• 更新日 : 2025年3月3日

役員退職慰労金規定とは?テンプレートをもとに作り方や注意点を解説

取締役や監査役などの役員が退任する際に会社が支払う退職金が役員退職慰労金です。規程を作成することで支払い基準などが明確になり、透明性を担保したうえで制度を運用できます。本記事では、役員退職慰労金規程の必要性や必要項目、運用にあたっての注意点などを解説します。

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役員退職慰労金規定とは?

役員退職慰労金規程とは、取締役や監査役などの役員が退任する場合に支給される退職金の根拠となる規程のことです。従業員に支払われる退職金は長年の勤労の対価としての意味合いが強いのに対し、役員退職慰労金は褒賞としての意味合いが強いことが特徴としてあげられます。

役員退職慰労金は会社法361条に基づき、定款または株主総会の決議で支給額や支給金額、支払い方法などの詳細を決定する必要があります。しかし、実態としては定款で規定している会社は少なく、株主総会の決議によって決定するのが一般的です。

役員退職慰労金規程を作成して株主に開示および閲覧して周知することで、株主総会において「支給に関する詳細は取締役会に一任する」として決議を行うことが可能になります。

参考:会社法|e-Gov 法令検索

役員退職慰労金規定はなくても良い?

従業員への退職金は就業規則に根拠を定める必要がありますが、役員退職慰労金規程の設置は必須ではありません。規程の代わりに定款に役員退職慰労金の詳細を記載するか、株主総会において支給の可否や金額、支給方法などを決議する必要があります。

法律上、規程を作成する必要性はないものの、規程を設けることによって支給の根拠が明確になり、透明性を担保できるメリットがあります。

役員退職慰労金規定のひな形・テンプレート

役員退職慰労金の支給には、会社側および役員側双方にメリットがあります。会社側としては、役員退職慰労金は損金に算入できるため、法人税の節税効果が期待できます。役員側としては、役員退職慰労金は退職所得に該当するため、所得税の額を抑えられる点がメリットと言えるでしょう。

役員退職慰労金規程を設置しておくことで、明確な根拠に基づく退職金の支給が可能になります。役員退職慰労金規程のサンプルは、以下を参考にしてください。

役員退職慰労金規定の必要項目や作成方法

役員退職慰労金規程の必要項目は、以下のとおりです。

  1. 目的
  2. 支給対象者
  3. 支給額の決定
  4. 支給額の算定方法
  5. 支功労加算
  6. 減額・不支給
  7. 支給時期
  8. 遺族への支給
  9. 端数処理
  10. 改廃

各項目の意味やポイントを解説します。

なお、役員退職慰労金の計算方法の詳細は、以下を参考にしてください。

1. 目的

まず、役員退職慰労金規程を設置する目的を簡潔に記載します。「取締役および監査役に対する退職慰労金の支給に関する必要事項を定めるため」などと記載しましょう。

2. 支給対象者

役員退職金の支給対象者を明確にします。後からトラブルになることを避けるため、短期在任の役員を支給対象外とする場合などは、明記しておく必要があります。また、懲戒解雇の役員に対する扱いや退職金支給後に不正が発覚した場合の返還義務についても定めておく必要があるでしょう。

3. 支給額の決定

支給額の決定方法を記載します。「役員退職慰労金は、株主総会の決議に従い、取締役会の決議によって決定する」などと記載しましょう。

4. 支給額の算定方法

支給額の算定方法を具体的に記載します。役員退職慰労金は、一般的に「功績倍率法」を用いて計算します。功績倍率法とは、役員が退職する直前の報酬金額に基づいて、役員の職務に従事した期間および職責に応じた倍率を乗じて計算する方法です。具体的には、「退職時の月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」となります。

功績倍率について法律上特段の定めはありませんが、昭和55年に東京高裁で示された「社長3.0倍、専務2.4倍、常務2.2倍、平取締役1.8倍、監査役1.6倍」を参考にして倍率を定める企業が多いでしょう。

参考:昭和55年5月26日判決(訴務月報26巻8号1452頁)|東京地裁

5. 支功労加算

功労加算とは、会社に対して特別な功労があった役員に対して退職金に功労金を上乗せして支払うものです。功労加算の金額について特に制限は設けられていませんが、30%が一般的です。不当に高額な功労加算金は認められない恐れがあるため、注意しましょう。

6. 減額・不支給

役員退職慰労金を減額または不支給とする場合のケースについて記載します。一般的には、会社への背信行為が合った場合や会社の信用を失墜させる行為があった場合、懲戒解雇された場合などがあげられます。

7. 支給時期

役員退職慰労金の支給時期を記します。「退任後速やかに支給する」または「退任後3ヶ月以内に支給する」などと記載するのが一般的です。但し書きとして、支給時期を延期する場合があることや、会社の状況によっては分割して支給する可能性があることについても明記しておくとよいでしょう。

8. 遺族への支給

役員が死亡による退任をする場合の退職慰労金の取り扱いについて記載します。「死亡により退任の場合、遺族に対して退職慰労金を支給する」などとするのが一般的です。退職慰労金を受け取れる遺族の範囲および順位も明記しておくことで、不要な争いを回避できます。

9. 端数処理

役員退職慰労金の計算によって端数が生じた場合の扱いを記載します。「1,000円未満の端数が生じた場合は、これを1,000円に切り上げる」などとします。

10. 改廃

役員退職慰労金規程の改正や廃止について記載します。「取締役または取締役の過半数の決定を経て株主総会の承認を得て改廃する」などと記載するのが一般的です。

役員退職慰労金規定の作成・取り扱い時の注意点

役員退職慰労金規程を作成することで支払い根拠を明確化できたり、遺族に対して確実に退職慰労金を支払えたりといったメリットがあります。一方で、役員退職慰労金の作成や運用には、注意点もあります。

主な注意点は、以下のとおりです。

  • 慰労金の額が不当に高額な場合、損金に算入できない場合がある
  • 慰労金の支給基準を明確に示す
  • 定期的に規程の見直しをする

それぞれについて詳しく解説します。

慰労金の額が不当に高額な場合、損金に算入できない場合がある

役員退職慰労金の金額は、原則として会社が自由に決めることができます。しかし、金額が不当に高額であると税務署に判断された場合、不当に高額な部分については役員賞与の扱いとなり、損金算入できないケースがあるため、注意が必要です。

「不当に高額」と判断される明確な基準はありませんが、退任の直前に報酬月額が大幅に増えていたり、功績倍率が一般的な基準より極端に高かったりといった場合に高額と判断されやすい傾向があります。常識的な範囲内において退職慰労金の額を定める必要があります。

慰労金の支給基準を明確に示す

役員退職慰労金規程を定めるにあたっては、支給基準を明確に示すことが大切です。支給基準は1つではなく、在任期間や実績などさまざまな要素が含まれます。これらを細かく言語化し明記しておくことで、制度の公平性が保たれます。

特に功績倍率については曖昧にせず、数値で示す必要があるでしょう。これに加えて支給方法や支給時期なども記すことで、トラブルの発生を防止できます。

定期的に規定の見直しをする

役員退職慰労金規程は一度作成したら終わりではなく、定期的に内容を見直すことが大切です。退職慰労金は高額になることが多いため、税務署の細かいチェックが入ることも珍しくありません。

退職慰労金が不当に高額と判断されると、会社および役員双方に不利益が生じます。支給基準や功績倍率が現在の税法などと照らして問題がないか、定期的に見直すようにしましょう。

役員退職慰労金規定に変更がある場合

従業員の退職金規程を変更する場合は、就業規則の変更の手順に従って従業員代表や過半数労働組合の承諾を得て退職金規程を変更する必要がありますが、役員退職慰労金規程の変更や廃止は取締役会で決議します。

一般的には、監査役会の意見を聞いて取締役会で決議されると変更や廃止が決定します。

ワード以外で役員退職慰労金規定を管理する方法

役員退職慰労金規程の管理方法としては、ワードで規程を作成して変更が生じた都度更新していく方法が手軽ですが、より効率的かつミスなく退職金支給にかかわる事務を遂行したい場合は、労務管理システムなどを活用する方法がおすすめです。

退職慰労金規程で定められた退職金テーブルをシステムに設定しておけば、役員の在任期間や退任時の役職などを入力するだけで退職慰労金の額を自動的に計算できます。退職金計算時に必要な税金の計算や退職所得の源泉徴収票などの帳票も作成できるシステムを導入すれば、さらに事務の効率化が図れるでしょう。

役員退職慰労金規定を定めて制度の透明性を確保しよう

役員退職慰労金規程の設置は必須ではありませんが、規程を作成することによって支給基準が明確になり、制度の透明性を担保できます。

退職金の支給基準が曖昧でその時々で金額に差があると損金算入が認められなかったり、役員間のトラブルにつながったりする恐れがあるため、注意が必要です。役員退職慰労金規程を定めることは、企業の社会的信用力を向上させることにもつながるでしょう。


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