• 更新日 : 2025年3月19日

役員社宅とは?利用するメリット・デメリット〜節税のポイントを解説

企業が提供する役員社宅は、主に経営層や幹部社員が住むための住宅で、業務の円滑な遂行や生活支援を目的として提供されるものです。

本記事では、役員社宅のメリットや導入の際のデメリット、税務上の取り扱いなどについて詳しく解説します。

役員社宅とは役員が利用する社宅を指す

役員社宅とは、会社が契約主体となり、役員に提供する住居のことです。

一般の賃貸物件とは異なり、会社が賃貸契約を結ぶため、役員の負担を軽減しつつ、税務面でのメリットがあります。

主な目的は以下の3点です。

  • 節税効果:適正賃料の範囲内で会社負担分を経費計上でき、法人税軽減
  • 社会保険料の削減:役員報酬の一部を住居費として処理することで、社会保険料負担を減少
  • 手取りの増加:住居費負担が軽減されることで、役員の可処分所得が増加

上記の目的を達成するためには、税務上の適正賃料を守る必要があります。

導入時は税理士と相談しながら、適切な設定を行うことが重要です。

役員社宅と従業員社宅の違い

役員社宅と従業員社宅は、どちらも会社が契約主体となり提供される住居ですが、取り扱いや税務上の扱いが異なります。

主な違いは以下の4点です。

項目従業員社宅役員社宅
契約主体会社が賃貸契約を結ぶ会社が賃貸契約を結ぶが、役員個人の意思による契約ではない
賃料の負担割合会社と従業員の負担割合が一定の基準で決まる適正賃料の範囲内であれば会社負担分が経費として認められる
税務上の取り扱いとくに厳格な制約はない適正賃料の設定が求められ、税務調査でのチェックが厳格化
社会保険料の影響影響なし役員社宅を適切に活用すれば、報酬額を抑えて社会保険料を削減できる可能性あり

違いを理解し、適切な賃料設定を行うことが、税務リスクの回避につながります。

役員社宅の3つのメリット

役員社宅を活用することで、法人・個人双方にとって大きなメリットがあります。

1. 会社負担分で経費にできる

役員社宅を法人契約することで、家賃の一部を会社負担とし、法人税の節税が可能です。

法人の経費として計上するためには、「適正賃料」の範囲内であることが求められます。

適正賃料の計算方法の目安は以下の通りです。

  • 固定資産税評価額 × 0.2% × 12ヶ月
  • 近隣の類似物件の賃料相場を基準に算出

【節税効果のシミュレーション】

項目社宅なし社宅あり(会社負担10万円)
家賃30万円(全額個人負担)30万円(10万円会社負担、20万円個人負担)
法人税削減額なし年間約36万円(法人税率30%の場合)

(10万円×12ヶ月×0.3)

上記のシミュレーションから、社宅制度を活用することで、個人の家賃負担を抑えられ、会社の法人税負担を軽減できます。

適正な賃料設定を行い、税務上のリスクを回避しつつ、節税メリットを活かしましょう。

2. 社会保険料を軽減できる

役員社宅を利用することで、社会保険料の基準となる役員報酬額が減るため、保険料負担を軽減できます。

社会保険料の仕組みは以下の通りです。

  • 健康保険・厚生年金は役員報酬にもとづいて計算
  • 役員報酬の一部を社宅費として処理することで、報酬額を抑え、社会保険料の削減が可能

本来の役員報酬のうち10万円を会社負担の社宅費として処理すると、以下のような違いが生まれます。

項目社宅なし社宅あり
役員報酬80万円70万円(10万円を社宅費として計上)
社会保険料約12万円約10万円(2万円軽減)

適正な賃料設定を行うことで、報酬額を調整しながら社会保険料の負担を抑えられます。

3. 役員報酬の手取りが増える

役員社宅を活用することで、個人の住居費負担が軽減され、手取り収入が増えます。

以下のシミュレーションで違いを見てみましょう。

項目社宅なしの場合社宅ありの場合
役員報酬80万円70万円

(10万円を社宅費として計上)

所得税・住民税・社会保険料約25万円約22万円
家賃(個人負担)30万円20万円
手取り25万円28万円

シミュレーションから、社宅制度を活用すると毎月の手取りが約3万円増加し、年間計算で約36万円の差になることがわかります。

役員社宅を適切に活用することで、実質的な可処分所得を増やせます。

役員社宅のデメリット

役員社宅には大きなメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。

デメリットを考慮しつつ、会社の経営状況や個人の住居ニーズに合わせた導入を検討してください。

敷金・礼金の初期費用がかかる

役員社宅を導入する際、敷金・礼金・保証金・仲介手数料などの初期費用が発生します。

とくに、高額な物件を選ぶ場合、会社のキャッシュフローに影響を及ぼす可能性があります。

家賃30万円の物件を契約した場合にかかる初期費用は以下のとおりです。

項目費用(家賃30万円の物件の場合)
敷金60万円(家賃2ヶ月分)
礼金30万円(家賃1ヶ月分)
仲介手数料30万円(家賃1ヶ月分)
合計120万円

会社の資金繰りに影響を与えないよう、事前に費用計画を立てることが重要です。

とはいえ、社宅制度を適切に活用することで、法人税の軽減や役員の手取り増加といったメリットを得られます。

キャッシュフローへの影響を考えながら物件を選びましょう。

自由に住む物件を選べない

役員社宅は会社が契約するため、個人契約と比べて選択肢が制限されます。

主な制約要因は以下の通りです。

  • 税務上の制約:適正賃料の範囲内である必要があり、高額な物件の選択が困難
  • 法人契約の可否:物件によっては法人契約ができない場合あり
  • 希望エリアや設備の制限:個人の希望条件に合致する物件が少ない

物件選びの自由度が下がるため、導入前に十分なリサーチを行い、役員が住みやすく通いやすい物件が確保できるかを確認することが重要です。

とくに、法人契約可能な物件の中から、会社と役員双方にとって適切な条件のものを選定する必要があります。

役員社宅で節税する際の3つのポイント

役員社宅を活用して節税するには、適切な運用が必要です。

ポイントを押さえることで、役員社宅を活用しながら税務上のメリットを最大限享受できます。

1. 賃貸料相当額を基準に家賃負担額を設定する

役員社宅の賃料は、税務署が適正と認める「賃貸料相当額」を基準に決定する必要があります。

超える部分があると、給与としてみなされ、税務上のリスクが生じる可能性があります。

賃貸料相当額の計算方法の目安は以下の通りです。

  1. その年度の建物の固定資産税評価額 × 0.2% ・・①
  2. 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))・・②
  3. その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22パーセント・・③

①~③の合計額が「賃貸料相当額」です。

  • なお、近隣の類似物件の賃料相場を基準に算出します。建物固定資産税評価額:2,000万円
  • 土地固定資産税評価額:2,000万円

建物総床面積が165平方メートルの場合の適正賃料の例は以下の通りです。

計算項目計算方法結果
賃貸料相当額(月額)2,000万円 × 0.2%‥①

+12円×(165/3.3)‥②

+2,000万円×0.22‥③

84,600円
年間の適正賃料84,600円× 12ヶ月101万5,200円

上記の範囲内で家賃負担額を設定することで、税務上のリスクを回避できます。

参考:No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁

2. 賃貸契約を法人名義で締結する

役員社宅の家賃を会社の経費として計上するには、賃貸契約を法人名義で締結する必要があります。

個人契約では、会社の経費として認められにくいため、法人契約の形を取ることが重要です。

法人契約の特徴は以下の通りです。

  • 家賃の一部を会社負担にできる(賃貸料相当額の範囲内)
  • 税務調査で適正賃料として認められやすい
  • 会社の経費として計上できるため法人税の軽減につながる

契約時にはいくつかの注意点があります。

まず、法人契約を認めていない物件もあるため、契約前に不動産会社へ確認することが重要です。

賃貸契約書には「法人名義」で契約することを明記し、契約条件に誤りがないようにしましょう。

さらに、社宅利用に関する会社の規定を整備し、契約の適正性を確保することも大切です。

法人契約の条件を満たしているかを事前にチェックし、スムーズに経費計上できるよう準備しましょう。

3. 社内規定を整備する

役員社宅を適正に運用し、税務リスクを回避するためには、社内規定の整備が不可欠です。

明確なルールを定めておくことで、税務調査の際も適正な処理であることを証明しやすくなります。

社内規定に含めるべき内容は以下の通りです。

項目内容規定例
役員社宅の利用対象者どの役員が社宅を利用できるかを明確にする代表取締役、取締役
会社負担分の計算方法賃貸料相当額を基準に負担額を決定することを明記する賃貸料相当額の範囲内
退去時の対応役員が退任・退職する際の社宅の扱いを決めておく役員退任・退職後1ヶ月以内に退去

適正な社内規定を整備し、トラブルや税務リスクを未然に防ぎましょう。

役員社宅を設ける際の3つの注意点

役員社宅を導入する際には、税務リスクや契約上の制約を考慮しなければなりません。

1. 負担を無償・少額にすると給与扱いになる場合あり

役員社宅の家賃負担を無償または極端に低額にすると、税務上、役員への給与所得とみなされ、所得税・住民税の負担が増加します。

会社側にも以下のリスクが生じます。

項目内容
追加給与とみなされるリスク役員賞与扱いとなり、損金計上が認められず法人税の負担が増加
税務調査のリスク適正賃料を支払っているかチェックされ、調査対象になる可能性あり

対策としては、賃貸料相当額を基準に適正な家賃を設定したり、市場相場と大きく乖離しない賃料設定を行ったりしましょう。

適正賃料の目安は以下の通りです。

計算方法目安
固定資産税評価額 × 0.2%適正賃料の基準
近隣の類似物件の賃料相場賃料の適正性を判断

賃料設定が適正であることを証明できるよう、書類を整備しておくことが重要です。

目安を参考に賃料を設定しましょう。

2. すでに居住している賃貸住宅は役員社宅にしにくい

個人契約ですでに住んでいる住宅を後から役員社宅に変更することは、税務上の問題が生じやすく、難しいケースが多いです。

まず、法人契約への変更が必要となり、不動産会社や貸主の承諾を得なければなりません。

とくに、法人契約を受け付けていない物件の場合、契約の切り替えができず役員社宅として利用できない可能性があります。

また、税務署のチェックが厳しくなる点にも注意が必要です。個人契約から法人契約に変更することで、適正賃料の設定や会社負担分の処理が不適切だと判断されると、経費として認められないリスクがあります。

事前に問題を回避するため、役員社宅の導入は新規契約時に行うのが最適です。

すでに住んでいる賃貸住宅を社宅に変更したい場合は、貸主や不動産会社と交渉を行い、法人契約の可否を確認した上で、税務リスクにも十分配慮することが重要です。

3. 住宅ローン控除は適用されない

役員社宅として法人契約した住宅は、個人契約の住宅ローンとは異なる扱いとなるため、住宅ローン控除の対象外となります。

住宅ローン控除の適用要件は以下の通りです。

  • 自己の居住用であること
  • 個人名義で住宅ローンを借りていること

法人契約で社宅として利用する場合、個人の住宅ローン控除が適用されず、結果として税制上のメリットを受けられなくなります。

また、税務リスクも考慮すべき重要なポイントです。

個人契約と法人契約が混在すると、税務調査時に問題視される可能性があります。

自宅を役員社宅として利用する場合、賃料設定の適正性などが厳しくチェックされるため、慎重な運用が求められます。

想定されるリスクを回避するためには、住宅ローンを利用した自宅を役員社宅にしないことが最善策です。

法人契約で役員社宅を導入する場合は、個人の居住用住宅を別途もつことで、税務上の問題を避けられます。

役員社宅を導入する前に、住宅ローン控除の影響を考慮し、慎重に計画することが大切です。

役員社宅に関するよくある疑問

役員社宅を導入する際、多くの企業が疑問に思うポイントがあるでしょう。

正しい処理を行うことで、税務リスクを回避しながら役員社宅を適切に運用できます。

役員社宅の仕訳方法は?

役員社宅の家賃を会社が負担する場合、適切な仕訳処理が必要です。基本的な仕訳は以下のようになります(家賃30万円のうち会社負担10万円、役員負担20万円の場合)。

【会社負担分の仕訳】

借方金額貸方金額
地代家賃100,000円(費用)現金100,000円(支払い)

【役員負担分の仕訳】

借方金額貸方金額
預り金200,000円(資産)現金200,000円(役員からの支払い)

適正な仕訳処理を行い、税務上のリスクを回避しましょう。

持ち家も役員社宅にできる?

基本的に、役員個人が所有する持ち家を役員社宅にすることは難しいとされています。

理由は以下の通りです。

  • 法人契約での賃貸借関係が成立しないため、税務署のチェックが厳格化
  • 適正賃料を設定しにくいため、給与扱いとみなされるリスクあり
  • 会社が持ち家を借り上げる形にする場合でも、税務リスクあり

とはいえ、持ち家を役員社宅にする方法はないわけではなく、以下で進められます。

  1. 会社が役員から持ち家を買い取り、役員社宅として貸し出す(ただし、実務上のハードルが高い)
  2. 会社が持ち家を借り上げ、役員に貸し出す(税務リスクあり)

持ち家の社宅化は税務上の制約が多いため、慎重に検討する必要があります。

役員社宅の水道光熱費は経費になる?

基本的に、役員社宅の水道光熱費は個人の生活費とみなされるため、会社の経費として計上できません。

例外的に、役員社宅内に事業用スペース(オフィスなど)がある場合では経費計上が認められます。

事業に使用している部分の光熱費は、按分計算により経費計上可能です。

按分計算の例(住宅の30%を業務用スペースとして使用)は以下の通りです。

費用項目全体金額事業利用割合例経費計上額
電気代20,000円30%6,000円
水道代5,000円30%1,500円

経費計上が認められるケースは限られているため、慎重に対応することが求められます。

役員社宅を活用して節税効果を高めよう

役員社宅を適切に運用することで、法人税の軽減や社会保険料の削減など、多くのメリットがあります。

しかし、税務上のリスクもあるため、適正賃料の設定や法人契約の手続き、社内規定の整備を行うことが重要です。

役員社宅の導入を検討する際は、税理士や専門家と相談しながら進めることで、トラブルを回避しつつ、最大限の節税効果を得られるようにしましょう。


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