- 更新日 : 2025年7月14日
離職理由は何が多い?離職により発生するリスクや防止策も解説
企業経営において、従業員の離職は避けて通れません。しかし、事業を安定させるためには可能な限り離職者数を抑えたいものです。従業員の離職を抑えるため、退職理由として多く挙げられるものを把握し、先回りして対策を打ちたい人事担当者もいるでしょう。
本記事では、離職理由として多いものを、男性・女性・若年男性・若年女性の4つにわけて解説します。従業員の離職により発生するリスクや、代表的な離職理由から考えられる防止策もあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
離職理由として多いもの|厚生労働省の調査をもとに解説
会社の代表的な離職理由は、厚生労働省が発表した「令和5年雇用動向調査結果の概況」や「令和5年若年者雇用実態調査の概況」から読み取れます。
ここからは、男性・女性・若年男性・若年女性の4つにわけて、主な離職理由として挙げられるものを解説します。
男性の主な離職理由
「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、男性の主な離職理由の上位3つは以下の通りです。
- 定年・契約期間の満了(16.9%)
- 職場の人間関係が好ましくなかった(9.1%)
- 給料等収入が少なかった(8.2%)
※「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」を除く
「定年・契約期間の満了」が突出して多く、ほかには人間関係や給料等収入に関する回答が目立ちます。定年や契約期間の満了による離職は仕方がないものの、人間関係や給与への不満による退職は、企業側で努力してある程度防ぎたいところです。
女性の主な離職理由
「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、女性の主な離職理由の上位3つは以下の通りです。
- 職場の人間関係が好ましくなかった(13.0%)
- 労働時間、休日等の労働条件が悪かった(11.1%)
- 定年・契約期間の満了(9.8%)
※「その他の個人的理由」を除く
女性の場合、離職理由のトップは人間関係です。男性に比べて女性はセクシャルハラスメントの被害を受ける件数が依然として多く、その結果退職に至るケースが多く見られます。ハラスメント対策の徹底は、離職率を抑えるための重要な取り組みといえます。
若年男性の主な離職理由
「令和5年若年者雇用実態調査の概況」によると、若年男性の主な離職理由の上位3つは以下の通りです。
- 労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった(27.2%)
- 人間関係がよくなかった(26.0%)
- 仕事が自分に合わない(24.8%)
若年男性の離職理由は比較的回答がばらけており、上位3つはいずれも2%程度の差しかありません。また、4つ目に多かった回答は「賃金の条件がよくなかった」であり、こちらの割合も23.5%と高い数値です。
若年女性の主な離職理由
「令和5年若年者雇用実態調査の概況」によると、若年女性の主な離職理由の上位3つは以下の通りです。
- 労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった(29.5%)
- 人間関係がよくなかった(26.7%)
- 賃金の条件がよくなかった(20.4%)
1位と2位は若年男性と共通している一方で、3位が「賃金の条件がよくなかった」である点が異なります。しかし、4位が「仕事が自分に合わない」(19.4%)であることから、全体的な傾向は若年男性の回答と似ています。
代表的な離職理由から考えられる離職防止策とは
ここからは「令和5年雇用動向調査結果の概況」や「令和5年若年者雇用実態調査の概況」で挙げられた離職理由から考えられる、離職防止策を解説します。
定期的な個人面談の場を設ける
個人面談は、社員と上司が1対1で話せる場であり、社員の職場に対する本音や希望するキャリアプランなどを聞き出しやすい機会です。
個人面談の内容をもとに、社員が希望する部署へ異動させたり、人員体制を改善したりすることで離職する可能性を抑えられます。また、面談を通して上司と社員で信頼関係を築きやすいため、良好な人間関係の構築も期待できます。
個人面談を行う際は、上司は傾聴の姿勢を徹底し、社員が安心して話せる雰囲気を作るように心がけましょう。
各種ハラスメントの防止を徹底する
職場のパワーハラスメントやセクシャルハラスメントは、人間関係に大きな悪影響を及ぼす原因になり得るため、放置すると離職率の増加につながります。社内で各種ハラスメントを防止する取り組みを実施しましょう。ハラスメントを防止するための取り組みには、以下が挙げられます。
- ハラスメントの定義や具体例を周知徹底する研修の実施
- ハラスメントに関する相談窓口の設置
- ハラスメントが発生していないかを調査する、定期的なアンケートの実施
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントへの対策は、法令でも義務化されているほど重要な取り組みであるため、くれぐれも軽視しないようにしましょう。
社員の評価体制を整える
社員の仕事の成果に対して会社側が適切な評価を下し、評価の内容に応じた昇給が正確に行われることで、給与を理由に離職する可能性を減らせます。社員の仕事を確認する期間を定めて、期間内の働きに対して正確な評価を下せる体制を構築しましょう。
社員の評価体制の代表例には、以下の3つが挙げられます。
評価体制 | 説明 |
---|---|
目標管理(MBO) | 社員一人ひとりの目標を設定し、目標の達成度合いに対して評価を行う手法 |
コンピテンシー評価 | 仕事で高い成果を上げる人の特性(コンピテンシー)をもとに評価基準を作成し、社員がどれくらい基準を満たしているかによって評価を行う手法 |
360評価(多面評価) | 一人の社員がこなした仕事について、複数人が評価する手法 |
特定の評価体制を取り入れる際は、社内で具体的な手順を共有することが大切です。すべての部署の上長が評価方法を正確に把握し、全社員を平等に査定できる体制の構築を心がけましょう。
関連記事:コンピテンシー評価とは?公平な評価基準や書き方の例、企業事例を解説
業務量と人員体制を見直す
従業員の業務量が多いと、残業や休日出勤の頻度も多くなります。また、自分が休むと周りに迷惑がかかると考えることで、有給休暇を取得しにくくなる可能性もあります。結果的に労働時間が長くなり、従業員の意欲が低下しやすくなるため、離職につながりやすいです。
部署や社員ごとの業務量は定期的に見直し、偏りがないかを確認しましょう。特定の部署や個人に業務が集中している場合は、業務分担の見直しや人員補充を検討することが重要です。
柔軟な働き方ができないか検討する
柔軟な働き方ができると、自分の希望に沿う形で仕事ができることで快適さを感じられるため、社員が定着しやすくなります。
柔軟性の高い働き方の例としては以下が挙げられます。
- リモートワークの導入
- フレックスタイム制の導入
- 子育てしている社員を対象にした、時短勤務制度
特に子育てをしている社員にとって、柔軟な働き方ができる企業は魅力的に映りやすいものです。社員のライフステージや価値観の変化に対応できる環境作りを意識して、さまざまな働き方の導入を検討してみましょう。
研修制度を整える
若年層の社員や業界未経験の社員が不安なく仕事を進めるには、研修制度の整備が大切です。十分な研修を受けさせないまま仕事を割り振ると、仕事で十分なパフォーマンスを発揮できず「自分に合わない」と感じやすくなります。自分に合わないと感じた結果、離職する可能性があります。
新入社員研修や、実務を通して業務を覚えさせるOJT制度などを導入し、新しく入社した人が安心して働ける環境を整えましょう。
採用活動におけるミスマッチを防止する
新入社員が入社後に「思っていた会社と違った」と感じて、早期離職してしまうケースもあります。新入社員の早期離職を防ぐには、採用活動でミスマッチを起こさない工夫が必要です。ミスマッチを防ぐ取り組みの例として、以下が挙げられます。
- カジュアル面談を実施して、会社と求職者が本音で対話できる場を設ける
- 選考フローに適性検査を取り入れて、求職者が自社の社風に合うか判断できるようにする
- 新卒の学生を対象にした長期インターンを導入する
求職者が働きたい会社と、会社側が求めている人材をお互いにすり合わせて、双方が納得したうえで入社できる採用活動を心がけましょう。
従業員の離職により発生するリスク
ここからは、従業員が離職した場合に、企業にどういったリスクがあるのかを解説します。
優秀な人材が流出する
仕事のスピードが速かったり、専門的なスキルを持っていたりする人材が離職すると、企業の生産性低下につながります。競合他社に転職されると、競争力の観点からも不利になる可能性が高まります。
また、離職した人の後任者を配置するにあたって、教育に時間がかかりやすい点も悪影響の一つです。後任者が育つまでの間は業務が停滞しやすいため、チーム全体の士気が下がりやすい点も注意する必要があります。
会社に残る社員の負担が増す
離職者が発生すると、その人が担当していた業務をほかの社員で受け持つ必要があります。一人当たりの業務量が増加し、就業時間が長引くことで、モチベーションの低下につながりかねません。最悪の場合、さらなる離職者が発生するおそれもあります。
離職者が発生した際は、従業員が少ない状態を放置せず、早めに採用活動を進めて人員補充することが大切です。
企業のイメージが悪くなる
離職率が高いと、求職者に「働きにくい会社」「社員を大切にしない会社」というネガティブな印象を与えます。求職者からの応募が減少したり、内定辞退が増加したりする可能性が高まり、優秀な人材の獲得が困難になります。
また、離職率の高さがブランドイメージに悪影響を与え、取引先からの信頼が低下しやすい点も注意です。今後の取引が失われることで、企業の売上が低下するおそれがあります。
ネガティブな印象はSNSや口コミサイトですぐに広まるため、離職率が高まっている場合は早急な対策が必要です。
従業員が離職する際に必要な手続き
さまざまな離職防止策を講じても、やむを得ず従業員が離職するケースは起こり得ます。従業員の離職時には、社会保険や税金などに関する手続きの実施が必要です。
ここからは、従業員が離職する際に必要な手続きを解説します。
雇用保険に関する手続きを行う
雇用保険は、労働者の生活や雇用の安定などを目的とした国の制度で、仕事を失った人に対して失業保険を支給します。
多くの場合、企業の正社員は雇用保険に加入します。雇用保険に加入している従業員が退職する際は、被保険者資格の喪失に関する届出が必要です。退職者が失業保険を受給するために離職票の交付を希望する場合は、ハローワークに雇用保険被保険者離職証明書を提出することで、離職票の発行に関する申請も行います。
雇用保険に関する手続きは、いずれも従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日(退職日の翌々日)から10日以内に行う必要があります。手続きが遅れると離職票の交付が遅れてしまい、退職者の失業保険の受け取りに支障が出る可能性があるほか、雇用保険法の罰則を受けるおそれもあるため注意しましょう。
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届を提出する
正社員は雇用保険のほか、健康保険や厚生年金保険に加入しているケースも多く見られます。健康保険や厚生年金保険に加入している正社員が退職する場合「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。
提出期限は退職日の翌日から5日以内で、提出先は事業所を管轄している年金事務所です。会社が健康保険組合に加入している場合は、組合に対しても届出を行いましょう。
住民税の手続きを行う
会社が従業員の給与から住民税を天引きして納めていた場合「給与支払報告に係る給与所得異動届書」を提出する必要があります。提出先は従業員が居住している市町村で、期限は従業員の退職月の翌月10日までです。
住民税の手続きを怠ると、市町村は従業員が退職した後も、同じ会社に在籍していると判断します。その結果、退職した従業員に関する住民税の督促が、会社に届いてしまう可能性があります。
源泉徴収票を発行する
源泉徴収票は、その年の1月1日から退職日までに支払った給与・賞与の額や、源泉徴収した所得税額などを記載した書類です。
従業員が退職した場合は、退職の日以後1ヶ月以内に本人への交付が義務づけられています。
期限までに源泉徴収票を発行しないと、罰則が科されるおそれがあるため注意しましょう。また、源泉徴収票は退職者の年末調整や確定申告に必要な書類であるため、発行を怠ると退職者に迷惑をかける可能性もあります。
従業員の健康保険証や貸与品を回収する
従業員が退職する場合、本人の健康保険証を回収して管轄の年金事務所へ提出する必要があります。提出期限は従業員が退職した日の翌日から5日以内であるため、従業員の最終出社日に回収して、すぐ提出しましょう。従業員に健康保険の扶養者がいる場合は、扶養者の保険証もあわせて提出が必要です。
また、健康保険証だけでなく、社員証や名刺などの貸与品も忘れずに回収しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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