• 更新日 : 2025年7月11日

平均賃金の端数処理とは?欠勤や3ヶ月未満の計算方法や具体例を解説

平均賃金における端数処理は、平均賃金の計算時に生じる1銭未満や、手当支給時の1円未満の扱いを定めたものです。この記事では、平均賃金の計算方法や含める賃金の範囲、算定期間の考え方、そして端数処理の具体例までを簡潔に解説しています。

平均賃金の端数処理とは?

平均賃金の端数処理とは、平均賃金を計算する際に生じる1銭未満や1円未満の金額を、一定のルールに従って切り捨てや四捨五入を行うことです。

労働基準法第12条では、平均賃金を「労働者に支払われた賃金の総額を直前3か月間の暦日数で割った金額」と定めています。これは、解雇予告手当、休業手当、災害補償などを計算する際の基準額として使われます。

平均賃金を求めるとき、例えば750,000円 ÷ 90日=8,333.333…円のように、小数点以下が発生することがあります。この「1銭未満」は法律上の原則として切り捨てます。

さらに、実際の手当支給時には「1円未満」の端数が出ることがあります。このときは四捨五入して最終的な支給額を決定します。たとえば、25,000円50銭であれば25,001円となります。

なお、就業規則や労使協定などで異なる取り扱いを定めている場合は、その規定に従うことができます。

平均賃金を利用する主なケース

平均賃金を利用する主なケースは次の通りです。

  • 休業手当:使用者の都合で従業員を休ませた場合、平均賃金の60%以上を支払います。
  • 解雇予告手当:従業員を解雇する場合、30日以上前に予告しないときは、30日分以上の平均賃金を支払います。
  • 年次有給休暇中の賃金:所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、平均賃金、健康保険法に基づき標準報酬日額の3つのうち、就業規則などで定めた方法で支払います。
  • 労働災害補償:業務上の負傷や疾病の場合、休業補償給付などで平均賃金が基準となります。
  • 減給の制裁の制限:1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超える減給はできません。

平均賃金に含まれるもの、含まれないもの

平均賃金に含まれるのは、3か月間に支払われた賃金のうち、一定の条件を満たすものです。

平均賃金の総額に含まれるもの

算定期間中に支払われる時間外労働の割増賃金や各種手当を含む賃金のすべてが含まれます。いわゆる手取り金額ではなく、税金や社会保険料などを控除しない賃金総額が対象です。

  • 基本給:労働契約で定められた基本的な賃金。
  • 残業代・休日手当・深夜手当:時間外勤務や深夜労働など、実際の労働時間に応じて支払われる手当。
  • 有給休暇中の賃金:取得期間中に支払われた賃金
  • 各種手当:通勤手当、住宅手当、時間外手当、精皆勤手当など、労働の対価として支払われるもの。

平均賃金の総額に含まれないもの

以下の賃金は、平均賃金の算定における賃金の総額には含まれません。

  • 臨時に支払われた賃金:結婚祝金、慶弔見舞金、一時金、退職金など、通常の賃金とは異なる性質のもの。
  • 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金:賞与(ボーナス)など、年2回や年1回支給されるものは対象外。
  • 通貨以外で支払われた賃金:現物支給(食事、住居、商品券など)

平均賃金の計算には、労働の対価として支払われるすべての賃金が含まれます。

平均賃金の端数処理を含めた計算方法

平均賃金は、事由が発生した日の直前3か月間に支払われた賃金を、同じ期間の総日数で割って算出します。

平均賃金の基本的な計算式は次の通りです。

平均賃金 = 3か月間に支払われた賃金総額 ÷ 3か月間の総日数

この「3か月間」は、暦日によって数えます(民法第143条)。そのため、月初~月末ではなく、発生日から遡って正確に90日前後をカウントします。

例えば、算定事由が5月20日に発生した場合、2月20日から5月19日までの3か月が算定期間になります。

起算日と賃金締切日の扱い

賃金締切日がある企業では、平均賃金の計算は締切日ベースでの3か月を使います。

  • 解雇通知日:2025年5月20日
  • 賃金締切日:毎月15日

この場合、算定期間は2025年2月15日~2025年5月14日です。

このときの起算日は「直前の賃金締切日=2月15日」となり、その日を含めてカウントします(民法第140条)。

控除される期間

平均賃金の正確性を保つため、以下のような事情で賃金が支払われなかった日や期間は、算定から除外できます。

  • 業務上のケガや病気による療養休業:労働災害などによる休業期間です。
  • 産前産後の女性が休業した期間:労働基準法第65条に定められた産前産後休業の期間です。
  • 使用者都合による休業:会社の都合による休業期間で、休業手当が支払われた期間なども含まれます。
  • 育児・介護休業:育児介護休業法に基づく休業期間です。
  • 試用期間試用期間中は賃金が低めに設定されているケースがあるため、除外されます。
  • ストライキやロックアウトなどの期間:労使間の争議行為による休業期間です。

これらの日数と賃金は、平均賃金の分母と分子の両方から除外して計算します。

雇い入れ後3か月未満の場合

雇用されてから3か月が経っていない場合は、雇い入れ日から算定事由発生日の前日までの期間と、そこで支払われた賃金で計算します。

賃金締切日がある場合は、直前の締切日から数えます。ただし、その期間が「1か月未満」の場合は、発生日から逆算した3か月間で算定します。

最低保障額の取り扱い

日給制・時間給制・出来高払制・請負制などの働き方では、労働者の平均賃金があまりに低くならないように「最低保障額」が設けられています。

最低保障額 = (支払賃金総額 ÷ 実労働日数) × 60%

平均賃金を計算する際は、まず通常の方法で金額を出し、それと最低保障額を比較し、高い方を適用します。

端数処理のルール

端数処理には以下の2つのルールがあります。

平均賃金1日分の端数処理

計算結果に1銭未満(小数第3位)の端数がある場合は、切り捨てます。

例:8,333円335銭 → 8,333円33銭(0.5銭は切り捨て)

手当などを実際に支払うとき

支給金額に1円未満の端数が出た場合は、四捨五入します。

例:25,000円50銭 → 25,001円

この処理は法律で定められているもので、正確な賃金計算には欠かせません。計算方法を明文化し、就業規則にも反映させておくとトラブルを防げます。

平均賃金の端数処理の計算例

平均賃金の端数処理の計算例をいくつかご紹介します。

1. 正社員(月給制)の休業手当支給例

  • 休業開始日:2025年6月10日
  • 賃金締切日:毎月末日
  • 算定期間:2025年3月1日〜5月31日(92日間)
  • 月給:270,000円 × 3か月 = 810,000円
  • 休業日数:5日間

平均賃金の計算(原則)

平均賃金 = 810,000円 ÷ 92日 = 8,804円34銭78厘

8,804円34銭(1銭未満切り捨て)

休業手当の支給

8,804円34銭 × 0.6 = 5,282円60銭

5日分:5,282円60銭 × 5日 = 26,413円
1円未満を四捨五入 → 26,413円

2. パートタイマー(時給制・週3日勤務)

  • 雇い入れ日:2025年4月1日
  • 算定事由発生日:2025年5月15日
  • 在籍期間:44日
  • 実労働日数:20日
  • 賃金総額:120,000円

平均賃金の計算

平均賃金 = 120,000円 ÷ 44日 = 2,727円27銭

最低保障額との比較

最低保障額 =(120,000円 ÷ 20日)× 60% = 3,600円

平均賃金は3,600円(高い方を採用)

3. 休業手当を支払う場合(時給制・フルタイム)

  • 解雇通知日:2025年3月20日
  • 賃金締切日:毎月15日
  • 算定期間:2024年12月16日〜2025年3月15日(90日)
  • 実労働日数:58日
  • 賃金総額:896,320円

平均賃金の計算(原則)

896,320円 ÷ 90日 = 9,959円11銭

最低保障額との比較

896,320円 ÷ 58日 × 0.6 = 9,272円27銭

平均賃金は9,959円11銭(高い方を採用)

休業手当の支給

9,959円11銭 × 0.6 × 5日 = 29,877円33銭

四捨五入 → 29,877円

4. 雇い入れ後3か月未満の労災による補償給付(日給月給制)

  • 雇い入れ日:2025年4月5日
  • 労災発生日:2025年5月15日(通勤中の骨折)
  • 賃金締切日:毎月末日
  • 該当期間:2025年4月5日~5月14日(40日間)
  • 賃金総額:280,000円
  • 実労働日数:22日

平均賃金の算定

280,000円 ÷ 40日 = 7,000円

端数なし

最低保障額との比較

280,000円 ÷ 22日 × 0.6 = 7,636円36銭

平均賃金は7,636円36銭(高い方を採用)

補償給付の支給額

四捨五入 → 7,636円

5. 産休中の社員(控除あり)

  • 賃金締切日:毎月末日
  • 算定期間:2025年3月1日〜5月31日(92日)
  • 賃金総額:600,000円
  • 産前休業期間:5月20日〜31日(12日)
  • 控除額:80,000円(日割計算)
控除後の条件
  • 実際の算定日数:92日 − 12日 = 80日
  • 実際の賃金:600,000円 − 80,000円 = 520,000円

平均賃金の算定

520,000円 ÷ 80日 = 6,500円

端数なし/最低保障額の比較は不要

平均賃金の端数処理計算の注意点

平均賃金の計算、特に平均賃金の端数処理においては、いくつかの大切な注意点があります。これらの点を見落とすと、正確な計算ができず、後にトラブルの原因になる可能性があります。

算定期間を正しく特定する

平均賃金は、算定事由が発生した日を基準に、その直前3か月間の賃金と暦日数をもとに算出します。このときの起算日は「解雇予告通知日」ではなく「労働者に解雇通告が伝えた日」など、制度ごとに異なる場合があるため注意が必要です。起算日を間違えると算定期間全体がずれ、計算の信頼性が失われます。

含める賃金・除外する賃金の判断

平均賃金に含まれる賃金は、基本給や各種手当、残業代などが該当します。一方、賞与のように3か月を超える期間ごとに支払われる賃金や、結婚祝金などの臨時的・恩恵的な給付は含めません。誤って対象外の金額を含めたり、逆に対象の賃金を除外したりすると、支給額に大きな差が生じるため、給与明細や支給ルールを基に、正確な判断が求められます。

最低保障額との比較を忘れずに

日給制や時給制、アルバイト・パートなどの非正規雇用者では、原則的な計算で導き出された平均賃金が、実際の労働実態に比べて低くなる場合があります。このようなケースでは、労働基準法により「最低保障額(総賃金 ÷ 労働日数 × 60%)」との比較が義務付けられています。高い方を平均賃金として採用する必要があるため、必ず両方を算出して確認しましょう。

端数処理のルールを厳守する

平均賃金の計算では、銭未満(1銭=0.01円)を切り捨てるのが原則です。また、手当支給時には、1円未満を四捨五入して支給額を確定します。

例えば、計算結果が10,112円35銭であれば、10,112円とします。実際の切り上げや不適切な丸め処理を行うと、従業員への支払いに誤差が生じるため、計算ソフトや表計算ツールで端数処理の設定が正しくされているか、あらかじめ確認しておくと安心です。

記録と保管を徹底する

平均賃金の計算結果については、労働者との確認や、労働基準監督署など外部からの問い合わせに備える必要があります。

そのため、使用した賃金台帳、出勤簿、計算過程の記録などは、必ず保存しておきましょう。必要に応じて計算書も添付し、誰が見ても判断できる状態にしておくことで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。

平均賃金計算でよくある疑問と対処法

Q: 欠勤がある場合、平均賃金の賃金総額はどうなる?

A: 欠勤によって控除された場合は、控除後の実際に支払われた金額を平均賃金の賃金総額として用います。ただし、使用者都合による休業であれば、その期間と賃金は平均賃金の算定対象から除外します。

Q: 締め日と支払日が違うとき、平均賃金にはどの賃金を含める?

A: 平均賃金の計算では、支払日ではなく賃金の対象期間が基準です。たとえば、4月に支払われた3月分の賃金は、「3月の賃金」としてカウントします。

Q: パートタイマーも平均賃金の計算は同じ?

A: はい。日給制・時給制に関わらず、平均賃金は賃金総額 ÷ 総日数で計算します。著しく低い場合は、最低保障額(賃金総額 ÷ 労働日数 × 60%)と比較し、高い方を使います。

Q: 平均賃金の端数処理に法的ルールはある?

A:あります。労働基準法第12条により、平均賃金の計算では1銭未満は切り捨て、支給時には1円未満を四捨五入することが原則です。

平均賃金の端数処理の基本を押さえよう

平均賃金の端数処理は、1銭未満の切り捨てと1円未満の四捨五入という明確なルールに基づいて行う必要があります。算定期間の正確な特定、控除対象期間の確認、最低保障額との比較も欠かせません。

処理を誤ると不当な支給や法的トラブルにつながるため、就業規則や計算ツールの設定を含め、正確で一貫した運用を心がけることが求められます。


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