- 更新日 : 2025年7月11日
65歳以上の再雇用に必要な就業規則とは?70歳までの継続雇用も見据えた対応を解説
少子高齢化が急速に進む現代の日本において、65歳以上の労働力活用は企業にとって喫緊の課題となっています。2021年4月に改正された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、高年齢者雇用安定法)では、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となり、65歳以上の再雇用制度の適切な運用がますます重要性を増しています。
しかし、「具体的に就業規則をどう変更すれば良いのか」「再雇用者の労働条件はどのように設定すべきか」「トラブルを避けるためには何に注意すべきか」といった疑問や不安を抱える経営者や人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、65歳以上の再雇用に関する就業規則の作成・変更ポイント、関連法規の解説、実務上の注意点、そして円滑な運用方法までを包括的に解説します。
目次
65歳以上の再雇用・70歳までの継続雇用に関する法制度
65歳以上の従業員を再雇用、あるいは70歳までの継続雇用を検討する際には、まず中心となる法律「高年齢者雇用安定法」を正しく理解することが不可欠です。
高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法は、高年齢者の安定した雇用を確保し、その能力の有効な発揮を図ることを目的としています。この法律は、事業主に対して主に以下の措置を求めています。
- 60歳未満の定年禁止
事業主は、従業員の定年を60歳未満とすることはできません。 - 65歳までの雇用確保措置
定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。- 65歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 65歳までの継続雇用制度(本人の希望に基づき、定年後も引き続き雇用する「再雇用制度」または「勤務延長制度」)の導入
継続雇用制度の対象者を限定する経過措置が2025年3月末で終了したため、現在では65歳までの雇用確保措置が完全義務化されています。
- 70歳までの就業確保措置
2021年4月の法改正により、65歳から70歳までの高年齢者について、以下のいずれかの措置を講じることが事業主の努力義務とされました。- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度または勤務延長制度)の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
多くの企業では、「継続雇用制度」の中の「再雇用制度」(定年を迎えた従業員を一度退職させた後、改めて新たな雇用契約を締結する制度)を選択しています。
一方、「勤務延長制度」は、定年後も雇用関係を継続し、退職させずに引き続き雇用する制度です。どちらの制度を導入するにしても、その内容は就業規則に明記する必要があります。
無期転換ルール
有期労働契約で働く従業員が、同じ企業との間で契約更新を繰り返して通算契約期間が5年を超えた場合、その従業員からの申し込みにより無期労働契約に転換される「無期転換ルール」があります。
ただし、定年後に再雇用される有期契約労働者については、適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けることで、この無期転換申込権が発生しないとする特例(定年後継続雇用の高齢者の特例:第二種計画認定)の適用を受けることが可能です。この特例を適用しない場合、定年後再雇用の有期契約労働者も通算5年を超えれば無期転換の対象となり得るため、就業規則や雇用管理の方針と合わせて慎重な検討が必要です。
同一労働同一賃金の原則
「同一労働同一賃金」は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者等)との間の不合理な待遇差を解消するための原則です。これは定年後再雇用者にも適用されます。
再雇用にあたり、職務内容、責任の範囲、配置転換の範囲などが定年前と異なる場合は、それに応じた待遇の変更は許容されます。しかし、単に「再雇用だから」という理由だけで、職務内容が実質的に変わらないにもかかわらず大幅に賃金を引き下げるなど、不合理な待遇差を設けることはできません。
65歳以上の再雇用に対応した就業規則の記載項目
労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業主は就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出る義務があります。退職に関する事項(定年を含む)は就業規則の絶対的必要記載事項です。
継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を導入する場合、その対象者基準、手続き、労働条件といった具体的な内容は、労働条件の根幹に関わるため、就業規則に明確に定めることが極めて重要です。
就業規則や別途「定年後再雇用規程」などを作成する際に盛り込むべき主要な項目は、以下の通りです。
- 総則・目的
規程の目的(高年齢者雇用安定法への対応、高年齢者の活躍促進など)を明記します。 - 定年
定年年齢(例:満60歳)を明確に記載します。 - 再雇用制度の対象者
原則として「定年退職者で、本人が継続雇用を希望する場合」とします。
ただし、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合には再雇用しないといった、客観的で合理的な基準を設けることは可能です。 - 再雇用の手続き
希望申出の期限や会社からの通知時期、面談の実施などを定めます。 - 雇用形態
「嘱託社員」「契約社員」「パートタイマー」など、再雇用後の雇用形態を明記します。 - 契約期間
有期雇用契約とする場合の契約期間や更新の有無、更新する場合の基準、更新上限を定めます。 - 職務内容
再雇用後の職務内容は、本人の経験、能力、健康状態、会社のニーズ等を踏まえて個別に決定する旨を記載します。必要に応じて、定年前と異なる職務内容となる可能性も示唆します。 - 労働時間・休日・休暇
所定労働時間(フルタイム、短時間勤務など)、休憩時間、休日、年次有給休暇(法定通り付与)などを定めます。 - 賃金
賃金の構成(基本給、諸手当など)、決定方法、計算方法、支払方法、昇給の有無などを定めます。個別の賃金額は別途労働条件通知書で明示する形が一般的です。 - 退職・解雇
再雇用後の退職事由、解雇事由を明記します。 - その他
服務規律、安全衛生、教育訓練など、適用される就業規則の範囲を明確にします。
65歳以上の再雇用における労働条件設定の注意点
65歳以上の従業員を再雇用する際、最も慎重な検討を要するのが労働条件、特に「賃金」の設定です。トラブルを未然に防ぎ、本人の納得感とモチベーションを維持するためには、以下の点に留意が必要です。
職務内容や責任に応じた適切な賃金設定
再雇用後の職務内容、求められる役割や成果、責任の度合いなどを客観的に評価し、それに見合った賃金を設定することが基本です。 必要であれば職務評価制度の導入や見直しも検討しましょう。単に「再雇用だから一律○割減」といった対応は、同一労働同一賃金の観点から問題となるリスクがあります。
最低賃金の確認
設定する賃金は、必ず地域別最低賃金額および適用される場合は特定最低賃金額を上回っている必要があります。 時間給だけでなく、月給制の場合も時間単価に換算して確認が必要です。
賞与・退職金の取り扱い
賞与を支給するか否か、支給する場合の基準(会社の業績、個人の貢献度など)を就業規則や雇用契約書で明確にします。 支給する場合、正社員との間に不合理な差が生じないよう、職務内容や貢献度に応じた設計が求められます。
また通常、定年時に退職金が支払われるため、再雇用期間については退職金を支給しない企業が一般的です。 これも就業規則や再雇用規程等で明確にしておく必要があります。
労働時間・休日・年次有給休暇
- 労働時間・休日
本人の希望や体力、業務の必要性に応じて、フルタイムだけでなく、週3日勤務や1日5時間勤務といった短時間勤務の選択肢を設けることが望ましいです。 - 年次有給休暇
労働基準法の定めに従い、週の所定労働日数や継続勤務年数に応じて年次有給休暇を付与します。 定年退職時に一度リセットされるわけではなく、勤続年数は継続して計算されるのが原則です。
社会保険・労働保険の適用
労働条件(特に労働時間・日数)により、加入資格が変動するため注意が必要です。
- 健康保険・厚生年金保険
原則として、1週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上であれば加入対象です。上記未満であっても、従業員数51人以上の企業(2027年10月より企業規模要件は撤廃予定)等では、週20時間以上の労働など一定の要件を満たせば加入対象となる場合があります。70歳以上の方は厚生年金保険の被保険者とはなりませんが、健康保険には引き続き加入できます(後期高齢者医療制度の対象となるまで)。 - 雇用保険
1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば、年齢に関わらず加入します。なお、2028年10月からは所定労働時間の要件が緩和され、10時間以上で加入要件を満たすことになる予定です。 - 労災保険
業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害または死亡に対して保険給付を行う制度であり、すべての労働者に適用されます。
健康管理と安全配慮義務の徹底
企業には労働契約法に基づく労働者に対する安全配慮義務があります。高年齢の従業員に対しては、特に健康状態に留意した対応が求められます。
- 健康診断の実施:定期健康診断の実施は法律上の義務です。
- 職場環境の整備:高年齢者が安全かつ快適に働けるよう、作業スペースの照度確保、滑りにくい床材の選択、休憩スペースの整備などに配慮します。 身体的負担の大きい作業については、負担軽減措置を講じることが望ましいです。
65歳以上の再雇用を円滑に進めるための実務対応
法制度を理解し、就業規則を整備した上で、次に重要となるのが実際の運用です。65歳以上の従業員の再雇用をスムーズに進め、彼らが意欲を持って働き続けられるようにするためには、きめ細やかな実務対応が求められます。
再雇用前面談の実施
再雇用制度を適用するにあたり、対象となる従業員との事前面談は非常に重要です。まず本人の希望する職務内容、勤務形態、賃金、キャリアプラン、健康状態などを丁寧に聴取します。その上で会社側は、提示可能な労働条件とその根拠を具体的に説明し、一方的な通告とならないよう配慮します。
職務内容の再構築
再雇用者の職務内容は、本人の能力や経験を最大限に活かしつつ、健康面にも配慮して設定することが再雇用の成否を左右します。
長年培った知識やスキルを活かせる業務を割り当てることで、本人の意欲を高め、企業の戦力とします。同時に、加齢による体力変化を考慮し、過度な肉体的・精神的負担を強いる業務は避け、作業量の調整や勤務時間の短縮なども検討します。
定期的な面談で健康状態を把握し、柔軟に業務内容を見直せる体制を整えることが望ましいです。
職場環境への配慮
再雇用者が新しい役割に円滑に適応し、他従業員と良好な関係を築くためには、職場環境への配慮が不可欠です。孤立を防ぐため、歓迎会や定期的なミーティング等を通じて他世代とのコミュニケーションを活性化させ、企業として敬意ある接し方を啓発します。また、再雇用者が気軽に相談できるメンター制度の導入も、職場への適応を助ける有効な手段となるでしょう。
助成金の活用検討
高年齢者の雇用を促進する企業に対し、国はさまざまな助成金制度を用意しています。代表的な「65歳超雇用推進助成金」には、継続雇用促進コースや雇用管理改善コースなど複数の種類があります。
各助成金には対象事業主の要件や支給額等が細かく定められているため、厚生労働省のウェブサイト等で最新情報を確認し、自社で活用できるか検討が必要です。
法改正を正しく理解し、65歳以上の再雇用を成功させましょう
65歳以上の再雇用を成功させるためには、法改正の趣旨を正しく理解し、自社の実情に合わせて就業規則を適切に整備・運用することが何よりも重要です。そして、再雇用される従業員一人ひとりの希望や能力、健康状態に配慮し、彼らが意欲を持って働き続けられるような環境を整えることが求められます。
本記事を、65歳以上の再雇用に関する就業規則の整備と円滑な運用にお役に立てれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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