- 更新日 : 2024年12月13日
健康保険の年齢は何歳まで?70歳以上を雇用する場合の手続きを解説
健康保険は、労働者が医療機関を受診する際に必要となる制度です。年齢によって扱いが変わるため、労働者を雇用する際には注意しなければなりません。手続きに誤りがあれば、一旦治療費を全額自己負担しなければならない場合もあります。今回は70歳以上の健康保険について解説しますので、当記事を参考に適切な手続きを行ってください。
目次
健康保険の加入年齢は何歳まで?
日本は国民皆保険であるため、国民全員が何らかの公的な医療保険に加入します。そのなかでも、健康保険の加入年齢は75歳までです。
社会保険における年齢は、誕生日当日ではなく誕生日の前日に加算される仕組みです。たとえば、誕生日が11月14日であれば、誕生日である14日ではなく前日の13日を基準に年齢が加算されます。そのため、40歳から加入する介護保険では、誕生日の前日が属する月から保険料が徴収されます。
健康保険の資格喪失日は、原則として退職日や死亡日の翌日です。被保険者の退職日が4月1日であれば、4月2日に資格を喪失します。しかし、75歳到達による資格喪失および後期高齢者医療制度への加入は、例外的に誕生日の当日を基準とします。75歳の誕生日が2024年11月14日であれば、誕生日当日の2024年11月14日に健康保険の資格を喪失し、後期高齢者医療制度に加入する取り扱いです。日本は国民皆保険であるため、無保険の日が一日でもあってはなりません。
被扶養者の場合
被保険者本人が後期高齢者医療制度に加入した場合、扶養家族である被扶養者は資格を喪失し、国民健康保険に加入します。健康保険の扶養の条件を満たしたままでも、この扱いは変わりません。これは、後期高齢者医療制度に扶養の仕組みがないためです。
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そもそも健康保険とは?
健康保険とは、労働者および、その扶養する家族の業務外の事由による病気や怪我、死亡、出産などに関して保険給付を行う公的な医療保険制度です。健康保険に加入することで、原則3割の負担で医療機関を受診できるだけでなく、傷病手当金や出産手当金などを受給できます。
健康保険の保険料額
健康保険の保険料は、雇用する企業と企業で働く労働者が折半して負担する仕組みです。保険料額は、標準報酬月額に保険料率を乗じることで計算できます。健康保険の保険料率は都道府県ごとに異なり、たとえば最も保険料率の低い新潟県では介護保険に加入しない場合、9.35%が保険料率です。一方、最も保険料率が高い佐賀県では10.42%となっており、都道府県ごとに大きな差があります。
参考:令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)|全国健康保険協会
健康保険の年齢別負担割合
健康保険に加入している場合、被保険者本人とその扶養する家族は一定割合の負担のみで医療機関を受診できます。しかし、負担割合は以下の通り年齢によって異なります。
年齢による負担割合 | |
---|---|
70歳から75歳未満 | 原則2割(現役並所得者は3割) |
70歳未満 | 3割 |
6歳未満 | 2割 |
健康保険の徴収方法
健康保険料は、企業と労働者が折半して負担しますが、労働者負担分を労働者自身が納める必要はありません。企業が毎月の給与を支払う際に労働者負担分を天引きし、労働者に代わって納付します。納付期限は対象月の翌月末日であり、支払い方法は窓口納付のほか、口座振替や電子納付などから選択可能です。
健康保険と国民健康保険との違い
健康保険は、会社員や公務員が加入する保険であり、自営業者等は国民健康保険に加入する必要があります。国民健康保険も原則3割の負担であるなど、健康保険とほぼ保障内容は変わりませんが、傷病手当金や出産手当金が支給されないなどの違いがあります。また、健康保険の保険料が企業と労働者の折半であるのに対して、国民健康保険の保険料は被保険者本人が全額負担します。
健康保険と社会保険との違い
健康保険は、社会保険を構成する保険制度のひとつです。社会保険には広義と狭義の2つがあり、広義の社会保険は以下の5つを含みます。
狭義の社会保険は、上記の5つから雇用保険と労災保険を除いたものです。通常、社会保険といえば、狭義の社会保険を指します。なお、雇用保険と労災保険の2つは労働保険とも呼ばれます。
70歳以上の健康保険の手続き
多様な人材の活用が進む昨今では、70歳以上の高齢者を雇い入れることも珍しくありません。また、雇用されている労働者が70歳以上となる場合もあるでしょう。70歳以上の健康保険の手続きについて解説します。
新たに70歳以上の労働者を雇用する場合
新たに70歳以上となる労働者を雇用する場合、健康保険の手続きは通常の労働者を雇い入れた場合と同様です。労働者を雇い入れた日から5日以内に「健康保険被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出し、資格取得の手続きを行います。ただし、70歳未満の場合と異なり、健康保険証のほかに「高齢受給者証」が全国健康保険協会から交付されます。
70~74歳までの健康保険の手続き
すでに雇用されている労働者が70歳になった場合、健康保険について特別の手続きは不要です。70歳以降も75歳となるまで手続きを行う必要はありません。健康保険は厚生年金保険と異なり、75歳まで被保険者として扱われるためです。なお、高齢受給者証については、70歳となる誕生月の中頃に事業所へ届きます。
75歳で健康保険を返納する手続き
健康保険は74歳までであれば特別の手続きが不要ですが、75歳になったときには手続きを行う必要があります。75歳以上となった労働者の健康保険に関する手続きを解説します。
健康保険の返納期限
75歳になった労働者は健康保険の資格を喪失し、後期高齢者医療制度に加入します。資格喪失日である誕生日から5日以内に「健康保険資格喪失届」を日本年金機構へ提出し、健康保険の資格喪失手続きを行います。後期高齢者医療制度への加入手続きは自動で行われるため、特別の手続きは不要です。
75歳になると健康保険の資格を喪失するため、健康保険証を返納しなければなりません。速やかに健康保険証と高齢受給者証を回収し、資格喪失届に添付したうえで日本年金機構に返納します。返納期限は資格喪失日から5日以内ですが、仮に回収できなった場合には、「回収不能届」を代わりに添付する必要があります。
扶養家族がいる場合
75歳となった労働者に扶養家族がいる場合には、75歳の誕生日に被扶養者の資格を喪失します。被扶養者の健康保険証も回収し、労働者分と合わせて日本年金機構に返納します。これ以降、扶養家族は国民健康保険に加入し、国民健康保険の保険証を利用することになります。扶養する家族が国民健康保険に加入する場合、「資格喪失証明書」が必要です。労働者の資格喪失届を提出する際に、資格喪失証明書の発行手続きも同時に行いましょう。
70歳以上の厚生年金保険に関する手続き
健康保険は、原則として70歳以上になっても特別の手続きは不要です。しかし、厚生年金保険は健康保険と異なり70歳になると資格を喪失するため、手続きが必要です。なお、この場合の資格喪失日は、70歳の誕生日の前日となります。
すでに雇い入れている労働者が70歳となった際には、「厚生年金保険70歳以上被用者該当届」を提出しなければなりません。70歳以上の労働者は厚生年金保険において、「70歳以上被用者」となるからです。また、70歳になったことで資格を喪失するため、「厚生年金保険被保険者資格喪失届」の提出も必要となります。これらの書類は「70歳到達届」として1枚にまとめられており、提出期限は70歳の誕生日の前日から5日以内です。なお、同じ事業所で継続勤務しており、70歳以降も報酬額等に変更がなければ70歳到達届の提出は不要です。
雇い入れる労働者が70歳以上の場合には、健康保険の資格取得手続きと同時に「厚生年金保険70歳以上被用者該当届」を提出しなければなりません。なお、提出期限は、健康保険資格取得届と同様に雇い入れから5日以内です。
70歳以上となる労働者が退職した場合には、「厚生年金保険被保険者資格喪失届」と「厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」の提出が必要です。健康保険証と高齢受給者証は、退職の翌日から5日以内に喪失届に添付して返納しましょう。
75歳以上の後期高齢者医療制度とは?
国民皆保険である日本では、75歳となって健康保険の資格を喪失しても無保険とはなりません。75歳の誕生日から後期高齢者医療制度に加入することになります。
後期高齢者医療制度は、「後期高齢者医療広域連合」が運営する公的医療保険制度です。「後期高齢者医療広域連合」は都道府県を単位として設立され、区域内の市区町村が加入する公共団体で、75歳以上の高齢者や65歳以上75歳未満で一定の障害の状態である者が加入します。健康保険や国民健康保険と同様に療養の給付などを行っており、加入者は一定割合の負担で医療機関を受診できます。
後期高齢者医療の保険料額
後期高齢者医療制度の保険料は、都道府県単位で運営される広域連合が決定しており、被保険者の市区町村で保険料を徴収して広域連合に納付します。
後期高齢者医療制度の保険料は、被保険者に均等に掛かる「均等割」と、前年の所得に応じた「所得割」で構成されます。均等割額や所得割率は健康保険と同様に都道府県(広域連合)ごとに異なり、たとえば被保険者ひとり当たりの2024年における平均保険料額が最も高い東京都では月額9,180円です。一方、最も低い秋田県では月額4,397円となっています。
後期高齢者医療制度の保険料は、企業と労働者が折半負担する健康保険と異なり、被保険者が全て負担して納付します。納付手続きは、原則として年金からの天引きとなる特別徴収です。ただし、年金額が18万円未満の場合などには、納付書等で納める普通徴収となります。
参考:後期高齢者医療制度の令和6・7年度の保険料率について|厚生労働省
医療費の負担割合
後期高齢者医療制度の窓口負担割合は一定ではありません。所得により、下記のような違いがあります。
負担の割合 | 区分 | 基準 |
---|---|---|
1割 | 一般所得者 | 2割および3割に該当しない場合 |
2割 | 一定以上所得者 | 1.と2.の両方に該当する場合
|
3割 | 現役並所得者 | 同一世帯の被保険者のなかに課税所得が145万円以上となる者がいる |
2022年9月までは1割と3割負担のみの区分でしたが、2022年10月より一定以上所得者が追加され、三段階の区分となりました。後期高齢者医療制度は、保険料額に大きな幅がありますが、窓口負担にも幅があることがわかります。
高齢受給者証との違い
70歳以上となる健康保険の被保険者には、健康保険証のほかに高齢受給者証が交付されます。医療機関を受診する際には、この2つを提示しなければなりません。一方の後期高齢者医療制度では、被保険者に対して「後期高齢者医療被保険者証」を交付しています。医療機関を受診する際には、後期高齢者医療被保険者証のみ提示すればよく、高齢受給者証のようなものはありません。
健康保険では年齢に注意を
健康保険は、75歳になると資格を喪失します。同じ社会保険である厚生年金保険では、70歳で資格を喪失するため、混同しないようにしなければなりません。当記事を参考に、年齢に応じた健康保険の理解を深め、スムーズに手続きを行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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