- 更新日 : 2025年3月18日
建設業で外国人雇用するには?手続きや注意点を徹底解説
建設業で外国人を雇用するには、適切な在留資格の確認と必要な手続きを正しく行うことが重要です。
特定技能や技能実習などの業務内容に応じた在留資格があるか確認し、労働環境を整えることでスムーズな外国人雇用が進められます。本記事では、外国人雇用のメリット・デメリット、必要な手続き、注意点を解説します。
目次
建設業における外国人雇用の状況
建設業界では、外国人労働者の増加が続いており、2023年12月時点で約14.5万人が就業しています。全産業の約7.1%に相当しており、とくに技能実習生の割合が高く、約8.9万人に達しています。
しかし、技能実習制度は本来、技能習得を目的としており、労働力確保のための仕組みではありません。
また、特定技能制度の下で働く外国人も増加しており、2023年には約2.4万人が従事しています。特定技能は、人材が深刻な分野で即戦力となる外国人を受け入れる制度であり、建設業界でも重要な役割を果たしています。
国別の受け入れ状況は、ベトナム出身者が最多で1.6万人、ついでフィリピン、インドネシアが続いている結果となりました。
今後も外国人雇用の拡大が見込まれているなか、受け入れ環境の整備が課題となっています。
建設業での外国人雇用のメリット
建設業での外国人雇用には多くのメリットがあります。事前にメリットを把握しておくと、企業は外国人労働者を雇用するかどうかの判断をしやすくなるでしょう。以下では、具体的なメリットについて紹介します。
人手不足を解消できる
建設業界の人手不足は、高齢化と若年層の減少が主な原因です。
総務省の国勢調査によると、大工の就業者数は1980年の93.7万人から2020年には29.8万人に減少し、2050年には約10万人にまで落ち込むと予測されています。また、60歳以上の労働者が大工全体の43%を占め、平均年齢は54.2歳に達しています。
外国人労働者の雇用は、上記のような人手不足に関する課題を解消する手段の一つです。とくに、外国人労働者は安定して長期間働く傾向があり、短期間での離職傾向が強い日本人労働者と比べても長期的な雇用が期待できます。
さらに、若い世代の外国人労働者を採用することで、若年層の不足を補い、作業効率の向上にもつながるでしょう。
社内の活性化につながる
外国人労働者を受け入れることは、社内の活性化につながります。
外国人労働者が快適に働ける環境を整えるためには、教育や研修制度の導入が必要です。研修制度を設けることにより、マニュアルの整備や職場環境の改善が進み、日本人社員のモチベーション向上やスキルアップにもつながります。
また、外国人労働者には20〜30代の若い人材が多い傾向にあるため、高齢化が進む建設業において新しい活気が生まれ、職場全体の士気向上が期待できます。
外国人雇用に関する助成金を活用できる
外国人雇用では、さまざまな助成金制度が利用可能です。
一般的な助成金に加え、外国人雇用に特化したものもあります。たとえば、「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」では、外国人労働者の職場定着を支援するために、就労環境の整備にかかる経費が一部助成されます。
さらに、自治体が提供する支援制度も利用可能です。外国人雇用で活用できる助成金は多いため、事前に要件を確認し、適切に申請することが重要です。
建設業での外国人雇用のデメリット
建設業での外国人雇用には多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。メリットだけを重視し、デメリットを理解せずに進めることは、事業の継続にとってリスクとなるため注意が必要です。以下では、建設業における外国人雇用のデメリットについて紹介します。
十分な意思疎通が困難な可能性がある
外国人労働者を雇用する際は、コミュニケーションがスムーズにできない可能性があります。
言葉の壁があると、労働者間でスムーズな意思疎通が難しく、事業にも影響を及ぼします。労働者が日本語を理解できない場合、日本語を教えるか、母国語でのマニュアルを用意するなどの対策が必要です。
とくに建設業では労働災害の発生率が高いため、安全確保が重要です。安全指導は徹底し、言語だけでなく図やイラストを使い視覚的に理解できるよう工夫するようにしましょう。
雇用までの手続きが複雑である
外国人労働者を雇用する際、手続きが複雑で時間がかかることがデメリットです。
とくに在留資格によって在留期間や許可される作業内容が異なるため、ビザ発給に時間を要し、実際に働き始めるまでに遅れが生じることがあります。さらに、国や自治体への届出も複雑なため、書類や手続きに不備があると法的リスクが生じる可能性があります。
そのため、ビザ発給に必要な情報や書類を事前に確認し、提出前に不備がないかをチェックすることが重要です。
建設業で雇用できる在留資格
建設業で雇用できる在留資格は限られており、資格ごとに可能な仕事や在留期間が異なります。在留資格の確認や更新に不備があると、外国人労働者が強制送還されるリスクがあり、事業主も不法就労助長罪に問われる可能性があります。
リスクを避けるためには、建設業で雇用できる在留資格を理解しておくことが重要です。以下では、建設業で雇用できる在留資格について解説します。
また、在留資格については、下記記事でも詳しく解説しているためあわせてご覧ください。
技能実習
技能実習制度は、外国人労働者が日本で技能を習得し、技能を母国で活かすことを目的とした制度です。技能実習には「企業単独型」と「団体監理型」の2種類があります。
企業単独型では、日本企業が海外の現地法人や取引先企業の職員を受け入れ、実習を実施します。団体監理型は、事業協同組合や商工会などの非営利団体が実習生を受け入れ、実習を実施する方法です。
建設業で従事できる作業は、22種類の職種があり、2025年2月時点で33業種が認められています。技能実習生は、1号で1年間、2号で2年間、3号で2年間の期間、最大5年間の実習が可能です。
技能実習3号に移行するには、優良実習実施者の認定を受けた企業でないといけません。認定には、外国人技能実習機構への申告や技能検定の合格状況、サポート体制の審査などの条件を満たす必要があります。
技能
技能の在留資格は、日本にない建築様式や土木技術を持つ外国人が対象です。ゴシックやバロックなどの特定の建築様式を利用した建設や修繕を行うために必要な資格です。
応募者は、建築様式に関する実務経験が5〜10年程度あり、外国特有の技能を持っていることが条件となります。
在留期間は、5年、3年、1年、または3ヶ月のいずれかで、出入国在留管理庁が事業主の企業規模や経済状況を基に決定します。たとえば、ゴシックやロマネスク、バロック方式、中国式、韓国式などの建築技能が対象です。
特定技能
特定技能在留資格は、建設業界における人手不足を解消するために、一定の専門性や技能を持つ外国人の受け入れ制度です。業務区分には、土木や建築、ライフライン・設備の範囲があり、特定技能外国人は柔軟に仕事ができます。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つの区分があり、特定技能1号は最大5年間在留可能で、特定技能2号は在留期間の更新が無制限です。特定技能で働くには、技能実習を修了するか、試験に合格する必要があります。
身分に関する在留資格
身分に関する在留資格は、就労目的ではなく、結婚などの理由で日本に長期間滞在する外国人に与えられる資格です。身分に関する在留資格には「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「永住者」「定住者」の4種類があります。
身分に関する在留資格を持つ外国人は、就労期限がないため、単純作業にも従事できます。したがって、特定の業種に制限されず、柔軟に働くことが可能です。
資格外活動許可
資格外活動許可は、留学や家族滞在など就労以外の目的で来日している外国人が、申請により就労できる制度です。
許可が下りると、週28時間以内(教育機関の長期休業期間中は1日8時間以内)で働くことが可能になります。許可があれば単純作業にも従事でき、就労の幅が広がります。
ただし、資格外活動許可を受けるには、事前に申請を行い、許可を得る必要があるため注意が必要です。
建設業で外国人雇用する流れ
建設業で外国人を雇用する際は、事前に流れを確認しておくことが重要です。確認せずに進めると、どの工程を踏むべきかわからず、予定より時間がかかる可能性があります。以下では、外国人雇用に必要な各工程について解説します。
外国人労働者を雇用する具体的な方法については、下記の記事で詳しく解説しているためぜひご覧ください。
1. 外国人労働者を募集する
外国人労働者を雇用するには、求人広告を出して労働者を募集する必要があります。
まず、募集前に雇用したい外国人像を明確にすることが重要です。具体的には、採用目的や依頼したい業務内容、雇用人数や期間などを決めます。また、求める外国人の知識や技能、業務経歴、資格、日本語・英語の能力、労働条件や待遇なども検討するポイントです。
さらに、募集方法や選考基準、在留資格や入国審査手続きについても事前に確認が必要です。
2. 在留資格を確認する
建設業で外国人労働者を雇用する際、建設業での労働が認められる在留資格であるか確認することが重要です。
在留資格によって、就業できる業務や期間が異なります。日本で働くためには、必ず在留資格が必要です。もし在留資格がない外国人を雇用すると、企業も罰則を受ける可能性があります。
在留資格には29種類あり、就労制限がないものとして「永住者」や「日本人の配偶者等」などがあります。一方、「留学」や「短期滞在」などの在留資格では就業できません。在留資格や滞在期限は、在留カードやパスポート、就労資格証明書などで確認できます。
トラブルを回避するためにも、在留資格は必ず確認しておきましょう。
3. 外国人雇用状況届出書を提出する
外国人労働者と雇用契約を締結したら、外国人雇用状況届出書をハローワークに提出する必要があります。
届出書の提出は、在留資格を確認し、就労条件に合意した後の重要な手続きです。届出は、厚生労働省の公式ホームページから入手でき、近年ではインターネットからも申請可能です。
届出の内容は、雇用保険被保険者に該当する場合としない場合で異なります。雇用保険加入の場合は、雇用保険被保険者資格取得届・喪失届に必要な事項を記載することで、外国人雇用状況届出書の提出を兼ねることができます。
一方、雇用保険に加入しない場合は外国人雇用状況届出書の提出が必要です。届出を怠ると、最大で30万円以下の罰金が課せられる可能性があるため、期限内に提出するよう徹底しましょう。
外国人の入社手続きについては、下記の記事で具体的に解説しているため、今後外国人労働者の雇用をご検討の方はぜひ参考にしてみてください。
建設業で外国人雇用する際の注意点
建設業で外国人を雇用する際には、注意すべきポイントがあります。注意点を確認せずに雇用を進めると、法的リスクや労働問題が発生する可能性があるため、事前に十分理解しておくことが重要です。以下では、具体的な注意点を解説します。
文化の違いを理解して雇用する
外国人を雇用する際は、文化の違いへの理解が重要です。とくに宗教的な違いはトラブルを招きやすいため、配慮が必要です。たとえば、イスラム教徒は1日に5回、聖地メッカに向かって礼拝を行います。そのため、礼拝スペースを確保することが求められます。
また、食事に関しても注意が必要です。イスラム教徒は豚肉やアルコールを避けるほか、食材が宗教規定に沿っていない場合、食事提供に工夫が必要です。ラマダン期間中は日中の断食があり、仕事の進行にも影響を与えるため、仕事の配慮が求められます。
上記のように、宗教や文化の違いがあるため、トラブルを避けるためには事前に理解しておくことが重要です。
公平な待遇と環境を整える
外国人労働者の雇用においては、公平な待遇と環境の整備が必要です。
外国人労働者は安い賃金で雇用できるという誤解がありますが、最低賃金を下回る賃金支払いは違法です。また、特定技能の在留資格を得るためには、日本人と同等以上の給与水準が求められます。
仕事内容の違いに基づく賃金差は合理的な理由として認められる場合がありますが、単に外国人だから低賃金で働かせることは不法行為です。公平な待遇を確保することは、法的な問題を避けるだけでなく、労働者のモチベーション向上にもつながります。
外国人労働者と良好な関係を築くためにも、労働環境を整えておきましょう。
建設業の人材不足解消のために外国人雇用を検討しよう
建設業の人材不足が深刻化するなか、外国人雇用は有効な解決策の一つです。
適切な在留資格を取得して円滑な受け入れ体制を整えれば、現場の労働力確保だけでなく、社内の活性化や国際的な視点の導入にもつながります。建設業の人材不足解消と発展のためにも、外国人雇用を前向きに検討してみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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