した業務効率化と生産性向上が不可欠です。単に「残業禁止」を掲げるだけでは、従業員にしわ寄せがいくか、業務が停滞するだけです。経営層がリーダーシップを発揮し、具体的な改善策に取り組む必要があります。

隠れ残業・サービス残業を許さない風土づくり

「残業は悪」という意識が行き過ぎると、従業員が残業を申告しづらくなり、結果として隠れ残業やサービス残業が蔓延するリスクがあります。

企業は、法定労働時間内での業務完了を基本としつつも、万が一時間外労働が発生した場合には、それを正しく申告でき、適切に割増賃金が支払われる透明な環境を整備することが重要です。

36協定で定めることのできる時間外労働の上限

近年の働き方改革関連法により、36協定で定めることのできる時間外労働の上限は以前より厳格化されています。(2025年5月現在)

時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」とされています。臨時的な特別な事情がなければこれを超えることはできません。この「特別な事情」があり、特別条項付き36協定を締結する場合でも、以下のすべてを満たす必要があります。

  • 1年間の残業時間は、合計で720時間以内におさめること。
  • 残業時間と休日出勤の時間を合わせたものが、1ヶ月で100時間未満であること。
  • 残業時間と休日出勤の時間を合わせたものが、「2ヶ月間」「3ヶ月間」「4ヶ月間」「5ヶ月間」「6ヶ月間」のどの期間で見ても、1ヶ月あたりの平均が80時間以内になるようにすること。
  • 原則である1ヶ月45時間を超える残業ができるのは、1年のうち6ヶ月まで

これに違反すると企業は罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となる、というのが大きな変更点です。これにより、企業はより厳格な時間管理を求められるようになりました。

36協定の締結までには1ヶ月程度かかる

従業員に法定時間を超える残業や休日労働をさせるには、必ず事前に「36協定」を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。残業開始後の手続きでは遅く、法律違反となりますので注意しましょう。

36協定の締結までにかかる期間の目安

36協定の締結から届出までの一連の手続きには、通常、数週間から1ヶ月程度を見込むのが一般的です。36協定締結の際には、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、書面による協定が必要です。過半数組合がない場合の過半数代表者の選出には、投票、挙手などにより選出することとされており、この期間を念頭に置いた早めの準備が重要となります。なお、協定の有効期間は、毎年見直しを行う観点から1年間とすることが推奨されます。

36協定締結のタイミング

時間外労働をさせる前までに、締結・届出・周知の全てを完了させることが絶対です。残業開始後の遡及適用は認められません。事業開始時、残業の必要性が生じた際、または既存協定の有効期間満了前に、余裕をもって準備を始めましょう。少なくとも残業開始予定の1ヶ月以上前からの着手が理想です。

36協定締結の主な手順

  1. 労働者代表の選出
    労働組合か、過半数代表者を民主的な手続きで選びます。
  2. 協定内容の協議・決定
    残業の上限時間、有効期間(通常1年)などを労使で話し合い決定します。
  3. 協定書(36協定届)の作成・締結
    決定内容を協定届にまとめ、労使双方が記名押印(または署名)します。
  4. 労働基準監督署への届出
    管轄の労働基準監督署へ協定届を提出し、受理されて初めて効力が発生します。
  5. 労働者への周知
    協定内容を職場に掲示するなどして従業員に知らせます。

36協定を結ばない・廃止するには『残業ゼロ』が不可欠

36協定を結ばない・廃止し「残業ゼロ」の会社を目指すことは可能です。ただし、それには法定労働時間を厳守し、サービス残業などがない実態を確立することが大前提となります。

36協定を結ばない、または廃止するには、法定労働時間を守り実質的に残業ゼロを実現することが絶対条件です。一方、突発的な業務増を想定して上限を順守した36協定を締結しておくのも現実的な策です。その場合でも協定を名ばかりにせず、日々の労働時間を正確に管理し業務効率を高める努力が欠かせません。形式よりも、自社に合った適正な労務管理と従業員が健康で働きやすい環境づくりが最も重要です。


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