- 更新日 : 2025年7月11日
定年後の再雇用は嘱託が多い?メリット・デメリット、給与や契約の決め方を解説
定年後の再雇用では、嘱託契約を採用する企業が多く見られます。少子高齢化が進む中、経験豊富な人材を活かす手段として注目されています。この記事では、嘱託という働き方の特徴、メリット・デメリット、給与や契約内容の決め方、企業が留意すべき点をわかりやすく解説します。
目次
定年後の再雇用に嘱託契約が多い理由とは?
定年後の再雇用では、嘱託(しょくたく)契約が最も多く採用されている雇用形態です。厚生労働省の統計によると、継続雇用された労働者のうち約6割が嘱託または契約社員として再雇用されており、正社員(約3割)やパート・アルバイト(約1.5割)と比べても高い割合を占めています。
嘱託社員とは、企業が業務や雇用期間をあらかじめ定めて契約する有期雇用の社員を指します。多くの場合、半年〜1年ごとの契約更新を前提としており、定年後に再雇用される元正社員が経験や知識を活かして働く形が一般的です。
企業にとっては、熟練した人材を維持しながら、人件費の調整や配置の柔軟性を保てる点が大きな利点です。こうした理由から、嘱託契約は定年後再雇用の手段として広く選ばれています。
定年後の再雇用で嘱託契約にするメリットとデメリット
定年を迎えた社員を嘱託社員として再雇用することは、企業にとって様々なメリットがある一方で、考慮すべきデメリットも存在します。
企業が嘱託社員を再雇用するメリット
企業が嘱託社員を再雇用するメリットは次のとおりです。
熟練の知識や経験を引き続き活用できる
長年勤めてきた社員の持つ専門知識や技術、顧客との関係性などは、企業の貴重な資産です。定年後も継続して働いてもらうことで、これらのノウハウが失われるのを防ぎ、若手社員への技術継承にもつながります。
採用・育成コストがかからない
新規で人材を採用する場合、求人広告費や選考にかかる時間、教育研修費用などが発生します。自社の定年退職者を嘱託社員として再雇用すれば、これらのコストを大幅に削減できます。
即戦力としてすぐに働ける
再雇用される社員は、すでに自社の文化や業務内容を熟知しているため、入社後の研修期間が短く、すぐに業務に貢献できます。
社内の安定に貢献する
長年勤めた社員が引き続き会社にいることで、社内の雰囲気が安定し、他の社員にも良い影響を与えることがあります。
法令に対応できる
高年齢者雇用安定法により、「企業は65歳までの継続雇用制度を導入し、希望する社員に対して雇用機会を確保する義務があります。嘱託社員として再雇用することは、この法的義務を果たす方法の一つです。
企業が嘱託社員を再雇用するデメリット
企業が嘱託社員を再雇用する際に考慮すべきデメリットは次のとおりです。
人件費の調整が難しくなる
定年後の給与水準を見直すとはいえ、経験豊富な嘱託社員の給与は、若手社員よりも高くなる傾向があります。これにより、全体の人件費が硬直化し、コスト削減の余地が少なくなることがあります。
組織の新陳代謝が鈍る
嘱託社員が多いと、新しい人材の採用や若手社員への昇進機会が減り、組織全体の新陳代謝が停滞する可能性が出てきます。
モチベーション維持の難しさ
給与や業務内容が正社員時代と大きく変わることで、嘱託社員のモチベーションが低下するケースがあります。これが生産性低下につながることも考えられます。
処遇の差による不満が出やすい
正社員と嘱託社員との間で、給与や待遇に大きな差がある場合、他の社員から不満が出る可能性があります。同一労働同一賃金の原則も踏まえ、公平な処遇を考える必要があります。
能力の変化に対応が必要
年齢を重ねることで、体力や集中力、新しい知識の習得スピードなどが低下する可能性があります。これにより、業務遂行能力が期待通りにいかないことも考えられます。
定年後の再雇用で嘱託社員になると給与はどうなる?
定年後に嘱託社員として再雇用される場合、給与体系は大きく見直されることが一般的です。企業は、人件費の調整と、これまでの貢献への配慮とのバランスを考えて設定します。
嘱託社員の賞与・ボーナス
嘱託社員への賞与(ボーナス)の支給は、正社員とは異なる取り扱いが一般的です。多くの企業では、嘱託社員には賞与を支給しないか、支給するとしても正社員よりも低い金額に設定します。
これは、賞与が企業の業績連動や、正社員の長期的なモチベーション維持のために支給される性質が強いためです。企業は、嘱託社員の賃金は月給制や時給制とし、賞与の代わりに特定の業務に対する手当や、年俸制の一部として組み込むなどの工夫をすることがあります。
嘱託社員への退職金支給
嘱託社員には原則として新たな退職金は支給されません。多くの企業では、定年退職時に退職金を支払うことで、正社員としての退職金制度は終了します。
嘱託社員としての再雇用期間中には、新たな退職金制度を設けないか、設けるとしても正社員とは異なる算定基準や支給額とすることが一般的です。
これは、嘱託社員が有期雇用契約であることや、既に一度退職金を受け取っているケースがあるためです。企業は、再雇用契約書で退職金の取り扱いを明確に記載し、誤解が生じないように説明する必要があります。
定年後の再雇用における雇用形態の違い
定年後の再雇用には、嘱託社員以外にも、さまざまな雇用形態があります。それぞれの特徴を理解し、自社の体制に適した選択をすることが求められます。
正社員
定年後に正社員として再雇用するケースは稀です。一般的には、定年時に一度退職し、その後、労働条件を変更して再雇用されます。
もし正社員として再雇用する場合、労働条件は定年前と同じか、それに準ずるものとなるため、企業の人件費負担は大きくなります。また、「高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度は一旦退職後の有期契約再雇用を指し、正社員としての再雇用は勤務延長制度に該当するため、制度設計は区別して検討する必要があります。
契約社員
契約社員も嘱託社員と同様に、期間を定めて雇用する有期雇用契約です。法的には大きな違いはありませんが、企業によって「嘱託」は定年後再雇用者、「契約社員」は中途採用者など、使い分けをしている場合があります。
例えば、「嘱託社員」は定年退職者を再雇用する際に使う名称とし、「契約社員」を中途採用の有期雇用者などに使う名称としていることがあります。
企業は、名称の使い分けに関わらず、雇用契約書で具体的な労働条件や業務内容を明確に記載することが大切です。
パート・アルバイト
パート・アルバイトも嘱託社員と同じく有期雇用であることが多いですが、雇用の背景や業務内容、社会保険の扱いには違いがあります。
雇用の背景
嘱託社員は、定年退職後に再雇用された元正社員が多く、企業にとっては経験豊富な人材を引き続き活用する形になります。これに対して、パート・アルバイトは主に短時間勤務や補助業務を目的に新規で雇用されることが一般的です。
業務の内容
嘱託社員にはこれまでの知識やスキルを活かした専門的な業務や、若手の育成といった責任ある役割が与えられることがあります。一方で、パート・アルバイトは日常的な業務の補助や定型的な作業が中心です。
社会保険の扱い
嘱託社員は、原則として正社員時代と同様に健康保険や厚生年金に加入し続けるケースが多いですが、パート・アルバイトは勤務時間や日数によっては加入要件を満たさず、保険の対象外となることがあります。
業務委託契約は再雇用に含まれる?
業務委託契約とは、企業が個人または法人に対して特定の業務の遂行を依頼し、その成果に対して報酬を支払う契約です。雇用契約とは異なり、労働時間や業務の進め方について企業が直接指示を出すことはなく、業務の遂行は原則として受託者の裁量に任されます。
そのため、業務委託契約は定年後再雇用制度(高年齢者雇用安定法)の対象には含まれません。嘱託社員やパートは企業内で指示を受けて働きますが、業務委託はあくまで成果物に対する契約です。
定年退職者と業務委託契約を結ぶ場合は、契約書に報酬、業務範囲、納品物などを明記し、雇用と誤解されないように注意が必要です。実態によっては「偽装請負」と判断されるリスクもあるため、慎重な対応が求められます。
定年後の再雇用で嘱託社員とする労働条件や契約内容の決め方
企業が定年後の社員を嘱託社員として再雇用する際には、労働条件や契約内容を適切に設定することが大切です。
労働条件を決めるときの主なポイント
嘱託社員の労働条件を設定する際は、以下の点を考慮し、具体的に決めていきます。
業務内容と責任範囲
正社員時代に比べて、業務内容を限定したり、責任範囲を縮小したりすることが一般的です。例えば、マネジメント業務から離れて専門業務に専念してもらうなど、明確な役割を設定します。
勤務時間と休日
週の勤務日数や1日の勤務時間を短縮することがよくあります。例えば、週3日勤務や1日6時間勤務など、柔軟な働き方を提案することで、社員の生活との両立を図ります。休日は、会社のカレンダーに準じるか、嘱託社員の希望を考慮して決定します。
賃金
正社員時代の賃金体系から見直し、職務内容や勤務時間に応じた賃金を設定します。月給制、時給制、年俸制など、企業の状況に合わせて選択します。同一労働同一賃金の観点から、正社員との賃金差に合理的な説明ができるように配慮します。
各種手当
通勤手当や役職手当など、どのような手当を支給するのか明確にします。正社員時代の手当が継続されないケースが多いため、事前に説明が必要です。
有給休暇
労働基準法に基づき、勤務日数や時間に応じた有給休暇を付与します。
社会保険
労働時間や日数に応じて、健康保険、厚生年金保険、雇用保険の加入要件を満たすか確認し、適切に加入手続きを行います。
契約期間と更新条件
1年契約とする企業が多いです。契約更新の判断基準(健康状態、業務遂行能力、企業の業績など)を明確にしておくことで、雇い止めの際のトラブルを未然に防ぎます。
嘱託契約書に明記すべき項目
嘱託契約書は、嘱託社員との間で労働条件を明確にするための重要な書類です。以下の項目を明確に記載しましょう。
- 契約期間:契約の開始日と終了日、契約更新の有無と条件を具体的に記載します。
- 業務内容:担当する業務、責任範囲を具体的に記述します。
- 就業場所:勤務する場所を明記します。
- 始業・終業時刻、休憩時間:1日の労働時間、休憩時間を明確にします。
- 休日・休暇:週休日、法定休日、年末年始休暇、夏季休暇、有給休暇の取り扱いなどを記載します。
- 賃金:基本給、手当、割増賃金、賞与、退職金の有無と算定方法、支払い方法、締め日・支払日などを具体的に記載します。
- 社会保険:加入する社会保険の種類を記載します。
- その他:服務規律、懲戒に関する事項、自己都合退職に関する事項、雇い止めに関する事項などを盛り込みます。
これらの項目を明記することで、後のトラブルを回避できます。
嘱託社員の労働条件通知書・雇用契約書のテンプレート
嘱託社員の労働条件通知書・雇用契約書を効率的に作成するには、テンプレートを活用すると便利です。
マネーフォワード クラウドでは、今すぐ実務で使用できる、テンプレートを無料で提供しています。以下よりダウンロードいただき、自社に合わせてカスタマイズしながらお役立てください。
企業が定年後、嘱託で再雇用する際の注意点
企業が定年後の社員を嘱託社員として再雇用する際には、いくつかの注意点があります。これらを事前に把握し、適切な対応を取ることが円滑な再雇用につながります。
同一労働同一賃金原則への対応
2020年4月から施行された「同一労働同一賃金」の原則は、嘱託社員にも適用されます。業務内容や責任が正社員と同じであれば、賃金や福利厚生にも合理的な一貫性が求められます。
企業は、正社員と嘱託社員の間に不合理な待遇差がないかを見直し、差がある場合にはその理由を明確に説明しなければなりません。賃金規定や就業規則の整備とともに、本人への丁寧な説明が不可欠です。
雇い止めトラブルを避ける
嘱託社員は有期雇用契約であるため、契約期間満了時の「雇い止め」がトラブルの原因となることがあります。
これを防ぐには、更新基準や手続きを明文化しておくことが大切です。
契約書や社内規定に、更新の判断基準(健康状態、勤務態度、業績など)を明確に記載し、期待を持たせるような発言や曖昧な対応は避けます。特に、継続雇用を希望する社員には、早めに方針を伝えることが求められます。
契約期間が1年を超える場合、原則として少なくとも30日前までに雇い止めの通知を行う必要があります。さらに、雇い止めの理由が客観的かつ合理的であることも重要です。
健康状態と安全への配慮
嘱託社員は高年齢であるため、健康面や安全面への配慮が必要です。定期的な健康診断を実施し、必要に応じて業務内容や勤務時間を調整します。
体力や集中力に負担のかかる業務は避け、本人の状況に合わせた業務設計を行います。また、職場環境を高齢者にとって働きやすい形に整えることも大切です。段差の解消、照明の強化、滑りやすい床の対策などが具体例です。
さらに、年齢を理由としたハラスメント(エイジハラスメント)を防ぐため、社内研修や相談体制を整えておく必要があります。
定年後再雇用における嘱託契約を円滑にするために
嘱託制度は、企業が経験と技術を活かし続けるための有効な手段です。ただし、その運用には法令遵守と人事制度上の配慮が不可欠です。
労働条件や契約内容は契約書に明示し、正社員との違いについて合理的な根拠を持って説明できる体制を整えておくことが重要です。また、契約更新に関する基準や対応も明確にし、社員にとって不安のない仕組みにすることが望まれます。
企業が嘱託社員を安心して迎え入れ、活躍してもらうためには、制度だけでなく日々のコミュニケーションも大切です。一人ひとりに寄り添いながら柔軟に対応する姿勢が、企業全体の信頼と成長を支える土台になります。
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※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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