- 更新日 : 2024年8月29日
秘密保持契約書・NDAとは?雛形や作成方法を弁護士が解説
秘密保持契約書とは、取引等で相手方から提供される業務上の秘密や個人情報等を第三者に開示しないよう、情報管理の在り方について取り決めた契約書のことです。「NDA」「守秘義務契約書」とも呼ばれますが、事業者間の契約では「秘密保持契約書」と呼ばれることが多いです。本記事では弁護士である筆者が、秘密保持契約を締結する場面や契約の内容、印紙の要否などについて、秘密保持契約書の雛形・テンプレートを示しながら解説します。
目次
秘密保持契約書(NDA)とは
秘密保持契約書とは、取引等で相手方から提供される営業秘密(秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報)や個人情報等を第三者に開示しないよう、情報管理の方法や禁止事項等について取り決めた契約書のことです。英語では「Non-Disclosure Agreement」であることから、その頭文字を取って「NDA」とも呼ばれます。
自社が持つ営業秘密や個人情報等は、自社の存続に関わる重要なものです。しかし、例えば製造委託や販売委託等で取引を行うにあたり、委託先に一定の業務上の秘密や個人情報等を提供する必要が生じることがあります。その際、相手方に秘密情報の管理義務を負わせることで、自社の営業秘密が不当に流出したり、悪用されたりすることを防ぐことができます。秘密保持契約は、このような目的で締結されます。
秘密保持契約書は「守秘義務契約書」とも呼ばれますが、どちらかといえば守秘義務は公務員や弁護士、税理士等が負っている法律上の義務を指す場合が多く、事業者間の契約では秘密保持契約書と呼ばれることが多いです。
秘密保持契約の必要性
事業者が保有する商品の製造方法や顧客の情報等は、その事業者の存続に関わる重要なものが多く含まれています。しかし、事業者が事業活動を行うにあたっては、従業員を雇ったり、第三者と業務提携したり、製造を委託したりするなど、第三者と関係を持たざるを得ません。その際は、事業者が保有している情報を相手方に開示することもあります。
相手方に開示した情報が流出したり悪用されたりすれば、損害賠償請求を受けたり、競合他社に顧客を取られたりするなどの実害が生じます。このような事態を回避するためには、相手方に秘密情報を提供する際に秘密保持契約を締結し、相手方に秘密情報の管理を義務付ける必要があります。
秘密保持契約において秘密情報の範囲を明確にしておけば、相手方は開示された情報の内、どの情報を秘密情報として管理すべきかを明確に把握できます。
秘密保持契約は、特許の保護や不正競争防止の観点でも締結しておく必要があります。例えばある商品について特許取得を考えていても、特許法では「公然知られた発明」(公知の発明)は特許を取得できません(特許法29条1項1号)。
「公知の発明」に関して、高等裁判所では「発明の内容が、発明者のために秘密を保つべき関係にある者に知られたとしても当たらず」「発明者のために秘密を保つべき関係は法律上又は契約上秘密保持の義務が課されることによって生じる」という判例があります(東京高裁平成12年12月25日判決・別冊ジュリスト209号22頁)。
つまり、秘密保持契約を締結せずに製造を委託して相手方に特許にかかる秘密情報を開示すると「公知の発明」にあたり、特許権が認められないというリスクが生じるのです。
また、不正競争防止法上の「営業秘密」に当たる情報が漏洩し、競合他社がそれを利用した場合は、販売の差し止めや損害賠償請求を行えます。
そのためには、不正競争防止法上の営業秘密として保護されている必要があります。秘密保持契約を締結せずに秘密情報を開示し漏洩した場合は、不正競争防止法上の営業秘密に該当しないため、差し止めや損害賠償が認められず秘密情報が保護されないリスクがあります。
このように、特許や不正競争防止の観点からも秘密保持契約を締結しておく必要があるのです。
秘密保持契約の締結場面は?
秘密保持契約を締結する場面は、従業員の雇用など社内に人を入れる場面と、業務提携や製造委託、研究開発等の第三者と共同して事業を行う場面に分けられます。
雇用の場面では、雇用契約書等の個別の契約書に秘密保持条項を定めたり、社内で就業規則や情報管理規程を定めたりすることで、従業員に秘密保持を遵守させます。
第三者との共同事業の場面では、基本契約の内容に秘密保持の条項を設ける、あるいは基本契約書とは別に秘密保持契約書を作成し、両者が署名捺印することで秘密保持契約を成立させます。
秘密保持契約の締結タイミングは?
秘密保持契約の締結のタイミングは、基本的に相手方と何らかの契約関係を持つ時がよいでしょう。雇用の場合は雇用契約時に、共同事業を行う場合は基本契約を締結する際に併せて秘密保持契約を締結しておくべきです。
基本契約の締結後、秘密保持契約を結ぶことを失念していたことに気付いた場合は、直ちに相手方に申し入れて秘密保持契約を結びましょう。
個人情報保護法との関係は?
個人情報保護法では、個人情報データベース等を事業の用に供している個人情報取扱事業者について、個人データの漏洩、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理が行われるよう必要かつ適切な措置を講じる義務(個人情報保護法20条)、従業者・委託先への監督義務(同21条、22条)、漏洩が生じた場合の報告義務(同法22条の2)、第三者への提供禁止義務(同法23条)等、個人情報を安全かつ適切に管理・監督する義務が定められています。
したがって、個人情報取扱事業者は営業秘密に個人情報が含まれている場合は、個人情報保護法の観点からも秘密保持契約を締結しておくべきです。その際は、個人情報と営業秘密のそれぞれについて明確な定義規程を設け、個人情報が営業秘密に含まれることを明示しておきましょう。
秘密保持契約書(NDA)の書き方と雛形
ここからは、秘密保持契約書(NDA)に記載すべき内容や書き方を解説します。解説にあたっては、経済産業省がリリースしている「秘密情報の保護ハンドブック」の「参考資料2 各種契約書等の参考例」を参照しています。
参考:秘密情報の保護ハンドブック
秘密保持契約書のテンプレートは下記のページからダウンロードできます。
タイトル・見出し
まず、冒頭に契約書の表題(タイトル)を記載します。「秘密保持契約書」という表題が使用されるのが一般的です。従業員の雇用時など、相手方に一方的に誓約させる場合は「秘密保持に関する誓約書」といった表題が使われます。
契約書は双方が署名捺印する際に、誓約書は秘密保持義務を負う一方のみが署名捺印する際に作成します。契約書や誓約書は内容をわかりやすくするために、項目ごとに見出しを付けることをおすすめします。例えば、「第1条(目的)」「第2条(秘密情報の範囲)」といった具合です。
秘密情報の範囲
「守るべき秘密情報とは何か」を明確にするために、秘密情報の範囲を定める必要があります。経産省の雛形(他社との業務提携)にあるように、一般的には「秘密情報とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報」と定めるケースが多いです。
「秘密である旨を明示した情報」というところがポイントです。契約締結後は、相手方に「秘密保持の対象となる情報が何か」をあらかじめ書面や電子メール等の記録が残る方法で明示した上で、開示するようにしましょう。
何を秘密情報の範囲とするかは、契約内容によって変わります。秘密保持契約を作成する際は、秘密情報の範囲をどのように定めるかが最も重要です。
また、秘密情報から除外するものとして、1.既に保有していた情報、2.第三者から正当に入手した情報、3.独自に取得した情報、4.公知の情報、5.取得後に帰責事由なく公知となった情報の5点を記載します。
目的外使用の禁止
秘密情報の範囲を定めたら、秘密情報の使用方法を定めます。基本的には秘密情報の開示の前提となる基本契約があると考えられるため、例えば「本件基本取引の目的以外に使用してはならない」といったように目的外使用の禁止を定めることになります。
コピー・複製の取り扱い
秘密情報のコピー・複製物が作成されることが想定される場合は、それらの取り扱いについても定めておく必要があります。コピー・複製物の流出は原本の流出と同等の損失が生じるリスクがあるため、コピー・複製物の取り扱いについても明確に定めておくべきです。
一般的には「秘密情報等を複製する場合には、本取引の目的の範囲内に限って行うものとし、その複製物は、原本と同等の保管・管理をする」といったように定めます。
契約の有効期間
秘密保持義務をいつまで負うか、契約の有効期間を定めます。一般的には基本契約と同期間に定め、期間満了までに特段の意思表示がなければ自動更新する旨を定めるケースが多いです。
基本契約終了後の秘密保持も想定して、「秘密保持契約については、基本契約が終了してから〇年間は存続するものとする」といったように、基本契約とは異なる定め方をすることもあります。
契約期間が一定期間で終了することが契約前から明確に決まっている場合は、更新規定を設けずに期間満了を以って終了することを定めるケースもあります。この場合も、期間満了後の秘密保持の在り方については注意が必要です。
秘密情報の返還・廃棄
契約終了後の秘密情報の返還・廃棄の方法についても、契約書で定めておく必要があります。秘密情報の返還・廃棄について定めがないと、契約終了後に秘密情報が漏洩した場合に、相手方に秘密保持契約違反の責任を問えなくなります。秘密情報として何をどのように返還するのか、どのように廃棄し、廃棄の報告をするかなどについて、秘密保持契約書で定めておきましょう。
保証について
秘密情報を開示した当事者が相手方に対し、秘密情報についての正確性、第三者権利の非侵害その他いかなる保証もしない旨や、他の第三者に対して秘密情報を開示すること、交渉・取引を開始することを約束しない旨を定めることがあります。
秘密情報を開示する側が、他の事業者に対しても同様の秘密情報を開示することを想定している場合や、秘密情報が開発途上のものであるなどの理由で正確性を保証できない場合は、念のためにこのような規定を定めることがあります。
知的財産権
秘密情報自体が特許や著作権等の知的財産権の対象となる場合や、秘密情報をもとにして共同開発を行った場合の成果物に知的財産権が生じることが想定される場合は、その権利をどちらに帰属するかを契約書で定めておいたほうがよいでしょう。
秘密情報自体の知的財産権については、基本的には提供する側に権利が帰属するため争いなるケースは少ないと考えられますが、秘密情報をもとにして製造・開発されたものについての知的財産権がどちらに帰属するか、あるいは双方に帰属するかについては、あらかじめ定めておかないと後で法的紛争に発展するリスクがあります。
情報漏洩時の措置
秘密情報が相手方から漏洩した場合、相手方がどのような措置を講じるべきかを契約書で明確にしておいたほうがよいでしょう。一般的には、相手方において情報管理者を定めておくべきことと、漏洩等が生じた場合は直ちに報告すべき義務を定めるケースが多いです。
権利義務の譲渡禁止
契約当事者としての権利義務について、第三者への譲渡禁止を定める場合があります。秘密保持契約において必須の項目ではありませんが、定める場合は吸収合併や会社分割が「譲渡」に含まれるか否かも明確に定めておいたほうがよいでしょう。
秘密保持契約において権利義務の譲渡の問題として生じやすいのは、第三者への再委託が想定されるケースです。例えばA社がB社に機械の製造を委託し、B社がその機械の部品の一部の製造を下請け業者であるC社に委託する場合、機械の設計図という秘密情報の取り扱いが問題となる可能性があります。
一般的には、あらかじめ第三者への再委託をする場合は、第三者にも同等の秘密保持義務を負わせること、再委託先の情報管理について監督義務を負うことなどを定めます。
作成年月日と署名・押印
秘密保持契約書の末尾に作成年月日を記載し、当事者双方が署名捺印をすることで、秘密保持契約が成立します。作成年月日は調印日とするケースが多いのですが、当事者間の合意があれば日付を遡って記載することも可能です。原則として、契約書の作成年月日から秘密保持契約書に記載された秘密保持義務を負うことになります。
秘密保持契約書(NDA)締結の流れ
上記の内容を記載した秘密保持契約書に当事者双方が署名捺印をすることにより、契約が成立します。ここでは、秘密保持契約の締結に至るまで流れを解説します。
①秘密保持契約書の雛形を確認する
まず、秘密保持契約書の雛形を用意します。取引基本契約書の内容に秘密保持条項を含めることもありますし、取引基本契約書とは別に秘密保持契約書を用意することもあります。
どちらにするかは、秘密情報の内容によります。秘密情報の内容が複雑な場合や、秘密情報保持の期間を基本契約とは別に定めたい場合、情報管理の方法や共同開発における成果物の権利の帰属先など、秘密情報に関して多くの事項を定めなければならない場合は、別途秘密保持契約書を作成したほうがよいでしょう。
秘密保持の内容や管理方法がそれほど複雑でなければ、取引基本契約書の中で秘密保持条項を定めても構いません。
②双方の確認と、記述内容に合意する
まずは、秘密保持契約書の雛形に自社の意向を盛り込んだ契約書案を作成し、相手方に提示します。相手方から修正希望があれば適宜協議を行い、契約内容を調整します。最終的に双方が合意するまで協議し、契約書案の内容を固めてください。
③秘密保持契約書に署名、記名押印する
契約当事者の双方で協議し合意したら、合意した内容が記載された秘密保持契約書に署名捺印(記名押印)をします。契約書の正確性を期すためには、当事者の印鑑証明書を添付し、実印で押印するのが理想ですが、認印などでも法的効力が否定されるわけではありません。
企業がプライバシーマーク(Pマーク)を取得している場合に注意すべきこと
プライバシーマークは、個人情報の保護体制に対する第三者認証制度のもと、個人情報保護体制の基準への適合性を評価された事業者に対して付与されます。プライバシーマークを取得した企業は、自社が取得・保管する個人情報について、自社の従業員らに対し個人情報保護を指導・監督する責任を負います。
監督義務を怠って情報漏洩が起きた場合は、プライバシーマークを取り消されたり、改善要請を受けたりします。
したがってプライバシーマークを取得している企業は、従業員に対して入社時に個人情報関する秘密保持を誓約させ、在職中も就業規則等で定めた内部規程の遵守を徹底させる必要があります。
従業員が退職後も秘密情報の不正利用をしないよう、退職時にも誓約書を書かせたほうがよいでしょう。
プライバシーマークを取得した企業は、業務提携・委託等で第三者に開示する秘密情報に個人情報が含まれている場合は、監督義務違反を問われるリスクがあります。そのため、第三者との間でも秘密保持契約書を交わしておきましょう。
秘密保持契約書に収入印紙は不要
契約書に収入印紙を貼り付けるかどうかは、印紙税法が定める課税文書の対象となるかどうかで決まります。
国税庁は、課税文書の対象となるかどうかは契約書の表題ではなく内容によって判断するものとし、その内容が印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されている等の場合にのみ該当するとしています。
この見解に従えば、秘密保持契約書は課税物件表のいずれにも該当しません。したがって、秘密保持契約書に収入印紙は不要です。ただし、取引基本契約書に秘密保持契約条項が含まれている場合、その取引基本契約の内容が課税物件表の事項に該当すると判断されれば、印紙税がかかることがあります。
秘密保持契約書は電子契約で締結がスピーディになる
秘密保持契約書を紙媒体で締結するのであれば、契約書案を社内で決裁して印刷し、相手方に郵送し、署名捺印して返送してもらう必要があるため、時間と手間がかかります。
しかし、インターネット・メールを介した電子契約を利用すれば、スピーディかつローコストで契約を締結できます。秘密保持契約の締結にはマネーフォワード クラウド契約など、便利な電子契約を利用するとよいでしょう。
秘密保持契約書は企業が開示する情報を守るために重要です
秘密保持契約は、自社を守るために非常に重要な契約です。事業活動を行う上で、第三者との関わりは欠かせません。しかし、第三者に自社の重要な情報を開示し、その情報が漏洩すれば競合他社に先を越されたり、漏洩による賠償請求を受けたりするなど、法的リスクが高まります。
秘密保持契約は業務提携や業務委託、共同開発等のほか、雇用した従業員に秘密保持を義務付ける等、事業活動のあらゆる場面で必要になります。保持すべき秘密の内容をどのように定め、その取り扱いをどのようにするか、秘密保持契約の中で明確に定めましょう。
秘密保持契約を結ぶ際は、マネーフォワード クラウド契約などの電子契約を活用すると、円滑に契約を締結できます。インターネットやメールを介した電子契約などを賢く活用することをおすすめします。
よくある質問
秘密保持契約とはどのようなものですか?
秘密保持契約とは、取引等で相手方から提供される営業秘密や個人情報等の業務に関する秘密を第三者に開示しないよう、情報の管理方法や禁止事項等について取り決めた契約のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
秘密保持契約とはどのような場面で締結する必要がありますか?
事業者が業務提携や業務委託、共同開発などによって他の事業者と関係を持つ際や、事業者が従業員を雇用する際に秘密情報の保持義務を負わせる際など、秘密保持契約が必要になる場面は多岐にわたります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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