• 更新日 : 2025年7月11日

60歳以降の再雇用の給与相場とは?業種や男女の違い、企業の取り組みを解説

60歳以降の再雇用が進む中、年齢に伴う給与の減少や、業種ごとに異なる給与水準が影響を与えています。この記事では、60歳以降の再雇用における給与相場、減額される理由や実際の事例について、具体的かつわかりやすく解説します。

60歳以降の再雇用の給与相場とは?

再雇用は、60歳以降の定年を迎えた後も仕事を続けるための制度です。定年を迎えた正社員は、原則として一度退職し、その後、企業と有期雇用契約など新たな雇用契約を結ぶことが一般的です。この再雇用後の給与は、通常、定年前に比べて減少します。多くの企業では、定年時の給与の約7割から8割程度となることが一般的です。

ただし、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、60歳以降の賃金は全体的に改善傾向にあります。これは、労働力不足が深刻化する中で、企業が高齢者の確保と処遇改善に力を入れていると考えられます。

1. 一般労働者の月額賃金

  • 60~64歳:
    男女計:31万7700円(前年比3.9%増)
    男性:34万4700円(前年比3.1%増)
    女性:25万9900円(前年比5.4%増)
  • 65~69歳:
    男女計:27万5500円(前年比2.1%増)
    男性:29万4300円(前年比0.3%増)
    女性:23万4000円(前年比7.8%増)

2. 短時間労働者の1時間当たり賃金

短時間労働者の1時間当たり賃金も、全体的に増加傾向にあります。

  • 60~64歳:
    男女計:1,566円(前年比2.5%増)
    男性:2,059円(前年比9.2%減)
    女性:1,422円(前年比7.4%増)
  • 65~69歳:
    男女計:1,536円(前年比4.9%増)
    男性:1,856円(前年比5.2%増)
    女性:1,353円(前年比5.0%増)

特に65~69歳の女性の賃金は堅調に伸びており、多様な働き方における高齢者の活躍がうかがえます。

3. 企業規模別に見た月額賃金

企業規模別に賃金を見ると、一般的に企業規模が大きいほど賃金が高い傾向にあります。

  • 大企業(1,000人以上):
    60~64歳:33万2700円(前年比6.0%増)
    65~69歳:27万5000円(前年比0.7%減)
  • 中企業(100~999人):
    60~64歳:31万6700円(前年比3.5%増)
    65~69歳:28万1700円(前年比3.8%増)
  • 小企業(10~99人):
    60~64歳:30万4400円(前年比1.9%増)
    65~69歳:27万200円(前年比1.9%増)

中企業と小企業では、65~69歳でも賃金が前年より増加しています。これは、中小企業でも高齢者の確保と処遇改善が進んでいることを示しています。

4. 産業別に見た賃金

産業によって賃金水準は大きく異なりますが、高齢層の賃金は全体的に改善傾向にあります。

  • 電気・ガス・熱供給・水道業:
    60~64歳:31万8900円(前年比16.2%増)
    65~69歳:29万9300円(前年比5.7%増)
  • 金融業、保険業:
    60~64歳:36万2300円(前年比9.3%増)
    65~69歳:34万6700円(前年比7.0%増)
  • 建設業:
    60~64歳:38万9800円(前年比8.3%増)
    65~69歳:33万3100円(前年比5.7%増)
  • 学術研究、専門・技術サービス業:
    60~64歳:41万1400円(前年比11.5%減)
    65~69歳:37万3800円(前年比0.3%減)
  • 宿泊業、飲食サービス業:
    60~64歳:26万4600円(前年比5.3%増)
    65~69歳:22万6300円(前年比1.3%増)

特に「建設業」や「金融業、保険業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」は高い賃金水準を保ち、堅調な伸びを示しています。「学術研究、専門・技術サービス業」前年比では減少しているものの、高い水準を維持しています。一方、最も賃金水準が低いのは「宿泊業、飲食サービス業」です。

参考:令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省

60歳以降の給与を引き上げる企業の取り組み事例

多くの企業が、60歳以降の再雇用者の待遇改善に積極的に取り組んでいます。これは、労働力不足への対応や、長年培った知識や経験を持つ熟練人材の確保を目的としています。

大和ハウス工業

2025年4月から定年を67歳に延長し、社員が65歳または67歳を選べる制度を導入します。給与や賞与はどちらを選んでも変わらず、シニア社員の柔軟な働き方を支援します。また、60歳での役職定年を廃止し、60歳以降も同じ役割であれば処遇を維持できる仕組みを整えました。さらに、65歳以降の嘱託再雇用では、週4日勤務で月22万円、週5日勤務で最大35万円と、現役同等の働き方を選べるようにしています。

三菱UFJ銀行

再雇用制度を大幅に見直し、定年後の給与水準を最大4割引き上げました。これにより、定年前と同等の収入を維持しやすくなり、週5日勤務を選択すれば年収1,000万円も可能となります。シニア行員の意欲を高め、業務の継続性を確保することが目的です。

JAL(日本航空)

再雇用シニア社員の給与を現役時と同水準に維持する新制度を導入しました。さらに、評価制度を取り入れ、成果に応じて高収入を得られる仕組みを構築。特に高評価を受けた社員は、年収1,000万円超の待遇を受けられる可能性もあります。

バンダイ

61歳以上の定年再雇用社員の年収を従来比で平均58%引き上げました。給与の算定方法を見直し、定年前と同水準の収入を維持しやすい仕組みを構築しています。

阿波銀行

65歳以上の再雇用者をパート待遇から月給制の嘱託社員に変更し、年収を最大2倍に引き上げました。

富士電機

定年を65歳に統一し、60歳以上の従業員の賃金水準を引き上げました。経験豊富な人材を活かし、技術継承の強化を目指しています。

大阪ガス

段階的に定年を65歳へ引き上げ、55歳の役職定年を廃止。年齢に関係なくマネジメント業務に従事できる環境を整備しています。

リコー

独自のジョブ型人事制度を導入し、57歳の役職定年を廃止。再雇用でも役職就任が可能となり、役割に応じた処遇を可能にしています。

大手企業がシニアの再雇用を強化する背景

企業がシニア雇用を強化する背景には、深刻な労働力不足があります。2024年6月1日現在、日本の65歳以上の人口は約3,626万人で、65歳以上の人口は29.1%に達しています。さらに、この高齢化率は2070年に38.7%にまで上昇し、現役世代1.3人で1人の65歳以上の者を支える社会が到来することが予測されています。

このような状況では、若手の即戦力人材の確保が年々難しくなっており、特に専門知識や経験が求められる業界ではシニア人材の活用が不可欠です。定年を迎えた熟練社員を再雇用することは、即戦力の確保と業務の継続性を維持するための重要な施策となっています。

また、役職定年を廃止する企業が増えているのは、単に給与を維持するためだけでなく、高齢社員のモチベーションとキャリア継続性に直接働きかけるためです。役職を失うことは、給与や社内での地位、責任を失うことにつながり、働く意欲を削ぐ可能性があります。そのため、役職定年を廃止することで、高齢社員は引き続きリーダーシップを発揮し、専門性を活かせる環境を維持できるのです。これにより、企業は「雇用確保」から「高齢社員の能力を最大限に引き出す」フェーズへと移行しています。

60歳以降の再雇用の給与が減額される理由

60歳以降の再雇用で給与が減少する背景には、複数の要因が存在します。

1. 雇用形態の変更と給与体系の見直し

再雇用後の給与が減少する主な理由の一つは、雇用形態の変更です。多くの場合、正社員から契約社員や嘱託社員、またはパートタイムへと切り替わり、その結果、基本給が大幅に減少します。特に、役職手当や家族手当、住宅手当などが支給されなくなることや、賞与が減額されることが多いため、年収の減少が避けられません。

2. 役職・職務内容の変化と責任範囲の調整

定年後、役職を外れることで給与が減少する場合があります。部下の管理や評価の責任がなくなり、業務範囲が狭くなるため、役職手当や残業手当が減少します。これは、実質的な業務内容や職責が減ったとみなされるためです。しかし、役職や職務内容がほぼ同じであった場合、給与減額の理由として正当性が問われることがあります。

3. 企業の人件費調整と世代交代の必要性

企業側には、人件費の調整や世代交代を進める必要があります。定年前の高い給与をそのまま維持することが企業にとって負担となるため、再雇用時に給与水準が見直されます。また、世代交代を進めるためには、経験豊富なベテラン社員の給与を調整し、若手社員への引き継ぎをスムーズに進めることが重要です。

4. 給与減額の影響と企業の対応

60歳以降の再雇用で給与が大きく減少することは、従業員の生活設計に大きな影響を与えるだけでなく、モチベーションや不公平感を生むことがあります。そのため、企業は給与減額の合理性を説明し、キャリアカウンセリングや福利厚生を通じて、経済的・心理的支援を提供することが求められます。

60歳以降の再雇用後の給与以外の待遇の変化

60歳以降の再雇用後、給与だけでなく、賞与や退職金、福利厚生、社会保険有給休暇など、さまざまな待遇が変化する可能性があります。

ボーナスや賞与の変化

再雇用後、ボーナスや賞与が減額されることが一般的です。正社員時代に支給されていたボーナスが、再雇用後には支給されなくなったり、金額が減少することがあります。嘱託社員や契約社員に転換されることで、業績に基づくボーナスが支給対象外になる場合もあります。再雇用契約を結ぶ際には、給与とボーナスの変化を確認し、事前に納得しておくことが重要です。

退職金と雇用形態の変化

再雇用時、退職金が定年時に支給されることが一般的ですが、企業によっては雇用期間終了時に支給される場合もあります。また、正社員から契約社員や嘱託社員に変わることで、住宅手当や家族手当、通勤手当などの福利厚生が受けられなくなることがあります。

福利厚生と勤続年数の取り扱い

再雇用後に非正規雇用となると、福利厚生に違いが出る場合があります。社内施設の利用制限や社員割引の縮小など、生活に影響を与えることがあります。また、再雇用により勤続年数が途絶えることで、退職金や社内表彰などにも影響を与えることがあります。

社会保険(健康保険・厚生年金)の継続と変更

再雇用後も、一定条件を満たせば健康保険に加入し続けられます。また、社会保険適用事業所であれば、70歳まで厚生年金に加入できます。給与が減少すると、社会保険料も減少しますが、将来の年金額に影響を与えるため注意が必要です。

有給休暇の取り扱い

再雇用後、定年前からの勤続年数を通算して有給休暇が付与されるのが一般的です。また、未消化分の有給休暇も繰り越し可能です。再雇用後も安心して休暇を取得できる点は従業員にとって安心材料となります。

再雇用後は、給与だけでなく、これらの待遇の変化を十分に考慮して生活設計を行うことが重要です。

60歳以降の再雇用と勤務延長制度の給与の違い

60歳以降も働くための制度には、再雇用制度と勤務延長制度があります。

再雇用制度では、定年後に一度退職し、新たに雇用契約を結ぶため、給与体系や職務内容が変更され、通常、給与水準が下がることが多いです。再雇用後は、役職手当や福利厚生が変更され、雇用形態も正社員から契約社員や嘱託社員へと変わることが一般的です。

一方、勤務延長制度は定年を迎えた後もそのまま雇用が継続され、退職金は延長期間終了時に支払われます。この場合、給与水準や役職が定年前とほとんど変わらないことが多く、安定した条件で働き続けることができます。

どちらの制度が採用されているかは、企業の就業規則や人事部門に確認することができます。企業によっては、両方の制度を併用している場合もありますので、再雇用に関する情報を確認する際には、自社の規定をよく理解しておくことが重要です。

60歳以降の再雇用と年金・社会保険の留意点

60歳以降の再雇用では、給与や年金、社会保険に関する調整が必要です。特に「在職老齢年金制度」や「高年齢雇用継続給付」は、収入と年金受給額のバランスに影響を与えます。

在職老齢年金制度と「51万円の壁」

在職老齢年金制度では、給与と年金の合計が一定額を超えると年金が減額される仕組みです。2025年4月からは、支給停止調整額が51万円に変更されます。給与と年金を合わせた額が51万円を超えると、年金が減額されるため、再雇用後の給与水準と年金受給額のバランスを事前に確認することが重要です。

高年齢雇用継続給付の変更

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満で賃金が減少した場合に支給される制度ですが、2025年4月以降は給付率が段階的に縮小されます。この変更は、高齢者の経済的インセンティブに影響を与えるため、再雇用後の生活設計に注意が必要です。

社会保険料の変更と年金調整

再雇用により給与が減少すると、社会保険料や年金の標準報酬月額が変わり、それに応じて社会保険料も調整されます。また、再雇用で働き続けることで「在職定時改定」が適用され、年金受給額が増加する可能性があります。企業は従業員に対し、これらの変化を適切に伝え、相談の機会を提供することが求められます。

60歳以降の再雇用給与は改善傾向

60歳以降の再雇用では、給与が減少することが一般的ですが、近年給与は改善傾向にあります。労働力不足の影響を受け、企業は高齢者の確保と処遇改善に力を入れており、再雇用後の給与が定年前と比べて減少することはあるものの、全体的には安定した収入が得られるようになっています。特に一部の業界や大企業では、シニア人材の給与水準を引き上げ、柔軟な働き方や待遇改善が進んでいます。この傾向を理解し、適切なキャリアプランを立てることが重要です。


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