- 更新日 : 2024年8月21日
人事制度とは?見直しのタイミング、設計に必要な3本の柱を解説
人事制度の重要な柱は「等級制度」と「評価制度」「報酬制度」です。企業を取り巻く環境が変化したとき、人事制度の見直しが必要になるケースもあります。
本記事では、人事制度を構成する3本の柱について解説します。人事制度の目的や見直しの方法・タイミング・注意点も紹介しますので、人事制度の見直しに役立ててください。
目次
人事制度とは?
人事制度とは、企業が従業員を管理・マネジメントするための基準や仕組みのことです。人事制度のメインとなるのは「等級制度」と「評価制度」、「報酬制度」の3つですが、従業員に関わる以下の制度も含まれます。
- 採用制度
- 定年制度、再雇用制度
- 人材教育・育成制度
- 福利厚生制度 など
人事制度を導入する目的
人事制度を導入する目的は、経営方針に沿って人材を育成し活用することです。企業は人事制度によって求める人材像や成果を従業員に示し、従業員の成長を促し仕事に対するモチベーションを高めます。
人事制度が周知され適正に運営されていれば、従業員が自分で目標を設定し自主的に行動することが期待できるでしょう。また、企業が下す評価や処遇に対する納得感も得られやすくなります。
人事制度を構成する3本の柱
人事制度を構成する大きな柱は、以下の3つです。
- 等級制度
- 評価制度
- 報酬制度
各制度の内容と役割を解説します。
等級制度
等級制度とは、能力や職務内容などに応じて社内での序列を決める人事制度の根幹となる制度です。従業員を5~10程度の等級(企業によって異なる)に区分し、等級に応じて役職や職務内容、給与などが決まります。
等級区分のイメージは以下のとおりです。ただし、等級と役職が「完全に一致する」企業と「おおむね一致」する企業があります。
- 1等級:取締役、本部長、工場長など
- 2等級:部長クラス
- 3等級:課長クラス
- 4等級:係長クラス
- 5等級:リーダークラス
- 6等級:中堅社員
- 7等級:入社初期の社員
等級を区分する基準によって、等級制度には以下の種類があります。
- 職能資格制度:「職務遂行能力」による等級区分
- 職務等級制度:「職務内容」による等級区分
- 役割等級制度:役職と職務を組み合わせた「役割」による等級区分 など
等級制度によって、従業員は自分のキャリア目標を設定しやすくなります。
評価制度
評価制度とは、従業員の能力や成果を評価する仕組みのことです。評価によって従業員の等級や報酬が決まるため、従業員の納得感が得られるように客観的で公平な評価方法が求められます。
主な評価方法は、以下のとおりです。
- 能力評価:本人の職務遂行能力による評価
- 職務評価:与えられた職務の遂行状況による評価
- 役割評価:与えられた役割の遂行状況による評価
- 成果評価:業績や企業への貢献度による評価
- コンピテンシー評価:本人の行動特性による評価
コンピテンシーとは「一定の状況や職務において高い業績を生む原因となっている個人の行動特性」のことです。生産性の向上などを目的とした評価方法で、近年注目を集めています。
コンピテンシーの詳細は、以下の記事もあわせてご参照ください。
報酬制度
報酬制度とは、従業員の給与や賞与、退職金などを決定する仕組みのことです。報酬の決定は、従業員の等級や人事評価など企業ごとにさまざまな基準に基づいて行われます。
給与には「基本給」と「各種手当」があり、基本給は以下のとおり決定します。
- 属人給型:学歴や年齢、勤続年数などを基に決定
- 仕事給型:業務遂行能力や職務内容、成果などを基に決定 など
各種手当には、役職手当や家族手当、住宅手当、通勤手当などがあります。
賞与の決定方法は、企業によってさまざまです。主な決定方法は、以下のとおりです。
- 会社の業績に応じて基本給の一定月分
- 個人の業績に応じて決定
- 所属部署の業績に応じて決定
報酬の決定方法は、年功から成果主義にシフトしています。
人事制度の見直し・設計方法
人事制度の見直しは以下の手順で行います。
- 会社方針の確認
- 現状の人事制度を分析
- 3本の柱を設計
- シミュレーションの実施
- 運用・改善の実施
各手順の詳細と見直しに要する期間について解説します。
会社方針の確認
人事制度を見直す前に、会社の経営方針や企業理念を確認しましょう。会社の方針を実践するために必要な人材を確保し有効活用することが、人事制度の目的であるためです。
急成長を図る会社と安定経営を目指す会社、世界市場を重視する会社、環境や地域への貢献を目指す会社など、会社の方針が異なれば必要な人材も変わってきます。会社方針を明確にすることで、会社に必要な人材像が見えてくるでしょう。
現状の人事制度を分析
次に、現在の人事制度が、会社の求める人材を育成し有効活用するのに役立っているかを点検しましょう。現状を分析し見直すべき課題を発見します。現状把握と分析の主な方法は以下のとおりです。
- 現在の人事制度が目指す目標の達成状況を確認する
- 管理職にヒアリングする
- 従業員にヒアリングする
- 他社の人事制度や業績と比較する
ヒアリングの結果など客観的に数値化できない項目もありますが、現状と課題を言語化(文章化)して整理することが重要です。また、ヒアリングには数か月かかることも考えられますが、現場の声に丁寧に耳を傾けることが課題発見には効果的です。
3本の柱を設計
現状分析により人事制度の課題が明確になれば、課題解決に向けて人事制度の3本の柱(等級制度や評価制度、報酬制度)を見直します。会社方針に沿って従業員が成長し活躍することを目指して、制度設計を進めましょう。
最初に見直すのは等級制度です。等級ごとに会社が求める基準(能力や職務など)を明確に定めましょう。等級制度の基準が、評価制度のベースとなります。従業員の能力や職務などを適切に把握するために、評価項目と評価方法を決定します。
人事評価の結果を報酬という形で反映させるのが、報酬制度です。従業員が納得し、モチベーションを高められるように制度設計しましょう。
人事制度の見直しには専門的な知識が必要になるため、コンサルタント会社など外部の力を借りることも検討してみましょう。また、制度改正は企業の業務に大きな影響を与える可能性もあるため、大幅な見直しを行う場合は年単位の時間を要することもあります。
シミュレーションの実施
新しい人事制度を設計したら、制度見直しによる影響を詳細にシミュレーションします。シミュレーションする主な項目は以下のとおりです。
- 人件費の推移
- 業務効率や生産性の改善度合い
- 従業員の働き方やモチベーションの変化
また、制度改正によって想定される問題などを洗い出し、制度実施前に対応策を検討しておきましょう。シミュレーション結果や想定される問題によっては、新しい人事制度の内容の修正が必要になることもあるでしょう。
運用・改善の実施
新しい人事制度の運用を開始する前には、制度見直しの目的や内容を従業員に周知しましょう。理解不足が原因で従業員が不満を感じたり、モチベーションが下がったりすることも考えられます。新しい制度を円滑に運用するために、以下の対応を検討してみましょう。
- 企業が求める人材像や人事制度見直しの目的を企業トップが発信する
- 一次評価者となる管理職の研修を行う
- 従業員への説明会を行う
新制度導入後も周知活動を継続するとともに、制度の浸透具合や見直しの効果などをモニターし、必要に応じて制度の内容や運用方法を改善しましょう。
人事制度の見直しをするタイミング
人事制度の見直しは、企業の内部環境や外部環境が変化するタイミングで、変化への対応を目的に実施します。
内部環境の変化とは、「企業規模の拡大」や「企業方針、事業内容の変化」などのことです。企業規模の拡大とともに新しい部署や新しい役割が設けられ、人事制度の見直しが必要になります。また、企業方針や事業内容の変化によって求められる能力や経験、役割も変わってきます。
外部環境の変化とは、「法改正」や「社会環境の変化」などです。たとえば、働き方改革関連法案の制定により、短時間勤務や在宅ワークなど多様な働き方が広がっています。環境の変化に対応して人事制度を見直さないと、従業員の採用や定着が難しくなることも考えられます。
また、「世代交代が必要」なときや「採用や人材育成がうまくいかない」ときは、人事制度の見直しを検討してみましょう。
人事制度の注意点
人事制度を見直すときは、以下の3点に注意しましょう。
- 会社方針に沿った人事制度を作る
- 公平で客観的な制度づくりを行う
- 従業員に周知する
企業にとって、人事制度は会社方針に沿った人材を育成し活用するための重要なツールです。他社の優れた人事制度を導入しても、自社の方針に合っていなければ制度の目的は達成できません。細部に囚われて本来の目的を見失うことがないように注意が必要です。
制度内容については、従業員の納得感やモチベーションを高めるために、公平でわかりやすい制度づくりを心がけましょう。従業員が自分の評価や待遇を客観的に把握できるように、数値化できる評価項目を設け適切にフィードバックするなどの工夫も重要です。
また、人事制度の見直しを成功させるためには、従業員への周知も欠かせません。会社が求める方向に従業員を誘導するには、従業員が制度の目的を理解し行動することが必要です。事前ヒアリングなど制度見直しへの従業員の参加や制度導入前の説明会実施、経営TOPによる発信など、従業員の関心を高める方法を検討しましょう。
人事制度・人事評価に役立つテンプレート
人事制度や人事評価の実務には、企業向けのシステム会社やコンサルタント会社が提供する情報やツールの活用がおすすめです。たとえば、マネーフォワードクラウド給与では、職種別の人事評価シートのテンプレートを無料でダウンロードできます。
日本の人事制度とアメリカとの違い
日本とアメリカの人事制度の主な違いは、以下のとおりです。
(人事制度の主な違い)
日本 | アメリカ | |
---|---|---|
雇用スタイル | 終身雇用 | 職務別雇用 |
仕事の振り分け・進め方 | メンバーシップ重視 | 個人主義 |
昇進や給与の決め方 | 年功序列 | 成果主義、実力主義 |
採用方法 | 新卒一括採用 | 即戦力の中途採用 |
ただし、高度成長期に多くの企業が採用した日本型の人事制度は、経済環境の変化とともに機能不全が目立ち始め、アメリカ型にシフトする傾向にあります。
人事制度の見直しにより企業の活性化を実現
人事制度の3本柱は、「等級制度」と「評価制度」、「報酬制度」です。企業の内部環境や外部環境の変化に対応するために、適切なタイミングで制度の見直しが必要になります。
人事制度の見直しは、会社方針に沿った人材を育成し活用することと従業員の納得感やモチベーションを高めることが重要です。人事制度を効果的に活用して、企業の活性化を図りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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