- 更新日 : 2025年3月19日
有給休暇を使いすぎる社員の評価はどうする?トラブルを防ぐ対策を解説
有給休暇は法律で定められた労働者の権利ですが、取得頻度の高い社員の評価方法に悩む企業も多いでしょう。有給の使いすぎを理由に評価を下げると違法になる可能性もあります。
本記事では、有給休暇に関する基礎知識や使いすぎる社員への対策を解説します。社員の権利を尊重したうえで、適切な対策を実施しましょう。
目次
有給休暇に関する基礎知識
まずは有給休暇がどのような制度であるかを解説します。解説する項目は以下のとおりです。
- 有給休暇は労働者に与えられた権利
- 有給休暇の付与条件
- 有給休暇の付与日数
有給休暇に関する正しい知識を把握しておきましょう。
有給休暇は労働者に与えられた権利
有給休暇は賃金を受け取りながら休暇を取れる権利です。一定の要件を満たしたすべての労働者に与えられます。有給休暇に関しては、労働基準法第39条で以下のように定められています。
業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。
有給休暇は労働者の身体的・精神的疲労の回復や、リフレッシュを目的とした権利です。
有給休暇の付与条件
有給休暇が付与されるためには、一定の条件を満たす必要があります。有給休暇が付与される条件は以下のとおりです。
- 付与日の直前1年間(最初の付与は直前6ヶ月)の出勤率が8割以上ある
- 採用から6ヶ月経過した日に10日の有給休暇を与える必要がある
- 以降、1年経過するごとに勤続年数に応じた日数を与える必要がある
一方で、有給休暇には時効が存在しているため、使わずに保有し続けることはできません。有給休暇は、付与された日から2年で時効になります。
付与された日から1年間で使い切れなかった有給休暇は、翌年に繰り越されて新たな休暇日数として加算されます。ただし、繰り越されてからさらに1年間使わないと時効になるため注意が必要です。
以上のことから、有給休暇を効果的に活用するためには、時効を意識したうえで計画的に消化する必要があります。
有給休暇の付与日数
有給休暇の付与日数は、法律で定められています。有給休暇の付与日数は、以下のとおりです。
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
有給休暇は半年働いた時点で10日付与され、最大でも年間20日の付与となっています。
また、有給休暇は1日単位だけでなく、半日や時間単位でも取得が可能です。時間単位で有給休暇を取得するには、労使協定を締結のうえ、就業規則に記載しておく必要があります。
有給休暇を取得する際に知っておきたいポイント
有給休暇は労働基準法で定められているため、取得は労働者の自由です。以下に有給休暇を取得する際に押さえておくべきポイントを解説します。
- 与えられた範囲内なら自由に使える
- 有給休暇の申請に理由は不要
- 有給休暇はいつ申請しても問題ない
- 有給休暇を使い切ることは非常識ではない
与えられた範囲内なら自由に使える
有給休暇は与えられた範囲であれば、自由に使えます。取得するタイミングも自由であり、1年の間でいつ取得しても問題ありません。
さらに、年に10日以上の有給休暇が付与される労働者については、最低5日は取得させることが会社側の義務になっています。
ただし、最低5日の取得なので、与えられた範囲内であれば5日以上の取得も問題ありません。
有給休暇の申請に理由は不要
有給休暇を申請する際に、申請理由は不要です。企業によっては取得の際に理由を記載するフォーマットになっている場合もありますが、取得理由を答える必要はありません。
取得理由は労働者の自由であり、いかなる理由であっても有給休暇は取得できます。本来であれば、企業側は労働者に取得理由を聞いてはいけないとされています。
有給休暇の取得に理由の提示が不可欠な制度になっている場合、企業側は労働基準法違反に該当して罰則が科される可能性もあるため、注意が必要です。
有給休暇はいつ申請しても問題ない
有給休暇を取得する際、申請期限に関する定めはありません。取得する場合、基本的には事前に申請する必要がありますが、会社によっては事後申請を認めている場合もあります。
事前申請をする場合は、会社のルールで何日前までに申請する必要があると定められていなければ、前日の申請でも問題ありません。ただし、あらかじめ取得を予定している場合は、仕事への影響を最小限にするためにもなるべく早めの申請を心がけましょう。
有給休暇を使い切ることは非常識ではない
付与された有給休暇をすべて使い切ることは、非常識な行動ではありません。有給休暇は労働者に与えられた権利であるため、何日使っても権利の範囲内の行動です。
さらに、有給休暇を適切に使用すると心身ともにリフレッシュができ、仕事の効率化につながり生産性を高められる可能性もあります。ただし、仕事への影響を考慮したうえで、計画性を持って有給休暇を取得すると職務への影響を最小限に抑えられるでしょう。
有給休暇に関して違法になる対応
有給休暇は労働者の権利であるため、基本的に企業側は取得を認める必要があります。労働者の有給休暇の取得に関して、違法につながりかねない企業側の対応を以下で3つ紹介します。
- 有給休暇の使いすぎで評価を下げる
- 時季変更権を濫用する
- 有給休暇を買い取る
知らずに違法な対応を取らないためにも、違法に当たる行為を把握しておきましょう。
有給休暇の使いすぎで評価を下げる
違法になる対応の1つ目は、有給休暇の使いすぎで評価を下げる行為です。なぜなら、有給休暇は企業や上司が労働者に与えるものではなく、法律で定められた権利だからです。
本来であれば、有給休暇は会社側の許可を得るまでもなく、労働者が自由に使っていいものとされています。労働基準法第136条では、有給休暇の取得に関して以下のように定めています。
使用者は第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
引用元:労働基準法|e-GOV法令検索
企業側は頻繁に有給休暇を取得する社員に対してでも、有給休暇の使いすぎでボーナスカットや減額などの評価をしてしまうと、労働基準法違反に該当するため注意が必要です。
時季変更権を濫用する
違法になる対応の2つ目は、時季変更権を濫用する行為です。時季変更権とは、労働者が希望した有給休暇の取得日程を一定の条件下で変更できる権利を指します。
時季変更権は、労働基準法第39条で以下のように定められています。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
引用元:労働基準法|e-GOV法令検索
ただし、時季変更権を正当な理由なく濫用する行為は労働基準法違反に該当する可能性があるため、注意が必要です。
関連記事:有給休暇を取らせないのはパワハラ?有給をめぐる疑問をまとめて解説
時季変更権を行使できる条件
前述したとおり時季変更権とは、労働者が指定した有給休暇の取得日程を正当な理由のもとに企業側が取得時季を変更できる権利です。時季変更権を行使できる主な条件を以下にまとめました。
- チーム内で有給休暇取得者が複数重なったとき
- 長期間の有給休暇を取得するとき
- 該当の従業員しか対応できない仕事の期日が迫っているとき
- 職場内の研修と重なり、本人の代替を立てられないとき
時季変更権を行使できる「事業の正常な運営を妨げる場合」について、以下の記事で詳しく解説しているので併せて確認してみましょう。
関連記事:有給休暇の時季変更権とは?行使するための条件も解説!
有給休暇を買い取る
違法になる対応の3つ目は、有給休暇を買い取る行為です。従業員に付与された有給休暇を企業が買い取る行為は、違法に当たります。
有給休暇は労働者の心身の回復を目的とした制度であるため、買い取りを認めてしまうと、有給休暇の本来の目的を果たせなくなってしまいます。たとえ労働者との間で合意が合ったとしても、買い取りは原則違法になるため、注意が必要です。
ただし、有給休暇を買い取ることが違法にならない例外のケースも存在しているため、有給休暇に関する適切な対応を取るためには押さえておく必要があります。例外として有給休暇を買い取りできるケースは以下のとおりです。
- 法定付与日数を上回る有給休暇
- 時効により消滅する有給休暇
- 退職時に残っている有給休暇で、再就職先の入社日が決まっており退職を先送りにもできないため取得できずに残った有給休暇
一方で、上記ケースに当てはまっても必ずしも買い取る必要はありません。買い取りの有無に関しては就業規則に明記をしておくと、トラブルの抑制効果が得られるでしょう。
有給休暇を使いすぎる従業員の評価ポイント
有給休暇を使いすぎる従業員を評価する際に、どう評価していいか悩む方は多くいます。本項では、有給休暇を使いすぎる従業員の評価ポイントを解説します。
有給休暇の取得状況によって従業員の評価を下げる行為は違法に当たるので、従業員の成果に焦点を絞って評価するように心がけましょう。
有給休暇の取得状況ではなく成果で評価する
有給休暇を使いすぎる従業員を評価する際は、有給休暇の取得状況ではなく、従業員の仕事の成果で評価をする方法がおすすめです。有給休暇を使いすぎていることを理由に従業員の評価を下げてしまう行為は、労働基準法違反に当たってしまいます。
一方で、有給休暇を使いすぎたことに起因して従業員が仕事の成果を出せなかった場合に評価を下げる行為は、違法には当たりません。企業は成果をもとに従業員の評価を行うため、正当な評価として見なされます。
あくまで有給休暇の取得状況による評価ではなく、従業員の成果に対する評価として判断する必要がある点に注意しましょう。
有給休暇を使いすぎている場合に考えられる影響
有給休暇を使いすぎる行為は違法ではありませんが、使いすぎるとさまざまな観点で影響が生じます。有給休暇を使いすぎることによって生じる影響を以下にまとめました。
- 仕事の進行に影響が出る
- チームメンバーの負担が増す
仕事の進行に影響が出る
有給休暇を使いすぎていると、仕事の進行状況に影響する可能性があります。特に連続して有給休暇を取得する際に、仕事への影響が大きくなりやすいです。
たとえば、担当している顧客への優先度の高い対応や特定のスキルが必要な業務など、従業員に属人化している仕事がある場合は影響が顕著に現れてしまいます。仕事への影響を抑えるような配慮も、取得する側には求められます。
有給休暇を連続で、もしくは複数名同時に取得する場合は、あらかじめ上司や同僚に相談をしておくと仕事への影響を最小限に留められるでしょう。
チームメンバーの負担が増す
有給休暇を使いすぎていると、チームメンバーの負担が増す可能性があります。仕事は1人で行うものではなく、チーム単位で行うことが一般的です。
有給休暇を使いすぎていると、プロジェクトの進行速度に影響を与え、プロジェクト自体が進まないことにもなりかねません。
有給休暇を取得する際は、チームの状況も加味し、事前にチームメンバーと相談したうえで取得タイミングを検討しましょう。
有給休暇を使いすぎる場合の対策は?
有給休暇を使いすぎている社員に対して、企業側ができる対策を以下で2つ解説します。
- 時季変更権を行使して取得日を変更してもらう
- 本人と話し合う
ただし、有給休暇は労働者に認められた権利なので、基本的にはお願いベースの対策になることを忘れないようにしましょう。
時季変更権を行使して取得日を変更してもらう
有給休暇を使いすぎる場合の対策として、時季変更権を行使して取得日を変更してもらう方法があります。前述したとおり、時季変更権は正当な理由がある場合に限り、会社に認められた権利です。時季変更権を行使する際は、取得の代替日を提案し、従業員への配慮を忘れないようにしましょう。
ただし、時季変更権はあくまで取得日を変更してもらうための方法であるため、有給休暇を使いすぎている場合の問題解決にはなりにくい点には注意が必要です。時季変更権の行使に関する詳細を以下の記事で解説しているので、参考にしてください。
関連記事:有給休暇の時季変更権とは?行使するための条件も解説!
本人と話し合う
有給休暇を使いすぎる場合の対策として、従業員本人と話し合うことは有効な方法になり得ます。
本人が有給休暇の取得に関してどのように考えているかをまずはヒアリングしましょう。そのうえで、労働環境の現状や業務の進捗、本人が有給休暇を取得している間の状況などを丁寧に説明する必要があります。
ただし、話し合いをする際は有給休暇の取得そのものを責めてはいけません。あくまで有給休暇に関する対話であるため、取得そのものを責めたり使いすぎを指摘したりしないように注意が必要です。
話し合いによって従業員本人が感じている問題の解決につながる可能性もあるため、落ち着いて対話できる面談の時間を設けましょう。
有給休暇の使いすぎには正しい対応をしよう
有給休暇を使いすぎている従業員への評価ポイントや対策について解説しました。有給休暇は法律で認められた権利なので、取得そのものは違法に当たりません。
使いすぎる従業員に悩んでいる場合は、時季変更権の行使や本人との話し合いを実施し、適切な対処を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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