- 更新日 : 2025年6月10日
退職金規定に開示義務はある?開示を拒否された場合の対応も解説
企業は、従業員に対して退職金規定を開示することが、労働基準法で義務付けられています。ただし、退職金を支払うこと自体は義務ではなく、企業の任意になります。
退職金規定が開示されていないと、退職金をもらえるのか否かがわからずに不安に感じてしまうでしょう。
本記事では、退職金規定の開示義務について、必要な記載事項や開示の範囲、就業先から退職金規定の開示を拒否された場合の対処法を解説します。
目次
退職金規定とは
退職金規定とは、退職金の支給に関する条件・金額の計算方法・支払い時期などを記載したものです。企業は、退職金規定を従業員に開示することが義務付けられています。
ただし、退職金を支給するか否かについては、企業の任意となります。厚生労働省が発表した「令和5年の就労条件総合調査」によると、24.8%の企業が退職金制度を設けていません。
また、労働基準法では、「ひとつの事業場あたりの従業員数が10人以上」である企業に、退職金に関する内容を含む就業規則の制定を義務付けています。よって、それ以下の小規模な企業の場合は、就業規則自体がない場合もあります。
退職金規定の記載事項
一般的に、退職金規定には下記の内容が記載されます。
- 退職金の支給対象となる従業員(雇用形態など)
- 退職金の決定方法(勤続年数・退職理由など)
- 退職金の計算方法
- 退職金の減額や不支給の条件
- 退職金の支払い方法
- 退職金の支払い時期
多くの場合、退職金規定は就業規則とは別の規程として作成されます。その場合、就業規則には退職金規程が別途定められていることを示す条文が入ります。
退職金規定に開示義務はある?
ここでは、退職金規定の開示義務の範囲について解説します。
従業員・退職者に対してのそれぞれの場合について解説します。
従業員への開示義務
退職金規定を作成した企業は、従業員に対してそれを開示することが、労働基準法によって義務付けられています。
また、非正規雇用の従業員に対しても退職金規定の作成・開示をすることが、パートタイム労働法によって義務付けられています。
雇用関係の無い退職者への開示義務
労働基準法では、労働者に対しての就業規則の開示を義務付けています。従って、雇用関係のない退職者への開示義務はありません。
ただし、企業が作成した就業規則は労働基準監督署に届けだされており、署ではそれが保管されています。
厚生労働省の通達(基発第354号)では「退職者でも、当該事業場との間で権利義務関係に争い等を有している者は開示要請ができる」としているため、労働基準監督署を通して退職者からの開示要請が届くケースはありえます。
退職金規定を開示しないと罰則はある?
退職金既定の開示は労働基準法にて義務付けられているため、それに反すると罰則を適用される可能性があります。具体的には、労働基準監督署の調査が入り、指導・是正勧告を受ける可能性があるので注意が必要です。
退職金既定の開示をしていないことが確認された場合は、周知義務の違反として、30万円以下の罰金が科せられます。
退職金規定の無料テンプレート
マネーフォワード クラウドでは、退職金規定の無料テンプレートをご用意しております。
無料でダウンロードできますので、ぜひお気軽にご利用ください。
退職金規定の開示を拒否された場合の対応
会社から退職金規定の開示を拒否された場合は、下記の3つの対処法を取るのが有効です。
複数人の従業員で一緒に開示要求をする
会社から退職金規定の開示を拒否された場合は、複数人の従業員で協力して開示要求をするのが有効です。複数人の従業員が動くことで、会社側はことの重要性に気付かされ、対応を迫られる可能性があります。
その際は、開示要求をする従業員の署名を集めると同時に、労働基準法第百六条「法令等の周知義務」の文面を提示するといいでしょう。
労働基準監督署に相談する
会社が退職金規定の開示に応じてくれない場合は、労働基準監督署に相談するのもひとつの手段です。労働基準監督署は、管轄企業に対して就業規定・退職金規定の開示を指導することができます。
労働基準監督署に相談する際は、自身がその企業の従業員であることを証明できるもの(社員証や名刺など)を持参しましょう。
弁護士に相談する
労働基準相談所に相談しても問題が解決しない場合は、弁護士に相談することも視野に入れましょう。弁護士は、法的な視点から会社への交渉・訴訟などのアクションを起こしてくれます。
ただ、弁護士事務所の規定の費用がかかることは、覚悟しておかなくてはなりません。
退職金規定の開示は労働基準法で義務付けられている
企業は、従業員に対して退職金規定を開示する義務があります。退職金規定には、退職金支給の対象となる条件・金額の計算方法・支払日などを記載しなくてはなりません。
既に雇用関係がない元従業員に対しては開示義務はありませんが、場合によっては労働基準監督署を通して開示要求される可能性があります。
開示義務を放棄すると労働基準法の「法令等の周知義務」に反していることになり、労働基準監督署から指導・是正勧告を受ける可能性があります。
また、会社が退職金規定を開示してくれない場合は、複数人の従業員で協力して開示要求をしたり、労働基準監督署に相談したりするのが有効です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労働移動支援助成金は早期再就職支援等助成金に!雇用でいくらもらえるか解説
労働移動支援助成金は、労働者の早期再就職、そして企業の人材確保をサポートする国の助成制度です。 現在は「早期再就職支援等助成金」に名称変更になっており、採用・人材育成の費用軽減に繋がる4つのコースが用意されています。 この記事では各コースの…
詳しくみる1からわかる給与計算業務!計算の流れやつらく感じる理由を紹介
給与計算業務は基本給や各種手当、社会保険料などを誤りなく正確に計算しなければならない重要な仕事です。 もし給与計算を間違えば、従業員の生活に影響が出るためミスは許されません。 さらには最新の法令にも対応しなければならず、労務に関する日々の情…
詳しくみる福利厚生制度における社宅とは?種類や住宅手当との違い、メリット・デメリットを解説
社宅はさまざまな福利厚生のなかでも従業員人気の高い制度ですが、「どんな種類があるのか?」「住宅手当との違いは?」といった疑問を抱えている方も多いでしょう。 本記事では、社宅の種類、住宅手当との違いなどを解説するとともに、福利厚生制度として社…
詳しくみる賞与・ボーナスの所得税・社会保険料が高いと感じるのはなぜ?税金の計算方法を解説
賞与・ボーナスの所得税の源泉徴収額は、【賞与から社会保険料等を差し引いた金額 × 源泉徴収税額の算出率】で計算されます。 賞与・ボーナスから控除される所得税は、給与とは異なる方法で計算されます。ここでは、賞与から控除される所得税の計算方法を…
詳しくみる給与計算の内製化によるメリットとは?課題や方法を紹介!
給与計算業務は、企業活動になくてはならない業務です。従業員規模に限らず、1名でも雇用する人員がいれば給与計算業務が発生します。機密性の高い重要業務であることから、給与計算業務を内製化する企業も少なくありません。 ここでは、給与計算の内製化の…
詳しくみる労働基準法第76条とは?休業補償の金額や支払期間などをわかりやすく解説
労働基準法第76条に基づく休業補償は、労働災害で働けなくなった労働者の生活を支えるための制度です。業務上のケガや病気で休業する場合、企業は平均賃金の60%を補償する義務があります。この記事では労働基準法第76条の基本内容(休業補償の内容・金…
詳しくみる