- 更新日 : 2025年8月27日
1日13時間労働は違反?認められる条件や労働基準法のルールを解説
1日13時間労働は、原則として労働基準法に違反する可能性があります。法律で定められた労働時間は「1日8時間・週40時間」が上限であり、これを超えるには特別な労使協定が必要です。しかし、協定があれば無制限に働かせて良いわけではありません。
この記事では、1日13時間労働がどのような場合に認められ、どのようなルールがあるのかをわかりやすく解説します。
目次
1日13時間労働は原則として労働基準法違反
1日13時間労働は、法律で定められた労働時間を大幅に超えるため、原則として労働基準法違反にあたります。企業が従業員に法定労働時間を超えて労働させるには、法律に定められた手続きを踏まなくてはなりません。
労働基準法が定める「法定労働時間」
労働基準法では、従業員を働かせる時間の上限を原則「1日8時間、1週40時間」と定めています。これを「法定労働時間」と呼びます。この時間を超えて従業員を働かせることは、原則として認められていません。
したがって、1日13時間労働は、法定労働時間を5時間も超えていることになります。何の取り決めもなしに13時間労働をさせた場合、企業は労働基準法違反となり、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となる可能性があります。これは正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーなど、すべての労働者に適用されるルールです。
なぜ原則違反になるのか
長時間労働は心身に大きな負担をかけ、過労死や精神疾患の原因にもなるからです。法定労働時間は、労働者の健康と安全を守るために設けられた基本的なルールです。
1日13時間といった長時間の労働が日常化すると、従業員は十分な休息をとれず、疲労が蓄積します。従業員の健康が損なわれることは、企業にとっても大きな損失です。労働生産性の低下や労災リスクの増大、ひいては企業の社会的信用の失墜にもつながります。こうした背景から、労働基準法は厳格な時間規制を設けているのです。
1日13時間労働が認められる条件
原則違法となる1日13時間労働ですが、法律で定められた手続きを踏むことで、例外的に可能になる場合があります。その中心となるのが「36(サブロク)協定」です。ただし、36協定を結べば無制限に働かせられるわけではなく、そこにも上限が設けられています。
時間外労働を可能にする「36(サブロク)協定」とは
企業が従業員に法定労働時間を超えて時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合に、必ず必要となるのが、労働基準法第36条にもとづく労使協定、通称「36(サブロク)協定」です。
この協定は、企業(使用者)と、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で書面によって締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
36協定を締結し、届け出ることで、はじめて法定労働時間を超える労働が法的に認められます。つまり、1日13時間労働(法定8時間+時間外5時間)をさせるには、36協定の締結が最低条件となります。
36協定で定められる時間外労働の上限
36協定を締結しても、無制限に残業をさせられるわけではありません。2019年4月から順次施行された働き方改革関連法により、時間外労働には罰則付きの上限が設けられました。
原則として、時間外労働の上限は「月45時間・年360時間」です。
この上限を超える時間外労働は、原則として認められません。たとえば、1日に5時間(13時間労働-8時間)の時間外労働を月10日行うと、それだけで月50時間となり、原則の上限を超えてしまいます。
上限を超える「特別条項付き36協定」
臨時的で特別な事情があり、労使が合意する場合には、「特別条項付き36協定」を結ぶことで、年間の上限時間をさらに超えて労働させることが可能です。しかし、この特別条項にも厳しい上限が設定されています。
- 時間外労働:年720時間以内
- 時間外労働+休日労働:月100時間未満
- 時間外労働+休日労働:複数月(2~6ヶ月)の平均がすべて80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えられるのは:年6ヶ月が限度
1日13時間労働を頻繁に行うと、これらの上限にも抵触する可能性が高まります。たとえば、1日5時間の時間外労働を20日間行うと月100時間となり、休日労働がなくても上限に達してしまいます。経営者や労務担当者は、これらの上限を正しく理解し、従業員の労働時間を管理しなくてはなりません。
【働き方別】変形労働時間制やみなし労働時間制での扱い
特殊な働き方の場合、労働時間の考え方が少し異なります。
変形労働時間制
1ヶ月や1年単位で労働時間を調整する制度です。特定の日に8時間を超える労働をさせることが可能ですが、対象期間を平均して週40時間を超えてはいけません。1日13時間労働を計画に組み込むことは可能ですが、その分、他の日の労働時間を短くするなどの調整が必要です。
みなし労働時間制
営業職など、事業場外で働くため労働時間の算定が難しい場合に、所定の時間働いたと「みなす」制度です。ただし、通常その業務を遂行するのにかかる時間が法定労働時間を超える場合は、その超える時間について36協定が必要になります。
専門職や企画職などを対象に、実際の労働時間ではなく、労使で定めた時間を働いたとみなす制度です。この制度でも、健康・福祉確保措置や苦情処理措置を講じる義務があり、深夜・休日労働には割増賃金が発生します。
どの制度を採用していても、企業には従業員の健康を守る安全配慮義務があり、長時間の労働を放置することはできません。
1日13時間労働における休憩・割増賃金のルール
1日13時間労働をさせる場合、労働時間の管理だけでなく、休憩時間と割増賃金のルールを正しく守ることがきわめて重要です。これらのルールを軽視すると、法律違反や従業員とのトラブルに発展しかねません。
13時間労働で必要な休憩時間とは
労働基準法第34条では、労働時間に応じた休憩時間を従業員に与えることを義務付けています。
- 労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合:少なくとも45分
- 労働時間が8時間を超える場合:少なくとも1時間
したがって、1日13時間労働の場合は、最低でも1時間の休憩を与えなければなりません。これは法律で定められた最低限の基準です。従業員の健康と安全、そして業務の集中力を維持するためには、1時間以上の休憩時間を確保したり、分割して与えたりするなどの配慮が望ましいでしょう。
「休憩なし」は明確な法律違反
「忙しいから」という理由で休憩を与えない、または法定の休憩時間を下回ることは、明確な労働基準法違反です。「13時間労働で休憩なし」といった状況は、法律違反であると同時に、従業員の心身を危険にさらす行為といえます。
休憩時間は、労働時間の途中に、全労働者が一斉に、自由に利用できるのが原則です。違反した企業には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
13時間労働の割増賃金の計算方法
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させた場合、企業は通常の賃金に加えて「割増賃金」を支払う義務があります。
1日13時間労働の場合、法定労働時間を超える5時間分が時間外労働となり、割増賃金の対象です。割増率は以下のとおりです。
種類 | 条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働 | 25%以上 |
深夜労働 | 午後10時から午前5時までの労働 | 25%以上 |
休日労働 | 法定休日の労働 | 35%以上 |
時間外+深夜 | 時間外労働が深夜に及んだ場合 | 50%以上 |
時間外(月60時間超) | 1ヶ月に60時間を超える時間外労働 | 50%以上 ※ |
※中小企業への月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増率適用は、2023年4月1日から猶予措置が廃止され、大企業と同様に義務化されています。
たとえば、時給1,500円の従業員が、午前9時から午後11時まで(うち休憩1時間)の13時間労働をした場合、賃金計算は以下のようになります。
- 通常賃金:8時間 × 1,500円 = 12,000円
- 時間外労働(午後6時~10時):4時間 × (1,500円 × 1.25) = 7,500円
- 時間外+深夜労働(午後10時~11時):1時間 × (1,500円 × 1.50) = 2,250円
- 合計日給:21,750円
割増賃金の計算を誤ったり、支払いを怠ったりすると、従業員からの未払い残業代請求につながるリスクがあります。
出典:法定労働時間と割増賃金について教えてください。|厚生労働省
1日13時間労働が常態化する職場のリスク
1日13時間の労働が一時的ではなく、日常的に行われている職場では、法的な問題にとどまらず、さまざまなリスクが潜んでいます。これらのリスクを放置してしまうと、最終的には企業の運営にも大きな影響を与えかねません。
従業員の健康と安全への影響
長時間労働が続くことで、心身の負担は確実に大きくなります。過労による体調不良や精神的な不調は、誰にでも起こりうるものです。企業には、従業員が安心して働ける環境を整える「安全配慮義務」があり、これを怠ると損害賠償などの責任を問われることもあります。
「しんどい」という声が上がっているとすれば、それは働き方を見直すサインかもしれません。現場の声に耳を傾け、無理が続いていないかを定期的に確認することが大切です。
未払い残業代などのトラブルリスク
長時間働くほど、時間外労働も当然増えていきます。その際に残業代の計算ミスがあったり、制度上の誤解で支払いを怠ったりすると、労務トラブルに発展するおそれがあります。
とくに、退職後に未払い残業代の請求がされるケースも少なくありません。万一、労働審判や訴訟にまで至れば、金銭的な負担だけでなく、社内対応にも多くの時間を割くことになります。
採用活動や企業イメージへの影響
働き方に関する情報は、社内にとどまらず外部にも広まりやすい時代です。SNSや口コミサイトで「長時間労働が常態化している」といった印象が広がると、企業のイメージに影を落とす可能性があります。
人材確保が難しくなっている今の状況では、労働環境が良くないというだけで応募が減ってしまうこともあります。さらに、今いる従業員が離れてしまえば、採用や育成にかかる手間やコストも増えていくため、長時間労働の放置は経営面でも大きなリスクといえるでしょう。
1日13時間労働から脱却するための取り組み
1日13時間労働が当たり前になっている職場では、「気合い」や「がんばり」での改善は限界があります。必要なのは、働き方そのものを見直すためのしくみづくりです。ここでは、現実的に取り組みやすい3つの方法をご紹介します。
正確な労働時間を把握する
長時間労働是正の第一歩は、従業員の労働時間を正確に、客観的に把握することです。自己申告制のタイムシートだけでは、実態とずれてしまうことがあります。
ICカードや生体認証、PCのログオン・ログオフ時間と連携する勤怠管理システムを導入しましょう。これにより、始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働時間などがリアルタイムで可視化されます。
誰が、いつ、どれくらい働いているのかが正確にわかれば、無理が続いていないかを早い段階で察知し、対策につなげることができます。
業務内容や流れを見直す
なぜ長時間労働が発生しているのか、その原因を特定しなくてはなりません。従業員にヒアリングを行ったり、部署ごとに業務内容をすべて洗い出す「業務の棚卸し」を実施したりしましょう。
「この会議は本当に必要か」「この報告書はもっと簡素化できないか」「承認に時間がかかっていないか」など、一つひとつの業務の必要性や手順を根本から見直します。細かい部分でも改善できるところが見つかるかもしれません。重複する作業を一本化するだけでも、労働時間は大きく削減できるはずです。
ITツールを活用して業務を効率化する
人手が限られているなかで、人の力だけに頼る働き方には限界があります。定型的な業務や繰り返し作業は、ITツールを活用して自動化・効率化を図りましょう。
これらのツールを導入することで、限られた時間のなかでより生産的な業務に集中できる環境が整います。結果として、働く時間も短縮しやすくなり、長時間労働からの脱却につながります。
1日13時間労働に頼らない働き方を目指すために
1日13時間の労働は、法的に認められる場面がある一方で、継続すれば健康被害やトラブルにつながる可能性が高くなります。企業が安定して成長していくには、労働基準法のルールを正しく理解し、無理のない働き方を組み立てていくことが欠かせません。
勤怠管理の仕組みを見直したり、業務の流れを整理したりするだけでも、長時間労働を減らすきっかけになります。まずは現状を把握することから始めて、従業員の働きやすさと企業の健全な運営を両立できる環境を少しずつ整えていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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