• 更新日 : 2025年3月19日

借り上げ社宅の自己負担額の相場とは?金額を決める際のポイントを解説

借り上げ社宅制度は、企業が賃貸契約を結んだ物件を従業員に貸し出す仕組みであり、住宅コストの軽減や住居探しの手間を省けるメリットがあります。

しかし、自己負担額の決定方法や税制上の取り扱いについて理解しておかないと、企業側に思わぬ負担が発生する可能性もあるでしょう。

本記事では、借り上げ社宅の自己負担額の相場や決定ポイント、税制上の課税条件について詳しく解説します。

借り上げ社宅とは従業員に賃貸契約した物件を貸し出す制度

借り上げ社宅とは、企業が賃貸契約を結んだ物件を従業員に貸し出す制度です。

個人で賃貸契約を結ぶ場合と異なり、企業が契約主体となるため、審査のハードルが下がり、初期費用の負担も軽減されるメリットがあります。

借り上げ社宅の特徴は以下の通りです。

  • 企業が契約者となるため、入居審査が通りやすい
  • 敷金・礼金・仲介手数料などの初期費用を企業が負担する場合が多い
  • 家賃の一部を企業が負担するため、従業員の住居コストが抑えられる

通常の賃貸契約では敷金や礼金が2ヶ月分かかることが一般的ですが、借り上げ社宅では企業負担になるケースもあります。

そのため、転勤や新入社員の入居など、住居の確保が必要な場合に便利です。

企業にとっても、福利厚生としての魅力を高め、優秀な人材を確保する手段のひとつとなります。

制度を導入する際は、コストや従業員のニーズを考慮し、最適な形を検討することが重要です。

住宅手当との違い

住宅手当と借り上げ社宅は、どちらも企業が従業員の住居費を補助する制度ですが、仕組みに大きな違いがあります。

項目住宅手当借り上げ社宅
契約主体従業員企業
負担割合家賃の一部を補助(給与扱い)企業が家賃を負担し、従業員は一部を支払う
税制メリット課税対象(給与所得一定条件を満たせば非課税枠あり

住宅手当は給与として支給されるため、所得税や社会保険料の課税対象となります。

一方、借り上げ社宅は企業が物件を契約し、従業員に貸し出す形を取るため、条件によっては非課税枠を活用できます。

そのため、企業・従業員双方にとって節税メリットがあるのが、借り上げ社宅の特徴です。

たとえば、月10万円の家賃に対して住宅手当として3万円を支給すると、その3万円は給与所得となります。

借り上げ社宅として提供される場合、企業が7万円を負担・従業員が3万円を負担する形であれば、給与所得が増えず、税負担の軽減につながります。

企業の財務状況や従業員のニーズに応じて、適切な制度を選択してください。

社有社宅との違い

社有社宅と借り上げ社宅は、どちらも企業が従業員に住居を提供する制度ですが、運用方法が異なります。

【社有社宅と借り上げ社宅の違い】

項目社有社宅借り上げ社宅
物件の所有者企業が所有企業は所有せず賃貸契約
管理方法企業の資産として管理賃貸契約に基づき運用
初期投資必要(物件購入費用)不要
コスト固定資産税やメンテナンス費用が発生賃貸契約に基づく費用が発生

社有社宅は企業が物件を所有するため、長期的に安定した住居支援が可能ですが、固定資産税や維持費が発生するデメリットがあります。

一方、借り上げ社宅は賃貸契約のため、事業縮小時に契約を解除することでコスト調整がしやすくなります。

借り上げ社宅の自己負担額の相場

借り上げ社宅の自己負担額は、企業によって大きく変動し、福利厚生制度や業界ごとの慣習によっても異なります。

一般的には家賃の20%〜50%を従業員が負担するケースが多く、大手企業や金融業界では手厚い福利厚生の一環として、負担割合が低めに設定されることがあるでしょう。

また、スタートアップや中小企業では負担割合が高くなる傾向があります。

【自己負担額の主な相場】

企業規模自己負担割合の目安
大企業10%〜30%
中堅企業30%〜40%
中小企業40%〜50%

地方と都市部では家賃相場が異なるため、同じ割合でも負担額に大きな差が出ます。

たとえば、都市部では家賃15万円の物件に対して30%負担の場合、自己負担額は4.5万円です。

地方で家賃7万円の物件で同じ30%負担なら2.1万円となります。

さらに、役員と一般従業員では自己負担額の基準が異なり、役員向けの社宅は高額になりやすい傾向があります。

企業ごとの制度を確認し、自分に合った社宅を選ぶようにしましょう。

大企業の借り上げ社宅の自己負担相場

大企業では福利厚生が充実しているため、借り上げ社宅の自己負担額は比較的低く設定される傾向があります。

とくに、従業員の定着率を高めるために、手厚い住宅補助を提供する企業が多く見られます。

【大企業における自己負担の特徴】

  • 自己負担割合は10%〜30%が一般的
  • 企業によっては10%以下で利用できるケースもある
  • 都市部の高額物件では上限を設定し、それを超えた分を従業員負担とすることが多い

たとえば、家賃20万円の物件でも、企業の負担割合が80%であれば、従業員の自己負担は4万円になります。

一方で、都市部の高額物件では企業側が「上限15万円まで補助」と設定し、それを超えた分(5万円)は従業員負担とするケースも一般的です。

このように、大企業の借り上げ社宅制度は従業員の負担を軽減し、生活コストを抑えるメリットがあります。

従業員が借り上げ社宅に住む3つのメリット

借り上げ社宅は、企業が契約した物件に住む制度ですが、従業員にとっても多くのメリットがあります。

とくに、住居費用の軽減や入居時の手間削減といった利点が大きく、個人契約と比較して経済的な負担が少なくなる傾向があります。

1. 個人で契約するより賃料が安くなる

借り上げ社宅を利用することで、通常の賃貸契約よりも安い賃料で住める可能性があります。

企業が一括契約を行うため、一般的な市場価格よりも割安な賃料が適用されることが多いです。

【借り上げ社宅の賃料の特徴】

  • 企業が一括契約することで市場価格より安い賃料が適用される
  • 企業が賃料の一部を負担するため、実質的な自己負担額が減る
  • 大企業や福利厚生が充実した企業ほど、従業員の負担割合が低くなる

たとえば、家賃10万円の物件でも、企業が50%を負担すれば従業員の自己負担額は5万円になります。

一方、個人契約では全額自己負担になるため、経済的なメリットが明確です。

とくに、福利厚生が充実している企業ほど、負担が少なくなる傾向があります。

2. 諸費用を負担してもらえる場合がある

借り上げ社宅では、企業が敷金や礼金、仲介手数料などの初期費用を負担するケースがあります。

そのため、従業員の引っ越しにかかる費用負担が軽減されます。

【企業が負担する可能性のある費用】

項目負担するケース
敷金・礼金企業が全額または一部負担
仲介手数料企業が支払い、従業員負担なし
更新費用企業負担の場合あり
引っ越し費用転勤時に企業が負担することが多い

とくに、転勤が多い企業では引っ越しにかかる費用のサポート制度が整っており、家具・家電の補助が受けられることもあります。

制度を活用することで、従業員の負担を最小限に抑えることが可能です。

3. 自分で物件を探さなくてよい

借り上げ社宅を利用することで、従業員が物件を探す手間が省けます。

企業が契約する物件の中から選択するため、希望に合った物件をスムーズに確保できる場合が多いです。

たとえば、勤務先に近い社宅が用意されていれば、通勤時間の短縮にもつながります。

個人で物件を探すと時間がかかる上に、希望条件に合う物件を見つけるのが難しいでしょう。

しかし、企業が選定した物件ならスムーズに入居できるため、忙しいビジネスパーソンにとってメリットが大きいです。

従業員が借り上げ社宅に住む2つのデメリット

借り上げ社宅には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも存在します。

とくに、物件選択の自由度が低くなる点や、実質的な手取り額の減少には注意が必要です。

1. 自由に物件を選べない

借り上げ社宅は企業が契約する物件に限られるため、個人の希望通りの住居を選ぶことが難しくなります。

【物件選択の制限】

  • 住みたいエリアが限定される
  • 間取りや設備が希望に合わないことがある
  • ペット可などの細かい条件が通りにくい

「駅近の物件がよい」「広めの1LDKに住みたい」といった希望があっても、企業が契約している物件によっては、希望を叶えられません。

また、ペット可や高層階などの特定の条件を希望する場合、選択肢が限られる点もデメリットとなります。

2. 実質的な手取り額が減る

借り上げ社宅は企業の補助があるとはいえ、従業員が家賃の一部を自己負担するため、可処分所得(自由に使えるお金)が減る可能性があります。

たとえば、住宅手当が支給される場合は給与の一部として受け取れるため、自由に使えるお金が増えます。

しかし、借り上げ社宅では家賃の一部を企業に支払う形になるため、可処分所得が減ってしまうのです。

結果として、短期的には自由に使えるお金が少なくなるため、家計管理が必要になる点に注意が必要です。

借り上げ社宅の従業員の自己負担額を決める際の3つのポイント

借り上げ社宅を利用する際、自己負担額は企業の補助ルールや物件の選び方によって大きく変わります。

適切な負担額を決めるために、以下の3つのポイントを事前に確認することが重要です。

1. 企業の補助ルールを確認する

企業ごとに家賃補助のルールが異なるため、契約前に詳細を把握することが重要です。

補助率や上限額を確認することで、自己負担額を正確に計算できます。

【企業の家賃補助ルールの例】

補助内容企業A企業B企業C
補助率家賃の50%家賃の30%家賃の40%
上限額7万円5万円8万円
補助対象家賃のみ家賃+管理費家賃のみ

たとえば、企業Aの補助を受ける場合、家賃10万円の物件なら自己負担額は5万円です。

企業Bでは自己負担7万円となるため、補助の詳細を確認するようにしましょう。

2. 家賃の上限と実質負担額を試算する

企業が補助する家賃の上限額を超える場合、超過分は全額自己負担になるケースが多いです。

そのため、物件選びの際には、実質的な負担額を計算する必要があります。

【家賃負担の試算例】

  • 企業の補助上限額が10万円の場合
    • 8万円の物件 → 自己負担 0円(全額補助)
    • 10万円の物件 → 自己負担 0円(全額補助)
    • 12万円の物件 → 自己負担 2万円(超過分)

たとえば、家賃12万円の物件に住む場合、企業の補助上限が10万円であれば、2万円は自己負担となります。

通常の家賃相場と、従業員の自己負担額を考慮しながら、補助上限を設定するとよいでしょう。

3. 管理費・共益費の扱いを確認する

企業の補助対象が家賃のみなのか、それとも管理費・共益費も含まれるのかを確認することが大切です。

【管理費・共益費の扱い】

  • 家賃のみ補助 → 管理費・共益費は自己負担
  • 家賃+管理費補助 → 一部企業負担
  • 高額な共益費の物件を選ぶと、自己負担が増える可能性あり

たとえば、家賃10万円+管理費1万円の物件で、企業が家賃のみを補助する場合、管理費1万円は自己負担になります。

費用を見落とさずに計算することで、思わぬ出費を防げます。

借り上げ社宅の自己負担額が課税される条件

借り上げ社宅の自己負担額は、一定の条件下で課税対象となる可能性があります。

とくに、企業の負担割合や契約の形態によって、税制上の扱いが変わるため注意が必要です。

会社負担の割合が「50%以上」で課税対象になる可能性あり

会社が従業員に社宅や寮を貸与する際、従業員が家賃の50%以上を負担している場合、差額は給与として課税されません。

しかし、企業負担の割合が高すぎると、課税対象となるリスクがあります。

【課税対象の判断基準】

  • 従業員負担が家賃の50%以上 → 原則非課税
  • 従業員負担が50%未満 → 給与として課税対象になる可能性あり

家賃10万円の物件で企業負担8万円・従業員負担2万円の場合、従業員負担率は20%となり、課税対象になる可能性が高くなります。

国税庁の公式情報も確認しながら、税制面のリスクを理解しましょう。

参考:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁

企業が契約者(法人契約)となっている場合、課税対象とみなされやすい

借り上げ社宅の契約者が企業(法人契約)になっている場合、会社の所有資産として扱われるため、税務上の扱いが変わる可能性があります。

【法人契約が課税対象となるケース】

  • 企業が契約者で従業員負担が極端に少ない場合
  • 家賃相場より大幅に安い価格で提供している場合
  • 給与としての経済的利益とみなされる場合

たとえば、市場価格15万円の物件に従業員が3万円の負担で住んでいる場合、税務署に「給与としての経済的利益」とみなされ、所得税の対象になる可能性があります。

リスクを避けるためには、企業と従業員双方が適正な負担割合を設定することが重要です。

借り上げ社宅の自己負担額の相場は企業によって違う

借り上げ社宅の自己負担額は、企業の補助ルールや契約条件によって大きく異なります。

自己負担額を適正に設定するためには、企業の補助条件を確認し、税制面のリスクも考慮することが重要です。

適切な制度を理解し、メリットを最大限に活用しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事