- 更新日 : 2025年7月11日
残業時間の端数処理とは?1分と15分単位の違い、計算例を解説
残業代の計算時に「端数処理」はどのように行えばよいのでしょうか。1分単位で処理すべきか、15分単位でも問題ないのか。
労働基準法では、原則として労働時間は1分単位で計算し、働いた分すべてに賃金を支払うことが求められています。ただし、一定の条件を満たす場合に限り、例外的に丸め処理が認められることもあります。
この記事では、残業時間や賃金の端数の処理方法、就業規則への記載の必要性、計算例まで、実務に役立つポイントをわかりやすく解説します。
目次
なぜ残業時間の計算で端数が生じるのか?
残業時間の計算では、1分単位で労働が発生するため、どうしても端数が出ます。例えば、定時を過ぎて12分働いた場合、その12分をどう扱うかが問題になります。
- 定時退社が18:00、実際の退社が18:12
→ 残業時間は12分
この12分を1分単位で支払うか、15分単位で切り上げ・切り捨てをするかによって、支給額が変わります。こうした処理を「残業時間の端数処理」と呼びます。
労働基準法第24条では、「賃金全額払いの原則」を定めており、労働時間を切り捨てることは、この原則に違反します。
一方で、賃金の支給額を計算する際にも端数が出ることがあります。時給や月給から1時間あたりの単価を算出する過程で、1円未満の金額が生じることがあります。
- 1時間あたりの単価 1,523.45円
→ 0.49円以下(50銭未満) 切り捨て 1,523円 - 1時間あたりの単価 1,523.50円
→ 0.50円以上(50銭以上1円未満) 切り上げ 1,524円
こうした場合には、「50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げる」といった処理が認められています。
実務では1分ごとの集計や支給が煩雑になることから、一定の単位に丸める処理が用いられることもあります。こうした処理は、就業規則などに明示されていること、労働者に不利益を与えないことが前提です。ルールが不明確なままでは、後々トラブルの原因となる可能性があります。
残業時間の計算方法と端数処理の関係
労働時間は通常、1日8時間・週40時間を超える部分が時間外労働(残業)としてカウントされます。残業代の計算では、以下の式が使われます。
【残業代の計算式】
例えば、1時間あたりの単価が1,500円で、20分間の残業をした場合:
残業時間の端数処理の方法
残業時間の端数処理には原則があり、一部例外的に認められる処理もあります。労働基準法は労働者の保護を目的としているため、企業が勝手に労働者に不利な処理を行うことはできません。
原則は1分単位での計算
労働基準法では、労働時間は1分単位で計算し、その分の賃金を支払うことが原則とされています。これは、労働者が実際に働いた時間に対して正確に報酬を受け取れるようにするためです。したがって、本来は残業時間についても1分単位で処理する必要があります。
1分単位以外で認められる端数処理
実務上は、毎日の労働時間をすべて1分単位で処理すると業務が煩雑になるため、厚生労働省は一定の条件を満たす場合に限り、例外的な端数処理を認めています。ただし、いずれも「労働者に不利益を与えないこと」が前提です。
1. 月単位での残業時間の端数処理
時間外労働・休日労働・深夜労働の1ヶ月分の合計について、1時間未満の端数がある場合は、次のように処理が可能とされています。
【月単位での残業時間の端数処理】
30分未満 | 切り捨て |
---|---|
30分以上 | 1時間に切り上げ |
これは、1ヶ月を通じて相殺されることを前提にした処理であり、日々の労働時間を都度切り捨てるような運用は認められていません。
2. 時給換算時の端数処理
月給制の社員などで、1時間あたりの賃金を算出する際に端数が出た場合、次のような処理が認められています。
【1時間あたりの賃金算出の端数処理】
50銭未満 | 切り捨て |
---|---|
50銭以上1円未満 | 1円に切り上げ |
これは、賃金単価の算出に関する処理であり、実際の支給額ではなく、基礎となる金額の調整です。
3. 賃金総額における端数処理
1ヶ月の賃金総額に100円未満の端数が出ることもあります。この場合の処理方法は以下の通りです。
【1ヶ月の賃金総額における端数処理】
50円未満 | 切り捨て |
---|---|
50円以上 | 100円に切り上げ |
「1,000円未満の端数が生じた場合は、翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことができます。これらの処理もあくまで実務上の簡便さによるもので、労働者の損にならない範囲でのみ認められます。
残業時間の端数処理の流れ
残業時間の端数処理は、正確な賃金計算のために必要な手続きです。まずは、労働時間を正確に記録することから始まり、集計・処理・計算という一連の流れに従って行われます。
1. 労働時間の正確な記録
最初のステップは、従業員の労働時間を正確に記録することです。タイムカードやICカード、生体認証、勤怠管理システムなどを使って、出退勤時刻を1分単位で記録します。このデータが後の残業計算の基礎となります。
2. 日々の残業時間の算出
記録された出退勤時刻をもとに、所定労働時間を超えた部分を残業時間として算出します。例えば、所定労働時間が9時~18時(休憩1時間)の場合、18時以降の勤務が残業です。この段階では、まだ端数処理を行わず、1分単位で計算します。
3. 月ごとの残業時間の集計
日々の残業時間を、時間外労働、休日労働、深夜労働の種別ごとに1ヶ月分集計します。この段階でも、まだ端数は切り捨てず、1分単位で合計します。
4. 月ごとの合計残業時間の端数処理
月ごとの合計残業時間(時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれ)に対して、端数処理を適用します。具体的には、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる方法が、厚生労働省の通達により例外的に認められています。
この処理は、月単位の合計に限って適用され、日ごとの労働時間には使えません。
5. 割増賃金の計算
端数処理を行った残業時間に対して、それぞれの割増率を乗じて割増賃金を計算します。
- 時間外労働:1.25倍以上(月60時間超の場合は1.5倍以上)
- 休日労働:1.35倍以上
- 深夜労働:1.25倍以上(深夜労働かつ時間外労働の場合は合計1.5倍以上など)
6. 給与への反映
計算された残業代を、その月の給与に合算して従業員に支払います。これらの処理は、就業規則に明確に規定されている必要があります。
残業時間の端数処理の計算例
残業時間の端数処理の様々なケースにおける具体的な計算例を紹介します。
1日の残業時間で端数が出る場合
1日ごとの残業時間は、原則として1分単位で計算され、端数処理は行いません。
例: 所定労働時間が17時までで、17時15分に退社した場合
→ 残業時間はそのまま15分です。
この15分を「15分未満だから0分にする」といった処理は、労働基準法に違反する可能性があります。1日単位では切り捨てや切り上げをせず、記録された時間どおりに集計する必要があります。
1ヶ月の残業時間合計に端数処理を行う場合
1ヶ月単位で集計した残業時間(時間外・休日・深夜)については、条件を満たせば端数処理が可能です。
基準は30分未満切り捨て、30分以上切り上げ(=1時間)です。
- 合計25時間29分 → 30分未満のため切り捨て:25時間
- 合計25時間31分 → 30分以上のため切り上げ:26時間
- 合計10時間10分 → 切り捨て:10時間
- 合計10時間45分 → 切り上げ:11時間
- 合計8時間05分 → 切り捨て:8時間
- 合計8時間30分 → 切り上げ:9時間
これらの処理は、月単位の合計にのみ適用可能であり、日ごとの端数処理には使えません。
1時間あたりの賃金額の端数処理
時給換算で発生する端数についても、以下の処理が一般的です。
- 1,523.45円 → 0.45円は50銭未満:切り捨て → 1,523円
- 1,523.50円 → 0.50円は50銭以上:切り上げ → 1,524円
これは、賃金単価の端数処理として認められている例です。
1ヶ月の賃金総額の端数処理
支給額の最終的な合計に対する端数処理も、以下のように行われます。
- 250,500.80円 → 0.80円(50銭以上):切り上げ → 250,501円
- 250,500.40円 → 0.40円(50銭未満):切り捨て → 250,500円
なお、企業によっては1,000円未満の端数を翌月に繰り越す運用をしている場合もあります。
残業時間の端数処理計算の注意点
残業時間の端数処理は、労働基準法に基づき、適切な賃金計算が必要です。企業が誤った方法で処理を行うと、未払い賃金の指摘や従業員とのトラブルにつながるおそれがあります。
1. 残業時間は原則1分単位で計算する
残業時間は、原則として1分単位で正確に計算することが求められます。「15分未満は切り捨て」や「30分単位で処理」といった慣習的な運用は、法律上認められていません。実際に働いた時間には、正当な賃金を支払う必要があります。
2. 労働者に不利な一方的な処理はNG
例えば、「15分以上でなければ残業と認めない」など、企業側に一方的に有利な端数処理は、労働基準法違反となる可能性があります。労働者の権利を不当に制限するようなルールは認められません。
3. 例外的な端数処理は就業規則に明記する
1ヶ月単位の端数処理(30分未満切り捨て・30分以上切り上げ)や、賃金単価・総額の端数処理を行う場合は、その内容を就業規則や賃金規程に明確に記載し、従業員に周知することが必要です。明記がないまま処理を行うと、後のトラブルの原因となります。
4. 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げの原則を理解する
賃金計算では、円未満の端数に対して「50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げ」が原則とされています。これは残業代に限らず、基本給や手当の計算にも共通するルールです。
5. 労働基準監督署の指導事例を参考に
適切な運用を行うためには、労働基準監督署の過去の指導例や行政解釈を確認することも有効です。疑問点がある場合は、労働基準監督署や社会保険労務士など専門家に相談するのが確実です。
6. 勤怠管理システムの導入でミス防止を
手作業での計算はミスのリスクが高く、端数処理の誤りにつながることがあります。勤怠管理システムの導入により、時間の記録や残業計算を自動化することで、法令に沿った正確な処理が可能になります。
残業時間の端数処理の方法は就業規則に規定する
残業時間の端数処理に関するルールは、必ず就業規則に明記する必要があります。就業規則は、労働条件や服務規律などを定めるものであり、会社と従業員が守るべき共通のルールブックです。
端数処理に関して、就業規則には次の点を具体的に盛り込むことが重要です。
- 労働時間の計算方法
勤怠管理の方法(タイムカード、IC打刻等)や、労働時間を1分単位で集計することを原則とする旨を明記します。 - 残業の定義と割増率
時間外労働、休日労働、深夜労働の定義と、それぞれの割増率(例:時間外1.25倍など)を記載します。 - 端数処理の具体的な方法
月単位での合計残業時間について、「30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げ」といった処理を行う場合は、そのルールを明記します。また、賃金単価や月給総額に発生する1円未満の端数処理(50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ)についても同様に記載します。 - 対象となる賃金項目の明示
端数処理が適用される手当(時間外手当、休日手当、深夜手当など)を具体的に挙げておくと、より明確です。
残業時間の端数処理はルールと運用が重要
残業時間の端数処理は、賃金に直接関わるため、正確なルール設定と運用が求められます。労働基準法では1分単位の計算が原則で、不利益な切り捨ては認められていません。
月単位の集計に限り、「30分未満切り捨て、30分以上切り上げ」の処理が例外的に可能ですが、就業規則への明記と従業員への周知が前提です。
勤怠管理システムを活用し、常に正確な集計と法令に沿った対応を行いましょう。判断に迷う場合は、労働基準監督署や専門家への相談も有効です。
関連:賃金規程とは?作成の流れやポイント、開示義務について解説
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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