- 更新日 : 2025年7月7日
育休から復帰できないと会社に言われたら?育休からの会社都合退職を解説
「育休から復帰したいのに、会社に拒否された…」。
この事態に直面し、途方に暮れている方もいらっしゃるかもしれません。育児と仕事の両立を期待していた中で、会社から復帰を認めないと告げられるのは、精神的にも経済的にも大きな打撃です。
しかし、会社が育休からの復帰を拒否することは、原則として認められていません。もしもそのような状況に陥った場合、それは会社都合退職とみなされる可能性が高く、失業給付の受給条件などにおいて有利になることがあります。
この記事では、育休からの復帰を会社に拒否された場合の法的な位置づけ、会社都合退職となるケース、そしてあなたが取るべき具体的な対応策について解説します。
目次
育休から復帰できないと会社に言われたら?
育休からの復帰を目前にして、会社から「戻る場所がない」「復帰は難しい」といった趣旨の連絡を受けた場合、動揺するのは当然です。しかし、まずは冷静に状況を把握し、ご自身の権利を確認することが重要です。
会社の真意と具体的な状況の確認
会社から「復帰できない」という趣旨の連絡があった場合、最初にすべきことは、その理由や具体的な状況を詳しく確認することです。感情的に反論したり、曖昧な説明で納得したりするのではなく、事実関係を正確に把握するよう努めましょう。
企業側には、育児休業から復帰する従業員の職務を事前に検討し、育休中や復帰後の待遇・労働条件について従業員に周知する努力義務があります。したがって、会社には復帰に関する状況を具体的に説明する責任があると言えます。もし説明が曖昧であったり、納得のいくものでなかったりする場合は、書面での説明を求めることも有効な手段です。
明確な理由が提示されず、説明が二転三転するような場合は、育児・介護休業法が禁じる不利益な取扱いを隠そうとしている可能性も念頭に置く必要があります。
復帰は国の指針に基づく
国の指針では、育児休業後の労働者の処遇について、企業に対して「原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること」を求めています。これは、労働者が育休取得によって不当な不利益を被ることなく、スムーズに職場復帰できるようにするための重要な原則です。
「原職」とは、育児休業に入る直前の部署及び職務を指します。「原職相当職」といえるかどうかは、一般的に、復帰後の職制上の地位が休業前と比べて下がっていないこと、休業前と復帰後の職務内容が異ならないこと、勤務する事業所が休業前と復帰後で同じであること、といった要素で判断されます。
企業によっては、就業規則で部署や職務の変更を行うことがある旨を定めている場合がありますが、無制限に認められるわけではありません。「やむを得ない事情」が必要であり、適切な手続きを踏むことが求められます。
企業は、当人の希望に応じて、休業中も会社からの連絡や最新情報を提供し、復職の際には、原則として休業前の職務に復帰させるべきです。もしそれが難しい場合でも、当人に復職後の業務内容や勤務形態の希望を聞いた上で、柔軟な働き方の選択肢を提示することが望ましいとされています。
違法かも?育休明けの不当な会社の対応
育休明けの復職に関して、会社から納得のいかない対応をされた場合、それが法律に違反している可能性も考えられます。ここでは、どのようなケースが違法となりうるのか、具体的な例を挙げて解説します。
育休を理由とする不利益取扱いの禁止
育児・介護休業法は、労働者が育児休業の申し出をしたことや、育児休業を取得したことを理由として、解雇その他「不利益な取扱い」をすることを明確に禁止しています。これには、労働契約内容の変更の強要なども含まれます。
妊娠・出産・育児休業などを理由とする不利益な取扱いは、一般的に「マタニティハラスメント(マタハラ)」とも呼ばれ、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法で禁止されている違法な行為です。
厚生労働省の指針では、育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益な取扱いがなされた場合は、原則として育休取得を「契機として」いる(つまり、育休取得と不利益な取扱いとの間に因果関係がある)と解釈されます。
また、不利益取扱いの禁止は、育児休業だけでなく、子の看護休暇、介護休業、所定外労働の制限など、育児や介護に関連する様々な制度の申し出や利用にも適用されます。
具体的な不利益取扱いの例
厚生労働省の指針などで示されている不利益取扱いの具体例としては、解雇、契約更新の拒否(雇止め)、退職強要、降格、減給、賞与等での不利益な算定、不利益な配置変更、自宅待機命令、仕事を与えないといった就業環境を害する行為などが挙げられます。
特に賞与の不支給や減額については注意が必要です。育児休業期間中に労務の提供がなかった時間について賃金を支払わないことや、賞与の算定において実際に勤務した日数を考慮することは直ちに不利益取扱いとはなりませんが、休業した期間を超えて不利益に扱うことは違法となる可能性が高いです。
「戻る場所がない」と言われた場合の法的評価
会社から「育休から復帰しても、あなたの戻る職場はありません」といった趣旨のことを告げられた場合、それが育児休業の申し出や取得を理由とするものであれば、育児・介護休業法に違反し、そのような会社の意思表示は法的に無効とされる可能性があります。これは、実質的な解雇通告や、著しく不利益な配置転換の強要に該当し得る重大な事態です。
このような通告を受けた場合は、直ちに専門家へ相談することを強く推奨します。そして、まずは会社に対して、その発言の真意と具体的な理由を質すとともに、「解雇通知書」や「解雇理由証明書」の交付を請求することが重要です。
会社都合での退職となるケース
育休明けに会社から「復帰できない」と告げられ、結果として退職に至る場合、その退職が「会社都合」によるものなのか、それとも「自己都合」として扱われるのかは、失業保険の受給条件などに大きな影響を及ぼします。
整理解雇の4要件とは?
会社側の経営不振などを理由として行われる人員削減のための解雇を「整理解雇」といいます。整理解雇が有効と認められるためには、原則として以下の4つの要件(または要素)を総合的に考慮して判断されることが確立しています。
- 人員整理の必要性
企業が人員削減を行わなければ経営を維持できないほどの客観的な必要性があるか。 - 解雇回避努力義務の履行
解雇以外の手段によって人員削減を回避するための努力を十分に尽くしたか。 - 被解雇者選定の合理性
解雇対象者の選定基準が客観的で合理性があり、かつその運用が公正に行われているかどうか。 - 解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、十分に説明し、誠実に協議を行ったか。
育休明けの社員を整理解雇の対象とする場合、特に「被解雇者選定の合理性」が厳しく問われます。育児休業を取得したという事実をもって優先的に解雇対象とすることは、選定基準の合理性を欠き、育児・介護休業法が禁じる不利益取扱いに該当する可能性が極めて高いと言えます。
離職票での「会社都合」の確認ポイント
退職する際には、会社から「雇用保険被保険者離職票(通称:離職票)」が交付されます。この離職票の「離職理由」の記載が「会社都合」か「自己都合」かによって、失業保険の給付日数や給付開始時期が大きく異なります。
事業主記載欄の離職理由に納得がいかない場合、例えば「自己都合」と記載されていても、実際は会社から「戻る場所がない」と言われた結果の退職であるならば、離職者記入欄にその事実を具体的に記載し、「離職者本人の判断」欄で事業主の記載した離職理由に対して「異議有り」と明確に意思表示することができます。ハローワークは双方の主張や資料を基に最終的な離職理由を判断します。
会社都合退職の場合の失業保険
離職理由が「会社都合」(倒産・解雇など)とハローワークに認定された場合(「特定受給資格者」に該当します)、失業保険(基本手当)の受給において、自己都合退職の場合と比較して有利な条件で給付を受けられることが一般的です。主なメリットは、給付制限期間がないこと、給付日数が長くなること、被保険者期間の条件が緩和されることです。
このように、会社都合退職と認定されるか否かは、失業保険の受給額や受給開始時期に大きな影響を与えます。
育休から復帰せず退職となった場合について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
育休から復帰できず、やむを得ず退職する場合
会社から復帰を拒まれたり、育児との両立が困難な労働条件を提示されたりした結果、やむを得ず退職を選択せざるを得ない状況も考えられます。このような場合でも、いくつかの注意点があります。
会社都合退職を明記する
会社側の対応が原因で退職に至ったとしても、退職届に安易に「一身上の都合により退職いたします」と記載してしまうと、形式上は「自己都合退職」として扱われ、失業保険の受給などで不利になる可能性があります。
育休復帰を拒否された、あるいは著しく不利益な条件を提示された結果の退職は、実質的には会社側の責任が大きいと言えます。このような場合は、退職に至った経緯を具体的に記録し、可能であれば退職届にもその旨を付記したり、別途書面で会社に伝えたりしておくことが望ましいです。
失業保険の給付条件が変わる可能性
たとえ離職票の事業主記載欄が「自己都合退職」となっていたとしても、その退職理由がハローワークによって「正当な理由のある自己都合退職」と認められれば、「特定理由離職者」として扱われる可能性があります。
「特定理由離職者」と認定されると、会社都合退職の場合(特定受給資格者)と同様に、失業保険の給付制限期間がなくなったり、受給資格を得るために必要な被保険者期間が緩和されたりといったメリットがあります。ただし、給付日数の算定基準が異なる場合がある点に注意が必要です。
「特定理由離職者」に該当する場合とは?
「特定理由離職者」とは、自己都合による退職であっても、その理由が客観的に見てやむを得ないと認められる場合に該当します。厚生労働省が定める「正当な理由のある自己都合退職」の主な例としては、体力の不足や疾病、妊娠・出産・育児などにより離職し受給期間延長措置を受けた者、家庭の事情の急変、通勤困難などが挙げられます。
育休明けに会社から提示された復帰条件が受け入れられず、結果として育児との両立が困難になったために退職した場合、これが「育児に伴う離職」や「通勤困難」などの正当な理由に該当する可能性があります。
子どもの保育園はどうなる?
育休明けに会社を退職することになった場合、多くの方が心配されるのが「子どもの保育園はどうなるのか」という点です。保育園の利用継続可否は、退職後の生活設計や求職活動に大きな影響を与えるため、早めの確認と対策が不可欠です。
自治体・保育園への速やかな確認が必須
育休明けに退職する、あるいは転職を考えている場合、まず最初にすべきことは、現在お子さんが通っている(または入園予定の)保育園の規則を確認し、同時にお住まいの市区町村の保育担当課に、保育園の利用継続が可能かどうか、またその条件について問い合わせることです。
自治体や保育園によっては、「退職後●ヶ月以内に次の就労先を見つけて就労証明書を提出すること」といった具体的な条件が設けられていることが一般的です。特に、育児休業中に「元の勤務先に復職すること」を条件として保育園の在園が認められているケースでは、元の勤務先に復職せずに退職したり、別の会社に転職したりすると、原則として退園となってしまう自治体があります。
求職活動中の保育継続と猶予期間
会社を退職した後も、働く意思があり求職活動を行う場合は、多くの自治体で一定期間の「求職活動中」としての保育利用継続の猶予期間が認められています。この猶予期間は、自治体によって異なりますが、一般的には1ヶ月から3ヶ月程度としているところが多いようです。
ただし、この猶予期間は無制限ではありません。期間を過ぎても就職先が決まらない場合は、原則として保育園を退園しなくてはならなくなります。
退職後の保育利用条件
退職後に保育園の利用を継続するためには、多くの場合、自治体が定める期間内に新たな就労を開始し、新しい勤務先の「就労証明書」を保育園または自治体に提出する必要があります。
退園リスクをできるだけ減らすためには、可能であれば退職前に次の転職先を見つけておき、就労のブランク期間を作らないようにすることが望ましいとされています。いずれにしても、保育園の継続に関する最終的な判断は各自治体が行いますので、必ずお住まいの市区町村の担当窓口で直接確認することが最も重要です。
育休から復帰できない場合の相談先
育休明けの復職に関して会社とトラブルになった場合、一人で抱え込まずに専門的な知識を持つ機関に相談することが、問題解決への第一歩です。ここでは、具体的な対処法と相談先について解説します。
証拠収集と記録の重要性
会社から不利益な扱いを受けた、あるいはその可能性があると感じた場合は、関連するやり取りを証拠として記録・保存しておくことが非常に重要です。有効な証拠となり得るものの例としては、会社側担当者との面談内容の音声録音データ、メールやチャットのやり取りの記録、会社から交付された通知書、就業規則などが挙げられます。
処分に納得できないという意思をできるだけ早い段階で明確に会社に伝え、そのやり取りを書面やメールなど記録に残る形で行っておくことも重要です。
解雇理由証明書の請求
会社から解雇を通告された場合、あるいは「戻る場所がない」といった実質的な解雇に類する通告をされた場合は、会社に対して「解雇理由証明書」の交付を請求しましょう。労働基準法により、労働者から請求があった際には、会社は遅滞なくこれを交付する義務があります。この書面によって、会社が主張する解雇理由が具体的に明らかになり、法的な妥当性を検討することが可能です。
都道府県労働局や弁護士等の専門機関へ相談
育休明けの復職トラブルは、法的な知識や交渉力が必要となる場面が多いため、一人で悩まずに専門機関に相談することを強く推奨します。
主な相談先としては、都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)、労働基準監督署、労働組合、弁護士などがあります。
都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法に関する相談に応じ、必要に応じて会社への助言・指導・勧告や、「あっせん」という話し合いによる解決を目指す制度を利用することもできます。
労働基準監督署
労働基準法違反に関する相談が可能です。
労働組合
会社との団体交渉などを通じて問題解決を支援してくれることがあります。
弁護士
法的な観点から具体的なアドバイスを受けられるだけでなく、代理人として会社との交渉や、労働審判、訴訟といった法的手続きを進めてもらうことができます。
問題が複雑化する前に、できるだけ早い段階で専門家に相談することで、取りうる選択肢が増え、より有利な解決に繋がる可能性が高まります。
育休から復帰できないと会社に言われたら、会社都合退職になります
育児休業明けの復職に関するトラブルは、残念ながら誰にでも起こりうる問題です。しかし、日本の法律は、育児を行う労働者の権利を保護するために様々な規定を設けています。この記事で解説したポイントが、万が一そのような状況に直面した際に、ご自身の状況を正確に把握し、法的な権利を理解した上で、冷静かつ早めに行動を起こすための一助となれば幸いです。
最も重要なことは、一人で抱え込まず、信頼できる専門機関にためらわずに相談することです。適切なアドバイスとサポートを受けながら、ご自身にとって最善の解決策を見つけ出してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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