- 更新日 : 2025年7月11日
就業規則の電子申請マニュアル|手順やメリット、添付書類、本社一括届出制度も解説
近年、行政手続きのデジタル化が急速に進み、企業の人事労務管理においてもペーパーレス化や業務効率化が喫緊の課題となっています。その中でも、労働基準監督署への届出が必要な就業規則の電子申請は、多くの企業にとって関心の高いテーマではないでしょうか。
本記事では、就業規則の電子申請に関するあらゆる疑問にお答えし、スムーズな導入と活用をサポートするための情報を解説します。本記事を読むことで、電子申請のメリットを最大限に活かし、貴社の業務効率化を実現するための一歩を踏み出せるでしょう。
就業規則の電子申請とは
就業規則の電子申請とは、従来は紙媒体で作成し窓口へ持参または郵送していた就業規則の届出(新規作成・変更)を、政府が運営するポータルサイト「e-Gov」を通じて、インターネット上で行う手続きのことです。
2021年4月からは、押印廃止や電子署名の簡略化が進み、多くの企業が電子申請を利用しやすくなりました。特に「GビズID」を利用することで、従来の電子証明書がなくても申請が可能になるなど、利便性が大きく向上しています。
電子申請の対象となる主な手続き
- 就業規則(変更)届
- 意見書の添付
- その他、関連規程を就業規則と一体として届け出る場合
電子申請と従来の申請方法との違い
項目 | 従来の紙申請 | 電子申請(e-Gov) |
---|---|---|
提出方法 | 窓口持参または郵送 | インターネット経由 |
提出時間 | 開庁時間内のみ | 24時間365日(システムメンテナンス時を除く) |
費用 | 印刷代、郵送費、交通費など | 通信費のみ(電子証明書取得の場合は別途費用) |
書類の準備 | 印刷、押印、ファイリング | PDF化、電子署名(GビズID利用で簡略化) |
受付印・控え | 受付印が押された控えを直接または郵送で受領 | 電子公文書(受理通知) をダウンロードして保管 |
申請状況確認 | 電話等で問い合わせる必要あり | e-Gov上で申請状況を確認 |
保管場所 | 物理的な保管スペースが必要 | データとしてサーバーやクラウドに保管可能 |
就業規則を電子申請するメリット
就業規則を電子申請に切り替えることで、企業は多くのメリットを享受できます。ここでは、代表的な5つの利点をご紹介します。
時間とコストを大幅に削減できる
電子申請の最大のメリットは、時間とコストを大幅に削減できる点です。
- 印刷・製本コストの削減:就業規則本体や意見書などの添付書類を複数部印刷・製本する必要がなくなります。
- 郵送費・交通費の削減:労働基準監督署への郵送費用や、窓口へ持参するための交通費が不要になります。
- 移動時間・待ち時間の削減:担当者が役所へ出向く時間や、窓口での待ち時間が一切なくなります。
これらの削減効果は、特に頻繁に就業規則を変更する企業や、複数の事業所を持つ企業にとっては非常に大きなものとなるでしょう。
いつでも、どこでも申請可能
e-Govによる電子申請は、原則として24時間365日、インターネット環境さえあればどこからでも申請が可能です(システムメンテナンス時を除く)。これにより、担当者の都合のよいタイミングで申請業務を行えます。
申請状況がオンラインで確認できる
e-Govのシステム上で申請データの到達状況や処理状況をリアルタイムに近い形で確認できます。電話で問い合わせる手間が省け、業務の進捗管理も容易になります。
ペーパーレス化と文書管理の効率化
就業規則や関連書類を電子データで申請・保管することで、社内のペーパーレス化を大きく推進できます。そのことが、保管スペースの削減、検索性の向上、情報共有の円滑化、紛失リスクの低下、環境負荷の低減などにもつながります。
手続きの標準化とミスの防止
電子申請システムを利用することで、入力項目や添付書類の形式がある程度標準化されます。これにより人的ミスのリスクを低減し、e-Govの入力チェック機能で基本的な記載漏れなどを未然に防げます。
就業規則を電子申請するデメリット
多くのメリットがある電子申請ですが、導入・運用にあたってはいくつかの注意点があります。事前に把握し、準備をすることが重要です。
初期設定や準備に手間と時間がかかる
電子申請を開始するためには、事前の準備が必要です。
- GビズIDの取得
「gBizIDプライム」アカウントの取得には、書類郵送後、数週間かかる場合があります。 早めに準備を進めましょう。 - PC環境の整備
推奨されるOSやブラウザ、関連ソフトウェアの準備が必要です。 - 電子証明書の準備
GビズIDを利用しない場合や、一部の手続きでは電子証明書が必要となることがあります。
システム操作に慣れが必要
e-Govの操作は、初めての方には少々複雑に感じられるかもしれません。
e-Gov公式サイトには操作マニュアルやFAQが用意されています。 一度経験すれば次回からはスムーズに進められるでしょう。
安定したインターネット環境が必須
電子申請はオンラインで行われるため、安定した通信環境が必要です。通信速度が遅かったり、途中で接続が途切れたりすると、申請作業が中断されたり、データが正常に送信されなかったりする可能性があります。
添付書類の電子化作業が発生する
就業規則本体や意見書などの添付書類は、すべてPDF形式で準備する必要があります。紙媒体しかない書類はスキャンが必要になるので、スキャナーやPDF編集ソフトを準備しておくとスムーズです。システムメンテナンス中は利用不可
e-Govは定期・緊急メンテナンスが行われることがあります。 申請期限が迫っている場合は特に注意し、事前にe-Govのメンテナンス情報を確認しておきましょう。
就業規則の電子申請の具体的な手順
ここでは、GビズID(gBizIDプライム)を利用した就業規則の電子申請の具体的な手順を、準備段階から申請完了までステップごとに解説します。
ステップ1. 事前準備
電子申請を始める前に、以下のものを準備しましょう。
- インターネットに接続されたパソコン
- GビズID(gBizIDプライム または gBizIDメンバーアカウント)
- 就業規則(PDF形式)
- 意見書(PDF形式)
その他、必要に応じて添付する書類(PDF形式) - 労働保険番号
- 連絡先情報
ステップ2. GビズIDの取得方法(未取得の場合)
就業規則の電子申請には「gBizIDプライム」の利用が一般的です。
- GビズID公式サイトへアクセスします。
- 「gBizIDプライム作成」を選択し、画面の指示に従い必要情報を入力します。
- 申請書をダウンロード・印刷し、代表者印(法人の場合)または実印(個人事業主の場合)を押印します。
- 申請書と印鑑証明書などをGビズID運用センターへ郵送します。
- 書類に不備がなければ、通常2〜3週間程度でアカウントが発行され、メールで通知されます。 余裕を持って早めに準備しましょう。
ステップ3. e-Govアカウントの準備とログイン
- e-Gov公式サイトへアクセスします。
- 画面上部の「ログイン」をクリックします。
- ログイン方法の選択画面で「GビズID」を選択します。
- GビズIDのIDとパスワードを入力し、認証を行います。
ステップ4. 申請書の作成と入力(e-Gov操作)
e-Govにログイン後、以下の手順で申請書を作成・入力します。
- 手続き検索
「手続き検索」から「就業規則」と入力して検索し「就業規則(変更)届」を選択します。 - 申請書作成開始
「申請書を作成する」ボタンをクリックします。 - 基本情報の入力
- 事業場の情報
- 労働保険番号
- 届出の種類
- 就業規則の適用範囲
- 常時使用する労働者数
- 変更年月日(変更の場合)
- 変更した条項(変更の場合)
- 意見の概要
- 申請者情報
- 提出先労働基準監督署
入力項目は画面の指示に従って丁寧に進めてください。特に、事業場の名称や所在地、労働保険番号に誤りがないか、繰り返し確認しましょう。
ステップ5. 必要書類の添付
入力が完了したら、事前に準備したPDFファイルを添付します。主な添付書類は以下の通りです。
- 就業規則本体
- 意見書
ファイルサイズの上限や、ファイル名の付け方に制限がある場合があるので、e-Govの指示に従ってください。
ステップ6. 電子署名の付与
GビズID(gBizIDプライム)でログインして申請する場合、原則として、別途のICカードリーダーや電子証明書は不要です。GビズIDによる認証が電子署名の代わりとなります。
ただし、GビズIDを使用しない従来型の申請方法を選択する場合や、特定の状況下では、マイナンバーカード(署名用電子証明書)や商業登記に基づく電子証明書などが必要となる場合があります。 e-Govの案内や、利用する認証方式に応じた指示をよく確認してください。 多くの場合、GビズIDプライムを利用すれば、この電子証明書の準備や操作の煩雑さから解放されます。
ステップ7. 申請データの送信と受付確認
すべての入力と添付書類の確認が完了したら、内容を最終確認し「申請」ボタンをクリックしてデータを送信します。
送信後、e-Govから「到達番号」と「問い合わせ番号」が発行されます。これらの番号は、申請状況の確認や問い合わせの際に必要となるため、必ず控えておきましょう。また、申請データが正常に到達した旨の通知メールが届きます。
ステップ8. 公文書の確認と保存
申請が無事に受理されると、e-Govのマイページに「公文書」として受理通知などが発行されます。これは、従来の紙申請で受け取っていた受付印が押された控えに相当するものです。発行された電子公文書をダウンロードし、
社内のサーバーやクラウドストレージなどに保管しましょう。法定の保存期間(労働基準法第109条により5年。ただし当分の間は3年)を守り、いつでも閲覧できるようにしておく必要があります。
以上が、就業規則の電子申請の基本的な流れです。最初は戸惑うかもしれませんが、一度経験すれば次回からはスムーズに進められるでしょう。
本社一括届出制度による電子申請
本社一括届出制度とは、一定の要件を満たすことで、本社が管轄する労働基準監督署長に対して、支社・支店・営業所など他の事業所の就業規則をまとめて届け出ることができる制度です。
- 各事業場の就業規則の内容が、事業場ごとの特性(名称、所在地、労働時間など)に係る部分を除き、実質的に同一であること
- 各事業場において、労働基準法に基づき労働者の過半数代表者からの意見聴取が適切に行われていること。
申請窓口が本社管轄の労働基準監督署に一本化されるため、申請業務の大幅な効率化が図れます。特に、全国に多数の事業所を展開する企業にとっては大きなメリットです。
- 事前に本社を管轄する労働基準監督署に、本社一括届出の可否や具体的な手順について相談・確認することが推奨されます。
- 各事業場の意見書など、必要な添付書類は事業所ごとに準備する必要があります。
- 制度の利用にあたっては、事前に厚生労働省の通達や手引きをよく確認し、適切に手続きを進める必要があります。
就業規則は電子申請が当たり前の時代へ
就業規則の電子申請は、単に手続きがオンライン化されるというだけでなく、企業の業務効率化、コスト削減、ペーパーレス化、そしてコンプライアンス体制の強化にも繋がる有効な手段です。
近年は、GビズIDの普及などにより、電子申請のハードルは着実に下がっており、多くの企業にとって実用的な選択肢となっています。本記事を参考に、ぜひ電子申請の活用を検討してみてください。
自社での対応に不安がある場合や、就業規則の内容そのものを見直したいとお考えの場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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