- 更新日 : 2025年11月4日
年末調整システムをどう活用する?導入メリットや選び方、業務効率化のコツ
年末調整システムは、申告書の作成から税額計算までの一連の手続きを電子化し、担当者の業務負担を軽減します。システムを活用すると、作業時間の短縮や計算ミスの防止に効果的である一方、導入コストや従業員への教育が必要になる側面もあります。
毎年の煩雑な手続きに追われ、業務の効率化を考えている担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、年末調整システムの基本的な機能から、メリット・デメリット、自社に合ったソフトの選び方、そして代表的なサービスまで、わかりやすく解説します。
目次
そもそも年末調整システムとは?
年末調整システムは、これまで紙の書類で行っていた年末調整の手続きを、コンピューターやクラウド上で行えるようにするツールです。従業員による申告書の入力、人事担当者による内容の確認、複雑な税額計算、そして行政機関へ提出する書類の作成まで、一連の業務をサポートします。
このシステムの導入により、手作業による負担やミスを減らし、業務全体の正確性とスピードを向上させることが期待できるでしょう。
年末調整システムの基本的な機能
年末調整システムの主な機能は、年末調整業務を効率化するためのものです。 例えば、従業員がウェブブラウザやスマートフォンアプリを通じて申告書を入力する機能、保険料控除などの証明書をデータで提出する機能があります。
また、提出された情報をもとに控除額や年税額を自動で計算する機能、行政機関に提出する源泉徴収票などの帳票を作成する機能などを備えています。
システムが求められる背景
近年、年末調整システムの導入が多くの企業で進んでいる背景には、法改正の複雑化と働き方の多様化があります。 毎年のように行われる税制改正に対応するには、専門的な知識と正確な計算が求められます。
また、テレワークの普及により、従業員へ紙の書類を配布・回収することが難しくなりました。こうした状況から、場所を選ばずに手続きができ、法改正にも自動で対応してくれるシステムの需要が高まっています。
年末調整システムを活用するメリットとは?
年末調整システムを活用するメリットは、担当者の業務負担が劇的に軽減されることと、ペーパーレス化を実現できる点にあります 。さらに、申告を行う従業員にとっても手続きが簡単になるなど 、企業と従業員の双方にとって多くの利点があるといえるでしょう。
【企業側のメリット】業務効率が向上し、ミスが減る
企業側のメリットは、業務のスピードと正確性が向上することです。 システムを導入すれば、申告書の配布や回収、督促といった作業が自動化され、担当者の手間を大幅に削減できます。また、入力内容の自動チェック機能や税額の自動計算により、手作業で起こりがちな計算ミスや転記ミスといったヒューマンエラーを防ぐことにもつながるでしょう。
- 申告書の配布、回収、督促作業の自動化
- 入力漏れや不備の自動チェック
- 控除額や年税額の自動計算によるミス防止
- 進捗状況の可視化による管理の効率化
【従業員側のメリット】申告手続きが簡単になる
従業員側のメリットは、年末調整の申告手続きがわかりやすく、簡単になることです 。
多くのシステムでは、質問に答える形式で入力するだけで申告書が作成できるため、専門的な知識は必要ありません 。また、PCやスマートフォンから時間や場所を選ばずに申告できるため、従業員自身の都合に合わせて手続きを進められます。
- 質問に沿って入力するだけで申告書が完成する
- PCやスマートフォンからいつでもどこでも申告可能
- 保険料控除証明書などをデータで提出できる
- 過去の申告内容を流用して入力の手間を省ける
ペーパーレス化によるコスト削減とセキュリティ向上
ペーパーレス化も大きなメリットの一つです。 申告手続きがすべて電子データで完結するため、紙の申告書を印刷したり郵送したりする必要がなくなります。これにより、用紙代や印刷代、郵送費といった直接的なコストを削減できます。さらに、個人情報が記載された大量の書類をオフィスで保管する必要がなくなり、紛失や盗難による情報漏洩のリスクを低減させ、セキュリティの向上にもつながるでしょう。
システム導入のデメリットや注意点は?
システム導入のデメリットとしては、導入時や運用時に費用が発生することと 、新しい業務フローを全従業員に浸透させるための手間がかかる点が挙げられます。これらの課題をあらかじめ理解し、対策を考えておくことが、導入を成功させるためには欠かせません。
導入・運用にかかる費用
システムを利用するには、初期費用や月額・年額のライセンス費用といったコストが発生します 。
費用は、システムの提供形態(クラウド型かインストール型か)や、利用する機能、従業員数によって変動します。クラウド型の場合は月額費用、インストール型の場合は初期にまとまった費用がかかる傾向にあります。導入によって削減できる人件費や管理コストと比較し、費用対効果を慎重に検討する必要があるでしょう。
社内への周知と教育の手間
新しいシステムを導入する際には、全従業員への周知と教育が不可欠です。 とくに、これまで紙での手続きに慣れていた従業員や、IT機器の操作に不慣れな従業員に対しては、丁寧な説明が求められます。操作マニュアルの作成や説明会の開催、問い合わせ窓口の設置など、従業員が安心して利用できるようなサポート体制を整える手間がかかることを念頭に置いておきましょう。
業務フローの見直しが必要になる場合も
システムの導入は、従来の業務フローを見直す良い機会にもなりますが、それが一時的な負担になることもあります。 たとえば、紙の書類を承認するプロセスがあった場合、システム上での電子承認フローを新たに構築する必要があります。誰が、いつ、何を確認し、承認するのか、システムに合わせて業務の流れを再設計する作業が発生する可能性があるでしょう。
自社に合う年末調整ソフトの選び方は?
自社に合う年末調整システムを選ぶには、「操作性」「費用」「セキュリティ」「サポート体制」の4つのポイントを総合的に比較検討することが大切です 。とくに、人事担当者だけでなく全従業員が利用するツールであることをふまえ、誰にとってもわかりやすく、安心して使えるシステムを選ぶという視点が求められるのではないでしょうか。
従業員全員が直感的に使えるか
システムの使いやすさ、とくに操作性のわかりやすさは最も大切な比較ポイントです 。
人事担当者だけでなく、ITが得意でない従業員も含め、全員がマニュアルを熟読しなくても直感的に操作できる画面デザインかを確認しましょう。多くのサービスでは無料トライアル期間が設けられているため、実際に操作画面を試してみることをおすすめします。
費用と機能のバランスは適切か
費用と機能のバランスを見極めることも大切です 。
自社の従業員規模や、年末調整以外に効率化したい業務範囲を明確にし、必要な機能を洗い出しましょう。多機能なシステムは魅力的ですが、使わない機能が多ければ割高になってしまいます。自社の課題を解決するために必要な機能を備え、かつ予算に見合った料金プランのシステムを選ぶのが賢明です。
個人情報を守るセキュリティは万全か
セキュリティ対策が万全であるかは、必ず確認すべき項目です 。
年末調整では、マイナンバーをはじめとする極めて機密性の高い個人情報を扱います。そのため、通信の暗号化、不正アクセス防止策、データのバックアップ体制、そして情報セキュリティに関する認証(ISMS認証など)の取得状況などを確認し、信頼できる運営会社のシステムを選びましょう。
困ったときに頼れるサポート体制か
導入時や運用中に困ったことが起きた際、迅速に対応してくれるサポート体制が整っているかも確認しましょう 。
年末調整は年に一度の業務であり、作業期間も限られています。操作方法の疑問や万が一のトラブルが発生した際に、電話やメール、チャットなどで気軽に相談できる窓口があると安心です。サポートの対応時間や料金なども事前に確認しておくとよいでしょう。
年末調整システムにはどんな種類がある?
年末調整システムや関連ソフトは、給与計算と一体になったものから、人事労務手続き全体をカバーするクラウドサービスまで、さまざまな種類が提供されています。ここでは、市場で広く利用されている代表的なシステムをいくつか紹介します。
- マネーフォワード クラウド年末調整
株式会社マネーフォワードが提供する「マネーフォワード クラウド」シリーズの一つです。同社の給与計算や勤怠管理サービスとスムーズに連携でき、バックオフィス業務全体を効率化できます。 - freee人事労務
freee株式会社が提供するクラウドサービスです。年末調整はもちろん、給与計算、勤怠管理、労務手続きまで幅広くカバーしており、データ管理を一元化したい企業に適しています。 - SmartHR
株式会社SmartHRが提供する、クラウド人事労務ソフトです。年末調整機能に加え、従業員情報の管理や電子申請に強みを持ちます。 - ジンジャー給与
jinjer株式会社が提供するシステムで、人事管理から給与計算、年末調整までを連携して行えます。収集した申告情報をもとに、スムーズに税額計算まで進められるのが特徴です。 - フリーウェイ給与計算
株式会社フリーウェイジャパンが提供する給与計算ソフトです。従業員5名までなら無料で利用できるプランがあり、年末調整機能も標準搭載されています。コストを抑えたい小規模事業者に適しています。 - オフィスステーション 年末調整
株式会社オフィスステーションが提供する、労務手続きの電子化に強みを持つシステムです。とくにマイナポータル連携機能が充実しており、従業員の手間を削減したい場合に適しています。 - ジョブカン年末調整
株式会社DONUTSが提供する「ジョブカン」シリーズのサービスです。年末調整業務に必要な機能に絞り、低コストから利用を開始できます。 - 年調ヘルパー
株式会社クリックス IOMAが提供するシステムです。スマートフォンからの簡単な操作で申告が完了し、低コストで導入・運用できる点が強みです。
年末調整システムの活用で、正確かつ効率的な業務フローを構築
年末調整システムの活用は、担当者の負担を軽減し、ミスのない正確な業務を実現します。導入にはコストや社内への周知といった準備が必要ですが、自社に合ったシステムを選び、うまく運用すれば、企業と従業員の双方にとって大きなメリットが得られるでしょう。クラウド型のシステムであれば、毎年の法改正にも自動で対応してくれるため、長期的に見ても安心です。
この記事で紹介した選び方のポイント、たとえば「従業員にとっての使いやすさ」や「万全なセキュリティ体制」などを参考に、自社のバックオフィス業務のDX化を進めてみてはいかがでしょうか。それは、年に一度の大きな業務を、よりスムーズで戦略的なものへと変える一歩になるはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
年末調整での保険料控除の書き方をわかりやすく解説!
一定の生命保険料・地震保険料・社会保険料を支払うと、所得税計算で保険料控除の対象になり、給与所得に対する課税金額を低く抑えることができます。会社員の場合は会社が実施する年末調整で申告することにより、定められた方法で計算される金額の控除が受け…
詳しくみる年末調整のペーパーレス化は義務になる?電子化のやり方やスマホ対応を解説
年末調整を紙で運用するのは、書類の回収、手書きミスの確認、保管や印刷コストなど、多くの負担がかかるものです。こうした負担を減らす方法として注目されているのが「年末調整のペーパーレス化」です。この記事では、電子化の概要や進め方、スマホ対応、注…
詳しくみる積立NISAは年末調整の対象?会社は対応する必要がある?
年末調整では、会社が毎月源泉徴収した所得税について、従業員への1年間の給与支払額が確定した時点で改めて計算と調整を行います。その際、積立NISAを行っている従業員に関する手続きはあるのでしょうか。本記事では、積立NISAと年末調整の関係につ…
詳しくみる【2025年】共働きの場合の年末調整とは?
年末調整は、概算で源泉徴収していた税金について、年末に各自が所得控除等について申告し、納税額を正しいものに調整するものです。共働きの場合、収入源が2つあるので、所得控除の手続き上どのような点に気をつける必要があるのかについて今回は解説します…
詳しくみる死亡退職した従業員の年末調整はどうしたらよい?
会社は従業員に対して、毎年最後の給与を支給する際に年末調整を行う義務があります。しかし、年度中に死亡した従業員がいる場合、その者に対する年末調整は年度途中に行わなければなりません。相続手続きに必要なことから早い時期での対応・処理が求められ、…
詳しくみる年末調整の対象者になる条件とは?対象外の人や手続きを解説
年末調整は、会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員が対象者となる、所得税の過不足を精算する手続きです。そのため、従業員一人ひとりの状況に応じて、年末調整の対象になるかどうかが決まります。 「アルバイトの年末調整は…
詳しくみる