- 更新日 : 2024年12月19日
労災保険に加入していないとどうなる?未加入のリスクや責任
労災保険は、常勤やパート・アルバイトなど、労働者の業務上あるいは通勤による傷病等に対して必要な保険給付を行い、保険料は会社が負担します。
会社が労災保険の加入手続きを行わなかった場合、罰則はあるのか?また、会社が労災保険に加入していなかった場合、労働者は保険給付を受けることができないのか?これらについて解説していきます。
目次
労災保険の加入条件
労災保険の加入条件については、常勤、パート・アルバイト、派遣社員等の名称や雇用形態に関係なく、労働者を1人でも雇用している事業場については加入義務があります。
ただし、以下の事業場または労働者に関しては、他の法律で補償されることになっているので労災保険の加入対象にはなりません。
- 官公署の事業のうち非現業のもの
- 国の直営事業
また、個人事業主などの労働者でない人は本来、労災保険の加入対象ではありませんが、「特別加入」という制度を利用して労災保険に加入することができます。
特別加入制度に加入できる人としては、下記のような人がいます。
- 中小事業主ならびにその家族従事者など
- 一人親方ならびにその他の自営業者など
- 海外派遣者
労災保険の未加入はなぜ起こる?
労災保険が未加入になってしまうケースについて、起こりうるケースを見ていきます。
まず、故意に未加入のままにしている場合が考えられます。労働局の職員や労働基準監督署の監督官などの行政庁から勧奨や指導を受けていたにもかかわらず、そのままにして労災保険に加入しない会社がそのケースにあたります。
次に、重大な過失の場合が考えられます。労働局の職員や労働基準監督署の監督官からの勧奨や指導はなかったが、労働者を初めて雇用してから1年以上が経過しているにもかかわらず労災保険に加入していなかった会社が該当します。
その他にも、以下などが労災保険に未加入になる理由として考えられます。
- 労災保険の加入手続きの必要性を認識していなかった
- 労災保険料を負担したくなかった
- 日常業務に追われて手続きを後回しにしてしまっていた
労災保険に加入していない場合に罰則はある?
行政庁から成立手続を行うように指導を受けたにもかかわらず、手続を行わなかった会社に対しては、行政庁が職権による成立手続ならびに労働保険料の認定決定を行います。認定決定の際は、労働保険料を遡って徴収するほか、併せて追徴金を徴収することになります。
また、会社が故意または重大な過失により労災保険の「保険関係成立届」を提出していなかった期間中に労働災害が生じ、労災保険の保険給付を行った場合には以下のようになります。
- 未加入だったとして会社から遡って労働保険料(併せて追徴金も)を徴収する
- 労災保険給付に要した費用の全部または一部を徴収する
罰則などについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
労災保険に未加入で事故を起こした場合
労災保険に入っていない従業員が業務で事故に遭ったらどうなるのでしょうか。実は、労災事故が発生した場合には、労災に未加入であっても労働者は労災の給付を受けられます。
なぜかというと、人を雇えば、労災保険の強制適用事業所になるので、保険料が未納であっても、労働者は保護され、労災申請ができるのです。
労災保険未加入の場合であっても労災申請ができるのであれば、とりあえず未加入でよいのではないかと思われるかもしれませんが、未加入の場合、当然のことながら未払いの保険料が遡って徴収されます。
ただし、最大2年間を限度とします。さらに、労働保険料額の10%の追徴金が課せられます。また、故意または重大な過失による未加入であれば、労災給付金の全部または一部が費用徴収されることになるのです。
故意に労災保険加入の手続をとらなかった場合
故意に労災保険の加入手続をとらなかった場合とは、労働局職員あるいは労働基準監督署の監督官からの勧奨・指導を受けていたにもかかわらず、労災保険に加入をしていない場合をいいます。
この場合、事業主の故意による未加入と判断し、労災給付金額の全額を費用徴収することになります。
重大な過失により加入の手続をとらなかった場合
重大な過失により加入手続をとらなかった場合とは、労働局職員あるいは労働基準監督署の監督官から加入勧奨・指導がないまま、労働保険の適用事業となってから(労働者を雇用してから)1年以上経過している場合をいいます。
この場合、事業主の重大な過失と判断し、労災保険給付の40%を費用徴収することとなります。
下記の例の場合、具体的に保険料・追徴金等の徴収額はいくらになるかを見ていきましょう。
※給付基礎日額=原則として労働基準法上の平均賃金に相当する額
【未払保険料、追徴金の徴収額】
2年間遡って徴収されるため、計算式は次のようになります。
① 労災保険料=140万円(1億円×1000分の7×2年)
② 追徴金=14万円(140万円×10%)
【故意に労災保険加入の手続をとらなかった場合】
遺族補償一時金の額=1,500万円(給付基礎日額15,000円×1,000日分)
③ 労災給付費用徴収額=1,500万円(1,500万円× 100%)
合計(①+②+③)=1,654万円(140万+14万+1,500万)
【重大な過失により加入の手続をとらなかった場合】
遺族補償一時金の額=1,500万円(給付基礎日額15,000円×1,000日分)
④ 労災給付費用徴収額=600万円(1,500万円× 40%)
合計(①+②+④)=754万円(140万+14万+600万)
このように、労災保険に未加入で事故が発生すると莫大な金額が請求される可能性があるわけです。
労災保険の未加入は注意が必要です
今回は、労災保険の加入条件を確認し、未加入になってしまうケースや未加入中に労災事故が起きた場合についての罰則などについても見てきました。
労災保険の加入を怠っていた場合、会社は遡りで莫大な金額の未払保険料や追徴金、給付金の費用徴収がかかってきます。
会社の経営にもかかわる事態になりかねませんので、労災保険の加入状況や保険料納付状況について確認するようにしましょう。
よくある質問
労災保険への加入義務となる対象について教えてください。
労災保険の加入義務の対象の有無については、常勤、パート・アルバイト、派遣社員等の名称や雇用形態の違いにかかわらず、労働者を1人でも雇用している事業場については労災保険の加入義務が発生します。詳しくはこちらをご覧ください。
労災保険への未加入が生じてしまうケースには、どういったものがありますか?
行政庁の勧奨や指導があったにもかかわらず、故意に労災保険に加入しなかったケースや、勧奨や指導はなかったが、労働者を初めて雇用してから労災保険に加入しないまま1年以上が経過してしまったケースがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
労災保険の関連記事
新着記事
日本で働く外国人労働者でもベトナム人が多いのはなぜ?日本で働く理由を解説
日本で働く外国人労働者のなかでも、ベトナム人が最も多いのは、高い賃金水準や技能実習制度の影響、日本の技術習得への関心などが主な理由に挙げられます。近年、日本企業の人手不足を背景に、ベトナム人労働者の受け入れが急増しており、今後の企業成長にお…
詳しくみる日本で外国人労働者が多い職種は何?割合や受け入れ可能な業種を紹介
日本で外国人労働者が多い職種は「製造業」「サービス業」「卸売業・小売業」「宿泊業・飲食サービス業」「建設業」の5つが中心です。 とくに人手不足の業界では、技能実習生や特定技能外国人の受け入れが積極的に行われている傾向にあります。本記事では、…
詳しくみる外国人労働者の日本語教育の現状は?重要性や教育方法を解説
外国人労働者の日本語教育は、業務効率や職場の安全性を高めるために重要です。 日本語が十分に話せないと業務の理解が難しくなり、事故やトラブルの原因にもなります。本記事では、日本国内の日本語教育の現状や外国人労働者に求められる日本語レベル、具体…
詳しくみる社員の健康管理とは?企業が取り組むべき施策・成功事例・メリットを徹底解説
近年、働く人々の健康に対する社会的関心が高まり、企業が社員の心身の健康状態を適切に管理することが求められるようになっています。 この記事では、社員の健康管理とは具体的にどのような取り組みを指すのか、なぜ企業にとって重要なのかをはじめ、健康管…
詳しくみる社員管理システムとは?導入メリットや選び方をわかりやすく解説
社員管理システムは、企業が抱える人事・労務管理の課題を効率的に解決するための便利な仕組みです。しかし、多様なサービスがあり、何を基準に選ぶべきか迷うこともあるでしょう。 この記事では、社員管理システムでどのような情報が管理できるのか、導入す…
詳しくみる社員管理とは?メリットや課題、導入事例から成功ポイントまで徹底解説
社員管理は、働き方が多様化する現代企業において重要性が増しています。特に、リモートワークの普及や労働環境の多様化に伴い、社員の勤務状況や健康状態、モチベーションなどを適切に把握・管理することが求められています。本記事では、社員管理とは何かと…
詳しくみる