• 更新日 : 2025年11月4日

中途入社の給与はどう決める?基本給の設定方法から交渉まで解説

中途入社者の給与決定は、候補者のスキルや市場価値、そして社内の公平性をふまえた総合的な判断が必要です。そのため、明確な基準なしで決めると、既存社員の不満や入社後のミスマッチにつながりかねません。

人事の担当者にとって、基本給の設定や、既存社員とのバランス調整は実務上の大きな課題ではないでしょうか。本記事では、中途採用における給与の決め方の基準から、給与交渉への対応、入社後の手続きまでをわかりやすく解説します。

中途入社の給与はどう決めるのが適切?

中途入社社員の給与は、特定の基準一つに頼るのではなく、「候補者の経験・スキル」「自社の給与テーブル」「前職の給与」「市場の給与相場」という4つの主要な基準を総合的に評価し、バランスをみて決定するのが適切です。これにより、属人的な判断を避け、社内外への説明責任を果たせるようになります。

給与決定の4つの主要な基準

中途採用における給与額は、客観的かつ多角的な視点から検討する必要があります。以下の4つの基準を組み合わせることで、候補者と企業の双方が納得できる給与額を提示しやすくなるでしょう。

基準方法長所と短所
経験・スキル候補者の専門性や実績、即戦力性を評価し給与に反映させる方法長所:専門性の高い人材を獲得しやすい

短所:評価基準が曖昧だと不公平感が出やすい

給与テーブル社内の等級や役職に応じた給与規定に当てはめる方法長所:社内の公平性を保ちやすい

短所:規定が硬直的だと優秀な人材を逃す可能性

前職の給与候補者の前職での給与額を参考に、それ以上の額を提示する方法長所:候補者の満足度を高めやすい

短所:自社の給与水準とかけ離れると調整が難しい

市場の給与相場同業界・同職種の給与水準を調査し、相場をふまえて決定する方法長所:競争力のある給与を提示できる

短所:常に最新の市場動向を把握する必要がある

これらの基準をどう重み付けするかは、企業の採用戦略や経営方針によって異なります。

1. 候補者の経験・スキル・能力を評価する

給与を決定するうえで候補者が持つ経験や専門スキルは、最も重視される能力の一つでしょう。特に、企業が求める特定のスキルや業務経験を持つ即戦力人材に対しては、それに見合った高い給与を提示することが一般的です。

評価する際は、以下の点を具体的に確認しましょう。

  • 専門性:業務に必要な専門知識や資格の有無
  • 実績:過去の業務でどのような成果を上げてきたか(数値で示せる実績など)
  • 再現性:自社でそのスキルや経験を活かし、同様の成果を期待できるか
  • 希少性:候補者が持つスキルが市場でどのくらい希少価値があるか

これらの情報を職務経歴書や面接から正確に引き出し、客観的な基準で評価する仕組みが求められます。

2. 自社の給与テーブル・規定と照合する

自社に給与テーブル(賃金規定や給与等級制度)がある場合は、その規定と照合して給与を決定します。この方法は、既存社員との公平性を保ち、組織内の秩序を維持するうえで効果的です。

給与テーブルに当てはめる際は、候補者の経験やスキルを評価し、どの等級に該当するかを判断します。ただし、給与テーブルが長年更新されていなかったり、市場相場と乖離(かいり)していたりすると、優秀な人材の獲得が難しくなるケースも少なくありません。市場の変化に応じて、定期的に給与テーブルを見直すことも必要です。

3. 前職の給与を参考にする

多くの候補者は、転職にあたり現職以上の給与を希望します。そのため、前職の給与額は無視できない参考情報です。一般的には「前職給与保証」や「前職給与スライド」といった形で、前職の年収を基準に給与を提示します。

ただし、前職の給与を参考にしすぎると、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 既存社員との不公平感:
    同様のスキルを持つ既存社員よりも給与が高くなり、不満の原因になる。
  • 給与水準のインフレ:
    前職給与を基準とする採用が続くと、社内の人件費が想定以上に高騰する。

前職の給与はあくまで参考情報とし、自社の給与水準や候補者のスキル評価と照らし合わせて、総合的に判断することが大切です。

4. 求人市場の給与相場をふまえる

採用したい職種の求人市場における給与相場をリサーチし、自社の提示額が妥当かどうかを判断します。市場相場より著しく低い給与では、応募者が集まらなかったり、優秀な人材が競合他社に流れたりする原因となります。

給与相場は、転職サイトの求人情報や、人材紹介会社が公表しているデータ、公的機関の統計調査などから把握できます。特に、ITエンジニアやDX人材など、専門性が高く需要の多い職種では、市場相場の変動が激しいため、常に最新の情報を収集するよう心がけましょう。

中途採用における給料(初任給)の計算方法は?

中途採用者の入社初月の給与は、月の途中で入社した場合、日割り計算を採用する企業が多いです。ただし、法定の統一方式はありませんので、会社の就業規則や賃金規定に定められたルールに基づいて計算します。欠勤控除の考え方を適用し、出勤しなかった日数分を月給から差し引く方法がよく用いられます。

また、給与計算の締め日や支払いサイクルは会社によって異なるため、就業規則を事前に確認し、入社する社員へ丁寧に説明する必要があります。

入社月の給与は日割り計算が一般的

月の途中から入社した場合、給与は日割りで計算されるのが通例です。日割り計算を行うことで、実際に勤務した日数に応じた正当な給与を支払うことができます。計算方法は企業ごとに就業規則で定めます。

代表的な計算方法には、「暦日数で割る方法」と「月の所定労働日数で割る方法」の2種類があります。

日割り計算の具体的な方法

給与の日割り計算には、主に以下の2つの方法があります。どちらの方法を採用するかは、就業規則で明確に定めておきましょう。

1. 暦日数を用いる方法

その月の暦日数(30日や31日など)を基準に計算します。計算式はシンプルですが、月によって日数が変動するため、1日あたりの単価が変わるのが特徴です。

日割り給与=月給÷その月の暦日数×出勤日数

例:月給30万円の社員が、暦日数31日の8月20日に入社した場合(出勤日数12日)

300,000円÷31日×12日≈116,129円

2. 月の所定労働日数を用いる方法

その月の平均所定労働日数(年間所定労働日数 ÷ 12ヶ月)や、当該月の所定労働日数を基準に計算します。実際に働く日数をベースにするため、より実態に即した計算方法といえるでしょう。

日割り給与=月給÷その月の所定労働日数×実労働日数

例:月給30万円の社員が、月の所定労働日数20日の月に入社し、10日間勤務した場合

300,000円÷20日×10日=150,000円

なぜ中途採用の給料が新卒より低いケースがある?

中途採用者の初期給与は、勤続年数の長い新卒出身の社員より低くなるケースもあります。これは主に、評価のタイミングや企業の給与体系が年功序列型であることや、中途採用者に対する評価がまだ定まっていないことなどが挙げられます。

1. 年功序列型の給与体系

年功序列型の給与体系では、勤続年数が長くなるほど定期昇給が積み重なり、給与が高くなる傾向があります。そのため、優れたスキルを持つ中途採用者であっても、入社時点では同年代の既存社員よりも基本給が低く設定されることがあります。

2. 評価制度と昇給率の違い

企業の評価制度や昇給率も給与差の一因です。既存社員は長年の勤務を通じて高い評価を得て昇給を重ねている一方、中途採用者は入社後の一定期間、試用期間的な位置づけで標準的な評価からスタートすることがあります。その結果、入社時点での給与に差が生まれる可能性があります。

3. ポテンシャル採用と即戦力採用の期待値の差

新卒採用が長期的な育成を前提とした「ポテンシャル採用」であるのに対し、中途採用は「即戦力」を期待されています。しかし、採用ポジションによっては、ポテンシャルを重視した若手の中途採用を行う場合もあり、その際の給与は新卒入社数年目の社員と同等か、それ以下になることも考えられるでしょう。

中途採用で既存社員との給与差による不満を防ぐには?

既存社員との給与差による不満を防ぐためには、客観的で透明性のある給与制度を構築し、なぜその給与額になったのかという根拠を明確に説明できる状態にしておきましょう。

公平で透明性のある給与制度の構築

特定の社員だけが不満を抱く状況は、給与決定のプロセスや基準が不透明であることに起因します。誰が、どのような基準で評価され、どう給与に反映されるのかを明確にした等級制度や評価制度を整備・運用することが、不満を抑制する根本的な対策となります。

スキルや職務内容に基づいて給与が決まる「職務等級制度」などは、公平性を担保しやすい制度の一つです。

給与の決定根拠を明確に説明できるようにする

「なぜ、あの人は自分より給与が高いのか」という疑問に対し、人事が論理的に説明できることが重要です。「前職の給与が高かったから」といった曖昧な理由ではなく、「〇〇というスキル・実績を評価し、当社の規定では△等級に該当するため、この給与額となります」と、自社の規定に基づいて説明できる準備をしておきましょう。

既存社員の待遇改善も同時に検討する

な人材を獲得するために中途採用者の給与水準が引き上がった場合、既存社員の給与も合わせて見直す必要があります。市場価値の高い業務を担っている既存社員や、高い成果を上げている社員の給与が市場相場と比べて低いままだと、エンゲージメントの低下や離職につながりかねません。中途採用は、自社の給与制度全体を見直す良い機会と捉えるべきでしょう。

中途採用者から給与交渉をされた際の対応方法は?

給与交渉をされた場合は、まず候補者の希望額とその根拠を冷静にヒアリングし、あらかじめ設定しておいた上限額や社内規定の範囲内で、調整可能かどうかを検討します。給与額の変更が難しい場合でも、他の条件で歩み寄れないか探る姿勢が大切です。

交渉に応じるかどうかの判断基準

給与交渉に応じるかどうかは、以下の点をふまえて判断しましょう。

  • 候補者のスキル・経験の希少性:他の候補者では代替が難しいか
  • 希望額の妥当性:市場相場や自社の給与水準と比べて、希望額は常識の範囲内か
  • 採用の緊急性:そのポジションを早急に埋める必要があるか

これらの要素を総合的に判断し、交渉のテーブルにつくか、あるいは今回は見送るかを決定します。

提示できる上限額をあらかじめ設定しておく

採用計画を立てる段階で、ポジションごとに提示できる給与のレンジ(範囲)と上限額を決めておくことが肝心です。上限額を明確にしておくことで、交渉の際に場当たり的な対応になるのを防ぎ、一貫性のある判断ができます。交渉の際は、その上限額の範囲内で着地点を探ることになります。

給与以外の条件(役職、福利厚生など)で調整する

どうしても希望の給与額を提示できない場合は、給与以外の条件で魅力づけができないか検討しましょう。

  • 役職:裁量権のあるポジションや役職を提示する
  • 福利厚生:住宅手当や資格取得支援制度などをアピールする
  • 働き方:リモートワークやフレックスタイム制度など、柔軟な働き方を提案する
  • 賞与・インセンティブ:入社後の成果に応じて、賞与やインセンティブで報いる可能性があることを伝える

金銭的な条件だけでなく、総合的な働きやすさやキャリアアップの可能性を示すことで、候補者の納得を得られる場合があります。

中途入社者の給与支払い手続きと注意点

中途入社者の受け入れが決まったら、給与支払いに向けて迅速かつ正確な手続きが必要です。特に社会保険住民税に関する手続きは、従業員の生活に直結するため、ミスなく進めなければなりません。

入社手続きで必要な書類の確認

給与計算や社会保険手続きを開始する前に、以下の書類を本人から提出してもらう必要があります。

これらの書類がそろわないと手続きが滞るため、入社日までに準備してもらうよう、事前にしっかり案内しましょう。

社会保険・労働保険の加入手続き

従業員を雇用した場合、企業は社会保険(健康保険・厚生年金保険)と労働保険(雇用保険・労災保険)への加入手続きを行う義務があります。

  • 健康保険・厚生年金保険:「被保険者資格取得届」を、入社の事実があった日から5日以内に管轄の年金事務所へ提出します。
  • 雇用保険:「雇用保険被保険者資格取得届」を、入社した月の翌月10日までに管轄のハローワークへ提出します。

手続きが遅れると、従業員が医療機関を受診する際に保険証が使えなかったり、失業手当の受給資格に影響が出たりする可能性があるため、速やかに対応しましょう。

住民税の徴収方法(普通徴収と特別徴収)

中途入社者の住民税の徴収方法は、入社前の状況によって対応が異なります。

  • 前職で特別徴収だった場合:前の会社から「給与所得者異動届出書」を受け取り、自社で手続きを継続することで、引き続き給与から天引き(特別徴収)できます。
  • 普通徴収だった場合:本人が自分で納付している状態(普通徴収)から、会社の給与天引き(特別徴収)に切り替えるには、「特別徴収切替届出(依頼)書」を市区町村に提出します。自治体ごとに様式名が異なるため、事前に所管自治体の様式を確認しましょう。

入社後すぐに手続きを行わないと、従業員自身が役所に出向いて納税する手間が発生してしまいます。どちらの方法で納税しているかを入社時に必ず確認し、希望に応じて速やかに切り替え手続きを行いましょう。

中途入社の給与は、客観的な基準と丁寧な調整で決まる

中途入社者の給与は、候補者のスキル、社内の給与規定、そして市場価値という3つの軸をふまえて、客観的な基準で決定することが双方の納得につながります。特に、既存社員との公平性を保つための透明性ある給与制度は、組織全体の士気を維持するうえで欠かせません。

給与交渉や入社後の手続きにおいても、誠実かつ丁寧な対応を心がけることで、中途入社者がスムーズに定着し、早期に活躍してくれる環境が整うでしょう。


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