- 更新日 : 2025年4月4日
円安で日本で働く外国人労働者は減少するのか?日本離れの原因や対策を解説
近年、日本では外国人労働者が増加しており、貴重な働き手として重宝されています。しかし、円安による外国人労働者への影響が懸念されており、今後の動向が気になっている方も多いでしょう。
そこで本記事では、円安による外国人労働者数の影響について解説します。外国人労働者の日本離れの原因や対策、受け入れ時の注意点についても紹介します。
目次
円安で外国人労働者数は減少しているのか?推移データを解説
円安の影響で賃金水準が低下することにより、日本の外国人労働者が減少することが懸念されています。しかし厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」によると、2024年の外国人労働者数は約230万人にのぼり、過去最多を更新しました。
引用:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」
外国人労働者は年々増加の一途を辿っており、2024年は2023年に比べて約25万人増加しています。外国人を雇用する事業所数においても、2023年より約23,000箇所増えました。2024年時点では円安による影響はまだ少なく、外国人労働者数の減少は確認されていません。
外国人労働者の日本での就労意欲は低下傾向にある
マイナビグローバルが行った「日本在留外国人の日本での就労意欲・特定技能への意識に関する調査」によると、2024年の外国人労働者の就労意欲は91.0%でした。一見高いようにも見えますが、前回調査の2022年と比較すると5.8%減少しており、就労意欲は低下していることがわかります。
また、日本で働きたくない理由をまとめると以下のとおりです。
日本で働きたくない理由 | 割合 |
---|---|
円安だから | 38.5% |
働く環境が悪いから | 30.8% |
母国で家族と住みたいから | 25.0% |
将来的に日本の経済が発展しなさそうだから | 21.2% |
職場で外国人が受け入れられていないと感じたから | 21.2% |
給料が低いから | 19.2% |
他の国の方が稼げるから | 3.8% |
その他 | 5.8% |
参考:マイナビグローバル「日本在留外国人の日本での就労意欲・特定技能への意識に関する調査」
日本で働きたくない理由の最多は「円安」であり、自国通貨換算での収入減が懸念されています。他にも「働く環境が良くない」「給与が低い」といった理由が上位に挙がりました。
また、就職先を選ぶうえで重視するポイントは「給料」がもっとも多く、次いで「職場の人間関係」「労働時間・休暇」となりました。これらの結果から、外国人労働者は経済状況や労働環境を重視する傾向が強まっていると言えます。
外国人労働者が日本離れをしてしまう5つの原因
外国人労働者が日本離れをしてしまう原因は、主に以下の5つです。
円安の影響で母国通貨に換金しづらいから
外国人労働者の日本離れが進む大きな要因のひとつは、円安です。日本で受け取る賃金には問題がなくても、母国へ送金する際の受け取る側の金額減少が問題となっています。とくにアジア圏では、家族を養うために日本で働く人が多く、円安は生活を直撃するでしょう。
賃金体系が魅力的でも、送金額が減れば働く意欲は低下します。今後は、より貨幣価値の高い国や最低賃金の高い国への人材流出が懸念されます。日本が外国人労働者にとって魅力的な就労先であり続けるためには、国をあげて円安対策をしていくことが重要です。
母国の最低賃金が上昇しているから
外国人労働者が日本を選ぶ大きな理由は、母国との賃金差です。しかし、外国人労働者の母国の大多数を占める途上国では、最低賃金が上昇傾向にあります。たとえばベトナムでは2016年から2022年の間に約33%上昇(※1)しており、マレーシアでは2019年から2023年の間に約36%、インドネシアでは約24%(※2)の賃上げが実施されています。
※1 参考:ジェトロ(日本貿易振興機構)「ベトナム外国人就業規制・在留許可・現地人の雇用 最低賃金比較」
※2 参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「最低賃⾦額の推移|データブック国際労働比較2023」
賃金差が縮まれば、日本で働く魅力は薄れ、他国への流出や帰国を選ぶ人が増えるでしょう。日本は、賃金以外の魅力をアピールしていくことが求められます。
労働環境が過酷だから
日本が外国人労働者を受け入れる主な理由は人手不足です。しかし、労働環境の悪さが日本離れを加速させています。
日本では残業が常態化し、法令違反のブラック企業も存在します。とくに人手不足の職場では労働環境が悪化しやすく、ワークライフバランスを重視する外国人労働者にとって大きな懸念材料です。
過酷な労働環境は、せっかく日本に来た外国人労働者の意欲を削ぎ、他国への流出を招くリスクがあるでしょう。
日本語の習得が難しいから
コミュニケーションの壁は、外国人労働者が日本で働くうえでの大きな課題です。日本語は習得が難しく、習得を諦めてしまう人もいます。十分なコミュニケーションが取れないと、仕事の選択肢が狭まってしまうでしょう。
また、日本では英語が通じない場面も多く、職場だけでなく日常生活にも支障が出ることが考えられます。とくに、高度な専門スキルをもつ人材ほど、円滑なコミュニケーションを重視する傾向があります。日本語学習にかかる時間と労力を考慮すると、コミュニケーションの障壁が少ない英語圏や、母国語が活かせる国へ人材が流れる可能性もあるでしょう。
企業側も、多言語対応のサポート体制を整えるなど、外国人労働者が働きやすい環境づくりに努めることが求められます。
技能実習制度による問題があるから
技能実習制度は、日本の先進的な技術やノウハウを海外に移転することを目的とした制度ですが、実際には人手不足を補うための労働力として利用されるケースが増えています。しかし、この制度にはいくつかの問題点があり、外国人労働者の日本での就労意欲を低下させる要因となっています。
もっとも大きな問題は、技能実習生が原則として転職できないことです。この制限により、劣悪な労働環境やパワハラ・セクハラなどに苦しんでも、実習生は容易に職場を変えられません。その結果、長時間労働や賃金未払い、人権侵害などの問題が発生しています。
円安で外国人労働者は来なくなる?日本の企業が取るべき4つの対策
外国人労働者の減少に備えて、日本の企業が取るべき4つの対策を紹介します。
外国人労働者と日本人労働者の待遇を同等にする
外国人労働者に対する文化や人種による差別、ハラスメントは深刻な問題です。給与未払いや不当な残業など、待遇に差をつける行為は違法であり、最低賃金の遵守は必須です。
これらの問題は、外国人労働者の離職率を高めるだけでなく、企業の評判を大きく損なう可能性があります。SNSなどを通じて悪い口コミが広まれば、企業イメージは著しく低下し、人材確保にも悪影響を及ぼすでしょう。
企業は、外国人労働者も尊重し、公正な労働環境を提供することが求められます。差別やハラスメントを防止するための研修や相談窓口の設置、多言語対応の推進など、積極的な対策が必要です。
外国人労働者の受け入れ体制を整える
外国人労働者に「日本で働きたい」と思ってもらうには、働きやすい環境の整備が不可欠です。相手の文化や慣習を尊重し、労働環境を整えることで、定着率と効率化の向上が期待できます。
とくに言語面でのサポートは重要であり、円滑なコミュニケーションができるようになれば、仕事の効率や定着率が上がるでしょう。具体的には、多言語対応のマニュアル作成・通訳の配置・日本語学習支援制度の導入などが有効です。
また、文化や宗教に配慮した職場環境も重要です。たとえば、礼拝スペースの確保や、ハラール対応の食堂などが考えられます。これらの取り組みは、外国人労働者が安心して働ける環境を作り、日本での就業を魅力的にするでしょう。
外国人労働者の採用ルールを理解する
外国人労働者を採用する際は、多くの手続きと法律が関わります。法律を知らずに雇用すると、規定違反のリスクがあり、不法就労助長罪に問われる可能性もあります。主な注意点は以下のとおりです。
- 在留資格の確認
- 労働条件の明示
- ハローワークへの届出
- 不法就労助長罪
また、外国人労働者の採用が初めてで不安な場合は、外国人雇用に詳しい人材紹介会社や行政書士、ハローワークなどに相談してみるといいでしょう。法律を遵守し、適切な手続きを行うことで、安心して外国人労働者を雇用できます。
求人票や雇用契約の認識を合わせる
外国人労働者に限りませんが、従業員が企業で働くうえでは正確な情報の確認が不可欠です。認識している情報が曖昧だと、入社前後のギャップが生じ、労働意欲の低下や早期離職につながる可能性があります。
求人票や雇用契約書には、労働条件・給与・勤務時間など、必要な情報を詳細に明記しましょう。母国語での説明や翻訳された書類の用意など、情報伝達の工夫も必要です。
曖昧な求人票の提示や雇用契約の締結は、トラブルに発展しかねません。労働条件や賃金に関する契約書を事前に締結し、お互いの認識をすり合わせるようにしましょう。
外国人労働者を受け入れる際の注意点
外国人労働者を受け入れる際の注意点は、主に以下の3つです。
日本語能力を確認する
外国人労働者に仕事を任せるうえで、日本語能力は重要です。日本語レベルが低いと意思疎通が難しく、業務効率やミスに影響します。日本語レベルは日本語能力試験(JLPT)の認定レベルでチェックでき、ビジネスシーンではN1かN2レベルが目安です。また、労働者の言語スキル把握には、簡易的な日本語テストも有効です。
従業員同士のコミュニケーション不足は、指示の誤解や情報共有の遅延を招き、顧客対応が必要な業務では顧客満足度にも影響します。また、指示や注意書きの理解不足は、業務上のミスや労働災害につながる可能性もあります。言語スキルを正確に把握し、日本語学習支援の必要性も検討しておくといいでしょう。
在留資格を確認する
外国人労働者を採用する際には、在留資格が自社の業務内容に合致しているかを確認しましょう。在留資格の種類と実際の業務内容が異なる場合、企業側も罰せられる可能性があります。
在留資格は、外国人労働者が所持する「在留カード」で確認可能です。在留カードには、在留資格の種類・在留期間・就労の可否などの情報が記載されています。在留期限も必ず確認し、雇用期間が在留期限内であることを確認しましょう。在留期限を超えて雇用を継続すると、不法就労助長罪に問われる可能性があるためです。
在留資格に関する知識がない場合は、行政書士のような専門家に相談することをおすすめします。適切な手続きを行うことで、安心して外国人労働者を雇用できるようにしましょう。
文化の違いを理解しておく
国によって文化や価値観は大きく異なるため、外国人労働者の母国と日本では、働き方や生活習慣に異なる点があることを認識することが必要です。
たとえば、宗教上の理由で特定の時間に祈祷を行う必要がある場合や、食習慣によって食べられないものがある場合があります。これらの違いを理解し、配慮することで、外国人労働者は安心して働けるようになるでしょう。
また、チームで働くうえでの日本のビジネス文化も共有することが重要です。報連相(報告・連絡・相談)の重要性や時間厳守の意識など、日本特有のビジネス習慣を理解してもらうことで、お互いの認識のずれやストレスを軽減できるでしょう。
円安による外国人労働者への影響に関するよくある質問
最後に、円安による外国人労働者への影響に関するよくある質問2つを紹介します。
日本で働きたい外国人は減少している?
日本で働きたい外国人は、減少しているという調査結果もあります。一方で、外国人労働者数は増加が続いており、直近では円安の影響を受けていないと考えられます。
ただし、さらに円安が深刻化してしまうと、母国で受け取る賃金が減少していき、外国労働者数も減少するリスクはあるでしょう。外国人労働者数が減少する前に、企業でできる対策をしておくのが重要です。
外国人が日本で働きたくない理由は何?
- 円安の影響で母国通貨に換金しづらいから
- 労働環境が過酷だから
- 母国の最低賃金が上昇しているから
- 日本語の習得が難しいから
- 技能実習制度による問題があるから
労働環境やコミュニケーションの問題は、企業でも取り組めることがあります。たとえば、外国人労働者への差別をしないよう既存従業員への教育を徹底したり、日本語教育のサポート体制を整備したりする必要があります。
受け入れ体制を整備して円安による外国人労働者の減少を回避しよう
円安による外国人労働者数への影響は今のところは少ないですが、今後も円安が悪化してしまうと、貴重な労働力を失うリスクがあります。
円安下でも外国人労働者数は増加傾向ですが、就労意欲は低下傾向にあります。要因は円安による送金金額の減少や母国の賃金上昇、技能実習制度などの問題です。
企業で外国人労働者を受け入れるためには、待遇の平等化・受け入れ体制の整備・採用ルールの遵守・雇用契約の明確化が重要です。日本語能力や在留資格の確認、文化理解も欠かせません。
円安が深刻化すれば労働者減少のリスクがあり、企業は対策が必要です。労働環境改善や言語サポートで、外国人労働者の定着を図りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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