• 更新日 : 2025年7月11日

雇用保険料の端数処理とは?具体例や切り捨て、切り上げルールを解説

雇用保険料の計算において生じる端数処理は、経理や給与計算を担当する方にとって、常に正確さが求められる作業です。ここでは、雇用保険料の端数処理に関するルールや具体的な計算方法をわかりやすく解説します。

雇用保険料の計算で端数が生じる理由

雇用保険料の計算で端数が出るのは、給与額に雇用保険料率を乗じるためです。

雇用保険料は、毎月の給与額に保険料率を乗じて算出されます。この保険料率は小数点以下の数字を含むことが多く、また給与額自体も1円単位までと様々です。

雇用保険料の計算式

雇用保険料の計算は、以下の式で行われます。

雇用保険料 = 賃金総額 × 雇用保険料率

「賃金総額」とは、基本給のほか、通勤手当や残業手当、各種手当など、税法上の「給与所得」に該当するほぼ全てのものを指します。

例えば、以下の条件で計算してみましょう。

  • 賃金総額:300,000円
  • 労働者負担の雇用保険料率:0.55%(一般の事業の場合)

計算式に当てはめると、

300,000円 × 0.3% = 1,650円

この場合、端数は発生しません。

次に、端数が発生する例を見てみましょう。

  • 賃金総額:253,456円
  • 労働者負担の雇用保険料率:0.55%

計算式に当てはめると、

253,456円 × 0.55% = 1,394.008円

この1,304.008円という金額から、1円未満の端数である「.008円」をどのように処理するかが問題になります。

雇用保険料の端数処理は定められている

雇用保険料の端数処理は、厚生労働省の通達によってルールが定められています。

厚生労働省は「雇用保険被保険者からの雇用保険料の控除方法」という通達で、端数処理の原則を明確に示しています。このルールに従わない場合、正確な保険料の徴収が行われないことになり、労働者または事業主のいずれかが不利益を被る可能性があります。

雇用保険料率(令和7年・2025年度)

事業の種類労働者負担 ①事業主負担 ②合計 ①+②
一般の事業5.5 / 1,0009 / 1,00014.5 / 1,000
農林水産・清酒製造の事業6.5 / 1,00010 / 1,00016.5 / 1,000
建設の事業6.5 / 1,00011 / 1,00017.5 / 1,000

参照:令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内|厚生労働省

雇用保険料の端数処理の方法

雇用保険料の端数処理には、厚生労働省の通達により、特定の原則が適用されます。

雇用保険料の計算で生じる1円未満の端数は、「50銭未満は切り捨て、50銭以上1円未満は切り上げ」という原則に基づいて処理されます。このルールは、労働者負担分と事業主負担分の双方に適用されます。

切り捨て、切り上げの原則

厚生労働省の通達に基づき、雇用保険料の端数処理の原則は以下の通りです。

50銭未満の端数切り捨て
50銭以上1円未満の端数切り上げ(1円として計算)
  • 50銭未満の端数:切り捨て
    計算結果が「〇〇円49銭」以下の場合、その端数は切り捨てて「〇〇円」とします。例えば、760.368円(760円36.8銭)であれば、50銭未満なので切り捨てて760円となります。
  • 50銭以上1円未満の端数:切り上げ
    計算結果が「〇〇円50銭」以上「〇〇円99銭」以下の場合、その端数は切り上げて「〇〇円+1円」とします。例えば、760.50円(760円50銭)であれば、50銭以上なので切り上げて761円となります。

労働者負担と事業主負担

雇用保険料の端数処理の原則は、労働者負担分と事業主負担分の両方に適用されます。

一般の事業の場合、労働者負担の雇用保険料率は0.55%、事業主負担の雇用保険料率は0.9%です

それぞれの負担額を計算する際、上記で説明した「50銭未満は切り捨て、50銭以上1円未満は切り上げ」のルールを適用します。

例えば、賃金総額が312,345円の場合を考えてみましょう。

  • 労働者負担分:312,345円 × 0.55% = 1,717.8975円
    この場合、50銭以上(0.8975円=89.75銭)の端数なので、切り上げて1718円が労働者負担となります。
  • 事業主負担分:312,345円 × 0.9% = 2,811.105円
    この場合、50銭未満(0.105円=10.5銭)の端数なので、切り捨てて2811円が事業主負担となります。

このように、労働者負担分と事業主負担分はそれぞれ独立して端数処理が行われます。

参照:雇用保険被保険者からの雇用保険料の控除方法|厚生労働省令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内|厚生労働省

雇用保険料の端数処理の流れ

雇用保険料の端数処理は、給与計算の一部として行われます。給与計算ソフトを使用している場合でも、手計算で行う場合でも、この流れを理解しておくことは正確な処理のために重要です。

雇用保険料の端数処理を含む給与計算の一般的な流れは以下の通りです。

1. 賃金総額の確定

従業員の基本給、各種手当(残業手当、通勤手当など)を含めた1ヶ月の賃金総額を確定します。

2. 雇用保険料率の確認

雇用保険料率は年度ごとに変更される可能性があるため、常に最新の数値を確認することが必要です。

3. 雇用保険料の計算

確定した賃金総額に、労働者負担の雇用保険料率を乗じて、労働者が負担する雇用保険料を計算します。

4. 端数処理の実施

計算で生じた1円未満の端数に対して、「50銭未満は切り捨て、50銭以上1円未満は切り上げ」のルールを適用します。

5. 給与からの控除

端数処理後の雇用保険料を、従業員の総支給額から控除します。この控除額が、従業員の給与明細に記載される雇用保険料の金額となります。

6. 事業主負担分の計算と会計処理

労働者負担分と同様に、賃金総額に事業主負担の雇用保険料率を乗じて事業主負担分を計算し、同様に端数処理を行います。

この金額は会社が負担するため、従業員の給与から控除されることはありませんが、会社の会計に計上する必要があります。

例:賃金総額 253,456円 × 事業主負担率 0.9% = 2,281.104円

この場合、50銭未満の端数なので、切り捨てて2,281円とします。

この一連の流れを正確に行うことで、適正な雇用保険料の徴収と納付が実現します。

雇用保険料の端数処理の具体例

雇用保険料の端数処理は、徴収方法によって実務上の違いが生じることがあります。

従業員からの徴収方法別に具体的な計算例を挙げながら、端数処理の適用方法を解説します。

雇用保険料の徴収は、主に「源泉控除」と「現金徴収」の2つの方法があります。

どちらの方法でも端数処理のルール自体は変わりませんが、具体的な処理の場面で注意が必要です。

従業員の負担額を源泉控除で徴収する場合

多くの企業では、従業員の雇用保険料を給与から天引き(源泉控除)しています。この場合の端数処理の具体例です。

例:端数が切り捨てになるケース(50銭未満)
  • 従業員Bさんの当月の賃金総額:253,456円
  • 労働者負担の雇用保険料率:0.55%
計算:253,456円 × 0.55% = 1,394.008円

端数が50銭未満(0.8銭)なので、切り捨てて1,394円を給与から控除します。

例:端数が切り上げになるケース(50銭以上1円未満)
  • 従業員Cさんの当月の賃金総額:312,345円
  • 労働者負担の雇用保険料率:0.55%
計算:312,345円 × 0.55% = 1,717.8975円

端数が50銭以上(89.75銭)なので、切り上げて1,717円を給与から控除します。

例:計算結果が0.5円(50銭)ぴったりになるケース
  • 計算結果が正確に「〇〇円50銭」となることは稀ですが、理論上は「50銭以上1円未満は切り上げ」のルールが適用され、切り上げとなります。

源泉控除の場合は、給与計算ソフトが自動的にこれらの端数処理を行ってくれることがほとんどですが、手計算で確認する場合や、イレギュラーな対応が必要な場合に、このルールを把握していることが重要です。

従業員の負担額を現金で徴収する場合

従業員が休職中で給与がない場合など、例外的に雇用保険料を現金で徴収するケースも存在します。この場合でも、端数処理のルールは同じです。

  • 計算方法:賃金総額 × 雇用保険料率
  • 端数処理:「50銭未満は切り捨て、50銭以上1円未満は切り上げ」

現金で徴収する場合でも、計算された雇用保険料が「〇〇円+端数」であれば、上記のルールに従って最終的な徴収額を決定し、従業員に請求します。

雇用保険料の端数処理で気をつけたいポイント

雇用保険料の端数処理は、正しい料率や賃金の把握、計算手順の確認が欠かせません。ここでは、実務で特に注意すべき点を解説します。

雇用保険料率の変更を毎年確認する

雇用保険料率は、経済情勢などに応じて見直されることがあります。通常は年度の途中で変わることはありませんが、毎年4月の改定にあわせて最新の料率を確認しましょう。

厚生労働省のウェブサイトや労働局の通知、また給与ソフトのアップデート情報もあわせて確認し、正しい料率で計算されているかをチェックします。誤った料率で計算すると、過徴収や過少徴収となり、労使間のトラブルにつながるおそれがあります。

給与計算ソフトの設定を確認する

給与計算ソフトには、雇用保険料率の反映や端数処理の設定機能がありますが、初期設定やアップデート後の設定確認は不可欠です。

ソフト導入時や年度切り替えのタイミングで、料率や切り上げ・切り捨て方法が正しく設定されているかを見直しましょう。

賃金総額の対象範囲を正確に把握する

雇用保険料の計算対象となる「賃金総額」は、所得税の課税対象となる給与所得とほぼ同じ範囲ですが、一部異なるものもあります。

  • 含めるもの:基本給、通勤手当、残業手当、家族手当、住宅手当など、労働の対価として支払われるほとんどの手当が含まれます。
  • 含まないもの:出張旅費や宿泊費などの実費弁償的なもの、慶弔見舞金、退職金などは原則として含まれません。

賃金総額を誤って計算すると、雇用保険料も不正確になり、端数処理以前の問題が生じます。不明な点があれば、厚生労働省の資料や専門家(社会保険労務士など)に確認することをおすすめします。

計算ミスの防止

手計算で行う場合や、エクセルなどで計算シートを作成する場合は、入力ミスや数式ミスに注意が必要です。

  • 複数人でのチェック:可能であれば、複数人で計算結果を確認し合うことで、ヒューマンエラーを減らすことができます。
  • 計算式の確認:エクセルを使用する場合は、計算式が正しいセルを参照しているか、正しい計算ロジックが組まれているかを何度も確認しましょう。特に、小数点以下の扱いに関する関数(例:ROUNDDOWN、ROUNDUPなど)の使用には注意が必要です。

これらの点に注意を払うことで、雇用保険料の端数処理を正確に行い、トラブルを未然に防ぐことができます。

雇用保険料の端数処理を正しく行い、安定した労務管理へ

雇用保険料の端数処理は、「50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げ」と定められており、労働者・事業主の双方に適用されます。毎年変動する料率や給与ソフトの設定状況を常に確認し、正確な処理を徹底することで、労務トラブルや計算ミスを防げます。適切な対応が企業の信頼性と安定した労務管理の基盤になります。


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