• 更新日 : 2025年6月24日

給与計算の外注先は税理士と社労士どちら?業務範囲と違法性を解説

給与計算を外注する際、税理士と社労士のどちらに依頼すべきかは、業務内容によって異なります。税務に関する処理は税理士、社会保険や労務管理に関する手続きは社労士の専門分野です。両者の違いを理解し、必要に応じて連携してもらうことで、違法リスクを回避しながら効率的に給与計算を進めることができます。

この記事では、税理士と社労士が対応できる業務の範囲や外注時の注意点、違法となるケース、費用の相場までを具体的に解説します。

税理士に給与計算を外注することはできる?

給与計算を外注する際、税理士にどこまで依頼できるのかを正確に理解しておきましょう。税理士は、税務に関する国家資格を持つ専門家であり、所得税や法人税消費税などに関する申告や相談、書類作成などを担当します。

給与計算に関しては、税理士の業務として「源泉徴収にかかる所得税の計算」「納付書の作成・提出」「年末調整」など、税金に関する業務を依頼できます。たとえば、毎月の給与から天引きする所得税の計算や、年末の源泉徴収票の作成、税務署への法定調書の提出などは、税理士の業務範囲です。

また、役員報酬や賞与に関する税務処理、節税対策のアドバイスなども税理士に相談できるため、経営者の立場からみた最適な報酬設計などにも力を発揮します。

ただし注意点として、税理士の業務範囲はあくまでも「税務」に限定されます。給与明細の作成や労働時間の管理、社会保険の加入・脱退といった「労務」に関する事務手続きは、原則として税理士の業務ではありません。

そのため、給与計算のすべてを税理士に一任するのではなく、税務に関わる部分だけを依頼するという意識が必要です。労務手続きまで含めた業務を依頼したい場合には、社労士との連携も検討するのが現実的です。

社労士に給与計算を任せられる?

社会保険労務士(社労士)は、労働法や社会保険制度に関する専門知識を持ち、労働社会保険諸法令に基づく書類作成や手続き代行、労務管理のコンサルティングを行う国家資格者です。企業の人事労務分野に密接に関わる専門職であり、給与計算に関しても幅広く対応できます。

社労士に依頼できる主な業務としては、社会保険料や労働保険料の計算、従業員の入退社に伴う保険加入・喪失の手続き、育児休業や介護休業に関連する届出の代行などが挙げられます。これらは税理士では対応できない業務であり、社労士の独占業務として法的に認められています。

また、毎月の給与計算業務についても、社労士は労働時間・時間外労働・深夜労働などのルールを踏まえた上で適切に対応可能です。割増賃金や休暇取得状況を踏まえた処理など、現場に即した計算が求められる場合には、社労士に依頼する方が安心と言えるでしょう。

ただし、社労士には税務に関する業務(たとえば源泉所得税の申告や年末調整など)を行う権限がありません。これらの処理は税理士の独占業務とされており、社労士が代行することは税理士法違反に該当するおそれがあります。

そのため、年末調整を含めた税務処理も必要な場合は、社労士とは別に税理士とも契約する必要があります。近年では、社労士と税理士が連携して給与計算業務を分担するワンストップ体制を整えている事務所も増えており、そうした体制を利用することで、労務と税務の両面に対応できる柔軟なアウトソーシングが可能となります。

税理士と社労士の給与計算における違い

給与計算の外注を検討する際、税理士と社会保険労務士(社労士)のどちらに依頼すべきか迷う場面は少なくありません。両者には、法律で定められた業務範囲があり、税理士=税金と会計、社労士=人事と労務を専門としています。こうした違いを理解し、適切な業務を専門家に任せることで、違法リスクや外注によるトラブルを防ぐことにもつながります。

税理士が対応できる給与計算の関連業務

税理士は、給与計算においては税務と会計に関係する業務全般を担います。また、給与データを元に損益計算書貸借対照表を作成し、企業の財務状況を明らかにする決算業務も税理士の守備範囲です。

主に税務と会計の観点から、税理士は以下のような業務に対応します。

  • 源泉所得税の計算
  • 年末調整の実施
  • 税務署への法定調書や申告書類の作成・提出
  • 給与支払額に関する帳簿(仕訳帳総勘定元帳など)への記帳
  • 決算書への人件費(給与・賞与等)の計上
  • 損益計算書・貸借対照表などの財務諸表の作成
  • 経営者向けの報酬設計や節税対策のアドバイス

社労士が対応できる給与計算の関連業務

社労士は、給与計算に関連する分野では、労働法および社会保険法に基づく手続きや帳票管理を中心に対応します。特に「賃金台帳の作成と管理」は、労働基準法上の義務であり、正確な賃金・労働時間・控除額の記録を必要とするため、社労士の支援が有効です。

  • 労働保険(雇用保険・労災保険)料の計算
  • 社会保険(健康保険・厚生年金保険)料の計算
  • 従業員の入退社に伴う保険資格の取得・喪失届の提出
  • 育児休業・介護休業に関する手続き・届出
  • 賃金台帳の作成・管理(法定帳簿の整備)
  • 就業規則や賃金規程の作成・改訂
  • 労働条件通知書・雇用契約書などの作成支援
  • 労務相談(働き方や残業時間の管理など)
業務内容税理士が対応社労士が対応
所得税の源泉徴収・納付×
年末調整の計算・申告×

(違法)

社会保険料・雇用保険料の計算×
社会保険加入・喪失の手続き×
賃金台帳の作成・管理×
就業規則・賃金規程の作成×
帳簿付け(仕訳・記帳)×
決算書の作成・人件費の計上×
助成金申請×

給与計算以外で税理士に依頼すると違法になる業務

給与計算そのものは、法的に特定の資格を必要としない「一般業務」に該当します。そのため、企業が税理士や社労士に給与計算を依頼すること自体は原則として違法ではありません。ただし、税理士法や社労士法に定められた「独占業務」に関しては、資格のない者が対応すると違法となるおそれがあります。

税理士の主な独占業務は、以下の3点に整理されます。

  1. 税務代理(税務署への提出書類に関する代行)
  2. 税務書類の作成(確定申告書、年末調整の申告書など)
  3. 税務相談(税金に関するアドバイス全般)

つまり、税務に関わる業務であれば、税理士でなければ代行できません。これらの業務を社労士や無資格者が行うと、税理士法違反となります。たとえば、年末調整の計算や法定調書の作成・提出を社労士に依頼するのは、法的に認められていません。

一方で、税理士が行ってはならない業務もあります。それが社労士の独占業務に該当する手続きです。

税理士に依頼すると違法となる業務(社労士の独占業務)

社労士の独占業務には、以下のようなものが含まれ、税理士が行うと違法となります。

  • 労働社会保険諸法令に基づく書類の作成と提出(雇用保険・社会保険など)
  • 賃金台帳や労働者名簿などの法定帳簿の作成
  • 厚生労働省が管轄する助成金の申請代行

これらの業務を、社労士の資格を持たない税理士が代行することは社労士法違反にあたります。たとえば、従業員の社会保険資格取得の手続きや、賃金台帳の整備を税理士が請け負うことは、原則として認められていません。

関連:賃金台帳の作成を税理士に依頼できる?社労士との違いや注意点を解説

税理士・社労士に給与計算を外注する場合の費用相場

給与計算を外注する場合、業務の範囲や委託先の専門性によってコストには幅があります。ここでは、税理士と社労士それぞれに依頼した場合の月額料金の目安や料金体系の違いについて整理しておきましょう。

税理士に給与計算を依頼する場合の費用相場

税理士に給与計算を依頼する場合、多くの会計事務所では以下のような料金体系を採用しています。

  • 基本料金:月額1万円前後(小規模事業者向け)
  • 従業員1人あたりの追加費用:500円〜1,000円程度
  • 年末調整:1人あたり1,000円〜2,000円前後
  • 賞与計算:1人あたり800円〜1,200円前後
  • 初期設定費用:1人あたり1,000円〜2,000円程度

たとえば、従業員10名の企業が毎月の給与計算と年末調整を税理士に依頼する場合、基本料金に加えて従業員数に応じた従量課金が加わるため、年間では15万円〜25万円程度のコストがかかると見込まれます。

また、税理士は帳簿の記帳代行や決算・申告業務もまとめて対応するケースが多いため、給与計算単体ではなく「税務顧問契約の一部」として提供されることが多いのも特徴です。

社労士に給与計算を依頼する場合の費用相場

社労士に依頼した場合も似たような料金構成ですが、対応内容やサービスの切り分け方に特徴があります。

  • 基本料金:月額1万〜2万円
  • 従業員1人あたり:500円〜1,500円程度
  • 社会保険・労働保険の手続き:1件あたり5,000円〜1万円前後(スポット対応)
  • 就業規則の作成・見直し:5万円〜10万円程度(別契約)

給与計算のみを委託する場合の相場は、従業員数10名で月額1.5万〜2.5万円前後の費用が目安となります。ただし、社会保険の資格取得や喪失、月額変更届などの手続きが発生する場合には、別途報酬が発生する形式が一般的なため、必要な手続きがどこまで含まれるかは事前に確認が必要です。

契約形態や業務範囲によって費用に差が出る

外注費用は、単なる基本料金や従業員数だけでは判断できません。以下のような要素によっても金額に差が生じます。

  • 毎月の給与処理に含まれる範囲(勤怠集計・明細作成の有無)
  • イレギュラー時の対応(中途入社・退職、休業など)
  • 年末調整や賞与の回数・頻度
  • 顧問契約かスポット契約か(継続前提か一時的か)

これらの条件を踏まえ、業務範囲と費用が明確に定義されている契約内容かどうか、依頼前に、見積書や契約書でしっかり確認することが大切です

税理士・社労士に給与計算をスポット依頼できる?

給与計算の外注といえば、毎月の定期契約を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、一時的な「スポット依頼」も可能です。

たとえば、年末調整の時期だけ、賞与支給月だけ、あるいは経理担当者が不在の期間のみといった形で、必要なタイミングに絞って専門家に任せる方法も選択肢のひとつです。

一方で、短期間の委託であるからこそ、初期段階の準備や契約内容のすり合わせを怠ると、業務がスムーズに進まなかったり、トラブルにつながったりするおそれもあります

短期、長期関わらず、次の章のポイントを事前に抑えておくことが大切です。

税理士・社労士に給与計算を依頼する際のポイント

給与計算を外部の専門家に任せることで一定の業務を手放せる反面、「何を、どこまで任せるのか」「情報は安全か」といった点があいまいなままだと、後々トラブルのもとになりかねません。ここでは、外注時に気をつけたい基本的なポイントを整理しておきます。

以下のポイントを事前に押さえておくことが大切です。

必要な書類を事前に整理しておく

給与計算に必要な情報は多岐にわたります。社員ごとの基本情報(氏名、扶養人数、住所など)に加えて、直近の勤怠データ、有給残日数、各種控除(社会保険料・住民税交通費など)に関する資料も必要です。情報を紙やバラバラなExcelファイルのまま渡すのではなく、統一されたフォーマットやデジタルデータとして整理しておくことが求められます。

対応範囲や納期、報酬額を事前に定めておく

「給与計算を丸ごとお願いします」という一言では、業務範囲があいまいになりやすく、認識のズレが生まれる原因になります。

どこまでの作業を委託するのか、いつまでに何を納品してもらうのか、そして費用はいくらなのか。これらを依頼前に具体的に定めておきましょう。

また、口頭で済ませてしまうと、後になってトラブルの火種になることがあります。作業内容の範囲(給与計算のみか、年末調整も含むか等)、成果物の形式、納品方法とスケジュール、報酬体系などは、簡単な覚書でもよいので文書で取り交わしておくことが基本です

守秘義務契約(NDA)を締結しておく

給与計算には、社員の年収や控除情報、家族構成などの機密性の高い個人情報が含まれます。外部に情報を渡す以上は適切な情報管理が必要です。情報漏えいリスクへの対策として、業務委託契約とあわせて守秘義務契約(NDA)を交わしておくのが望ましいでしょう。委託先が情報管理にどのような体制をとっているか、確認しておくことも大切です。

情報セキュリティ対策が整っているかを確認する

給与計算には、従業員の氏名や住所、マイナンバー、扶養情報、所得額など、高度な個人情報が数多く含まれます。これらの情報を外部に渡す以上、委託先がどのようにデータを保管・管理しているのかを事前にチェックすることは不可欠です

次のような項目について確認しておくと安心です。

  • パスワード付きファイルや暗号化された通信手段が使われているか
  • 個人データを保管するPC・サーバーがセキュリティ対策済みか
  • 紙媒体の資料は施錠された場所に保管されるか
  • 委託先の内部でも業務担当者以外が情報にアクセスできないよう制限されているか
  • 万が一の情報漏えい時の対応マニュアルや保険加入の有無

情報漏えいが起これば、企業の信用問題に直結します。費用やスピードと同様に、「情報を安心して任せられるか」という視点も選定基準として重視すべきポイントです

イレギュラーな処理がある場合は共有しておく

スポット依頼では、「通常の給与計算」と「イレギュラーな処理」を同時に扱うケースも少なくありません。たとえば、当月に退職した社員がいる、育児休業中の社員がいる、兼務手当や歩合給の扱いが複雑になっている、などです。これらの特殊ケースをあらかじめ共有しておかなければ、外注先が正確な処理を行うことは困難になります。補足資料や社内ルールも含めて伝達しておきましょう。

業務完了後の確認フローを取り決める

給与計算は、最終的に「支給額の確定」と「支払い」というアクションに直結する業務です。ミスがあれば従業員からの信頼にも関わります。したがって、スポット依頼であっても成果物を受け取った後の確認手順や修正対応の流れについて、あらかじめ合意を取っておくことが不可欠です。たとえば、納品された給与明細を社内でどのようにチェックするか、報告書の形式や提出方法はどうするか、といった点も調整しておきましょう。

このように、スポット契約にはスポットならではの柔軟さとリスクが共存します。事前の情報整理と明確な業務の切り分け、信頼できる専門家の選定を意識することで、安心して業務を任せることができるはずです。

外注は便利な反面、「丸投げ」で任せてしまうと、思わぬコスト増や社内対応の混乱を招く原因になります。相手を信頼しつつも、必要なルールは明確にしておくこと。それが、外部委託を効果的に活用するための基本姿勢です。

税理士や社労士と連携して給与計算をスムーズに進めよう

給与計算は毎月発生する定型業務でありながら、法改正や人事異動の影響を受けやすく、対応を誤ると法令違反につながるおそれもあります。すべてを社内で処理するのが難しい場合は、税理士や社労士などの専門家と連携することで、精度と効率を両立できます。

税理士は税務処理や決算対応を、社労士は社会保険や労務管理を担い、それぞれの専門性を活かして業務を支援します。自社の状況に応じて、どの部分をアウトソースするかを整理し、必要に応じてワンストップ型の体制を検討するのも一案です。

定期的な契約の見直しや委託範囲の調整を通じて、実務の安定と社内の負担軽減につなげていきましょう。

給与に関する各種テンプレート

給与計算ソフトマネーフォワード クラウド給与」が提供する給与のテンプレート・ひな形(ワード)の一覧ページです。無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。


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