- 更新日 : 2025年3月4日
諭旨退職とは?会社都合か自己都合か、退職金の扱いや転職の影響を解説
諭旨退職は会社都合による退職なのか、自己都合退職と違うのか迷うことがあるでしょう。諭旨退職は懲戒処分の一種です。懲戒解雇相当の問題行動があった際、企業が退職するように勧告し、従業員自ら身を引いて退職させることを指します。
諭旨退職とは何か、手続きの方法や、退職金、失業保険、転職にどのような影響を与えるのかを解説します。
目次
諭旨退職とは?
諭旨退職は、懲戒処分に次ぐ重い処分です。懲戒解雇に相当するような事由があった際、そのような行為をした情状を酌量し、処分を若干軽減して退職届を提出するように勧告し、従業員自ら身を引いて退職させることをいいます。諭旨退職の「諭旨」は「ゆし」と読み、その趣旨や理由を、文字通り諭(さと)して告げることを意味します。
諭旨退職と同じような処分に諭旨解雇があります。諭旨解雇は労働者と話し合って、労働者と企業がお互いに納得した上で解雇する処分です。諭旨退職と諭旨解雇とでは退職とするか解雇とするかの違いはあるものの、法律に定義があるわけではなく、実質的には同じ処分の方法として位置付けられています。
諭旨退職と諭旨解雇のどちらの処分を設けるかは、企業ごとに任意で決めることが可能です。就業規則の懲戒規定には諭旨退職と諭旨解雇のいずれか一方の処分しか設けず、同じ企業で両者を使い分けることがないのが一般的です。
懲戒解雇との違い
懲戒解雇は企業の秩序を維持するための制裁罰である懲戒処分の中で最も重い処分であり、使用者が一方的に処分を下します。しかし、諭旨退職は、情状を酌量して温情的に処分を軽減し、一定期間考える時間を与え、自ら退職するように促します。ただし、労働者が従わない場合は懲戒解雇とするのが一般的です。
諭旨退職は会社都合か自己都合か
諭旨退職が自己都合になるのか、会社都合になるのかを判断するのは難しい問題です。なぜなら離職理由はハローワークで判断することになるからです。会社都合、自己都合のいずれに該当するのかは、諭旨退職に至った経緯をありのままハローワークで説明し、相談するようにしましょう。
自己都合退職になるケース
諭旨退職は普通解雇や退職勧奨とは異なります。懲戒処分に相当するような行為を行ったという事実はあるものの、懲戒解雇よりも若干軽減した処分にとどめ、従業員に自ら身を引いて退職するかどうかの選択肢を与えていることになります。そのため、ハローワークに提出する離職証明書の離職理由では、自己都合退職という形になることが多いようです。
この場合、離職証明書を作成する際の離職理由は「労働者の個人的な事情により離職(一身上の都合)」とし、具体的内容記載欄に「自己都合(諭旨退職)」と記載することになります。自己都合による退職は、雇用保険の基本手当の給付日数は最大150日となり、1年間以上の加入期間が必要となり、給付制限の対象となります。
会社都合になるケース
論旨退職としながらも、ハローワークで実態が退職勧奨に近いと判断されると会社都合の退職とするように補正を求められることがあります。退職勧奨とは、会社から働きかけて従業員に退職を勧め、従業員が退職に応じることを指します。
退職勧奨による退職は会社都合の退職となるため、離職証明書の離職理由は退職勧奨としなければなりません。諭旨退職とする場合は、就業規則の懲戒規定に諭旨退職の規定があり、諭旨退職の要件に該当するとともに、処分をするまでの手続きを正確に行う必要があります。諭旨退職に法律上の決まりがないだけに、諭旨退職に該当する事実(従業員を処分するほどの行為)と処分を行う就業規則上の根拠があり、手続きに則って処分をしたことを企業が証明できなければ、退職勧奨と判断される可能性があります。
最終的には所轄のハローワークで判断することになりますので、懲戒処分の通知や就業規則の懲戒規定などをもとに、ハローワークで確認をするのがよいでしょう。
諭旨退職した場合の退職金の扱い
退職金がある企業の場合は、就業規則の懲戒規定の退職金の取り扱いや、退職金規程をよく確認する必要があります。懲戒解雇の場合は、懲戒規定や退職金規程に退職金の全部や一部を不支給とする定めをおくことが多いでしょう。一方、諭旨退職の場合は、「退職金の一部を支給しないことがある」など定め、一部減額する規定を設けるのが一般的です。退職金を不支給にして、後日従業員から請求されるケースもあるので注意しなければなりません。
また、就業規則に退職金を支給しない旨の定めがあるからといって、それだけで退職金を不支給にできるかは別問題です。過去の裁判例では、従業員のそれまでの勤務による功績を抹消または減殺するほどの著しい背任行為がなければ、退職金を不支給にすることはできないと判断したものがあります。
諭旨退職の要件
従業員を諭旨退職とするためには、以下の要件を満たす必要があります。それぞれの要件についてはほとんど諭旨解雇と同じ流れになります。
就業規則に定められていること
企業が諭旨退職の処分をするためには、就業規則に懲戒処分の規定を設け、懲戒処分の種類や懲戒事由を定めてあるのが前提です。就業規則は、合理的なルールを定めて従業員に周知することで効力が発生します。有効な就業規則でなければ、その内容を労働契約の内容とすることはできません。つまり、諭旨退職の処分ができる根拠が就業規則に定められていなければ、企業は諭旨退職の処分を下すことができないことになります。
懲戒事由に該当すること
当然ですが、懲戒事由に該当しなければ、諭旨退職の処分をすることはできません。そのため、就業規則の懲戒規定では、できるだけ具体的に懲戒処分の種類や懲戒事由を定めておく必要があります。
懲戒権の濫用に当たらないこと
裁判などで諭旨退職が懲戒権の濫用に該当すると判断されれば、就業規則に基づき諭旨退職の処分を行ったとしても、その処分は無効になります。懲戒については労働契約法第15条で判断されます。
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
つまり、就業規則に懲戒規定があって諭旨退職の処分ができるとしても、正当な手続きを経た上で処分を下し、処分の重さが妥当でなければ、無効になるという意味です。諭旨退職が認められるかどうかは、最終的には司法の判断に委ねられることになります。
諭旨退職の手続きの流れ
諭旨退職の要件と手続きが正当に行われていたかが、諭旨退職の有効性を左右します。手続きの流れについても見ていきましょう。
諭旨退職の手続きの手順
諭旨退職の手続きの流れは以下のようになります。
- 違反行為の事実確認をする
諭旨退職は、懲戒解雇相当の事由に該当する違反行為がなければできません。まず最初に違反行為が事実であるかを調査し、事実確認をする必要があります。従業員本人から事情を聴取して事実を認めることはもちろんのこと、被害者や関係者などにも事情聴取が必要です。また、過去に同様の違反行為を行い、諭旨退職よりも軽い処分を何度か行っていても改善が見られないようなケースでは、その都度始末書を取るなど、書面で記録を残しておくことも重要です。 - 就業規則の懲戒規定で懲戒事由に該当するかを確認する
事実が確認できたら、違反行為が諭旨退職の事由に該当するかを確認します。懲戒事由と照らし合わせて処分の重さを判断します。 - 弁明の機会を設ける
公正性を担保するために、懲戒委員会などを設けて懲戒処分を決定するのもよいでしょう。懲戒権の権利の濫用を従業員から主張されることもあるため、弁明の機会を設け、公正に処分の重さを決定する必要があります。裁判などで争うことになった場合には、弁明の機会を与えていなかったことが不利に働くこともあります。 - 諭旨退職の処分を下す
違反行為の証拠や証言などから、最終的な決定を下します。事実と異なることがあっては取り返しがつかないため、慎重な判断が必要です。 - 懲戒処分通知書を交付する
諭旨退職は、情状を酌量し、処分を若干軽減して退職届を提出するように勧告する処分です。本人の退職の意思を確認するためにも、退職届を提出してもらうのがよいでしょう。
諭旨退職を行う際の注意点
違反行為をした従業員を諭旨退職にする際の注意点について解説します。
処分が重過ぎることがないかを慎重に判断する
労働契約法15条では、懲戒について「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当性」であることを求めています。諭旨退職は懲戒処分の1つであり、従業員が退職させられることには変わりありません。違反行為を行った理由によっては、情状酌量の余地がないか、処分が重すぎないかなど、慎重に判断する必要があります。
処分した理由を明確にして説明する
論旨退職は、従業員が職を失うほどの不利益がある処分です。就業規則に明記されている懲戒事由に該当することを伝え、 諭旨退職は懲戒解雇に相当する処分を軽減する処分であること、自ら退職することが選べる温情を与える処分であることをよく説明しましょう。従業員が納得しなければ、退職することを拒否することが考えられます。
諭旨退職の要件を確認し手続は確実に行う
諭旨退職は懲戒解雇と同様、安易に処分を下せば、企業は訴訟リスクを抱えることになります。裁判で無効と判断されれば、多額の賠償を支払うことになります。退職金を減額する際も同様です。諭旨退職の要件に該当するかをよく確認するとともに、手続きに不備があってはなりません。ときには弁護士などの専門家に相談することも必要です。
諭旨退職を労働者が拒否した場合の対処法
諭旨退職を従業員が退職を拒否した場合は、懲戒解雇にするのが一般的です。しかし、従業員が即時退職することを決断できないケースもあるため、1週間や10日間など、回答に期限を設けるケースもあります。
従業員が退職を拒否した場合、不当な処分として諭旨退職や懲戒解雇の処分の無効を主張し、損害賠償を請求するケースが考えられます。訴訟で処分が無効となれば、企業の信用を失うばかりか、他の従業員への影響は計り知れません。安易な処分は控え、訴訟となった場合には、弁護士に相談して対応してもらうのがよいでしょう。
諭旨退職は転職にどんな影響がある?
諭旨退職はその従業員の情状を酌量して処分を軽減する処分であり、履歴書にも「自己都合による退職」「一身上の都合で退職」と記載できることから、転職活動への影響は少ないでしょう。しかし、転職先の企業としては、退職した理由が諭旨退職であったことがわかれば、懲戒処分を受けて退職した人物を採用したくないと考え、採用を見送る可能性があります。そのため、まったく転職に影響がないとは言えません。
転職時に自ら諭旨退職になったことを告げる必要はありませんが、採用面接などで退職理由を聞かれた事実を告知しなければ嘘をついたことになり、採用を取り消される可能性があります。また、退職した会社の退職理由の証明書を転職先に求められた際には、諭旨退職となったことが発覚してしまうでしょう。事実を隠して入社しても、その事実が後日発覚した際には経歴詐称により懲戒処分の対象となることも考えられます。発覚する可能性があることは想定しておくべきでしょう。
諭旨退職はトラブルになることがあるため慎重な対応を
諭旨退職は、懲戒解雇に相当する事由があるものの、その情状を酌量し、処分を若干軽減して退職を勧告する懲戒処分の1つです。しかし、従業員に退職勧奨による退職届の提出であるとの誤解を生じさせて、退職金の取り扱いや雇用保険の離職証明書の離職事由でトラブルになることもあります。そのため、懲戒解雇ではないからといって、企業にとってリスクが低いわけではありません。
諭旨退職と同じ位置付けの処分に諭旨解雇がありますが、どちらもその従業員と話し合って、従業員と企業がお互いに納得した上で処分を下すのが賢明です。トラブルにならないように、諭旨退職の要件を確実に理解し、手続きに不備がないように慎重に対応しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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