- 更新日 : 2025年3月26日
労災がおりるまでの期間の生活費は?傷病手当金や失業手当なども解説
仕事中や通勤中の事故や病気によって労災保険を申請したものの、実際に給付が開始されるまでには一定の時間がかかります。中には数ヶ月かかるケースもあり、その間の生活費に不安を抱える方も少なくありません。
この記事では、労災保険の給付を受け取るまでの期間にどのように生活費をやりくりすればよいのか、具体的な方法や支援制度、活用できる相談窓口までをわかりやすく解説しています。経済的な不安を少しでも和らげたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
労災がおりるまでの生活費をやりくりする方法
労災保険の申請を行っても、実際に給付が開始されるまでにはある程度の時間がかかります。そのため、その期間をどう乗り切るかが非常に重要です。ここでは、給付までの間に生活費を確保するための具体的な工夫や対処法を解説します。
生活費を節約する
最も基本的な対策は、生活費を節約することです。家計簿をつけて毎月の支出内容を把握し、生活に本当に必要な出費とそうでないものを区別することが大切です。
例えば、外食の回数を減らして自炊を増やす、利用していないサブスクリプションサービスを解約する、娯楽費や嗜好品の出費を控えるなど、すぐに取り組めることから始めてみるとよいでしょう。節約を一時的な我慢ではなく、効率的な生活スタイルの見直しと考えると、気持ちの負担も軽減されます。
有給休暇を活用する
労災による休業中であっても、有給休暇が残っている場合にはその活用を検討できます。有給休暇を使用すれば、通常通りの給与が支給されるため、生活費の確保につながります。
ただし、有給を使った日は労災保険の休業(補償)給付の対象外となるため、将来的な労災給付と重複しないよう注意が必要です。また、有給休暇の取得には、会社の承認が必要な場合もあるため、事前に就業規則を確認した上で人事担当者と相談することが望ましいです。
勤務先へ相談する
勤務先の会社によっては、労災保険の給付が始まるまでの間に従業員を支援する独自の制度を設けていることがあります。例えば、一時的な給与の前払い、休業手当の支給、または社内貸付制度の利用などです。
また、事故や疾病の原因が会社の安全配慮義務違反によるものである場合には、損害賠償請求などの形で会社に対し一定の補償を求められる可能性もあります。まずは会社の就業規則や労働協約を確認し、不明な点は人事部門や労務担当者に相談してみると良いでしょう。
貯蓄や保険を活用する
これまでに積み立ててきた貯蓄がある場合は、当面の生活費として活用するのも一つの方法です。また、個人で加入している保険の中に、入院保険や所得補償保険が含まれている場合は、条件を満たすことで給付金を受け取れる可能性があります。
契約内容を確認し、該当する保険があれば、速やかに保険会社へ連絡し、必要な申請手続きを行いましょう。貯蓄や保険の給付は、審査が比較的簡単で早く受け取れる場合もあります。
短期間や単発の仕事をする
病状が安定しており、医師の判断で軽作業などが可能とされた場合には、短期間や単発の仕事を検討するのも一つの方法です。特に、在宅でできる業務や短時間勤務など、体への負担が少ない仕事であれば、生活費の補填に役立つ可能性があります。
ただし、労災保険の申請中に無理な働き方をしてしまうと、回復が遅れたり、給付に影響することもあります。必ず医師の指示に従い、健康状態を最優先に考えて行動することが大切です。
家族や友人に支援をお願いする
身近な家族や信頼できる友人に、状況を説明した上で一時的な支援をお願いするという選択肢もあります。お金を借りることにためらいがあるかもしれませんが、困ったときには支え合うことも大切です。感謝の気持ちと共に、返済の計画や時期についても明確に伝えることで、トラブルを防ぎながら安心して支援を受けることができます。
労災がおりるまでの流れ
労災の手続きは一連の流れがあり、誰でも分かりやすく進められるようになっています。そのプロセスを理解することで、スムーズに手続きを行い、早期に補償を受けることが可能になります。
労災申請の準備
最初に、労災申請のための準備が必要です。事故や病気が発生した場合は、すぐに医療機関を受診し、その内容を文書で記録しておくことが重要です。このとき、診断書や検査結果などの資料を手元に保管しておくと、後の手続きがスムーズになります。さらに、事故が起きた状況を詳しく記録しておくことも、後の申請に役立ちます。
労災保険の申請手続き
次に、労災保険の申請手続きを行います。申請書類は、勤務先の労働基準監督署で入手できます。申請には、医療機関からの診断書や事故の状況を説明した書類が必要です。これらの資料を提出する際には、なるべく詳細に記入し、自分の状況を正確に伝えることが大切です。
審査と調査
申請後、労働基準監督署による審査が始まります。ここでは、提出した書類の内容が正確であるか、また労災の認定基準に適合しているかが調査されます。この審査には数週間から数か月かかることがありますが、大切なのは、しっかりとした証拠を揃えていることです。あなたの主張を裏付ける資料が多ければ多いほど、スムーズに進む可能性が高まります。
認定通知の受領
審査が完了すると、労働基準監督署から認定通知が送られてきます。この通知には、労災の認定結果が記載されています。認定された場合は、補償が開始され、生活費を支えるための支援が受けられます。反対に不認定となった場合は、異議申し立てを行うことも可能ですが、このプロセスはさらに手間がかかります。
補償の開始
労災が認定されると、補償が開始されます。この補償内容には、治療費や休業補償が含まれています。これにより、生活費の不安が軽減されることになります。具体的な補償額や内容は、労災の種類や状態によって異なるため、事前に確認しておくことをお勧めします。早期に補償を受けることで、生活を安定させながら治療に専念することができるでしょう。
労災がおりるまでの期間の目安
給付までの期間は、申請内容や事案の複雑さ、申請書類の正確さなどによって大きく変わります。ここでは、主な給付の種類ごとに、一般的にかかるとされる期間の目安を紹介します。
療養(補償)給付・休業(補償)給付
最も申請件数が多いとされるのが、通院や入院にかかる医療費を補償する「療養(補償)給付」と、働けない間の収入の一部を補償する「休業(補償)給付」です。
これらの給付は、比較的スムーズに進むケースでは、申請から給付決定までおよそ1ヶ月程度とされています。しかし、すべてがこの通りに進むわけではなく、以下のような要因によって長引くこともあります。
- 労働とケガや病気との因果関係について、詳細な調査が必要な場合
- 申請書類に不備がある場合や、提出書類が不足している場合
- 労働基準監督署が管轄する案件数が多く、対応が遅れている場合
これらの事情によって、給付までに3ヶ月、場合によっては半年以上かかるケースもあります。
障害(補償)給付
業務上のケガや病気によって、治療が終わっても体に障害が残った場合は、「障害(補償)給付」を申請できます。この給付では、障害の程度がどの等級に該当するかを、医学的な観点から慎重に判断する必要があるため、審査には時間がかかる傾向があります。
一般的には、申請から給付決定までに約3ヶ月程度が目安とされています。ただし、障害の内容が複雑だったり、複数の医師の意見を求める必要がある場合には、さらに時間がかかることがあります。
遺族(補償)給付
労働災害によって労働者が死亡した場合、その遺族に対して支給されるのが「遺族(補償)給付」です。この給付では、死亡の原因が業務に起因するものかどうか、遺族との関係が適切かどうかなど、慎重に確認されます。
そのため、申請から給付が決定されるまでにかかる期間は、一般的に4ヶ月程度とされています。ただし、死亡原因が業務との関係で争われていたり、必要な証明書類が揃っていない場合などは、さらに長くかかることもあります。
労災が遅れた・足りない場合に使える公的支援制度
労災保険の給付は、申請してすぐに受け取れるわけではありません。審査や調査に時間がかかることも多く、給付が遅れるケースは少なくありません。また、実際に支給されたとしても、生活費としては不十分に感じることもあります。
このような状況に備えて、国や自治体ではさまざまな公的支援制度を用意しています。ここでは、労災給付が間に合わない場合や、生活費が不足する場合に検討できる主な支援制度について、それぞれの特徴や利用条件を詳しく解説します。
傷病手当金
傷病手当金は、健康保険に加入している人が、業務外の病気やけがにより働けなくなった場合に受け取れる給付です。通常、労災による傷病は対象外とされていますが、例外として労災認定までに時間がかかっている場合に限り、暫定的に受給できる可能性があります。
ただし、後日労災が認定され、労災保険から給付が行われた場合には、傷病手当金を返還しなければならないことが原則とされています。そのため、利用を検討する際は、健康保険組合などと事前に相談しておくことが重要です。
傷病手当金の支給にはいくつかの条件があります。病気やけがによって労務不能であること、連続して3日間以上仕事を休んでおり、その後も休業が続いていること、そして休業中に給与の支払いがないことなどが求められます。
給付額は、支給開始日前の直近12か月間の標準報酬月額の平均の3分の2に相当する金額が、1日あたりで支給されます。最長で1年6か月まで受け取ることが可能です。申請には、医師の意見書と事業主の証明が必要となり、加入している健康保険組合や協会けんぽに提出します。
失業保険(雇用保険の求職者給付)
失業保険は、働く意欲と能力があるにもかかわらず職を失った人が、再就職までの間に一定の収入を確保するための制度です。ただし、労災保険の休業補償給付を受けている間は、働くことができない状態とみなされるため、基本的に失業保険は併用できません。
しかし、労災による傷病が回復した後に離職し、失業の状態となった場合には、雇用保険の受給資格を満たすことで申請が可能です。受給するためには、離職前の2年間のうち、12か月以上雇用保険に加入していた期間があることが必要です。
給付額や給付期間は、離職理由や離職前の賃金、保険の加入期間、年齢などにより変わります。申請は、ハローワークで求職の申し込みを行い、離職票などの必要書類を提出することで開始されます。
生活保護
生活保護は、病気や失業などによって収入が十分に得られず、自分や家族の生活が成り立たない場合に、国や自治体が必要な援助を行う制度です。他の社会保障制度を利用しても生活が困難な場合に、最終的な支援策として申請できます。
生活保護を受けるためにはいくつかの条件を満たす必要があります。まず、収入が厚生労働省が定めた最低生活費を下回っていること。そして、預金や不動産などの資産がほとんどないこと。さらに、働ける能力がある場合には、それを活用する努力をしていること。他の制度を活用できる場合には、そちらを優先的に利用していることも求められます。
生活保護には複数の扶助があり、食費などをまかなう生活扶助、病気の治療に関する医療扶助、家賃を補助する住宅扶助など、個々の事情に合わせて必要な援助が提供されます。
申請は、お住まいの市区町村にある福祉事務所で行います。労災保険の給付が後から認められた場合には、状況に応じて生活保護費の返還を求められることがありますが、当時に生活資力がなかったと認められれば、返還義務が免除される可能性もあります。
生活福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度は、低所得者や高齢者、障害者など、経済的に困難な状況にある世帯を対象に、生活費や医療費などを無利子または低利子で貸し付ける制度です。各都道府県の社会福祉協議会が行っています。
この制度にはいくつかの種類があり、生活支援費、医療介護資金、就職支援資金、福祉費など、それぞれ用途に応じた貸付が用意されています。利用できるかどうかは、申請者の収入状況や資産の有無、借入希望額や返済能力など、自治体ごとの基準により判断されます。
申請は、お住まいの地域の社会福祉協議会を通じて行います。貸付限度額や返済条件も制度によって異なるため、事前に詳しい説明を受けることが大切です。
労災に関して相談できる窓口一覧
労災保険の申請や給付、生活費に関する不安や悩みを抱えている場合、一人で抱え込まずに専門機関に相談することが重要です。ここでは、困ったときに頼れる主な相談窓口をご紹介します。
労働基準監督署
労働基準監督署は、労災保険の申請手続きや給付内容に関する相談、労災認定の審査過程などについて対応してくれる国の機関です。各地域に設置されており、担当の労災課に問い合わせることで、具体的なアドバイスや必要書類の案内を受けることができます。
また、厚生労働省が設けている「労働保険相談ダイヤル」では、電話での一般的な相談も可能です。詳細は厚生労働省の公式ウェブサイトから確認できます。
参考:労災保険相談ダイヤル
総合労働相談コーナー(都道府県労働局)
都道府県ごとに設置されている総合労働相談コーナーでは、労働条件、解雇、残業代未払い、労働災害など、さまざまな労働トラブルに対応しています。労災に関する相談も行うことができ、労働基準監督署と連携しながら解決策を提案してくれるケースもあります。
予約不要で利用できる場所も多く、匿名での相談が可能な場合もあります。専門の相談員が対応してくれるため、初めての方でも安心して相談できます。
社会福祉協議会
生活に困っている方の支援を行っている社会福祉協議会では、生活福祉資金貸付制度をはじめ、日常生活の悩みに関する相談に対応しています。自治体ごとに設置されており、地域の実情に応じた支援制度を紹介してくれるのが特徴です。
貸付に関する相談だけでなく、他の公的支援制度との併用についてもアドバイスを受けられるため、経済的に厳しい状況にある方は早めに相談することが望ましいです。
弁護士・法テラス
事故の責任が会社にあると考えられる場合や、労災申請を妨害されたなど、法的対応が必要と思われる場合には、弁護士に相談することをおすすめします。多くの弁護士事務所では、労働問題に特化した初回無料相談を実施しています。
また、法テラス(日本司法支援センター)では、収入に応じて無料の法律相談や弁護士の紹介、費用の立替え制度を提供しており、経済的に厳しい状況でも安心して利用できます。
労働組合
勤務先に労働組合がある場合は、労災に関するトラブルや給付に関する疑問についても相談可能です。労働組合は、労働者の権利を守るための組織であり、会社に対する交渉やアドバイス、必要な支援を提供してくれます。
特に、会社が労災申請に非協力的な態度をとっている場合や、休業中の待遇について争いがある場合には、労働組合の支援を受けることで解決に向けた一歩を踏み出すことができるでしょう。
労災に関する悩みは早めに相談しましょう
労災保険の給付が決定するまでには、申請内容の審査や調査に時間がかかるため、その間の生活費をどのように確保するかが重要な課題となります。
不安を抱えたまま一人で悩むのではなく、状況に合った支援策を積極的に活用しながら、安心して療養・回復に専念できる環境を整えることが大切です。困ったときは、はやめの情報収集と相談を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
社会保険料は日割りで計算できる?資格喪失日についても解説
社会保険料は月単位で算出されるため、従業員の退職時に日割り計算をする必要はありません。また、同じ月に退職するにしても、退職日が月の途中か末日かで、保険料の納付が必要となる月が異なります。 ここでは、具体的なケースをもとに従業員の退職にともな…
詳しくみる労働保険への加入方法
労働保険(労災保険と雇用保険)への加入方法を知っていますか?ここでは、労働保険に加入するため手続き、労働保険の加入に必要な各種届出、申告書の主な内容について解説します。 労働保険へ加入するための手続き 労働保険料の徴収に関しては、すべての事…
詳しくみる社会保険の休業補償とは?金額や手続きについて解説
休業補償給付とは、業務災害にあった従業員の生活の保護を目的とする社会保険(労働保険)の1つ、労災保険の制度です。企業として労働災害は軽視できない問題であり、労災事故を発生させない仕組みづくりのほか、被災した従業員への適切なサポートも求められ…
詳しくみる共働き世帯の子供はどちらの扶養に入れるのがお得?扶養制度を利用するコツを解説
共働きで子どもを育てている家庭は珍しくありません。しかし、そのような場合には、どちらの扶養に子どもを入れることが正解なのでしょうか。また、その判断基準はどこにあるのでしょう。 当記事では、共働き世帯における扶養について解説します。制度を活用…
詳しくみる社会保険の扶養とは?年収の壁についても解説
配偶者の収入で生活している専業主婦などは、自分では社会保険に加入しなくてもよい場合があります。社会保険被保険者である配偶者の扶養に入ることで、自分自身は社会保険料を納付しなくても健康保険を使えたり、年金を満額で受け取れたりします。年収130…
詳しくみる健康保険の被扶養者の要件について
日本に在住する人であれば、短期滞在者を除いて国籍にも性別にも年齢にも関係なく、どの人に対しても加入が義務付けられているのが健康保険です。 この健康保険により、病気や負傷、出産や亡くなってしまった際などに保険金の給付が得られます。保険給付は保…
詳しくみる