• 更新日 : 2025年7月18日

再雇用制度の就業規則の記載例!ルールの決め方や変更手続きも解説

高年齢者の雇用確保が求められる中、再雇用制度の整備は企業にとって重要な課題です。就業規則において再雇用制度を明確に定めることで、従業員とのトラブルを未然に防ぎ、円滑な人事運営が可能となります。本記事では、再雇用制度の就業規則への記載方法や注意点について解説します。

再雇用制度の就業規則は別に定める必要がある?

再雇用制度を導入する際、就業規則を別に定めるか、既存の就業規則に条項を追加するかは、企業の選択によります。どちらの方法でも構いませんが、再雇用制度の内容が明確に規定されていることが大切です。

別に定める場合

「定年後再雇用規程」や「継続雇用規程」といった独立した規程として作成する方法です。これにより、定年前の就業規則と明確に区別でき、再雇用者向けのルールを一元的に管理できます。従業員にとっても、再雇用後の労働条件がどこに記載されているか一目でわかりやすいという利点があります。

既存の就業規則に追記する場合

現在の就業規則に、「定年後の継続雇用」や「再雇用に関する特例」といった章や条項を追加する方法です。この場合、定年前の従業員と再雇用者の規則が同じ文書内に混在することになるため、両者の適用範囲を明確に区分けする記述が求められます。

どちらの方法を選ぶかは、企業の規模、再雇用者の人数、既存の就業規則の構成などを考慮して決めましょう。重要なのは、再雇用者の労働条件や待遇が、すべての従業員に周知され、納得できる形で明文化されていることです。

再雇用制度の就業規則の必要項目と決め方

再雇用制度の就業規則には、再雇用者の労働条件や待遇に関する事項を網羅的に記載する必要があります。曖昧な表現を避け、具体的に定めることで、従業員との間のトラブルを防ぎ、制度をスムーズに運用できます。

記載すべき主な項目と、その決め方のポイントは以下の通りです。

1.目的と定義

再雇用制度を設ける目的(例えば、高年齢者の豊富な知識や経験を活かすため、雇用機会の確保のためなど)を記載します。「再雇用者」「定年」「継続雇用」などの用語の定義を明確にします。

決め方: 制度の趣旨を明確にし、従業員に制度の理解を促す言葉を選びます。

2.適用範囲

再雇用の対象となる従業員の範囲を定めます。例えば、「定年年齢に達した従業員で、再雇用を希望し、心身ともに健康な者」などと記載します。健康状態による条件付けを行う場合は、その基準を客観的に判断できるよう具体的に記述します。

決め方: 公平性を意識し、特定の従業員だけが対象外とならないよう、客観的な基準を設定します。

3.再雇用時の雇用形態

再雇用後の雇用形態(例えば、契約社員、嘱託社員、パートタイマーなど)を明確に記載します。

決め方: 企業が再雇用者に期待する役割や勤務体系に合わせて、適切な雇用形態を選択します。正社員とは異なる雇用形態になる場合は、その旨を明記します。

4.契約期間と更新

再雇用後の契約期間(例えば、1年契約、6ヶ月契約など)と、契約更新の有無、更新する場合の基準を定めます。例えば、「契約期間は1年とし、契約期間満了の○ヶ月前までに、本人の勤務状況、健康状態などを総合的に考慮して更新する」などと記載します。

決め方: 高年齢者雇用安定法の義務(65歳までの雇用確保)を踏まえ、かつ無期転換ルール(通算5年ルール)への対応も考慮して設定します。70歳までの努力義務も見据え、長期的な視点で更新基準を定めます。

5.業務内容・勤務場所

再雇用後の業務内容や勤務場所が、定年前と変わる可能性がある場合は、その旨を記載します。例えば、「定年前の業務を基本とするが、会社の指示により他の業務に従事することがある」などとします。

決め方: 再雇用者の経験やスキルを活かしつつ、企業のニーズに合った業務を割り振れるように、柔軟性を持たせた記述にします。

6.賃金(給与)

再雇用後の給与の決め方、計算方法、支払日、昇給の有無などを具体的に記載します。定年前の給与から減額されるのが一般的なので、その理由や算出根拠も示します。賞与や退職金の有無、支給基準についても明確にします。

決め方: 定年前の給与水準や業務内容、勤務時間、企業の収益状況などを考慮して、公平かつ納得感のある水準を設定します。高年齢雇用継続給付金の受給要件を満たすような給与設定を検討することも大切です。

7.労働時間・休日・休暇

再雇用後の労働時間、休憩時間、休日、年次有給休暇の付与日数や取得方法などを明確に記載します。短時間勤務を認める場合は、その条件や手続きも定めます。

決め方: 再雇用者の健康面や生活状況にも配慮しつつ、業務遂行に必要な労働時間を設定します。定年前と異なる場合は、その旨を明記します。

8.福利厚生

再雇用後の福利厚生(例えば、健康診断、慶弔休暇、災害補償など)について、定年前と同じく適用されるのか、あるいは異なるのかを明記します。

決め方: 他の従業員との公平性を保ちつつ、必要とされる福利厚生を確保します。

9.退職に関する事項

再雇用後の退職に関する規定(例えば、自己都合退職、会社都合退職、解雇、定年など)を記載します。定年年齢が設定されている場合は、その年齢を明記します。

決め方: 労働契約法や高年齢者雇用安定法に基づき、適切な退職事由と手続きを定めます。

10.服務規律・懲戒

再雇用者も企業の従業員であるため、服務規律や懲戒に関する事項は既存の就業規則を適用するか、特例を設けるかを明確にします。

決め方: 全従業員に適用される基本的なルールとして、既存の就業規則を適用することが一般的です。

これらの項目を定める際は、労働基準法、高年齢者雇用安定法、労働契約法などの関連法令に違反しないよう注意が必要です。不明な点があれば、社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。

再雇用制度の就業規則の記載例

ここでは、前述の必要項目に対する具体的な記載例を示します。これはあくまで一例であり、各企業の状況に合わせて調整してください。

(定年後再雇用規程)

第1条(目的) この規程は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき、定年退職した従業員のうち、引き続き勤務することを希望し、かつ会社の定める基準を満たす者について、再雇用制度を設けることにより、その知識、経験、能力を活かし、会社の一員として活躍する機会を提供することを目的とする。

第2条(定義) この規程において、次の各号に掲げる用語の定義は、当該各号に定めるところによる。 (1)定年:就業規則第〇条に定める満60歳とする。 (2)再雇用者:定年に達した従業員のうち、この規程に基づき再雇用された者をいう。

第3条(再雇用の対象者) 再雇用制度の対象者は、次の各号のすべてに該当する者とする。 (1)再雇用を希望する意思があること。 (2)心身ともに健康であること。(3)就業規則に定める懲戒解雇事由に該当する行為がないこと。

第4条(再雇用の申出) 再雇用を希望する従業員は、定年退職日の〇ヶ月前までに、会社所定の「再雇用希望申出書」を提出しなければならない。

第5条(選考) 会社は、前条の申出があった従業員に対し、面談、健康診断の確認等により選考を行う。選考の結果、再雇用が決定した場合には、本人に通知する。

第6条(雇用形態) 再雇用者の雇用形態は、原則として嘱託社員とする。ただし、会社の業務上の必要性に応じて、個別に協議の上、契約社員またはパートタイマーとすることがある。

第7条(契約期間と更新)

  1. 再雇用者の契約期間は、原則として1年間とする。
  2. 契約期間満了後、会社は、再雇用者の勤務状況、健康状態等を総合的に勘案し、契約を更新する。
  3. 再雇用契約の更新は、満65歳に達する年度末までを上限とする。ただし、高年齢者雇用安定法の改正または会社の判断により、上限年齢を見直すことがある。

第8条(業務内容および勤務場所) 再雇用者の業務内容は、原則として定年前の業務経験を活かした範囲とするが、会社の指示により他の業務に従事することや、勤務場所を変更することがある。

第9条(賃金)

  1. 再雇用者の賃金は、会社が定める「再雇用者賃金規程」に基づき決定する。
  2. 再雇用者には、原則として賞与および退職金は支給しない。

第10条(労働時間・休日・休暇)

  1. 再雇用者の労働時間、休憩時間、休日については、個別の労働契約に定めるものとする。
  2. 年次有給休暇については、労働基準法の定めるところによる。

第11条(社会保険等) 再雇用者は、雇用形態および労働条件に応じて、健康保険、厚生年金保険雇用保険、労災保険の適用を受けるものとする。

第12条(服務規律・懲戒) 再雇用者には、この規程に定めるもののほか、会社の就業規則に定める服務規律および懲戒に関する規定を準用する。

第13条(その他) この規程に定めのない事項については、労働基準法その他の法令、会社の就業規則および個別の労働契約によるものとする。

就業規則に関するテンプレート

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関連:就業規則とは?作成手順や記載項目を解説!

再雇用制度の就業規則の変更手続き

再雇用制度に関する就業規則を新たに作成する場合や、既存の就業規則を変更する場合には、以下の手続きが必要です。

意見聴取

就業規則の作成や変更には、労働者の意見を聞く手続きが必要です。労働者の過半数で組織されている労働組合があれば、その組合から、なければ労働者の過半数代表者から意見を聴取します。この意見は、単に聞くだけではなく、「意見書」として書面で作成し、後の手続きに添付します。

なお、労働者の同意までは必要ありませんが、内容にしっかり耳を傾けることが求められます。

労働基準監督署への届出

次に、変更後の就業規則と意見書を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。届出後、従業員へ周知することによって効力が発生します。

従業員への周知

就業規則は、作成・変更しただけでは効力が生じません。従業員に対して周知することが法律で義務付けられています。

具体的には、以下のいずれかの方法で周知します。

  • 事業所内の見やすい場所への掲示
  • 書面での配布
  • 社内イントラネットや共有フォルダでの常時閲覧可能な状態の確保

周知が不十分な場合、その就業規則は無効と見なされる可能性があります。

これらの手続きを怠ると、労働基準法違反となり、企業側が罰則の対象となるおそれがあります。確実に実施することが重要です。

再雇用制度の就業規則を定める際の注意点

再雇用制度に関する就業規則を作成する際には、以下のポイントに十分注意してください。法令順守に加え、従業員が制度を理解し納得できる内容であることが求められます。

高年齢者雇用安定法への対応

企業には、希望する従業員を原則として65歳まで雇用する義務があります。また、70歳までの就業機会確保も努力義務として定められています。

就業規則に再雇用制度を盛り込む際は、この法律に沿った設計が必要です。例えば、再雇用の対象者を不当に限定すると、違法と判断される可能性があります。

無期転換ルールの考慮

再雇用後に1年ごとの有期契約を繰り返す場合、契約期間が通算で5年を超えると、従業員には「無期雇用へ転換を申し込む権利」が発生します。

そのため、以下のいずれかの対応が必要です。

  • 無期転換後の労働条件をあらかじめ定めておく
  • 厚生労働大臣から「特例認定」を受けて、定年後再雇用に限って無期転換義務を除外する

いずれにせよ、無期転換ルールを無視して制度を設計すると、後のトラブルにつながります。

同一労働同一賃金の原則

再雇用者と正社員との間に、業務内容や責任に差がない場合、待遇差があると違法と判断される可能性があります。

賃金や福利厚生で差を設ける場合は、職務内容や責任範囲の違いを説明できるようにしておく必要があります。

労働条件の不利益変更は原則不可

再雇用制度を導入する際に、既存の労働条件を不利益に変更する場合は、原則として従業員の個別同意が必要です。制度導入や見直しにあたっては、対象となる従業員への丁寧な説明と理解の獲得が不可欠です。

ハラスメント防止の明記

再雇用者も職場でのハラスメント(特に年齢に関する言動)から守られる必要があります。就業規則にハラスメント防止規定を明記し、相談窓口や社内研修を制度化することで、未然に防止できます。

健康面への配慮

高年齢従業員には、定期的な健康診断や、体調に応じた業務・勤務時間の調整を行う仕組みを整えることが望まれます。制度として就業規則に明記しておくことで、従業員が安心して働き続けることができます。

労働契約との整合性を確認

就業規則は全体のルールである一方で、再雇用者とは個別に労働契約を締結します。両者の内容に矛盾がないか、常にチェックすることが求められます。

明確な再雇用制度の就業規則が信頼と安定を生む

再雇用制度を就業規則で明確に定めることは、企業と従業員の双方にとって大きなメリットがあります。法令に沿った設計と具体的なルールの整備により、誤解やトラブルを防ぎ、働きやすい環境を実現できます。再雇用の対象者や労働条件、契約期間、無期転換への対応を文書化することで、従業員は安心し、企業は安定した人材活用が可能になります。再雇用制度の就業規則は、職場の信頼関係を築く基盤です。

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