• 更新日 : 2025年3月18日

年次有給休暇が20日以上になる条件とは? 申請を拒否できるケースも紹介

有給休暇は、労働者に与えられた重要な権利のひとつです。企業は要件を満たした従業員に対して、適当な日数の有給休暇を付与しなければいけません。

しかし、「各従業員に何日の有給休暇を付与したらよいのか」「20日以上付与するには、どのくらいの要件が一般的なのか」など、分からない方もいるのではないでしょうか。

本記事では、有給休暇が20日以上になる条件や、付与されるタイミング、注意点などを解説します。

有給休暇を付与する要件

労働基準法では、有給休暇を付与するために、以下2つの要件を満たす必要があります。

  • 雇い入れの日から6ヶ月が経過していること
  • その期間の全労働日の8割以上出勤していること

上記の要件を満たしていれば、すべての労働者に有給休暇が付与されます。

また、パートタイムやアルバイトのような労働日数の少ない人や、短期間の契約で働いている人も、要件を満たしていれば有給休暇付与の対象となります。

有給休暇は正社員だけを対象にした制度ではない旨を把握しておきましょう。

有給休暇を付与するタイミング

有給休暇が付与される日は「基準日」と呼ばれます。労働基準法では最初の基準日は、入社から6ヶ月経過した日と定められています。そして、最初の基準日から1年経過するごとに、随時新しい有給休暇が付与されていくのです。

一方で、これは労働基準法によって定められた、最低限の基準でもあります。そのため、入社日に有給休暇を付与する企業や半年よりも前倒しで有給休暇を付与している企業もあります。

有給休暇が付与されるタイミングは企業によって異なるため、同業他社の基準を参考にするのもおすすめです。

年間で有給休暇20日を付与するには6年半の勤続年数が必要

有給休暇は最初の基準日に10日以上付与することが、労働基準法によって定められています。付与日数は1年ごとに1日分増えていき、4回目の付与からは2日分増えていきます。

勤続年数有給休暇付与日数
0.5年10日
1.5年11日
2.5年12日
3.5年14日
4.5年16日
5.5年18日
6.5年〜20日

表を見ても分かる通り、年間有給休暇を20日付与するには、6年半の勤続年数が必要です。法律上で義務付けられている年次有給休暇の付与日数は勤続6年半以降で最大20日ですが、企業が任意で就業規則等に定めそれ以上に付与することも可能です。

なお、上記の付与日数計算は、フルタイム、もしくはフルタイムに近い形で従事する労働者に限ります。パートやアルバイトといった短時間労働者の場合は、有給休暇の付与日数は異なるため、別々に把握しておきましょう。

パートやアルバイトで働いている場合は付与要件が異なる

パートやアルバイトといった労働形態で従事する労働者は、正社員よりも労働時間ならびに労働日数が少ない傾向にあります。そのため、週の所定労働時間が30時間未満である方は、週の所定労働日数に応じて有給休暇の付与日数が決定されます​。

週の所定労働日数

(年間の所定労働日数)

勤続年数
0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年~
5日(217日以上)10日11日12日14日16日18日20日
4日(169~216日)7日8日9日10日12日13日15日
3日(121~168日)5日6日6日8日9日10日11日
2日(73~120日)3日4日4日5日6日6日7日
1日(48~72日)1日2日2日2日3日3日3日

参考:年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省

週4日以下、もしくは週30時間未満で勤務する労働者は、有給休暇が20日付与されるのは難しいことが分かります。そのため、パートやアルバイトが年間20日分の有給休暇を獲得するには、付与時点で週5日以上勤務もしくは週の所定労働時間が30時間以上、あるいはいずれにも該当し、継続勤務年数が6年6ヶ月以上である必要があります​。

有給休暇の付与日数は会社ごとに異なる

ここまで紹介してきた有給休暇の付与ルールは、あくまで労働基準法によって定められている最低基準になります。企業の就業規則によっては、最低基準を上回る日数を付与するケースもあります。

  • 入社1年目から15日以上の有給休暇を付与するケース
  • 有給休暇とは別に企業独自の特別休暇とあわせて30日以上の有給の休暇が付与されるケース

外資系企業や大手企業では手厚い休暇制度を設けている例が多く、従業員の満足度向上や離職率の低下を目的に福利厚生を充実させるのもおすすめです。

有給休暇に関する注意点

有給休暇は労働基準法が定める最低基準を順守しながら、従業員に付与していかなければいけません。続いて、企業が有給休暇を扱ううえで注意しなければいけない点を解説します。

有給休暇の付与と取得は別である

有給休暇の「付与」と「取得」は、それぞれ異なる意味を有しています。「付与」とは、労働者に対して一定の日数の有給休暇を与えることを指し、「取得」とは、付与された有給休暇を労働者が実際に使用することを意味します。

また、年間10日以上の有給休暇が付与される労働者には、最低でも5日の有給休暇を取得させることが企業に義務付けられているのです。そのため、有給休暇を取得するか否かを労働者自身の意思に委ねるのではなく、企業が主体的に管理し、5日以上の取得を確保しなければなりません。

どれだけ業務が繁忙であっても、適切なスケジュール管理を行い、従業員が有給休暇を取得できる体制を構築する必要があるでしょう。

使い切れなかった分は翌年に繰り越しになる

労働基準法にもとづくと、有給休暇は付与された日から2年間の有効期間があります。これにより、1年間で消化し切れなかった有給休暇は、翌年に繰り越すことが可能です。そのため、前年度からの繰り越し分と合わせて、最大で40日分の有給休暇を付与されている労働者もいるでしょう。

なお、労働者が有給休暇を取得する場合、繰り越し分から順に消費されていくのが一般的です。企業は従業員ごとに「今年度分の有給休暇」と「前年度からの繰り越し分」をそれぞれ把握しておく必要があります。

基本的に有給休暇の取得申請は拒否できない

基本的に、企業は労働者からの有給休暇の申請を拒否することはできません。ただし、以下のようなケースに該当する場合は、「時季変更権」の行使が認められ、企業は労働者と協議の上、適切な時期へ変更することが可能です。

  • 申請された日に有給休暇を与えると事業の正常な運営を妨げる場合
  • 代替要員を立てることが極めて困難な場合

時季変更権を行使する際は、代替要員を確保する努力をしなければならず、繁忙期のみを理由に行使することは認められません。適切な手順を踏まない有給休暇申請の拒否は、パワハラとみなされる恐れもあります。

どうしても労働者の希望日に有給休暇を取得させることが難しい場合は、両者の間で協議を行い、なるべく希望に沿う形で取得日を決定するよう心がけましょう。

有給休暇管理簿を作成し、保存しておく義務がある

年間有給休暇を10日以上付与されている従業員に対して、企業は年間5日以上の有給休暇を取得させることが義務付けられています。これに伴い、企業は「年次有給休暇管理簿」を作成し、従業員ごとの有給休暇の取得状況を記録・管理する義務も課せられているのです。

年次有給休暇管理簿では、基準日や付与日数、取得日数、取得時季などを記録します。そして、作成した年次有給休暇管理簿は、有給休暇を付与した期間の満了後も3年間は保存しなければいけません。

年次有給休暇管理簿に法定の様式はありませんので、紙の帳簿やExcel、勤怠管理システムなどを用いて作成・管理していきましょう。

基本的に有給休暇を買い上げることはできない

有給休暇は、労働者が心身をリフレッシュし、適切なワークライフバランスを確保することを目的として設けられています。そのため、有給休暇の買い上げは原則として禁止です。

一方で、以下のようなケースにおいては有給休暇の買い上げが認められることもあります。

  • 法律で定められた日数を上回る有給休暇
  • 退職時までに消化できずに残っている有給休暇
  • 時効によって消滅した有給休暇

有給休暇の買い上げを行う場合、あらかじめ就業規則にその取り扱いを明記しておく必要があります。具体的には、「どのようなケースで買い上げを認めるのか」「買い上げの計算方法」などを定め、トラブルを防ぐことが重要です。

半日休暇や時間単位の有給休暇は規定が必要になる

有給休暇は、「1日単位」で付与・取得することが原則とされています。

そのため、半日単位の有給休暇取得は、法律上の規定がなく、企業の就業規則で定めることによって導入可能です。半日休暇を導入する場合は、午前・午後のどちらを休むのか、労働時間の取り扱いなどを就業規則で明確にしましょう。

一方で、時間単位の有給休暇については、労働基準法によって以下のような規定が設けられています。

  • 時間単位年休1日分が何時間分に相当するかを決めておく
  • 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数(2時間・4時間など)を決めておく
  • 時間単位で取得できる日数は年間5日以内に限る
  • 決めた内容で労使協定を締結のうえ、就業規則に記載する など

企業が半日休暇や時間単位の有給休暇を導入する場合は、就業規則や労使協定を整備し、適切な体制を整えておきましょう。

有給休暇の拒否が違法になるケース

労働基準法によると、労働者が申請した有給休暇は原則として認められるべきであり、企業側は「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ時季変更権を行使できます。そのため、単に「忙しい」「人手が足りない」といった理由だけでは、時季変更権の適用要件を満たさない可能性が高く、不当に有給休暇を拒否したとみなされることがあります。

もし、正当な理由がなく有給休暇の申請を拒否すると、労働基準法を遵守していない悪質な対応とみなされることもあるでしょう。場合によっては、労働組合や弁護士を通じた裁判にまで発展するかもしれません。

企業の信頼を損なわないためにも、時季変更権を行使するための要件を理解し、適切な労務管理を行いましょう。

有給休暇に関するよくある質問

企業が有給休暇を取り扱う際には、労働基準法によって定められた規定や要件を遵守しなければいけません。最後に、有給休暇を取り扱ううえで、企業が直面する疑問について解説します。

20日連続での有給休暇申請も認めないといけないの?

労働基準法では、年次有給休暇は「労働者が請求する時季に与えなければならない」と定められています。そのため、20日連続の有給休暇申請であっても、業務に支障が出ない範囲なのであれば、企業側は原則として拒否できません。

企業側としては、20日連続の有給休暇取得が発生する可能性を考慮し、以下のような対策を講じることが推奨されます。

  • 有給休暇を計画的に取得できる制度を導入する
  • 有給休暇の取得時季を調整するルールを定めておく

ルールや法律上で問題ないとはいえ、連続で有給休暇を取得する従業員がいると、他従業員の負担や不満につながってしまいます。企業側も適切なルールを整備し、従業員が円満に有給休暇を取得できる体制を構築しましょう。

有給休暇の消化率が悪いから強制的に与えてもいい?

職場での有給休暇の消化率に悩んでいる管理職の方も多いでしょう。しかし、 年次有給休暇の取得を労働者に強制することはできません。これは、有給休暇は労働者の請求によって取得する権利であり、企業が一方的に指定することはできないからです。

ただし、年10日以上の有給休暇が付与される労働者について、労働者から取得時季の申し出がない場合は、年5日の取得を実現するために事業主が労働者の意見を尊重したうえで取得時季を指定することは問題ありません。

有給休暇の消化率を向上させるためには、単に取得を推奨するだけでなく、休暇を取りやすい職場環境を整えましょう。具体的には、以下のような取り組みが効果的です。

  • 業務の見直しと分担できる仕組みを作る
  • 有給休暇取得を促進する施策を導入する
  • 管理職が率先して有給休暇を取得する

取得を強制するのではなく、あくまで自然に取得しやすい仕組みを作ることが、消化率向上を目指すうえで重要です。

年間20日の有給休暇が付与されるには6年半の勤続年数が必要になる

有給休暇は労働者にとって重要な権利であり、条件を満たせば最大で年間20日付与される可能性があります。一般的な会社員の場合、同じ会社で6年半働くことで、年次有給休暇を20日付与されます。

また、この日数は労働基準法によって定められた最低基準です。そのため、会社独自の有給休暇制度が定められていれば、新入社員でも年間20日以上有給休暇を付与されるケースもあります。企業は有給休暇管理簿を作成し、従業員に付与されている有給休暇数を管理していきましょう。

一方で、有給休暇は労使間のトラブルの原因になる恐れもあります。トラブルを防止するためにも、有給休暇を運用しやすい社内制度や環境を構築することが大切です。


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