- 更新日 : 2025年8月29日
パートの契約更新で条件変更できる?進め方や拒否された場合の対処法
会社の経営状況や事業内容の変化にともない、パート従業員の契約更新時に労働条件の見直しが必要な場合はどうすればよいのでしょうか。パートの契約更新に際して時給や勤務時間などの条件変更を行うには、法律で定められたルールに沿って慎重に進める必要があります。
この記事では、パートの契約更新で条件変更を行うための基本原則から、従業員に拒否された場合の対応、トラブルを未然に防ぐための具体的な手順まで、経営者や人事担当者が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
パートの契約更新で条件変更はできる?
パート従業員の契約更新時に労働条件を変更するには、原則として従業員本人の「個別の同意」が求められます。会社が一方的に時給を下げたり勤務時間を減らしたりすることはできません。
ただし、就業規則の合理的な不利益変更で周知がなされていれば、例外的に可能です。
労働条件の不利益な変更は一方的にできない
労働条件の変更は、会社と従業員の合意によって行うのが大原則です。これは労働契約法の第8条に定められています。
(労働契約の内容の変更) 第八条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
とくに、時給の引き下げや勤務日数の削減など、従業員にとって不利になる「不利益変更」の場合は、従業員が内容を理解したうえで自発的に同意することが不可欠です。
もし会社から一方的に不利益な条件変更を提示された場合、従業員はそれを拒否できます。従業員が同意していないにもかかわらず、会社が変更を強行した場合、その変更は原則として無効となります。
同意がなくても就業規則の変更で可能になるケース
従業員の個別の同意が得られない場合でも、例外的に労働条件の変更が認められるケースがあります。それは、労働契約法第10条に定められた「就業規則の変更」による方法です。
ただし、そのためにはいくつかの条件をクリアしなくてはなりません。
- 変更後の就業規則を従業員に周知させること
- 就業規則の変更が「合理的」であること
この「合理的」かどうかの判断は、以下の点を総合的に見て行われます。
- 従業員が条件変更によりどれくらいの不利益を被るか。
- 会社側にとってその条件変更が必要とされる経営上の理由
- 変更後の就業規則の内容が不当に厳しくなく、妥当といえる内容か
- 労働組合や従業員代表と十分な交渉を行っているか
たとえば、会社の存続が危ういほどの深刻な経営危機に陥っており、整理解雇を避けるために全従業員を対象に一律で賃金カットを行う、といったケースでは、変更の必要性が高く、合理性が認められやすくなるかもしれません。
しかし、単に「利益を増やしたい」といった理由だけで特定のパート従業員の時給を下げることは、合理性が認められにくく、無効と判断される可能性が高いでしょう。
パートの契約更新で条件変更する場合の注意点
パート従業員の時給の減額や勤務時間の短縮など、不利益となる条件変更はとくに慎重な対応が求められます。それぞれの変更内容に応じた法的な注意点と、「同一労働同一賃金」の観点をふまえる必要があります。ここでは、具体的な変更内容ごとに注意点を解説します。
時給の引き下げ
時給の引き下げは、従業員の生活に直接的な影響をおよぼすため、最も慎重になるべき条件変更です。前述のとおり、原則として本人の個別の同意がなければ実施できません。
同意を得るためには、なぜ時給を下げなければならないのか、客観的で具体的な理由を誠実に説明することが不可欠です。また、引き下げ後の時給額が、最低賃金を下回っていないか、近隣の同業種の時給相場とかけ離れていないかといった配慮も求められます。
勤務日数・勤務時間の変更
「来月から週4日勤務を週3日にしてほしい」「夕方のシフトを2時間短縮したい」といった勤務日数や時間の変更も、従業員の収入に直結するため不利益変更にあたります。
とくに、社会保険の加入要件を満たす時間で働いていた従業員が、勤務時間の短縮によって加入資格を失うようなケースでは、不利益の程度が非常に大きいと判断されます。
このような場合は、より丁寧な説明と合意形成が求められるでしょう。
業務内容の変更
契約時に想定されていなかった業務への変更を打診することもあるかもしれません。たとえば、販売担当のパート従業員に事務作業をお願いするようなケースです。
これが従業員のキャリアやスキルプランに合わない場合や、肉体的な負担が著しく増えるような場合は、同意を得られないことも考えられます。
業務内容の変更にともない、新たな手当の支給や研修の機会を提供するといった配慮が、円滑な合意形成につながることもあります。
勤務場所(就業場所)の変更
通勤が困難になるような勤務場所の変更も、従業員にとって大きな不利益となります。雇用契約書で勤務場所が限定されている場合、その範囲を超えた異動命令は原則としてできません。
勤務場所が限定されていない場合でも、従業員の生活上の不利益(育児や介護など)を十分に考慮せずに行われた転勤命令は、権利の濫用として無効になる可能性があります。
パートの条件変更に伴う契約書や労働条件通知書の書き方
条件変更に合意が得られたら、必ず書面で記録を残します。変更内容を明記した新たな労働条件通知書(兼 雇用契約書)を作成し、双方で署名・捺印のうえ、一部を従業員へ交付しましょう。
口約束だけでは、後になって「言った、言わない」のトラブルになる原因です。
労働基準法第15条により、会社は従業員を雇い入れる際に、賃金や労働時間などの労働条件を明示した書面(労働条件通知書)を交付する義務があります。これは、契約更新にともなって条件が変更になった場合も同様です。
変更後の労働条件通知書には、少なくとも以下の項目を明確に記載します。
- 契約期間
- 就業の場所、従事すべき業務の内容
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇など
- 賃金の決定、計算・支払いの方法、締切り・支払いの時期
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 昇給に関する事項
- 賞与の有無
- 退職金の有無
また、パートが有期契約の場合は上記に加えて以下の項目について明示が必要です。
- 更新上限
- 無期転換申込機会
- 無期転換後の労働条件
これらの項目を記載した書面を作成し、「変更内容について説明を受け、合意しました」といった一文を加え、従業員の署名・捺印をもらうとよいでしょう。
会社と従業員がそれぞれ1部ずつ保管することで、将来のトラブルを防ぐことにつながります。
出典:労働基準法 | e-Gov法令検索
関連:労働条件通知書とは?テンプレ・書き方・雇用契約書との違いや記載事項
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パート従業員から契約更新の条件変更を拒否されたら?
パート従業員から条件変更を拒否された場合、一方的に契約を打ち切る(雇い止め)ことは大きなリスクをともないます。まずは対話を重ね、理由を聴き、お互いの妥協点を探る姿勢が不可欠です。感情的にならず、法的なルールをふまえて冷静に対応しましょう。
まずは拒否の理由を丁寧にヒアリングする
従業員が条件変更を拒否するには、何らかの理由があるはずです。「時給が下がると生活できない」「勤務時間が変わると子どものお迎えに間に合わない」など、その従業員が抱える事情に耳を傾けましょう。
理由も聞かずに「会社の決定だから」と押し通そうとすると、従業員の不信感を増幅させ、問題をこじらせるだけかもしれません。
再交渉と新たな合意点を探る
パート従業員の拒否の理由がわかれば、会社として代替案を提示できる可能性があります。たとえば、「時給の引き下げ幅を少し緩やかにする」「勤務時間の変更を数ヶ月後にずらす」「別の時間帯のシフトを提案する」など、お互いが受け入れられる妥協点を探ります。
一度で合意できなくても、粘り強く対話を続ける姿勢が大切です。
条件変更に応じないことを理由に契約更新しない(雇い止め)のは有効か
交渉を重ねても合意に至らず、「この条件では契約更新できない」と判断する場合もあるかもしれません。しかし、条件変更を拒否したことだけを理由に契約を更新しない(雇い止めする)ことは、法的に無効と判断されるリスクが高いといえます。
とくに、過去に何度も契約が更新されているパート従業員の場合、その契約は実質的に期間の定めのない契約と変わらないと見なされることがあります。
このような従業員に対する雇い止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなければ、無効となります(労働契約法第19条、通称「雇い止め法理」)。
条件変更に応じないという理由だけで雇い止めを行うことは、この「合理的理由」や「社会的相当性」が認められにくく、後々、従業員から地位の確認や未払い賃金を求める訴訟を起こされる可能性があります。
パート契約の更新と条件変更で想定されるトラブル
説明不足による認識の齟齬や、一部の従業員だけが不利益を被ることへの不満がトラブルの主な原因です。過去の判例もふまえ、どのようなケースが問題になりやすいかを事前に把握しておきましょう。ここでは、実際に起こりがちなトラブルの例を紹介します。
説明不足から生じる「言った、言わない」のトラブル
条件変更の内容や理由について十分な説明をせず、口頭だけで済ませてしまうと、後で「そんな話は聞いていない」「こういう意味だとは思わなかった」という認識のズレが生じます。
とくに不利益変更の場合は、従業員がその内容と不利益の程度を正しく理解したうえで同意していなければ、その同意は無効と判断される可能性があります。必ず書面で変更内容を明示し、合意の証拠を残しておくことがトラブル防止の基本です。
他の従業員との不公平感によるトラブル
たとえば、同じ仕事をしているパート従業員の中で、特定の人だけが時給を下げられたり、勤務時間を減らされたりすると、不公平感から不満が噴出することがあります。
条件変更を行う場合は、その対象者の選定基準に合理性がなくてはなりません。勤務態度や能力評価など、客観的で誰もが納得できる基準に基づいて判断したことを説明できなければ、トラブルの原因となるでしょう。
同一労働同一賃金の原則に反するトラブル
パートタイム・有期雇用労働法では、同じ会社で働く正社員と非正規雇用労働者(パート、有期雇用など)との間で、基本給や賞与、各種手当などあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
たとえば、「パートだから」という理由だけで、正社員と同じ仕事内容・責任であるにもかかわらず、通勤手当や食事手当を支給しない、といった対応は違法となる可能性があります。契約条件の変更を検討する際は、この同一労働同一賃金の原則に違反していないか、常にチェックする視点が必要です。
パートの契約更新と条件変更は対話と手続きの整備が重要
パートの契約更新にともなって条件を変更する場合、法律に沿った手続きと従業員本人の理解が欠かせません。勤務時間の短縮や時給の引き下げなど、不利益につながる内容は、必ず本人の同意を得たうえで進める必要があります。就業規則や労働条件通知書を見直し、変更内容を書面に残すこともトラブルを防ぐうえで重要です。
また、条件変更に応じなかったことを理由に契約を更新しない、いわゆる「雇い止め」は、正当な理由がなければ無効と判断される可能性があります。とくに更新が繰り返されているパート従業員に対しては、慎重な判断が求められます。
一方的な対応を避け、丁寧な説明と合意形成を重ねながら進めることが、信頼関係の維持と安定した雇用につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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