- 更新日 : 2023年7月7日
心理的安全性とは?理論や高いことのメリットを解説
円滑な組織開発には、組織内におけるコミュニケーションの方法や内容によって大きく変化します。「組織内で誰もが発言・行動しやすい環境である」ことが重要と説いているのは、近年注目を集めている「心理的安全性」という理論です。
この記事では、心理的安全性の定義からチームに影響する効果、必要性などを詳しく紹介します。
目次
心理的安全性とは?
心理的安全性とは、「地位や経験などにかかわらず、自身の持つ意見を誰もが率直に表明できる状態のこと」を指します。特に組織やチーム内において、「意見をすることで関係性の悪化を招くことがなく、安心して共有できる」ことが担保されていることが求められます。
心理的安全性が最初に提唱されたのは、ハーバード大学の組織行動学者であるエイミー・エドモンドソン氏が1999年に発表した論文によるものでした。
同氏は、「チーミング」と呼ばれるチームワークの構築と最適化の実施に関する研究を続けており、「優秀なチームほどミスが少ない」のではなく、「進んでミスを報告している」ことを調査のうちに発見しました。
このことから、組織内のメンバーが協力しながら円滑なプロセスを進めるためには、未然にミスを防ぐことよりも、提言や意見をストレスなく共有できる環境が重要であると結論づけたのです。
心理的安全性が担保されている状況では、組織内のコミュニケーションが円滑になるだけでなく、前述の調査結果のように生産性が向上するという研究データもあることから、近年世界的に注目が集まっています。
心理的安全性に関わる理論
では、「心理的安全性が高い」とは具体的どのような状況を指すのでしょうか。前述のエドモンソン氏が提唱しているものを含め、3つの理論をもとに詳しく紹介します。
エドモンドソンのチーム学習理論
まずは、先ほども少し触れた心理的安全性の提唱者と言えるエドモンドソン氏による「チーミング」という理論です。
チーミングは、「組織内で学習することは重要ではあるものの、組織であることが活用されなければ意味がない」という理念をもとに、「組織内のメンバーが本来持つ能力以上の力を引き出すための方法」を探る理論を指します。
円滑なチーミングを行うためには、以下の4つのプロセスが重要であるとしています。
- 率直に意見を言う
- 協働する
- 試みる
- 省察する
チームというと、リーダーとなる人物が率先して行動しながら全体をまとめあげるイメージがあるかもしれませんが、チーミングを成功させるためには組織に属するメンバー一人ひとりのプロセスが重要です。
もちろんまとめ役となる存在は必要ですが、指示されて行動するのではなく、相互理解を深めながらお互いの主張をまとめあげることがゴールへの近道であると説いています。
リーダーシップ理論
個性やスキルが多種多様であるメンバーの在籍するチームをまとめ上げるには、リーダーという存在が重要です。とはいえ「リーダーとしてあるべき姿」、つまりリーダーシップ理論というのは、時代の変遷ごとに少しずつ変化が生じています。
例えば、20世紀前半のリーダーシップ像と言うと、「リーダーとして必要な素質や特性を当てはめる」というアプローチがなされてきました。「優れたリーダーはこのような行動をする」「リーダーとそうでない人はこのような違いがある」といったプロセスを経て、ふさわしい人物を選出するといった理論が展開されていました。
ところが現代社会においては、「ふさわしい姿」という人物像が複雑化・多様化しているため、簡単に当てはめることは難しいでしょう。そのため、時代の変遷とともにリーダー像のイメージだけでなく、周囲の環境要因や条件、チーム内の関係性など、さまざまな要素を考慮する必要があるのです。
現代においてもリーダーシップへの研究が終わりを迎えないことは、組織や現場における環境や状況に合わせて行動することが求められるなど、絶対的な正解が存在しないことが大きく影響しているのでしょう。
社会交換理論
社会交換理論とは、人間は有形・無形にかかわらず「報酬」というプロセスを経て人間関係の構築・発展を遂げる、と考える理論のことを指します。
ここで言われる有形の報酬とは例えばプレゼント、お金などが挙げられ、無形の報酬は愛情や友情、尊敬、支援などの感情や行動と捉えられるでしょう。
こうした関係性は、どちらか一方が報酬を与え続けるケースでは維持が難しくなります。なぜなら、報酬を与え与えられるという関係性は合理性を考慮したうえで成り立っており、一方が損をし続けてしまう関係性は合理的とは言えないからです。
つまり、相互がバランスを取れるように報酬を交換し合うことが、合理的かつ長期的な関係性を構築するために必要であるという理論なのです。
心理的安全性が脚光を浴びた背景
前述の通り、エドモンドソン氏が心理的安全性を説いたのは1999年のことでした。一方で、この理論がフィーチャーされるようになったのはGoogle社が「生産性の高いチームほど心理的安全性が高い」という研究結果を2016年に発表したことがきっかけでした。
同社は「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる、組織内での労働改変プロジェクトを、2012年から4年の歳月をかけて実施しました。
その結果、プロジェクト内にて心理的安全性にのっとったチーム運営を推し進めたところ、意見を出しやすい環境や他者への心配りへの意識を持つことが、生産性への向上を促す大きな要因の一つであると結論づけたのです。
心理的安全性が高いことによるメリット
では、心理的安全性が生産性を高めることにつながる、具体的なメリットはどのような点があるのでしょうか。
モチベーションの向上
意見を出しやすい環境は、「誰でも」という前提が必要になります。つまり、上司や部下などの役職や勤続年数にかかわらず、自分自身の意見を表現できる場が生まれるのです。
このことから、どの立場であっても自分を表現できる場が生まれることで、各メンバーそれぞれの業務に対するモチベーション向上が期待できます。
コミュニケーションの活性化
上記のメリットに付随した内容ですが、意見を言い合いやすい現場というのは、必然的にコミュニケーションの活性化につながります。
個々のメンバーがいくらスキルやノウハウが豊富であったとしても、チームや組織として運用していかなければならない以上、双方のコミュニケーションが円滑でなければ高い生産性を維持できません。
自発的にコミュニケーションを実行するメンバーが増えることで、報連相がリアルタイムに進行し、生産性やパフォーマンスの向上の要因につなげられるでしょう。
ワークエンゲージメントの向上
自身の意見や気持ちを表現できる場が与えられている環境は、直接的な業務の内容だけでなく、チームとしての方向性や環境構築についての意見交換も容易になります。
例えば、「それは変えた方が良い」「方法を変えてみよう」といった否定的な意見も考慮する場が与えられることから、立場の強い一部のメンバーがパワハラに及ぶ、といった図式も起こりにくくなります。
また、テレワークなどの閉鎖的な環境下においてはなおのこと、積極的に意見を出しやすい環境というのは重要であり、疎外感を感じさせない環境構築に役立つでしょう。
心理的安全性の作り方
メリットを踏まえたうえで、心理的安全性の保たれた環境を構築するにはどのようなプロセスを踏む必要があるのでしょうか。順を追って解説します。
率直でオープンなコミュニケーションができる環境を整える
もっとも基本的なプロセスとして、オープンなコミュニケーションがチームの成長になる、という意識付けや環境構築を進めることが重要です。例え新入社員やキャリアが浅い社員であっても、遠慮や不安を感じることなく積極的な意見交換が可能な土台を作り上げることが第一歩と言えるでしょう。
ここで注意したいポイントですが、例え自身の周囲の環境が発言を実行しやすい環境であっても、発言をする行為自体に慣れていなければ、実際に行動に移すことは難しいかもしれません。
また、発言行為に慣れていないメンバーがいることで、常に発言をするメンバーが固定化されてしまい、結局はオープンな環境にならなないという結果につながる恐れもあります。
そのため、会議の際に世間話などをはさみながら一人ひとりに意見を求める進行方法にするなど、コミュニケーションの取り方を改善しながら環境構築を進めることが重要です。
ミスを許容する文化
もちろんどの職種であったとしても、業務を進めるにあたってミスは防ぎたいものです。しかし、実際のところミスやエラーが全く起きない現場環境の構築はほぼ不可能ですから、どうしてもミスは発生してしまいます。
ここで重要な要素となるのが、起きてしまったミスに対する対処方法です。ただ頭ごなしに叱るのではなく、ミスをしたという結果を受け止めて、その原因と改善に向けた次のプロセスへ進める、といった柔軟な対応が求められます。
例えば、ミスの報告をすると怒ってばかりの上司と、冷静に結果を受け止めその後の対処を導いてくれる上司が居るとしたら、後者に報告したいと思う人が多いのではないでしょうか。
つまり、ミスをしたメンバーが内容を報告しやすくなり、かつ報告したメンバーがそれを許容する文化・環境が構築されていることが、「意見を述べやすい」「解決に向けてがんばろう」というフィードバックへつながると言えるでしょう。
フィードバックの尊重
「発言のしやすさ」を意識するあまり、常に同調しながらポジティブな意見ばかり飛び交うようになってしまっては、本来実施されるべき課題が見逃されてしまう可能性があります。
アドバイスや指摘があったとしても、「傷つけてしまった」「否定されてしまった」というネガティブな意識を抱くのではなく、問題や課題に対してどのようなフィードバックを受ける・もしくは送るべきなのかを意識することが重要です。
フィードバックによるアドバイスや意見を「否定」ではなく「成長要因」と捉えるようになるには、心理的安全性とのバランスが重要です。そのバランス感覚を担保するためには、ただのなれ合いではなく、お互いを尊重し合う関係性の積み重ねによるものと言えます。
会議への参加と共有の奨励
コミュニケーションへの意識改革に通じますが、会議など意見交換の場を積極的に設けつつ、発言をしながらチーム内のメンバー全員が意識をすり合わせながら共通認識を芽生えさせる、というプロセスを進めましょう。
意見交換の場というと会議の場を想像するかもしれませんが、かしこまった場だけでなくとも、普段の日常的な会話の中であったり、飲み会などのアクティビティの場であったりしても同様です。メンバーそれぞれの意見や意識を共有しながら、同じビジョンを持つことの重要性を意識しましょう。
心理的安全性を低める行動や態度
では、心理的安全性を損ねてしまう行動やプロセスにはどのような要素が挙げられるでしょうか。現在の職場環境に、以下のような要素が含まれていないか確認してみてください。
非難や罰の文化
ミスや失敗が許されず、必要以上に上司から叱責やハラスメントなどの圧力をかけられる職場は、心理的安全性が低い状態と言えるでしょう。こうした内容は「パワハラ」という概念が特に広く知られていますが、心理的安全性という視点から見ても、環境構築を難しくさせる要因の一つとして考えられる要素に当たります。
不適切なフィードバックやフィードバックの欠如
非難などのネガティブな反応があまりにも強い職場では、「怒られるからミスを報告したくないな」という思考になることは十分に考えられます。こうしたプロセスが蓄積されると、コミュニケーションや情報共有が不十分な環境になり、余計に業務の効率や品質が悪化するおそれがあります。
また反対に、先ほども触れたようにただポジティブな内容に同調するだけで、意見交換が何も生まれないという状況も不適切と言えます。周囲を配慮する発言を意識するのは重要ですが、コミュニケーションによってお互いが進歩できるよう、適切なフィードバックを得られる環境づくりが求められます。
マイクロマネージメント
過干渉と言えるほどに、メンバーに対して何度もレスポンスや情報共有を求めてしまう環境も避けなければいけません。得てしてマイクロマネージメントが課題となる環境では、権力者が高圧的な態度になりがちであり、その結果他のメンバーとのコミュニケーション不足が懸念されるでしょう。
近年は特にリモートワークなど、必ずしもメンバー全員が同じオフィスに勤務せずに働ける方法などが確立されています。そのため、「部下の様子が見えない」などという不安から、過剰にレスポンスを求めてしまうケースも考えられます。
そのため、それぞれの働き方・環境に合わせたマネジメントを考慮する必要があるでしょう。
不適切な競争・不毛な対立
メンバーのモチベーションを向上させるために、組織内でランク付けをしたり、個人業績などをもとに競争をさせたりという運用はしばしば実施されています。
ただし、あまりにも競争社会一辺倒の環境であったり、そもそも競争させることが不適切なケースになったりしている場合、チームや組織としての帰属意識を得られないというデメリットが発生します。
その結果、個人としての成果を優先すれば良いという認識になってしまうため、メンバー間のコミュニケーションやアドバイス、情報共有などが行われにくくなるという結果につながります。
生産性の高いチームを目指すなら、心理的安全性を高めよう
チームをマネジメントするうえで、「情報共有が難しい」「良いアイディアが生まれない」「メンバーの自発性が気がかり」といった課題を感じている企業も少なくないのではないでしょうか。
このような課題を改善するためには、心理的安全性の高い環境構築が重要です。対等な意見交換や情報共有の場を設ける、ミスを糾弾する空気を作らない、など、適切な運用方法のコツや、反対に心理的安全性が担保されない環境を解説しました。
風通しが良く生産性の高いチームを目指している方は、心理的安全性を考慮した運用プロセスを策定してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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